第20話「泣いた鬼メイド!主は灼熱の炎の中へ…」
ティラミスが気がついた頃には、姿は
「気が付いた?私の家まで運ぼうと思ったけど、ウチのクソ姉貴がうるさくって…まぁ、
生徒会長が話す「家主」…部屋の状況、そして自分の事を知っている者で思い当たるのは1人しかない…ティラミスの脳裏にはあてはまる人物がハッキリと浮かぶ。
…ムッシュ・エクレールだ。
「彼も…あなたも…お人よしですね…敵である私を助けるなんて…」
ティラミスはそう言うが、少しばかり安心したようだ。
「オイオイ…今は敵同士じゃないでしょ?今のあなたはケガ人なの!直接ではないけど、私にはあなたをケガさせた責任がある!」
いつもはひょうきんな顔をする玉菜は、ティラミスに向かって真面目な表情になる。
「ていうか…よく全治5日程度で済んだわよ…メガネに関しては残念だけど、作り直すしかないわね…まぁ…お金は私のお小遣いから出すけど。」
「そうですか…まぁ、元々
ティラミスが何かを言い掛けようとした時、部屋のドアが開き、そこから家主が入って来る。
「やっと起きたか…ティラミス…」
そんな彼の表情は、どことなく深刻だ。
「
「貴様の「汀良瑞希」としての住所は「瀬戌市くるみの町
「えぇ…確かに、その住所で間違いありません。」
新聞記事に載せられた鬼胡桃の豪邸…火が完全に消し止められた後の写真だが、ひどく焼けた
「この写真を見て、思い浮かぶ事はあるか?」
下妻先生の言葉に、ティラミスの脳裏にふと浮かぶ、あの人物の姿…
「みづき…逃げなさい!みづきっ!!!!!」
「その顔は…やはりそうなんだな。最近、貴様が私がカオスイーツにされる直前に取った行動と似た行動をしているのが気になってな…それで、勝手ながら貴様の
下妻先生の言葉に、ティラミスの背筋がぞっとする。
「カオスイーツに…される…?わ、私はただベイクという男のやり方や、クグロフが気に入らないだけで…」
「幹部同士の諍いであっても、カオスにとっては「わざと負ける」という裏切り行為と判断されるのは、貴様も十分知っているはずだ!それに、媒体の過去を思い出すという事は…いずれは貴様も…」
ここ最近の自分の行動で、思い当たる節はいくつもある…クリームパフに変身した
「それなら…カオスイーツにされたあとは…どうなるんですか?」
「勿論、マジパティに浄化される…カオスイーツだからな。媒体に肉体が存在するならば、元の肉体に戻るだけ…私はスイーツ界の住人で、魔術師…だからこの姿のまま、カオスイーツから戻れた。」
その言葉に、ティラミスは言葉を失った。ティラミスの媒体には肉体が存在していない…それは、つまり…
「じゃあ、カオスイーツになったら…汀良さんは…消えちゃうって…事?」
玉菜の言葉に、下妻先生が黙って
「イヤよ…汀良さんがカオスイーツにされるなんて…汀良さん、自分がやりたいことやってるだけでしょ?」
マジパティである人物から放たれた言葉に、ティラミスは思考回路が停止するような感覚を覚えた。
「それでも…カオスにとっては「自分を裏切った者」として裁かれる…「ブラックビターの幹部」ならではの宿命だ。」
「そう言われたって…マジパティとして浄化しなくちゃいけないって言われたって…私はカオスイーツになった汀良さんとなんて…」
その言葉に、下妻先生はため息をつく。
「玉菜…それは、家族をカオスイーツにされた経験のある
ティラミスが思い出すだけでも、ブラックビターはこれまでにミルフィーユ達の身内を何人もカオスイーツにしてきた。
「勇者様だって…アントーニオ・パネットーネがカオスイーツにされた時…どんな複雑な気持ちでいらしたか…」
いや…なぜ、勇者様の話題を出してきたし…というツッコミが出てきそうではあるが、下妻先生は現場を見ていないので、アントーニオの時の件は詳しくは知らない。
「それでも…私は、カオスイーツになった汀良さんと戦いたくない…やっと汀良さんと友達になれると確信した矢先に、こんな事…知りたくなかった!!!!!」
玉菜はそう叫ぶなり、荷物を持ってアパートを飛び出してしまった。
「私には教師としてのメンツがある!怪我をした女子生徒を一晩泊めただけで目くじらを立てる
下妻先生にそう言われたティラミスは、再びカフェ「ルーヴル」の前にいた。今日は定休日のため、今度は店の前ではなく、ガレージ脇の玄関の前だ。玄関にはガレットが出てきている。
「あくまで一晩保護するだけって事でいいんでしょ?まぁ…お前の頼みだから、断るつもりだったけど…」
「私の頼みではいけないと仰るんですか?」
「お前の場合、娘に対する下心見え見えだから気に入らねぇ!!!」
ムッシュ・エクレールはこれまでに、何度も
「そもそも…お前の覗きは今に始まったことじゃねぇ…11歳の時、覗いてたもんなァ…俺のカミさんと間違えて、俺の入浴シーンを…」
「そ、そそそ…その節は本当に申し訳ありませんでしたーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」
どうやら思い出すのも恐怖なようだ。少年時代のムッシュ・エクレールもといエクレール・ブレッドソンにとって、後のカルマン・ガレット・ブラーヴ・シュヴァリエの妻となるセレーネ・ノエル・ブランシュは、憧れの女性だったようだ。
ガレットはケガをした女子生徒を家の中に入れ、リビングに案内する。リビングではノースリーブのサマーニットに白いエプロンを付け、デニムのショートパンツと黒のオーバーニーソックス姿の勇者シュトーレンが夕食を作っている。今日の夕飯は昨晩タレに漬けておいた鶏肉のから揚げ、だし巻き卵、昨晩大量に作りすぎて冷凍しておいた肉じゃがに、ネギと豆腐の味噌汁に白米といった典型的な和食だ。そこへやって来る汀良瑞希の姿のティラミスは、勇者の気配を感じ取った刹那、やっと「
先ほどの戦いのあとで見かけた時は、勇者の気配が誰であるのか判らなかった。でも、今ならわかる…彼女こそ勇者シュトーレンだ。なぜ15歳ほどの姿で「首藤まりあ」として高等部にいるのかは判らないが、食事を作る姿はまさしく、料理が得意な女子高生にしか見えない。現在、ここにいるのがティラミス以外に3人だという事は、「首藤
やがて夕食がすべてそろい、ティラミスも一緒に食事をする。勇者の作った食事は、彼女にとって「暫く普段食べているコンビニ弁当に手を伸ばせなくなりそう」な程の美味しさだった。というよりもティラミス達は普段、ブラックビターのアジトの近くにあるコンビニで廃棄になった弁当を持ち出し、それをアジトの食料としている。ティラミスは消費期限が危なくないものを殆どマカロンに与える事が多いため、彼女は殆ど消費期限切れのコンビニ弁当を食べている。食料を温めて食べるという事も、彼女はティラミスとして生きて以来、全くと言っていいほどやっていない。媒体に肉体がないので、料理の温度に関わらず食べても、ティラミス自身は平気だからだ。でも…こんなにも温かい食事をいただける事の幸福感を感じる事が、どれほど久しいか…
『できる事なら…また、温かい食事が食べたい…』
心の中に甦る、「寺泊みづき」の肉体が存在していた頃の食事風景…共に西幡豆家に仕えていた料理長や庭師だった父親、使用人達と弾む会話が一つ一つ思い浮かぶ…だけど、もうそれは灼熱の炎によって、二度と実現しない光景となってしまった。
それでも、できる事なら…今度は「友達」と一緒に…
ティラミスは不意に、脳裏に満面の笑顔の玉菜を思い浮かべる…
「幹部同士の諍いであっても、カオスにとっては「わざと負ける」という裏切り行為と判断されるのは、貴様も十分知っているはずだ!それに、媒体の過去を思い出すという事は…いずれは貴様も…」
「勿論、マジパティに浄化される…カオスイーツだからな。媒体に肉体が存在するならば、元の肉体に戻るだけ…」
「それでも…カオスにとっては「自分を裏切った者」として裁かれる…「ブラックビターの幹部」ならではの宿命だ。」
ティラミスは汀良瑞希の姿のまま、下妻先生の姿のムッシュ・エクレールに言われたことを一つ一つ思い出しながら、昇降口にある自分の下駄箱の蓋を開ける。昨晩はあまり一睡もできなかった。寝る前に勇者シュトーレンと話をしたが、彼女はティラミスの事を「本当に悪い子だとは思えない」と言っていた。言われた時は「勇者でありながら、何を言っているんだ」とは思ったが、一晩経過してわかった気がする…本当はカオスの繁栄を目的として、ブラックビターに入ったのではないからだ。
このところ…いや、マカロンがブラックビターの幹部になって以降は、マカロンの従者として仕えてきたが、それももう潮時なのだろう…マカロンはカオスソルベだった頃のユキの世話をするようになってから、自分を頼らなくなった。大抵の事は1人でしていくようになっていた…「自立」していく現在の
「もう…私はマカロン様としてはお
手塩にかけて育ててきたマカロンの姿は、もう既に遠い存在…いずれはカオスによって消される運命…
それでも、ティラミスは心の底で募らせる…
「「友達」と…幸せになりたい…」
そう口に叫んだ刹那、ティラミス以外誰もいないはずの昇降口からカオスの気配がうごめき、黒いもやがティラミスの全身を瞬く間に飲み込んでしまった。
「バタッ…」
ティラミスの姿は、黒いもやと共に消え去り、彼女が消えた跡にはティラミスのカバンが落ちる。
「もう大、大、大、大、大事件っ!!!大事件のニオイがするよ!」
昼休みになり、学園食堂の前で突然ユキが雪斗と入れ替わると言い出し、入れ替わったや否や、一悟、みるく、あずき、涼也、そしてシュトーレンの前でそう叫んだ。
「いきなりなんだよ…どこかの火薬戦隊の主題歌みたいな言い回しで…」
「それを言うなら、「科学戦隊」ですわよ?ていうか、それは風紀委員長の突然の失踪の事…ですわよね?」
あずきの言葉に、ユキは目をキラキラとさせながらうんうんと大きく頷く。今朝の風紀委員長の突然の失踪は、瞬く間に学園中に広がり、その範囲は高等部にも及ぶ。
「あの子…怪我をしているのに、学園中どこを探してもいないなんて…もしかすると…」
一悟達の脳裏に最悪の状況がよぎる…
「バサッ…」
一悟達の目の前に、古い新聞記事をプリントアウトしたものが置かれる。それは現在の瀬戌市がかつて瀬戌町、辺利井村、苔山村、桃ノ木村、胡桃野村…と、1つの町と4つの村に分かれていた頃の新聞記事…
「おじさま…」
「汀良は恐らく、住所として登録しているこの屋敷に連れて行かれただろう…私が
「カオスなら絶対にやりかねない行為だ」と言わんばかりの表情に、一悟、みるく、あずき、シュトーレンは息を呑む。ユキと涼也は何のことだかわからない表情を浮かべるものの、深刻な事態である事は理解したようだ。
「「瀬戌市くるみの町大字鬼胡桃21-1」…か。元々ここって、瀬戌市で一番の心霊スポットで有名な廃墟だよ?」
ユキがそう言うと、一悟の表情が曇る。一悟は元々オバケやホラーな話が苦手で、幼いころにみるくの父親が出演した「世にも怪奇な物語」を見て、あまりの恐怖でみるくの隣で失神して以来、トラウマとなってしまったのだ。
「50年前の大火事で、屋敷の娘の家庭教師だったドイツ人女性が1人、奇跡的に無事だったらしいのね?使用人を含めた屋敷で暮らしていた人達の殆どは、遺体で見つかったんだけど…1人だけ、遺体が見つからなかったんだって。」
「確かに、この後日の新聞記事には、ドイツ人のクーゲルホップフ氏が唯一の生存者だと記されていたな。彼女も後に病院で行方不明となったが…」
ユキの説明に、下妻先生は何かを思い出したかのように話す。
「当時は「西幡豆家の呪いで消えたんじゃないか」ってウワサも出ていたんだけど、誰も信じなかったみたい。それで、インターネット普及と同時にそのウワサを聞きつけた心霊マニアや、廃墟マニアが次々と調べに向かったけど、未だに誰一人戻ってきていない…何かあると思わない?」
ユキの説明による恐怖をかき消すように、一悟は急いで昼食のカレーライスをたいらげる。
「ユキは仮に汀良がその廃墟に飛ばされたと考えるのなら、ついでにその心霊スポットとやらの要素を調べ上げる気ではあるまいな?」
その言葉に、ユキはバツが悪そうに無邪気に笑った。どうやら、図星のようだ。
『でも…一番心配なのは、玉菜の方だな…』
昼休みと同時に、玉菜は下妻先生に「用事があるから早退する」と言って、ティラミスのカバンを持ったまま下校してしまったのである。恐らく、昨日のやり取りで最悪の状況を感じ取ってしまったのだろう。あの時の玉菜の表情は青ざめていた…
「それにね、これはマカロンお姉ちゃんから聞いた事だけど、ティラミスとクグロフは同じ時期にブラックビターに入って、20年前にティラミスが京都に飛ばされるまでずーっとケンカが絶えなかったんだって。」
「それで20年ぶりに再会しても、仲は悪いままだったってことね。昨夜、媒体が火事で死んで、ブラックビターに入ってからの事を断片的にだけど、話してくれたわ。大半はクーゲルホップフ氏とクグロフの愚痴だったけどね。」
1人で考え込む下妻先生の隣で、ユキとシュトーレンがティラミスとクグロフの関係について話す。まるで点と点が繋がったかのように、2人の話で何かに気づいたのか、下妻先生はある事に気づく。
「あくまでクグロフに対する、我々の宣戦布告だ。仮に汀良を見つけたとしても、汀良の邪魔は絶対にするな!!!」
そう言い放つ下妻先生に、ユキの目はキラッと輝き、一悟はまるで「めんどくさい事を押し付けられた」と言わんばかりの顔をした。
「「瀬戌市くるみの町大字鬼胡桃21-1」…ここで間違いないわね。」
本来なら雑草が生い茂っているはずの廃墟だが、この屋敷はまるで50年も時が止められた様に、大火事があった日の状態を保っている。この時間帯に制服姿はまずいので、玉菜は念のために用意していたテコンドーの自主トレ用のジャージ姿になっている。
サン・ジェルマン学園とくるみの町大字鬼胡桃は徒歩で50分ほどかかるため、玉菜はサン・ジェルマン学園前のバス停から路線バスに乗り、途中の瀬戌市役所くるみの支所前で鬼胡桃方面のバスに乗り換え、大字鬼胡桃に入ったところの交差点でバスを降り、屋敷にやってきたのだった。
「汀良さん…私だって、汀良さんと一緒にやりたいこと…いっぱいあったんだよ…」
玉菜の手には、ティラミスのスマートフォン…そこのメモ帳アプリにはこう書いてあった。
「
あなたがこのメモを読んだ頃には、私はカオスイーツにされているかもしれません。
だからこそ、あなただけに私の本当のことをご説明させていただきます。
元々、私は西幡豆家の屋敷に火をつけた犯人を捜すため、カオスの力を授かりました。
幹部としての任務を遂行しながらの犯人捜し…それは長い長い悪夢のよう…
それでも、私は
あなたと甘夏様は、人当たりのよい性格が本当によく似ていました。
できることなら、私はあなたと仲良くなりたかった…それは私のワガママでしょうか?
もしも、あなたがマジパティに変身し、化け物となった私を見た時…
その時は、迷わず私を撃ってください。
私は…浄化するのが絶対にあなたでなければ納得できません。
汀良瑞希ことティラミス」
玉菜は既にカバンから飛び出しているフォンダンと共に、廃墟と化した西幡豆家の門をくぐり、ブレイブスプーンを構える。
「マジパティ・スイート・トランスフォーム!!!」
廃墟の中を進む足を止めぬまま、玉菜は白銀のマジパティ・クリームパフへと姿を変える…ハチミツ色のロングヘアーをポニーテールにまとめたジャージ姿の女子中学生は、みるみるうちに銀髪のロングヘアーをなびかせながら黒と紫を基調としたコスチューム姿の戦うヒロインへと変身したのだった。
「バキッ…」
無言で壊れたドアをけ破るクリームパフの前には、ただならぬ気配をまとった巨大なティラミスのカオスイーツ…そのカオスイーツこそ、ブラックビターの幹部であるティラミスのカオスイーツ化した姿である。「友達になりたい相手と戦いたくない気持ち」、「マジパティとしてカオスイーツを浄化しなければいけないという使命」…その2つの気持ちが、クリームパフの全身を震わせる。
「白銀のマジパティ…クリームパフ!!!さぁ、汀良さん…勇者の光であなたをお望みどおりにしてあげる…」
普段とは違う名乗りに戸惑いこそはあるが、一呼吸置いたクリームパフはティラミスが残したメモを思い出すと、覚悟を決めたかのような表情をする。
「かかってきなさいっ!!!!!」
まるで洗脳されたかのように、カオスイーツと化したティラミスはクリームパフに手裏剣やクナイを一心不乱に投げつけてくる。クリームパフは慣れた仕草で次々とかわしていくが、全くと言っていいほど焦点が定まらない。
「ドゴッ…」
「かはっ…」
カオスイーツ化したティラミスの腕がクリームパフの腹部に直撃し、クリームパフは廃墟の本棚に激突した。本棚には炭と化した本が並んでおり、クリームパフが激突した衝撃で炭は砕け、クリームパフは灰を被り、思いっきり咳き込む。
「クリームパフ…ミルフィーユ達を…」
フォンダンはクリームパフを心配するあまり、ミルフィーユ達を呼ぶことを提案するが…
「ダメよ!今回だけは…私1人で浄化しなくちゃいけないの…汀良さんが…そう望んでいるんだから…」
クリームパフは精霊の言葉を一蹴し、灰をぬぐいながら再び立ち上がり、クリームグレネードを構える。狙いは勿論、カオスイーツと化したティラミスだ。クリームパフは時間の経過も構わず、カオスイーツ化したティラミスの攻撃をかわしつつ応戦し続ける。
「バキバキバキっ…」
クリームパフの足元から大きな音がした瞬間、彼女の足元から褐色のうねうねしたような物体が彼女の脚と腕に絡みつき、その拍子にクリームパフはクリームグレネードを落としてしまった。
「しまった…」
瞬く間にクリームパフは触手のような物体によって持ち上げられ、彼女の姿を見るなり、聞き覚えのある高笑いが廃墟に響き渡る。
「どちらも無様な姿だね!!!ティラミス…マジパティを潰すチャンスだ!その姿でぶちのめしてやれ!!!」
不快な香水のニオイ…ティラミスがクグロフを嫌うのも納得がいく。フォンダンに至っては、精霊サイズの洗濯ばさみで鼻をつまんでいる。
「なんて…余計な真似を…」
「ここに再び火が付くのを、もう一度拝んでみたいのさ!!!だが、そこにマジパティとティラミスがいては邪魔でな…あらかじめ地下室で冷凍睡眠させておいた廃墟マニア達をカオスイーツにしてやったのさ!」
クグロフの言葉に愕然とするクリームパフの身体を、クグロフが生成したキャラメルのカオスイーツの触手がまるで人の手の形に変形しながら這いずり回る。太ももをまさぐり、スカートの中へ手を入れ、さらにコスチュームの中へともぐりこみ、彼女の胸を覆う白い布は、あっけなくずらされてしまった。
「くっ…汀良さんを…」
「ティラミスを助ける事はできないのか」…クリームパフの脳裏にそう思った刹那、彼女の視界にピンク、黄色、水色の3色の光が入り込む。
「プディングメテオ!フランベ!!!」
プディングの掛け声と同時に、炎を纏った球体がキャラメル状のカオスイーツの身体を歪め、クリームパフの全身の動きを封じていた無数の手は、クリームパフを放してしまった。
「やっぱり、クグロフの横やりが入ったようですね。クグロフが出したカオスイーツは私達が相手です!!!」
プディングがそう言うと、クリームパフを放したカオスイーツの頭上を、今度はミルフィーユとソルベが回転を加えたキックで地下へと引き戻す。
「マジパティスクリューキーーーーーーーーーーーーーック!!!!!」
その間にミルフィーユはプディングの腕を掴み、一緒に地下へと連れて行った。
「ティラミスの願いをかなえるんでしょ?僕達に構わず続けて!!!」
その言葉に、クリームパフはホッとした。そして地下に入ったミルフィーユ達は、キャラメルカオスイーツと対峙する。
「大事なタイマン勝負、例え敵同士であっても邪魔するモンじゃねぇぜ!!!」
「禍々しい混沌のスイーツ、勇者の知性でその煮えたぎった頭を冷やしてあげる!!!」
ソルベの言葉と同時に、3人のマジパティはそれぞれの武器をカオスイーツに向ける。
「3つの心を1つに合わせて…」
3人がそう叫んだ瞬間、3人の武器は光の粒子となり、それぞれのカラーに合わせた細身の剣・パティブレードに変わった。
「勇者の力を1つの剣に!!!ミルフィーユブレード!!!」
「勇者の愛を1つの剣に!!!プディングブレード!!!」
「勇者の知性を1つの剣に!!!ソルベブレード!!!」
3人はそれぞれのパティブレードを構え、ピンク、黄色、水色の光をまといつつ、カオスイーツに飛び掛かる。
「マジパティ・トリニティ・ピュニシオン!!!!!」
瞬く間にキャラメルカオスイーツはピンクの光を纏ったミルフィーユにミルフィーユブレードで縦に斬られ、続いて黄色の光を纏ったプディングにプディングブレードで横に斬られる。そして、最後に水色の光を纏ったソルベによってソルベブレードで斬られた。
「アデュー♪」
3人が同時にウインクすると、カオスイーツは光の粒子となり、行方不明となっていた心霊マニア、廃墟マニア…そして心霊系
「ミルフィーユ達が与えてくれたチャンス…絶対に逃したりしないっ!!!」
そう叫んだクリームパフは、クリームグレネードを拾い上げようと飛び掛かる。
「そうはさせ…ぐはっ…」
クリームパフを妨害しようとするクグロフに、カオスイーツ化したティラミスの身体からクナイが飛び出し、クグロフは顔面から転倒した。
「ご説明いたします。私が完全敗北を差し上げるのは、マジパティではありません…あなたですよ?クグロフ…いいえ…ラムリア・フォン・クーゲルホップフ…」
突然、カオスイーツからティラミスの声がした。従来のカオスイーツは言葉を発する事は一度もない。それは、ティラミス自身がカオスイーツ化から戻ろうとしている…クリームパフはそう悟った。
「貴様…な、なぜその名を…」
「ガシッ…」
カオスイーツの腹部から少女の手が伸びて、突然媒体の名前を呼ばれて怯えるクグロフの腕を掴む…
「私1人で消えるワケにはいきません…甘夏様を絶望に陥れ、この西幡豆家の屋敷に火をつけたあなたを消さずに、消えるなんて…西幡豆家にお仕えする者としての恥です…」
カオスイーツの腹部から出てくる鬼メイドの姿…彼女はクグロフを羽交い絞めにし、クグロフの身体ごと白銀のマジパティの方へと向ける。
「お願いします…このクグロフごと私を撃ってください…クリームパフ…いいえ、玉菜…」
香水臭いエルフ耳の女を羽交い絞めにしながら、クリームパフを「玉菜」と呼んだティラミスは、大粒の涙を流しながらも運命を受け入れた表情をしている。
「本当は…あなたと友達…いいえ、それ以上の関係になりたかった…一緒に勉強したり…美味しいものを食べたり…買い物も…でも、私はこの女に復讐をするため、カオスの力を借りて生きてきた幽霊…本来のあるべき姿に戻らねばなりません…」
「で…でも…」
マジパティとして覚醒してからこれまで、何のためらいもなくカオスイーツを浄化し続けてきたクリームパフが、初めて動揺した瞬間だった。そんな彼女に対して、ティラミスは…
「あなたしか頼める相手がいないんです!!!お願いします!!!!!私を…このアバズレからの
その言葉に呼応するかのように、クリームパフの右肩にフォンダンが乗る。
「クリームパフ…わたしからもお願いしましゅ…この鬼しゃん、わたしをたしゅけてくれました。鬼しゃんに恩返しさしぇてくだしゃい…」
「わかったわ…そのドリル頭、絶対に離すんじゃないわよっ!!!!!」
そう言いながら、クリームパフはクリームグレネードを拾い上げる。
「精霊の力と…」
「勇者の光を一つにあわせて…」
「バレットリロード!!!」
フォンダンの身体が白く光るなり、フォンダンはクリームパフの持つクリームグレネードのレンコン状のシリンダーに光の銃弾を装填する。そして、クリームパフは左手でシリンダーをくるくると回転させ、狙いを定める。
「クリームバレットシャワー!!!」
彼女の掛け声と当時に、クリームパフの人差し指は拳銃のトリガーを引く。
「インパクト!!!!!」
銃声音と共に、クリームパフが放った無数の銃弾は、クグロフに全弾命中し、カオスイーツ化したティラミスに貫通する。フォンダンは悲しげな表情で銃口に息を吹きかけるクリームパフの右肩に乗る。
「さよなら…オグルさん…」
クリームパフが大粒の涙をこぼしながらそう言うと、カオスイーツ化したティラミスはクグロフと共に光の粒子となり、本来のあるべき姿である、寺泊みづきの幽霊へと戻っていく…
「あ…あぁ…」
クグロフの髪は金髪から徐々に白くなり、全身からは皺が1本1本増えるごとに深くなる…ブラックビターの幹部であるエルフの女の本来のあるべき姿…それは、人間の
カオスの力でエルフの姿を保っていたのだろう…そのカオスの力が消え去った今、彼女はもうブラックビターの幹部・クグロフではない。老婆は廃墟である屋敷に遺る鏡で自分の姿を見るなり、一瞬にして気絶してしまった。
「感謝します…玉菜…」
クリームパフの目の前に、紫の着物に
「汀良さん…」
「私の目的はもう果たしました…今は、戻るだけです…西幡豆家にお仕えした者達と共に、甘夏様の所へ…」
そう話すみづきはどことなく寂しそうではあるが、優しい表情をしている。
「みづき…あなたはそれで満足なの?」
みづきが振り向くと、そこには黒髪のロングヘアーに、いかにも旧家のお嬢様の姿をした少女と、幽霊に怯えるミルフィーユを支えるプディングとソルベの姿…
「甘夏…様…?ど、どうして…炎に飲まれたはずでは…?」
「炎に飲まれたのは、彼女じゃなくてみづき達みたいだよ?」
50年前からずっと会いたがっていた主は、当時の肉体を保ったまま、みづきに微笑んでいる。
「みんなを助けたかったんだけど…先生が私を地下へ閉じ込めてしまって…」
「先ほどのカオスイーツを浄化したと同時に、防空壕を改造して作った隠し部屋が見つかったんです。」
「そんで、その隠し部屋に彼女がいたってワケ♪遺体が見つからなかったのは、当時の警察が隠し部屋を見つけられなかったって事。」
西幡豆家の地下の隠し部屋…そこには、壁に磔にされた状態の甘夏がいた。ミルフィーユ達がクグロフが出したカオスイーツを浄化したと同時に、彼女を人柱状態にしていた壁が崩壊し、彼女は50年ぶりに意識を取り戻したのだった。恐らく、この屋敷が50年間も当時の状態を保っていたのは、彼女が人柱にされていたからだとみてよいだろう。
「みづき…お友達ができたのでしょう?せっかくできたお友達…悲しませてはいけません。肉体がないのなら、私の肉体をあなたに捧げます!体格も殆ど似てるんですもの。問題ないでしょう?」
その言葉に、みづきは「ふぅ」とため息をつく。
「まったく…甘夏様も…玉菜もお人よしなんですから…でも、そんな憎めない表情で…人を寄せ集める才能を発揮するあなただからこそ、私はあなたにお仕えできた事を誇りに思います。」
みづきはそう言うと、そのまま甘夏の所へ移動し、甘夏の身体へ入り込む。
みづきの幽霊が甘夏の身体へ全て入ったと同時に、みづきの姿は消えてしまった。
「それで…あなたはこれからどうするの?「甘夏さん」…」
「「西幡豆甘夏」や、「寺泊みづき」も…50年前の今日、「屋敷の大火事で死亡した」という扱いになっています…ですので、「甘夏」でいる必要はないんです。」
クリームパフの質問に答えながら、みづきの幽霊を取り込んだ甘夏は夕焼けの空を見上げる。
「ですので、これからは「汀良瑞希」として、生きていくことにします。なので…早速、私と友達になっていただけますか?」
旧家の令嬢のあまりにも唐突なお願いに、ミルフィーユ達の目が点になるが、クリームパフから変身を解いた玉菜は、まんざらでもなさそうな笑顔でそれを承諾したのだった。
「そんじゃ、改めてよろしくね―」
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