第17話「勇者VSトーニ!マジパティと勇者の奇跡」

 アントーニオが勇者を乗せたライオンに向けて放った銃弾じゅうだんは、ライオンの後脚に3発、そして勇者の背中に命中し、ライオンが彼女を乗せたままその場に崩れ落ちそうになる。


「ドサッ…」


 そこへ1人の幼女がライオンを受け止め、1人の青年がシュトーレンを受け止めた。アンニンとガレットだ。

「どやっ!」

「よかった…まだ息がある…」

 娘の安否を確認したガレットは咄嗟とっさに、持っていたアーミーナイフを、駆けつけてくるアントーニオの足元目掛けて投げつける。ガレットの目測通り、ナイフはアントーニオの足元に直撃した。


「ドスッ!!!」


「娘になんてことをしくれたんだっ!!!!!」


 いつもはひょうきんなガレットが、初めて娘の前で声を荒げた。

「大勇者様、治療タイム…」

 大勇者は娘を幼い姿の僧侶そうりょに預けると、背中に持っていた娘の大剣のさやを抜き、黄金おうごんのオーラを纏いつつ、娘とライオンを撃った相手に飛び掛かる。その間に、幼い姿の僧侶様は勇者とライオンの治療の準備を始める。


「父親である俺の許可なく、娘を軽々しく「セーラ」と呼んだり、娘の部屋に盗聴器とうちょうきを仕掛けて付きまとったり…お前の娘に対する無礼ぶれいの数々はこれまで何度も片目をつぶってきた…その結果、お前は娘を誘拐し、娘は今…生死を彷徨さまよう状況…お前は今まで俺の娘ではなく、娘と一緒にいるお前自身しか見ていなかったってことだっ!!!!!」

「違う…僕は…ひぃっ…」

「どうだぁ…お前が我が物にしようとした女の大剣…美しいだろ?輝かしいだろ?自慢の娘の大剣を持って、お前に向ける親の気持ち…考えたこともなかっただろ?娘が望むなら、俺は今…この大剣でお前を斬りつけてもいいんだぞ?」

 シュトーレンの大剣を構えるガレットの姿は、まさしく「今、まさに娘のかたきを討たんばかり」の父親の姿ともとれる。

「そ、それじゃあ…キョーコが僕と彼女の事を反対したのも…」

「「杏子きょうこちゃん」は昔から娘の幸せを望んでいた!それは俺も同じっ!!!なのに、お前は娘の幸せをブチ壊しにした…どんなに金持ちでも…どんなにエリートでも…お前に娘を任せる資格はねぇっ!!!!!」



「元々お前は俺の娘にとって、恋愛対象じゃなかったんだよ!!!!!」


 ガレットの言葉に、アントーニオは自分がシュトーレンにとっては、「ただの友達」どころか、「ストーカー」としてしか見られていなかったことに対して、表情が青ざめ、ガレットから少しずつ下がるが…


「ドンッ…」


 絶望するアントーニオの背後には、見知らぬ鎧の男・ベイクが立っている。

「嫁入り前の娘に対する情熱…ヘドが出るほどウザったい…だが、貴様の前で失恋男の本性を見せびらかすいい機会だ。カルマン・ガレット・ブラーヴ・シュバリエ!!!これが、お前の娘が振った男の成れの果てだっ!!!!!」

 ベイクの叫び声と共に、彼の手から黒い光が放たれ、恋に破れたイタリア人の捜査官は黒い光を浴びる。


「うわああああああああああああああああっ!!!!!」


 黒い光を浴びたアントーニオは、みるみるうちに巨大なスポンジケーキ状のカオスイーツへと姿を変える…

「さぁ、パンドーロカオスイーツ!!!そこの忌々いまいましい大勇者と僧侶を、マジパティ共々跡形もなく踏みつぶすがいいっ!!!!!」

 ベイクの言葉に呼応するかのように、カオスイーツとなったアントーニオは、ガレットとアンニンに飛び掛かる。




「いっくん…目を開けてっ!!!!!」

一悟いちご…オイ、一悟っ!!!」

 瓦礫をどかし、一悟を引きずり出すものの、一悟は目を覚まさない。そこへキョーコせかんどが合流し、一悟の様子を診る。

「一悟は一時的な意識不明の状態になっているだけで、生きてます。」

仁賀保にかほさん、またまた御冗談を…」

「冗談ではありませんよ?瓦礫に埋もれるまで、ミルフィーユの姿だったからこそ、彼は助かったんです。千葉一悟ちばいちごのままだったら、助からなかったかと…」

 キョーコせかんどの説明を聞いたみるく達は、驚きを隠せないが、雪斗ゆきとは少し息を呑みつつ、キョーコせかんどの言葉を理解しようとする。

「そ、それじゃあ…いちごんは、気を失っているだけって事…でいいのか?」

 雪斗がそう言うと、みるくは一悟の心臓に手を当てる。そこには、かすかに一悟の心臓が脈打つ鼓動がする。

「ホントだ…生きてる…」

「よかったね…幼な妻おさなづまちゃん?」

 玉菜たまなの言葉に、みるくは顔全体を真っ赤に染め上げ、今でも湯気がでそうな勢いで頭の中がフットーする。


「あとは…彼次第です…」




 一悟は気が付くと、真っ白な空間にいた。

「そういや、俺…父ちゃんを落ちてくる天井から助けようとして…えっ…?俺…死んじゃったァ!?」

 そう思った瞬間、一悟の表情が一気に青ざめる。一悟は大慌てで周辺を見回すが、そこには大きな川とこの世では見られないようなお花畑は見つからない。

「お、お…俺…やりてぇこと、いっぱいあんのに?今年も…空手で全国…行くって…そんで、みるくに…」


「いいえ、あなたは死んだのではありませんよ?」


 どこかで聞いた事のある声がして、辺りを見回すと、そこにはあんず色のロングヘアーに、青い瞳に、勇者・シュトーレンとよく似た雰囲気の女性・セレーネ・ノエル・シュヴァリエが立っている。

「こうやってお話しするのは初めてですね?ミルフィーユ…いいえ、千葉一悟さん?」

「あ、あ…あなたは…ゆ…勇者様…の…」

「いつもセーラがお世話になってます。」

 セレーネが微笑みながらそう言うと、一悟はさらに慌てふためく。

「い、い、いいえっ…寧ろ、お世話になってるの…俺…ですしっ!!!」

 あわあわと挙動不審になる男子中学生の姿に、セレーネは思わずクスっと笑う。そして、突然キリっとした目つきになる。その面影は、まさに娘である勇者シュトーレンと瓜二つだ。


「突然ですが、あなたに…頼みがあります。マジパティとして、セーラを…勇者シュトーレンを、あのストーカーから守ってほしいのです。」


 その頼みに対して、一悟の心には既に答えが出ている。

「どうやら、答えは既に決まってたみたいですね?」

 それは言うまでもなく、勇者シュトーレンにとって、誰が一番必要である存在なのか…それが判っているからだ。一悟は黙ってうなづく。


「頼みましたよ…娘の力を持つマジパティ達…」




「ソルベブーメランっ!!!!!」


「ガッ…」


「ネロっ!!!!!」

 魔界のソルベが放った弓が、カオスイーツ化したアントーニオの身体にヒットし、大勇者と僧侶は攻撃を免れた。

「はぁっ…はぁっ…大勇者様、ご無事ですか?」

「俺は大丈夫だけど…お前たちは…」

「先ほどの件であまり長くはもちません…ですが、戦えるのは我々のみ…」

 魔界のソルベはそう言いながら、カオスイーツ化したアントーニオにキックで応戦する。

「それにお嬢…いえ、勇者シュトーレンの不完全なオーバーブレイブの影響で、一悟達は変身できなくなったんです。」

 その言葉に、ガレットはぐっと息をのむ。


「ミルフィーユスライサー!!!(ただの足払い)」

「プディングメテオ!!!ウイニングショット!!!!!」


 魔界のミルフィーユと魔界のプディングがやっと合流し、連携でカオスイーツ化したアントーニオを、大勇者達から引き離す。

「カオスイーツは、私達が引き受けます!2人とも、短討ち決戦だよっ!!!!!」

「りょーかいっ!」

「承知した!!!」

 魔界のミルフィーユの言葉に、魔界のプディングとソルベは同意し、カオスイーツ化したアントーニオの所へ走る。


 それから少しして、傷を負った勇者の治療が終わったらしく、勇者は再び目を覚まし、起き上がるが…


「スパーーーーーーーーーーーーン」


 勇者が一言もしゃべる事すら許さないかのように、大勇者の右手は勢いよく音を立てながら、彼女の左頬を叩いた。


馬鹿野郎ばかやろう!!!慣れもしないオーバーブレイブで、あんな無茶…しやがって…」


 意識が戻った娘に向かって、大勇者は娘に肩を震わせ、涙交じりに声を荒げる。

「お…親父…」

「バイクや剣は壊れても、条件が揃えば直せる…だけど…お前の命は一つしかないんだぞ!!!結婚前の娘が、こんな無茶をするんじゃないっ!!!」

「ごめん…なさい…どうしても、トーニだけは許せなかったの…」

 娘の謝罪を聞き入れた大勇者は、シュトーレンに大剣を差し出す。


「一悟達がマジパティに変身できなくなった今、カオスイーツとなったトーニを完全に止められるのは、お前しかない!!!行け、勇者シュトーレン!!!!!」


「そして…必ず生きて戻って来い…俺の娘として…」

 父親として、先輩勇者としての言葉に、勇者は大剣を受け取る。5年近く振り回すことのなかった剣の重み…今となっては懐かしい…パリに滞在中は氷見ひみ家の当主に預け、カフェを始める際に引き取った大剣…氷見家の者が定期的にみがいていたらしく、目立ったさびはなかった。その重みと想いも、勇者の心にひしひしと伝わる…


 シュトーレンが鞘にきらめく紅色べにいろの宝石・インカローズに手をかざした刹那せつな、白いドレス姿から一瞬にして白と金を基調とした甲冑かっちゅう姿に変わる。炎のような真紅しんくのロングヘアーも、瞬く間に結い上げられ、頭頂部には白い羽飾りのついたカチューシャが装着され、純白の表地に、裏地が赤のマントが彼女の背中を覆いつくす。この姿こそ、勇者・シュトーレンの本来の姿なのである。


御意ぎょい…大勇者・ガレット…それまではトルテの事、頼んだからね?親父…」

 その言葉に、ガレットは安堵あんどの表情を浮かべ、カオスイーツの元へと向かう娘を黙って見届けようとするが…


「カルマン・ガレット・ブラーヴ・シュヴァリエ、41歳…長女・セーラが生まれてから23年…初めて…娘を叩いた痛みを知る…」


 彼は、娘の背中を見ながらそうなげいたのだった。

えて素手でやっている時点で、あんたは立派な父親だ。それと…もうすぐ娘婿になるライオンの治療も終わる。」




「んあ…?」

 一悟が気が付くと、そこにはみるく、雪斗、玉菜、ラテ、ガトー、フォンダン…そして、自分の父親の姿があった。

「やっと意識が戻ったようですね。」


「寝てる場合…じゃねぇっ…!!!早く、勇者様を守らねぇと…」


 意識が戻るや否や、一悟はそう言いながら起き上がる。その言葉に、みるく達の表情は深刻だ。

「えっ…何、寝ぼけた事…」


「寝ぼけてなんかいねぇっ!!!いつも俺達を見守ってくれている人が、言葉の通じねぇストーカーに付け回されて、黙っていられるかよっ!!!!!」

 彼の言葉に、みるく達はすっと立ち上がる。


「いちごんの言う通りだわ!みんなで「ミラノで一番の自己チュー男」の目を覚まさせましょう!!!」

「そうだな。ああいう奴は、一度でも豚箱ぶたばこに入ってりゃいいんだ!!!」

「いっくんに対する前科があるユキくんが、そんな事言う立場じゃないでしょっ!!!!!」

 みるくのツッコミに、玉菜はうんうんとうなづく。

「でも…無知でやる以上に、知った上でやったのはタチが悪いです。行きましょう!!!」

 そう言いながら、みるくは石化したブレイブスプーンを握り、前に突き出す。その姿に雪斗も、玉菜も、同じく石化したブレイブスプーンを握りしめる。そして、勇者のいる場所へと向かうが…


「一悟!」


 突然、一悟の父は息子を呼び止め、石化したブレイブスプーンを手渡す。

江利花えりかさんと我夢がむくんには俺が連絡しとくから、お前らは今…やるべき事をやって来い!!!」

「あぁ!!!でも…姉ちゃんには言わないで欲しいかなー?」

 バツの悪そうに告げる息子にあきれつつも、一悟の父は黙って息子の背中を見つめる。




 カオスイーツ化したアントーニオは、魔界のマジパティ達がパティブレードを出すスキを与えぬかの如く、執拗しつように魔界のマジパティ達に攻撃を仕掛けてくる。先ほどのパーティー会場での戦いの疲れ…さらに、人間界での戦いは魔族にとって分が悪いのか、魔界のマジパティ達にとってはとても不利な状況である。

「ぐはっ…」

「ボネ!!!うぐっ…」

 魔界のプディングと魔界のソルベは、カオスイーツ化したアントーニオに蹴り飛ばされてしまい、それぞれスーツ姿のボネと執事服姿のネロに戻ってしまう。魔界のミルフィーユもどうにか応戦しようとするが、腰のチェーンを引きちぎられた拍子にブレイブスプーンを落としてしまい、メイド服姿のグラッセに戻ってしまった。

「ぴゃあああああああああっ!!!!」

 グラッセは瞬く間に屋敷にある植木に飛ばされ、逆さ吊りにされてしまう。そんな様子を、カオスイーツは構いもせずに近づこうとするが…


「シュパッ…」


 ひとつの大剣が颯爽さっそうとカオスイーツの背中を斬りつける音が、グラッセの危機を救った。斬りつけられたカオスイーツは、くるりと身体を回し、斬りつけた人物に顔を向ける。


「トーニ!!!あなたの相手は、このアタシでしょ?」

 カオスイーツと化したアントーニオと、勇者が顔を合わせた刹那、勇者の脳裏に、浮かぶアントーニオと初めて出会った日…あの時の2人は、ホテル王の息子とホテルのスタッフだった…そこから知り合いとなったが…


「アタシはあなたを友達としてしか見ていなかった。でも、あなたはアタシを恋人として見ていた…そうでしょう?」


 そう言いながら、勇者はカオスイーツのこぶしを右手で受け止める。


「だから…あなたはアタシを簡単に手に入れられると思っていた。そう思っていたからこそ、アタシが勇者だと知っていた上で、付け回し、アタシの大切な人を傷つけた…残念だけど、アタシはそんなやり方で恋人が手に入れられると思っている人とは、話が合わないの!!!」


 勇者の言葉と同時に、彼女はカオスイーツに左足で蹴りを入れる。そして再び大剣を構え、カオスイーツに飛び掛かる。


「アタシの幼馴染おさななじみ邪険じゃけんに扱ったり、アタシの父親を侮辱ぶじょくしたり…それでアタシの心をつかめると思った?むしろ、そんな愛情こっちから願い下げよ!!!!!」


 カオスイーツも負けじと攻撃しようとするが、彼女の太刀筋たちすじはカオスイーツの思っている以上のスピードで、思うように手が出せない。


「だから…今は勇者として、カオスイーツとなったあなたと戦います!!!!!」


 勇者はそう言いながら、スポンジケーキ状のカオスイーツに大剣を突きつける。そして、そんな彼女の勇気に導かれたかの様に一悟、みるく、雪斗、玉菜の4人が合流する。

「親父…アタシはやっと理解できた…マジパティをたずさえた勇者は、マジパティに戦いのすべてを委ねるんじゃない…共に力を合わせる事だって…」

 勇者の言葉に反応するかのように、彼女の大剣が白い光を纏う。


「強き力…」

 勇者と一悟の言葉に呼応するかのように、一悟の持つブレイブスプーンが、ピンクの光を纏いながら元の姿に戻る。

はぐくまれゆく愛…」

 今度は、みるくの持つブレイブスプーンが、黄色の光を纏いながら元の姿に戻る。

「深き知性…」

 そして、雪斗の持つブレイブスプーンが、水色の光を纏いながら元の姿に戻り…

まばゆき光…」

 最後に、玉菜の持つブレイブスプーンが、紫の光を纏いながら元の姿に戻る。ブレイブスプーンが元の姿に戻った事で、シュトーレンは白い光を纏う大剣を夜空の下、天高く掲げる。


「そして、大いなる勇気!!!!!」


 勇者の叫び声と共に、5色の光は夜空に高く拡大し、光の柱と化す。その光の中で一悟、みるく、雪斗、玉菜はブレイブスプーンを空高く掲げる。


「「「「マジパティ・スイート・トランスフォーム!!!」」」」


 ピンク、黄色、水色、紫の空間が4人を包み、一悟はピンク色のロングヘアーの長身少女に、雪斗は水色のロングヘアーでグラマラスな少女に体系を変えると、みるくは金髪のロングヘアー、玉菜は銀髪のロングヘアーにそれぞれ変化する。それと同時に4人は背中合わせとなり、一悟の右手はみるくの左手が握り、みるくの右手は雪斗の左手、雪斗の右手は玉菜の左手…そして、玉菜の右手は一悟の左手がそれぞれ握りしめる。

 4人は髪をなびかせながら、トップス、スカート…と、上から順に光の粒子によって装着され、それぞれのコスチュームに合わせたかのように、太ももから足元にかけて光の粒子によって装着される。一悟と雪斗、玉菜にはチョーカー、みるくにはチョーカーとアームリングが装着される。手袋、アームカバー、イヤリングが装着されると、今度は全員身体をくるりと回し、向かい合う。

 一悟の髪はポニーテールに結われ、もみ上げの毛先がくるんとカールし、みるくの髪は触角が現れ、ツーサイドアップにされた髪と、もみ上げが縦ロールにカールし、下された髪は2つに分けられ、それぞれ毛先をオレンジ色のリボンで結われる。雪斗の髪は右側でワンサイドテールになり、青いリボンでまとめられる。玉菜の髪は左側でワンサイドアップになり、括られた毛束を彩るように紫のリボンでまとめられる。それぞれの腰にチェーンが現れると、そこにブレイブスプーンが付き、4人の瞳の色が変わり、変身が完了する。


「ピンクのマジパティ・ミルフィーユ!!!」

「黄色のマジパティ・プディング!!!」

「ブルーのマジパティ・ソルベ!!!」

「白銀のマジパティ・クリームパフ!!!」


「「スイート…」」

「「レボリューション!!!」」


「「「「マジパティ!!!!!」」」」


 一悟はミルフィーユ、みるくはプディング、雪斗はソルベ、玉菜はクリームパフにそれぞれ変身した。

「みんな…準備はいいわね?」

「あぁ!」

「勿論です!」

「覚悟はできてる!」

Ouiウイ!!!」

 4人のマジパティの言葉に、勇者は安堵の表情を浮かべる。マジパティ達の手にはそれぞれの武器がある。


「「「3つの心を1つに合わせて…」」」


 ミルフィーユ、プディング、ソルベがそう叫んだ瞬間、3人の武器は光の粒子となり、それぞれのカラーに合わせた細身の剣・パティブレードに変わった。


「勇者の力を1つの剣に!!!ミルフィーユブレード!!!」

「勇者の愛を1つの剣に!!!プディングブレード!!!」

「勇者の知性を1つの剣に!!!ソルベブレード!!!」


 3人はそれぞれのパティブレードを構え、ピンク、黄色、水色の光をまといつつ、カオスイーツに飛び掛かる。


「さぁ、行くわよ!!!フォンダンっ!」

「はいでしゅ!!!」

 フォンダンがクリームパフの右肩に乗ると、クリームパフはウインクをする。

「精霊の力と…」

「勇者の光を一つにあわせて…」

「バレットリロード!!!」

 フォンダンの身体が白く光るなり、フォンダンはクリームパフの持つクリームグレネードのレンコン状のシリンダーに光の銃弾を装填する。そして、クリームパフは左手でシリンダーをくるくると回転させ、狙いを定めると同時に、クリームパフは拳銃のトリガーを引く。


 そして、勇者は白い光を纏いながらカオスイーツの前で高くジャンプする…


「「「「「マジパティ・ブレイブ・ピュニシオン!!!!!」」」」」


 その掛け声とともに、カオスイーツはミルフィーユ、プディング、ソルベの順に斬られ、クリームパフの無数の光の銃弾を浴びる。最後に、勇者シュトーレンがカオスイーツの頭上から大きく振りかぶってカオスイーツを一刀両断する。


「「「「「アデュー♪」」」」」

 5人の言葉と共に、カオスイーツは光の粒子となり、本来の姿であるアントーニオ・パネットーネの姿へ戻るが…


「えっ…」


 カオスイーツから元の姿へ戻るアントーニオの腕を、一悟の父はがしっと掴み…


「アントーニオ・パネットーネ!首藤聖奈しゅとうせいなに対する誘拐ゆうかい監禁かんきん及び、ストーカー規制法違反…そして、取手利雄とりでりおに対する傷害しょうがい逮捕たいほする!!!!!」


「「「「ええええええええええっ!!!!!!!!!!!????」」」」

 その言葉に、ミルフィーユ達は驚きを隠せない。

「取手利雄がお前に暴行された時に持っていた車のかぎ、そして首藤聖奈の部屋に仕掛けられた盗聴器…どちらにも、お前の指紋しもん一致いっちした!!!もう言い逃れはできないっ!!!!!」

「そ、そんな…僕がいなければ、マジパティ絡みの…」


「それが何だって言うんだ!!!!!」


 1人の童顔刑事どうがんけいじは、その叫びでアントーニオの言い分を一蹴した。

「俺だって、常に子供を心配するたった1人の親だっ!!!仮に、娘や息子がお前みたいな奴に付け回された時、無関心のままでいられるかよ!!!!!」

 その言葉を聞いたミルフィーユは、心をぎゅっと掴まれたような感覚を覚える。そして、マジパティと勇者達の目の前でアントーニオに手錠てじょうがかけられた。


「ガチャン…」


「ねぇ…シュトーレン…」

 警察に連行されるアントーニオの後ろ姿を見ながら、クリームパフは勇者に声をかける。そんな2人の背後には、家主の逮捕と同時にお笑い番組のコントの如く崩壊していく屋敷に唖然あぜんとするミルフィーユ、プディング、ソルベが立っている。

「シュトーレン…私ね、トーニの事…1人の男の人だと意識してたことがあったの。でも、トーニはあなたに夢中で…結局、フラれたんだ。」

「それって…アタシに対する当てつけ?」

「まさか!帰国の際、クイニー・アマンだったあの人から「トーニにフラれて正解」って言われて、どうしてなのか聞いたら…「ミラノで一番の自己チュー男なんて、あなたには相応しくないわ」だってさ!だから、あなたにも言うね…」


「「トーニをフって正解」…いや、ここは「トルテを選んで大正解」ね!!!おめでとう、勇者様!!!!!」


 1人のマジパティの言葉に、勇者はクスりと笑う。そしてマジパティ達が変身を解くと同時に、甲冑姿からドレス姿に戻り、父親と愛する者、そして幼馴染と合流する。ベイクはカオスイーツと戦っている間にブラックビターのアジトへ戻ったらしく、彼とずーっとタイマンで戦っていた大勇者は不服そうな表情をしていた。




 そして、一悟達は僧侶が脱出用に用意したハイエース(14人乗り)と、様子を見に来たあずきが乗っている高萩たかはぎ家のリムジンにそれぞれ乗り込み、急いで半壊したアントーニオの別荘をあとにする。他の執事やメイド達は増田ますだ刑事と羽多野はたの刑事の誘導で既に脱出していたようで、無事だった。しかし、アントーニオの逮捕によってこの屋敷の手抜き工事が明るみになるのはそう遠くないでしょう。(キョーコせかんど曰く)


「まったく…予定時刻よりもすっかり遅くなってしまったじゃないか!ハイエースの延長料金、あとでエクレールに請求してやる…」

「まぁまぁ…でも、みんな笑顔でハッピーエンド…だね?あの捜査官そうさかんには悪いけど。」

 運転席の真後ろで呟く幼い姿の姉を宥めつつ、ジュレは助手席でそう告げる。魔界の住人の3人はあずきと雪斗と共に氷見家に向かうことになったので、リムジンに乗っているため、ハイエースには一悟、みるく、玉菜、シュトーレン、トルテ、ガレット、アンニン、ジュレ、キョーコせかんど、そしてラテ達精霊が乗っている。

「ところで…これから何処に行くの?」

「一旦家に戻ってから、市役所♪やっとお前も解放されたし、夜間窓口に提出すれば…」

 自分の真後ろの列にトルテと座る娘の疑問に、ガレットはそう言うが…

「市役所から残念なお知らせだ。夕方から発生した戸籍課のシステム障害で、今日は夜間窓口開いてない。」

 隣でスマートフォンを操作する幼い姿の僧侶の言葉に、大勇者の全身は漂白剤で洗われたかのように真っ白になった。そんな父親の姿を見ながら、勇者は一悟達の目の前で愛する者と唇を重ね合わせる。


「まぁっ…」


 あまりにも濃厚な光景ににやける玉菜の隣では、一悟とみるくが目を皿のように丸くし、顔全体を真っ赤に染め上げつつ頭から湯気ゆげを吹き出したのだった。

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