第21話「ラテの絶交宣言!ココアが漢を見せる時」
ここは
「あの駄メイドが…わが師を巻き添えにするとは…」
彼にとって、クグロフは「とても良い上司」だった。彼が初めてカオスイーツを生成した時は、誰よりも喜び、彼を自由にさせてくれていた。そんな彼の様子に、マカロンと金髪の少年はため息をつく。
「あぁー…ウザっ!でも、あんな香水臭いのいなくなって清々する。お前もそうだろ?ビスコッティ…」
この少年はビスコッティという名前のようだ。
「日本に来てまで、鼻が曲がる苦痛味わいたくないもんね…でも、ここには華やかさが足りない…鼻が曲がらない華やかさがね…」
ビスコッティの一言に、マカロンは少し不服そうだ。
「それ…僕だけでは不満ってことだよな?あの鎧にとってみれば、お前は十分華やかだろ!とにかく、僕はやりたいようにやるだけだ…」
気が付かなかった…カオスの力を溜めている間に、ティラミスは
『マルチメディア部…部長はティラミスだったけど…もう今の「
学校で何度も顔を合わせたこともあった。汀良瑞希は生徒会長と楽しくおしゃべりしながら食堂で食事をしたり、「鬼として」の面影はもうなくなっていた。ティラミスがそれでいいのなら、マカロン自身もそれで納得がいく。
『水臭いよ…僕に「サヨナラ」も言わないなんて…』
そう思いながら、ゴスロリ姿の少女はソファーベッドに横たわりつつ、ベッドを濡らす…今まで自分を育ててくれた相手との別れを惜しむかのように…
「セーラは無事に元に戻れたし、トルテの保険も僧侶ちゃんのおかげで今月いっぱいで解約できる事になった…」
開店準備前のカフェで、ガレットは一悟達の前で1週間の出来事を振り返る。勇者シュトーレンは日曜の朝に元の姿に戻り、トルテが加入している生命保険も今月中には解決する。その話を聞いている一悟達ではあるが、そこに
「雪斗は弓道の試合が来週だから、暫く手伝いには来られない。…というわけで、暫く雪斗の代理としてネロが入る事になった。」
「みるくと
そう言いながら、ネロはブレイブレットでメイド服の少女の姿となった
「ところで、グラ子とボネっちは?」
「ボネは元々配達のバイトをやってるし、グラッセは働く以前の問題だ。それに、今日は閉店後にあの話…だろ?大勇者様…」
ネロの言葉に、ガレットは黙って頷く。
「あの話」とは、ココアが暮らす場所についての事である。ココアは一悟が初めてミルフィーユに変身した後、ラテと共に一晩だけ一悟と一緒だったが、シュトーレンと再会して以降はカフェの住居スペースで過ごしている。本人はこのままで満足しているようだが、ガトーがソルベもとい、雪斗のパートナー精霊と確定となって以降、シュトーレン達との間で「このままではいけない」と、本人の知らないところで議論されるようになったのである。
「ウチはダメよ!既にフォンダンがいるし、ココアに政治のこと知られるわけにはいかないの。」
玉菜の方は、政治家の娘という事もあり、口の軽い精霊を預けるのは難しいようだ。
「こっちもお断りだ。この間一晩預かったら案の定、グラッセからひっついて離れなかったからな。」
魔界のマジパティ達は、ココアが暮らす場所について議論し始めた時、一時預かりを試みたが、グラッセの入浴、着替え、トイレのたびにグラッセから離れず、ボネがココアに対して激怒して以来、ココアを預ける事が難しくなってしまったのである。
「じゃあ、ユキくんの所は?昨夜、ユキくんが預かったんだよね?」
「…ダメだった。」
みるくの質問に、一悟はがっくりと項垂れる。
「ココアの野郎…雪斗の家の若い使用人たち追い掛け回すし…今朝なんて、ユキのワードロープの中に入ってぐーすか寝てたらしく、朝起きたら頭にユキのパンツ被って…」
この精霊…変態である。僧侶アンニンやあずきの方も検討してみたが、前者の方はアントーニオ・パネットーネの件で預けられた時にトラウマとなったらしく、本人が全力で嫌がり、あずきに至っては、あずきの家で飼っているドーベルマン達にオモチャにされかけた事があり、どちらも却下となってしまった。そこに白羽の矢が立つのが一悟とみるくなのだが…
「なんとかなりそうだけど…これまでの事を考えると、今度は…」
「ラテの事もあるもんなぁ…」
ラテの方は殆ど一悟と一緒ではあるが、一悟が
「ダメっ!!!絶対にダメっ!!!!!どーせ鼻の下伸ばして、みるくや瑞希の事ジロジロ見るのがオチでしょ!!!」
当のラテは、猛反対だ。ラテは白いマグカップの淵に頬杖をつきながら、頬を風船のように膨らます。そんな様子に、一緒に休憩をしているネロも苦笑いを浮かべる。
「今朝のユキとガトーからの連絡聞いて、本当に呆れたもの…私という恋人がありながら…」
「でも、ラテとココアは恋人同士でしょ?ラテは…ココアの事、好き?」
みるくからの問いかけに、ラテは顔全体を真っ赤に染め上げる。
「そ…そりゃ…ココアの事は…まぁ、あの言動がなければ…」
「だけど…私は、ココアから「好き」って言われた事ないの…私が…浮かれていただけなのかな…」
寂しげなラテの表情に、みるくは何となくだが想う事はあるようだ。
「それなら…ココアに直接聞いて…」
みるくがラテに提案しかけた時だった。突然ガレットがリビングに入って来て、みるくとラテ、そしてネロの前に茶色のマグカップを見せてきた。
「みるく…ネロ…ラテ…このマグカップ、カチ割っていい?」
トンカチを構えながらそう話す大勇者の表情はにこやかではあるが、その雰囲気は「マジでキレる5秒前」だ。
「冷蔵庫の中にいないと思ったら、2階のトイレに忍び込みやがって…」
そう話す大勇者の意見に、リビングにいるみるく、ラテ、ネロは険しい表情で「よし」という文字が書かれたプラカードを掲げる。その中でも、ラテの怒りは頂点に達しており…
「だから言ったでしょ…みるく…ココアは…こんな奴だって…変態だって…」
ラテの目から大粒の涙がこぼれ始める。
「最低だな、ココア!貴様の
ネロの言葉に、ココアは一切聞く耳を持たない。そんなココアの両頬を、ガレットは洗濯ばさみでつねり上げる。
「ひどいよ…ラテはココアの事を思ってるのに…ココアにとって、ラテはどういう存在なの?」
ココアの態度に、流石のみるくもココアに向かって怒鳴る。
「えっ…「腐れ縁」って奴…本当はラテのお姉ちゃんのモカさんの事が好きなんだけどさぁ…モカさん、先代マジパティと共にいなくなってからは…」
ココアの言葉に、みるくとネロは絶句する。
「それじゃ…私はモカ姉の代わりなの?私…ずっとモカ姉を超える事、できないって言うの?」
「だって…モカさん、精霊の中では一番…」
「スパーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ」
白いマグカップに身体を入れたまま、ラテはココアの頬を思いっきり叩く。その拍子にココアは茶色いマグカップごと真っ逆さまに床に落ちてしまった。ココアはそのまま茶色のマグカップの中に閉じ込められ、マグカップの中でじたばたするしかできなくなってしまう。
「もう…絶交よ!絶交!!!ココアの事なんて…もう知らないっ!!!!!」
涙交じりの声でラテがそう言い放った刹那、彼女はマグカップから飛び出すや否や。リビングの戸を開け、そのまま外へと飛び出してしまった。
「ラテ…」
精霊が去ったそこにあるのは、何も入っていない白いマグカップのみ…
「残念だけど、あなたの姉のモカの行方は未だに見つからないわ…」
スイーツ界のすべての精霊達を統べるエルフ族・シフォン・ケーキの言葉が、今でもラテの脳裏によぎる…ラテの姉・モカは精霊としても優秀で、面倒見がよく、ラテの自慢の姉だった。そんな自慢の姉…それはラテにとって、コンプレックスでもあった。スイーツ界にいた頃からしょっちゅう姉と比べられる…それは慣れっこだったが…
『どうして…どうして…ココアにモカ姉と比べられる時だけ…こんなに悲しくなるの…』
あれからどれくらい時間が経過しただろう…マグカップから飛び出した事で、段々と身体が重くなるように感じる。普段はマグカップごと一悟かみるくのカバンの中に入って運ばれていたが、浮いて移動しようにも、重力がかかり、浮いていられなくなる…
「こんな感覚…初め…て…」
これまで感じた事がないくらいの激しい痛みが、足の裏に走る。全身でバランスが取れないラテは、そのまま地面に倒れこんでしまった。
………
ラテが気が付くと、そこは見慣れぬ部屋…部屋の中には物があまり置いておらず、恐らく引っ越してきたばかりなのだろうか、未開封の引っ越し業者専用の段ボールが2、3個ほど置きっぱなしである。
「ここは…どこ?」
ゆっくりと身体を起こす。壁との距離がいつもより近く感じるのは気のせいなのだろうか…ラテはきょろきょろと周囲を見渡す。ラテ自身はベッドの上にいるようだ。いつもは大きく感じる掛け布団は、一悟達が使用しているものとほぼ同じ大きさで、ラテがぽんぽんと叩いている枕も、大きさは一悟達が使用している枕と同じ大きさだ。そんなラテは、壁の近くにある大きな鏡に視線を送る。
「う…嘘っ…」
鏡に映るのは、白い髪をツインテールにまとめた小さな精霊ではなく、ミルクティーのような茶色い髪をツインテールにまとめ、白いノースリーブのワンピースを着た少女の姿だった。
精霊が人間に変身できるのは聞いた事はある。だが、それは精霊自身の体質に関係しているため、どの精霊も必ず人間に変身できるワケではない。ましてや、ラテは普段寄り添っている白いマグカップから飛び出してしまった身だ。彼女の脳裏に不安がよぎる…
「ガチャッ…」
部屋のドアが開くと、顔立ちの整ったチョコレート色の髪の少年が入って来る。髪型はどことなく自分の幼馴染とそっくりで、ラテの心は少しばかりもやもやする。
「気が付いたみたいだね?君、撮影現場の近くで倒れていたんだよ…」
「あの…ここは…」
「ここは僕の部屋。…と言っても、1週間ほどだけどね。」
どこかで聞き覚えのある声…恐らくではあるが、テレビ番組で何度か聞いたことがある。
「紹介がまだだったね?僕は
「わ、私はラテ…
武蔵というアイドルは、ラテのはにかむ表情に対して、にこやかに笑う。
「らてちゃんか…可愛い名前だね?」
「可愛い」という言葉…ラテに対して異性の口から出たのはいつ以来だろうか…魔界のマジパティ達からは言われてはいるが、彼らは性別という概念が存在しない。同じ精霊や、一悟達からは「可愛い」に近い言葉は言われたが…目の前にいる武蔵の顔立ちが、どうにもココアと重なってしまい、ラテは思わず涙をこぼしてしまう。
「大丈夫?どこか痛む?」
ラテは首を横に振る。
「ごめん…なさい…大切だった人の事…思い出しちゃって…」
ラテにとって「大切だった人」…ラテ自身はこんなにも「好き」って言っているのに、彼は一切ラテに対して「好き」とは言わないし、「可愛い」とも言ってくれない。それどころか、彼はラテ以外の方を向いてばかり…近くにいるのに、遠い遠い存在…
「ラテに言ってはいけないことを言うなんて、彼を
弓道部の活動が終わり、あずきと雪斗がカフェの様子を見に、客としてやって来た。あずきの言葉に、雪斗のカバンの中にいるガトーはうんうんと頷く。そんな雪斗は何が何だかわからないものの、今朝のユキとガトーのブチキレっぷりを知っているので、半分ほど納得したようだ。
「問題なのは、あの子なのよ…そう遠くへは行ってないとは思うけど…」
みるくとネロの休憩時間中の件で、みるくは女の子の姿のままの一悟と共に、それぞれ
「カランカラン…」
カフェのドアが開き、そこから2人の少年と少女が入って来る。少年はオレンジ色の野球帽にサングラスをかけており、少女の方は顔立ちがラテによく似た薄茶色の髪をツインテールでまとめた白いワンピース姿の少女だ。少女の方は、どことなく歩き方がぎこちない。
「いらっしゃいませー!」
シュトーレンは2人を窓際のテーブル席に案内すると、2人は向かい合って座る。そんなラテとよく似た少女は、カフェを見回すなり、少しバツが悪そうな表情をした。
「ここのカフェ、東京でも名前が知られていてね…一度来てみたかったんだ。」
「そ、そうなんですかぁ…」
武蔵の話を聞くラテの後ろは、丁度雪斗が座っており、彼のカバンの隙間からガトーが人間の姿のラテをじっと見つめる。
…一方、一悟達はラテを探しているものの、これといった手がかりはつかめていないようだが…
「何か変なんだよ…ピンクの線がうっすらとしていて…」
涼也が持つ、明日香のブレイブスプーンは、ぼやけた淡い桃色の一本線を描き、ある方向を指し示す。
「おかしいですね…この方角、カフェの方角ですよ?」
その方角は、まぎれもなくカフェ「ルーヴル」の方角だ。
「ガトーかフォンダンならわかるけど、その場合…」
「普段はハッキリとした線なんだ。帰ってきているといいんだけど…」
涼也の言葉に、一悟達はいったんカフェに戻ろうとする。
「まぁ、戻って来てるんなら…またいつもの気まぐれだろ?」
ココアは呆れたようにそう言うが、その言葉に対し、流石の一悟も…
「お前なぁ、自分がラテに何言ったかわかってねぇだろ!!!お前、ラテに言ってはいけねぇ事を言っちまったんだぞ!!!!!」
普段から童顔低身長、名前、プロレスの世界では有名人の母親の事でいろいろ言われている一悟にとっては、ラテが姉のことを言われるのが不快である気持ちを十分に理解している。
「あたしだって、学校で「神童」って言われていたお兄ちゃんと成績比べられるの…正直言って、苦痛だし。」
「俺なんて兄貴共々、親父から散々、成績や剣道の事で姉ちゃんと比べられてきたんだぞ!!!親から兄弟と比べられるの、精神的にくるからな!」
兄、姉がいる者達の本音が、ココアに向かって降りかかる。
「私は1人っ子でしたが、甘夏様は生前、どちらもT大出身のお兄様とお姉様と比較される事を嫌っておいででした。」
瑞希はこの1週間で「
「ココア…あなたも、優秀であるガトーと比較されるのはイヤでしょう?」
瑞希に
「そっか…でも、アタシとガトーはラテの今の様子に関して収穫できたの。それだけでも十分だわ。」
その言葉に、ココアは胸をなでおろすが、一悟に顔を引っ張られる。
「それにしても、先ほどの2人組…女の子の方がラテに似ていらしてましたね。」
その言葉に、ココアは目を皿のように丸くする。
夕方になり、武蔵が再びロケ撮影に入ったため、「明日も来る」という事を約束したラテは、カフェのある方角へと1人で歩く。昼間と比べるとラテは歩き慣れたようで、武蔵の介助もなく歩けるようになっていた。そこへ、1人の女性と鉢合わせをする。
「やっぱり…人間になれたのね?人間に変身できる精霊はほんの一握り…最も、あなたはその能力に今まで気づくことはなかった…そうでしょ?」
勇者の言葉に、ラテは黙って頷いた。
「勇者様は気づいていらしたんですね…」
「あんな
シュトーレンに諭されたラテは、彼女に抱き着く。そんなラテをシュトーレンは優しく受け止め、2人はカフェへと戻る。
カフェの住居スペースに入ると、シュトーレンはラテが退屈しないようにテレビをつけ、ラテは昼間の時以来がら空きにしていた白いマグカップに降れ、精霊の姿に戻る。勇者はラテが精霊に戻ったのを確認すると、ラテのいるマグカップに牛乳を注ぐ。
「ふしゅ~~~~~」
勇者がつけたテレビはニュース番組が放送されており、その画面に出てきた人物の1人を見るや否や、ラテは驚いた表情をする。
「武蔵っ!!!」
テレビに映る武蔵は4人組アイドルグループのメンバーで、ラテの前で見せる笑顔とは少し違った笑顔を見せている。
「その子…一緒にいた子でしょ?」
勇者の言葉に、ラテは黙って頷く。遠くにいるはずの人なのに、自分の近くに寄り添って笑ってくれた、ココアと瓜二つの髪型のアイドル…ココアも自分の前で笑ったら、こんな表情になるのだろうか…ラテの表情は切なくなる。
『ココアも…武蔵みたいに私に優しくしてくれたら…』
ラテの心の中では、ココアへの想いと武蔵のやさしさの2つが揺れ動きながら
………
ほぼ同時刻、一悟に預けられたココアは茶色のマグカップの中に身体を入れながら、一悟の部屋で夕焼けの空を見つめる。ココアもいずれはマジパティのパートナーとなる…それは、精霊として理解している。だが、「マジパティのパートナーとして生きなきゃいけない」って突然言われて、「ハイ、そうですか」で済むような事ではないと、ココアは考える。自覚がないというワケではない。
「何だよ…ラテの奴…俺だって、ずーっとモカさん追っかけてるワケじゃねぇし…」
ココアは昔から何かとラテと一緒に居る事が多かった。共に力を合わせることもあれば、ケンカもよくしてきた。でも、昼間のラテの泣き叫ぶ姿を見て、流石にココア自身も反省すべきだと思った。怒らせるつもりはなかったのである。
「何だよ…俺の事「恋人」だって言うクセに…俺以外の奴の前で笑顔になるなんて…」
一悟達がすれ違った瞬間、ココアはあの少女がラテだと気づいていた。自分には見せたことないようなラテの笑顔を見て、ココアは心の中ににもやがかかったような感覚を覚えた。一悟達の前でラテが笑顔になるのには慣れっこだが、それ以外の人物…ましてや他の男に向けるのは、どうにも気分がよくない。
「ばか…やろ…」
ラテと長い時間離れる事は慣れているはずだった…でも、今回は今すぐにでもラテに会いたくてたまらなくなる…ココアは頭もマグカップの中に入れ、一悟達に気づかれないよう声を上げずに泣いた。
ラテがカフェを飛び出してから一夜が明け、ラテは再び人間の姿に変身する。今度はシュトーレンと一緒に、撮影現場であるベリー公園へやって来た。そこはサイクリングロード併設の公園で、そこでは今日の早朝から日曜の朝に放送される特撮番組「
「武蔵…」
監督に何度も何度も叱られる武蔵の姿…そのたびにみるくの父がフォローしているが、撮影が思うように進んでいない。
その時だった。
「うわあああああああああああああ!!!!!」
突然武蔵に向けて黒い光が放たれ、武蔵はみるみるうちにチョコレートスポンジケーキに白いクリームが塗られたケーキ・フォレノワールのカオスイーツに姿を変えてしまった。
「武蔵っ!!!!!」
カオスイーツとなった武蔵の所へ駆けつけようとするラテの腕を抱えながら、シュトーレンは一悟達にベリー公園にカオスイーツが現れた事を伝える。
「悪いけど…みるくのお父さんがいる手前、撮影現場をめちゃくちゃにされるワケにはいかないわ!」
左耳を覆う髪をかき上げながら叫ぶシュトーレンの左耳から、赤い宝石が付いたマジパティと同じ形状のイヤリングが煌めく。
「ブレイブディメンション!!!!!」
シュトーレンの叫び声と共に、公園全体の時間が止められ、撮影スタッフやみるくの父を含めた出演者たちの動きがピタッと止まる。
「勇者…様…」
「マジパティと共に戦うためにも、これ以上戦いの場に関係のない人たちを巻き込むわけにはいかないの。最も…オーバーブレイブの副作用から戻ったばかりのアタシができるのは、これくらいだしね?」
女子高生として学校に通った経験を踏まえた上で離す勇者に向かって1本のナイフが飛び交うが、勇者の身体に刺さる直前に、光の銃弾がナイフをはじき返す。
「あーら、お久しぶりね?ビスコッティ!!!なかなか現れないから、私…てっきり東京じゃなく、ロンドンに行ったのかと思ったわ。」
ラテとシュトーレンの前に割り込むかのように、クリームパフがカオスイーツとブラックビターの幹部と対峙する。
「その減らず口…相変わらずのようだね?勇者共々パリで消してしまえばよかったよ。」
そう言いながら、ビスコッティはクリームパフに目掛けて3本のナイフを投げつけようとするが…
「超特大カカオ豆、どーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!!」
ココアの叫びと共に、突然ビスコッティの頭上にかなり大きいカカオ豆が降ってきて、ビスコッティはカカオ豆の下敷きになり、彼の持っていた3本のナイフは全て、時を止められた公園の地面に刺さる。
「ココア様のラテに手ェ出すなんて…2万年はえぇんだよ!!!!!出直しやがれ!」
精霊の姿のまま人間に変身したラテを守ろうとするココアの姿…それは、ラテにとって一番ココアがカッコよく見える瞬間だ。
「…ったく、「精霊達のエリートだったあの姉ですらできなかった事ができる」って褒めようとしたのによォ…それを「姉ちゃんと比べた」って早とちりしやがって…」
ココアの苦言と共に、ミルフィーユとプディングのダブルキックがカオスイーツの頭上に炸裂する。2人のマジパティはそれをバネ代わりに地面に着地する。
「俺がいつまでも雲の上のようなお前の姉ちゃんを追うと思ったか?流石にそう思われると…恋人として呆れちまうぜ?」
ラテが初めてココアに「恋人」だと言われた瞬間だった。カオスイーツと戦うミルフィーユ達の姿を背景に、無邪気な表情で口走るココアの姿を見るや否や、ラテは嬉しそうに人間の姿のまま瞳を
「そんじゃ…ミルフィーユと一緒にいっちょかましてやりますか!!!」
ココアがそう言うと、ミルフィーユはココアの近くまでバク転を決め、プディングはプディングメテオでカオスイーツの動きを封じ、クリームパフはビスコッティにけん制する。
「
カオスイーツに向かってミルフィーユグレイブを構えたミルフィーユの右肩に、ココアが乗る。
「行くぜ、ココア!」
「あたぼーよ!!!」
ミルフィーユはココアを右肩に乗せた状態でウインクする。
「精霊の力と…」
「勇者の力を一つに合わせて…」
「グレイブエクステンション!!!」
ココアはピンクの光を纏いながら、ロボットアニメの主役機が武器を構えるような姿で立つミルフィーユが持っているピンクの
「ミルフィーユパニッシュ!!!!!」
ミルフィーユは掛け声と同時に、長薙刀を振り上げる。
「ストライク!!!」
ミルフィーユが叫んだ瞬間、長薙刀はピンクの光を放ちながらカオスイーツを頭上から一刀両断する。その太刀筋と姿は、まさしく勇者の力を受け継ぐ者に相応しい…
「アデュー♪」
2人がウインクをしたと同時に、カオスイーツは光の粒子となり、本来の姿である浦和武蔵の姿へと戻っていく…
「くそっ…今度こそ全員まとめてズタズタにしてくれてやるっ!!!!!」
そう吐き捨てながら、10歳程の見た目の金髪少年は「フッ」と音を立てて消えてしまい、シュトーレンが時を止めていた公園は元の時間を取り戻す。
「パパの撮影も、無事行われるようでよかった♪」
「これは、本放送とゲスト発表が楽しみですなぁ…まぁ、これからカフェのお仕事だけどね?開店準備は涼やんと瑞希に任せてたけど…」
「行きますよ?夕方になったら、雪斗じゃなくてユキがカフェに来そうな予感がしますけど…」
ガトーがそう言うと、3人のマジパティは精霊と共にカフェへと戻る。
「ラテはどうする?このまま撮影見てく?」
勇者の問いかけにラテは首を横に振り、武蔵に「カフェで待っている」という旨を告げると、シュトーレンと共にカフェへと戻ったのだった。
ココアの件は「みるくの家ばかり見ない」、「胸の大きい人に対するセクハラ行為はしない」、「ラテを泣かせない」事を条件に一悟が引き取ることになり、ラテはその流れでみるくが引き取ることになった。その条件を聞いたラテは笑いながら了承しつつ、ラテもラテで「モカ姉と比較するような事は言わない」という条件を追加したのだった。
「でも…何で今まで私に向かって「好き」って言ってくれなかったの?」
人間の姿でメイド服に着替えたラテは、コーヒーマシンの隣で佇むココアにそう問いかける。
「マジで惚れた相手に「好き」なんて、照れくさくて言えるワケねーだろっ!!!」
人間の姿の恋人を見るなり、ココアは顔全体を真っ赤に染めながら質問に答える。今までラテに向かって「好き」とも「恋人同士」とも言わなかったのは、ココア自身が本当にラテの事を「愛している」ため、なかなか口に出せなかったようだ。
「大体…その…むやみに俺以外の男に…人間の姿見せるんじゃねーぞ?お前、可愛いんだから…変なムシが来たら…」
「ココアってば…意外とヤキモチ妬くんだね?」
ラテの言葉に、ココアはマグカップに頭ごとすっぽり被り、何も言葉が出なくなった。どうやら図星のようである。
一方、武蔵はあの一件以降順調に撮影が進み、木曜日の夕方にラテを匿ったウィークリーマンションから引き払うことになり、みるくの父からその話を聞いたラテは人間の姿に変身するや否や、ココアをポシェットに入れると、マンションの前でタクシーに乗り込もうとする武蔵の所へ駆けつける。
「らてちゃん!」
一悟達に教えられながら、ラテは撮影の間に、速度は遅いながらも走れるようになった。人間の姿の体格を気にしつつも、どうしてもラテは人間の姿で武蔵に伝えたいことがあるようだ。
「
そう言いながら、ラテは武蔵にクッキーの入った包みを差し出す。
「この間は、助けてくれてありがとう…これは、その時のお礼ですっ!!」
熱狂的なファンから手作りの物を何度もプレゼントされ、その都度突っぱねることもある…だが、今回は特別だ。
「ありがとう…メンバーたちと一緒に食べるよ。みんな、ここのカフェが気になってるからさ…またね!!!」
ラテからのプレゼントを受け取った武蔵は、タクシーに乗るとそのまま東京方面へと行ってしまった。武蔵を笑顔で見送るラテの姿は、まるでココアを笑顔で見送る姿そっくりで、既に武蔵の外見を聞いていたココアは、少し安心したかのような表情だ。
『俺と似ている…か。確かに、俺も人間に変身できたら、あんな姿だっただろうな…』
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