第15話「攫われた勇者!傷だらけのライオン」

「はぁっ…はぁっ…」


 湘南しょうなんのビーチを駆ける幼い一悟いちご…彼を追いかけるのは、巨大なタピオカのカオスイーツ…化け物に追いかけられながら、慣れない砂浜を走るのは、もうすぐ6歳になる彼にとっては過酷かこくであった。そんな一悟は砂浜のくぼみに足をとられ、転倒してしまう。

「あぁっ…」

 巨大なタピオカのカオスイーツは、容赦なく一悟に襲い掛かろうとするが…


「ドゴッ…」


 たなびくピンクのツインテール…白とピンクを基調としたコスチューム…見た目は14歳ほどの少女…そんな少女が、幼い子供を襲う怪物を蹴りを入れる。


「ピンクのマジパティ・ミルフィーユ!禍々まがまがしい混沌こんとんのスイーツ、勇者の力を受ける覚悟を決めなさい!!!!!」


 そう叫んだ少女は、ピンク色の長薙刀ながなぎなたを呼び出し、構え、そして飛び上がる。


「ミルフィーユパニッシュ!!!!!」


 ミルフィーユの叫び声と共に一刀両断となったカオスイーツは、瞬く間にサーファーの男性の姿に戻り、砂浜に倒れこむ。人間に戻ったことを確認したミルフィーユは、そっと一悟に手を差し出す。

「もう大丈夫よ…」


 湘南の海を背景に、手を差し伸べる戦う少女の姿…幼い一悟にとって、彼女はヒーローだった。


 そう…ヒーローだったのだ!!!!!




「まただ…またあの夢…」

 先代マジパティ敗北の理由を聞いて以降、一悟は毎晩のように湘南の海と先代のミルフィーユの夢を見るようになった。

「いっくん…また見ちゃったの?」

「あぁ…修学旅行中もずーっとだぜ…」

 先代ミルフィーユの声…どことなくいなくなったいとこと似ている…そして、あの顔立ちも…


「ガラッ…」


 教室のドアが開くと同時に、そこから雪斗ゆきとと僧侶とよく似た顔立ちの10歳ほどの少女が入って来る。サン・ジェルマン学園中等部の女子制服に、緑色のアンダーリムのメガネの姿をした少女…みるくはどことなく見覚えがあるようだ。

「失礼する!」

 転校生であるのか否か、彼女は雪斗を護衛にしているかの如く、一悟とみるくの所へやって来る。

千葉ちば一悟、氷見ひみ雪斗、米沢よねざわみるく…昼休み、弁当持参で保健室に来い!」

 あまりにも唐突な言葉に、一悟達は狐に顔をつままれたような顔をする。

「それから、今日は絶対に首藤聖奈しゅとうせいなと連絡を取るな!勿論、婚約者である取手利雄とりでりおともだ!!現在…」


「ガラッ…」


「みんな、席につけ!ホームルームを…」

 少女のセリフを遮るかのように、顔中にひっかき傷を作った下妻しもつま先生が教室へ入る。

「って、誰だ?そこの緑のメガネの女子!このクラスの者ではないな?速やかに自分のクラスに戻りたまえ!!!!!」

 教師の言葉に、少女は「フン」と鼻で笑った。

「そのひっかき傷…出勤中に猫の縄張り争いにでも巻き込まれたようだな?」

「なっ…教師に向かって、なんという口の利き方を…名を名乗れ!!!」


「私か?私は…厠野花子かわやのはなこさんだ。」


 自らを「厠野花子」と名乗る少女は、そのまま教室を出る。

「か…かわ…や?」

「「トイレ」という意味だ、いちごん。」

 少女の名前に疑問を持つ一悟に対して、雪斗が囁く。




「ガラッ…」


「「「失礼します!!!」」」

 昼休みに入り、一悟達は保健室に入る。そこには普段よりも目がぱっちりとしている、養護教諭が座っている。一悟達が保健室にやってきたと同時に、ベッドのカーテンが開き、そこから今朝の「厠野花子」と名乗る少女が出てくる。

「やっと来たか…キョーコせかんど、カーテンは…閉めたようだな?」

「はいっ!思いっきりここ最近の話をお伝え出来ますよ、マスター♪」

「キョーコ…せかんど…?」

「マスター…?」

 養護教諭と少女のやり取りに、一悟と雪斗は疑問を示すが…

「僧侶様…もしかして、明日…満月ですか?」

「うむ…今日から十六夜いざよいの月である明後日あさってまで、この体格だ。」

 そう言いながら、アンニンはキョーコせかんどが用意した、敷かれた茣蓙ござに置いてあるちゃぶ台の前に座る。

「話はあとでするとして、まずは食事だ。」

 そう言いながら、幼女の姿の僧侶は自身の弁当をちゃぶ台に置く。


 一方、下妻先生は食堂にやって来て、仕事中の大勇者様とひそひそ声で会話をしている。その大勇者様はどことなーく…機嫌がよろしくない。

「大勇者様、また魔眼まがん使いましたね?」

「だとしたら、なーにー?こっちは娘の事でむしゃくしゃしてるんだけどー?」

「ところで、娘の聖奈さん…近々ご入籍されるそうで…」

 弟、そして娘とかつて共に旅をしてきた相手のその発言に何を感じたのか、ガレットは乱暴にお皿のご飯にカレーをかける。


「ドンッ!!!!!」


「やっぱり…お前、気に入らねぇっ!!!!!」

 更に、ガラムマサラを振りかける。どうやら、一悟達が修学旅行で不在中、勇者の身に何かが起こったようだ。




「こいつは「KYOKOキョーコ.MysterGynoidマイスターガイノイド.4-12エイプ・トゥエルフ」…通称「キョーコ」だ。「キョーコせかんど」と呼んでくれ。」

 食事を終えた僧侶は、一悟達にキョーコせかんどについて説明する。ヨーロッパにある内陸国・ヴィルマンド王国…この国は元々ロボット工学超先進国で、彼女は人間界の姿をしたアンニンをベースに、ヴィルマンド王国で製作されたメイド型アンドロイドである。普段はアンニンの住んでいるマンションで、家政婦同然の生活をしている。

「はいっ!満月が近い期間は、マスターの体格は人間界でいう幼い少女の姿になってしまうので、その間だけ私が「養護教諭・仁賀保杏子にかほきょうこ」としてお勤めしてます。」

「パパ上様の遺伝だ。カオスの呪いで30歳の誕生日まで、私は外見年齢が10歳の姿で生活せねばならん…特に人間界では、キョーコせかんどが来るまでは不便だった。バイトやら、学校も休まねばならなかったからな…キョーコせかんど、そろそろ本題に入れ!」

 そう言いながら、幼い姿の少女はキョーコせかんどが煎れたお茶をすする。


「コトッ…」


 主の言葉に、キョーコせかんどはちゃぶ台の真ん中に薄汚れた車の鍵を置く。

「コレは、昨日…トルテ様が傷だらけの姿で口に咥えていた、犯人の動かぬ証拠品…そう、勇者・シュトーレン様はこの車の鍵の持ち主に連れ去られました。」

「「「「えええええええええぇっ!!!!!!!????」」」」

 キョーコせかんどの説明に、一悟、みるく、雪斗、ラテは驚きを隠せない。

「ランボルギーニの鍵に、キーホルダーの中身の写真…犯人は既にわかっている。それに、傷ついたココアと共にトルテがライオンの姿で私のマンションの入り口に倒れていたという事は…」

「勇者様の婚約に対しての事が理由ですね。トルテ様は、ココアと共にその事をマスターに伝えようと…本来なら、皆さんが北海道から帰ってきた翌日…つまり、本日付で勇者様はトルテ様とご入籍のご予定でした。」

「でも…犯人は、何で勇者様の婚約を知って…」

 雪斗の疑問に、アンドロイドは小型の機械を見せる。

「単刀直入に言えば、「」です。勇者様の部屋に、盗聴器とうちょうきが仕掛けられていました。勇者様は何度か盗聴器を発見次第、破壊しておりましたが、今回はパソコンに盗聴器が仕掛けられてました。発見が私が調べに来た時だったのは、恐らく勇者様は今日のご予定で浮かれていたのかと…」

「やっぱり、そーゆーオチか…」

 幼馴染の失態に、僧侶様とラテはあきれ果てる。

「あと、この保健室にも盗聴器仕掛けた不届き者がおられましたので、大勇者様と一緒に処分しておきました♪」

「それで…ココアとトルテは…」

「ココアはジュレに預けて、トルテは彩聖さいせい瀬戌せいぬ病院に入院させた。流石にライオンの姿ではまずいから、人間の姿にしておいてな。だから、勇者様とトルテに連絡を取らないように告げたんだ。…これで、私からは以上って事でいいんだな?大勇者様…」

 そう言いながら、幼い姿の僧侶様は自身のスマートフォンをちゃぶ台に置く。その画面は、ガレットと通話中である事を示している。


「今回は、確かにセーラが浮かれていたって落ち度はある。だが…娘のストーカーが犯人だとしたら、俺も黙ってはいられない。一刻も早く、セーラが連れ去られた場所を突き止めなければ…」


 娘を連れ去られた大勇者の言葉に、一悟達は息をのむ。




 放課後になり、一悟は極真会館に向かうために下校し、雪斗はあずきと共に弓道練習場へ、そしてみるくはキョーコせかんどと共に、僧侶様が借りていた本を返却するため、正門側にある共同図書館にやって来た。この図書館も学園食堂と同じく、中等部と高等部の敷地の境界にある。サン・ジェルマン学園では唯一エレベーターを設置しているのも、実はこの図書館なのである。

「すみません、返却です。」

 今日は丁度、一悟達のクラスメイトである中津なかつゆめが返却カウンターを担当しているようだ。

「みるちゃん…今日は先生と一緒なんですね。」

「今日は気になってるフランスのスイーツの本を借りたくて…」

「そうですか…最近、蔵書ぞうしょを傷つけられる事件が多いので、本に傷とかがついていた時は…」

「中津っ!!!!!」

 中津ゆめのセリフを遮るかのように、高等部の図書委員の男子が罵る。蔵書を傷つけられる事件と関係があるようにもとれる…みるくはそう確信した。


 みるくは料理関係の蔵書の多い区間で、お目当ての本を探す。目当ての本はすぐに見つかり、中身をパラパラとめくる。幸いにも、傷や落書きは見当たらないが…


「このスペイン料理の本…大きく×が…それに、この和菓子の方も…1ページ1ページに大きな平仮名で読めなくなってる!!!」


 中津ゆめの言葉が、みるくの脳裏に引っかかる。そんな彼女の所に、下妻先生が合流する。彼の手には英語版の漫画本がある。

「みるく、中津の件で話がある。談話室だんわしつに来たまえ。」

 みるくは急いでキョーコせかんどと共に談話室へ入る。そこには、マカロンが既に談話室の椅子に腰を掛けていた。マカロンの手にはスマートフォンがあり、その画面は談話室で蔵書に落書きを施す3人の中等部の女子生徒達の姿が映し出されている。


「こいつら…知ってるか?」


漆山うるしやまが犯人を目撃したんだ。心当たりは…」

 その時、みるくは不意に昇降口しょうこうぐちに飾られている音楽室のカラー写真の大判パネルを思い出す。マカロンの目撃写真の人物と一致している人物が、そのパネルの中にいるからだ。

「恐らくだけど…このうち2人は吹奏楽すいそうがく部の低音楽器パートの子達…だと思うの。昇降口に去年の吹奏楽部の西関東大会の時と、全国大会のパネルがあるでしょ?この写真の中に、去年のコンクールメンバーの1人と同じ子がいるの。」

「そういや、中津は去年のコンクールメンバー…そして、今年も…」

「それに、中津は低音楽器パートで、ユーフォニウム担当だ。今年のコンクールメンバーの件で、め事があったと見ていいだろう。」

 下妻先生の言葉に、マカロンは目をキラッと光らせる。


「早速ぅ…拡散しちゃうぺろ☆彡」



「ちょっとぉ…それ、まころんが借りようとしてる本なんですけどー(ぷん)マヂで許せん!!!本にrkgkラクガキするなっ!拡散よろぴこ☆彡」



 マカロンは目にもとまらぬスピードでシャベッターに書き込む。

「こーゆー時だけは、行動が速い…」

「だって、僕は中津が無理して部活続けているの、見てられねーんだよ!…だから、今日は中津の友達として協力してんの!!!アイツ…本当は吹奏楽でユーフォニウムを吹く以外にやりたいことがあったんだ…」

 マカロンの終わり際の言葉には、みるくも少しばかり同意する。中津ゆめは元々合唱がっしょう部に入部を希望していた。しかし、今回の素行の良くない上級生たちに目を付けられ、合唱部への入部届を捨てられた挙句、無理矢理吹奏楽部に入部させられていた…それを目の当たりにしているから、尚更だ。

「それに、今日の僕は休肝日きゅうかんびならぬ、休カオス日だもんねー♪たまには1人のJC女子中学生として学園生活送ったっていいでしょ~☆彡」

 それもあるが、マカロンは修学旅行中3日連続でカオスイーツを生成してしまったため、カオスの力がほんのちょこっとしか残っていない。力を蓄えるためにも、マカロンには充電期間が必要のようだ。




「借りる筈の半分近くがラクガキされてました…はぁ…」

 図書館を出た汀良瑞希てらみずきこと、ティラミスはため息をつく。マカロンがシャベッターで拡散されたと同時に、シャベッター民が犯人の特定を進め、そのうち去年のコンクールメンバーの方は既に名前、住所、家族構成が晒されてしまっている。

 瑞希「犯人の1人は「川原祐香かわはらゆか」…私のクラスメイト…あとの2人は「鈴木金美すずきかなみ」と「蛸島サオリたこしまさおり」でしょうね…どうして共同図書館の蔵書に…」

 その時、ティラミスは渦中の3人が1人の図書委員の2年生を囲む姿を見つける。囲まれている2年生は、今にでも泣きそうだ。その瞬間、ティラミスは一瞬にして本来の姿に戻る。


「話が…見えました…」




「ドオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!」


 大きな爆音と共に、弓道部の活動を終えた雪斗はあずきと共に爆音のする方向を探す。それと同時に、あずきはある存在に気づく。

「ユキ様、カオスイーツの気配がいたしますわ!!!」

 その言葉に、雪斗は僧侶様のいる保健室へ向かう。


「ガラッ…」


「失礼します!!!」

 そこには僧侶様、キョーコせかんどだけでなく、下妻先生、みるく、ラテも先ほどの爆音がカオスイーツのものである事に気づいたようだ。雪斗に気づくなり、みるくは雪斗と同時にブレイブスプーンを構える。ご丁寧にも、キョーコせかんどは保健室の扉とカーテンを閉める。


「「マジパティ・スイート・トランスフォーム!!!」」


 黄色と水色の光が2人を包み込み、みるくと雪斗はそれぞれ、金髪のふくよかな少女と、水色の髪のグラマラスな少女に変わる。背中合わせで手を繋ぎ、それぞれのカラーに合わせたコスチュームが光の粒子によって着せられる。一度足元までコスチュームが着せられると、今度はチョーカー、アームリング、手袋、イヤリングが付けられる。そして今度はくるりと向かい合い、向かい合うと同時にお互いの胸が重なり合う。みるくの髪は2本の触角が現れるなり、ツーサイドアップともみ上げが縦ロールにカールし、ツーサイドアップの結び目にオレンジ色のリボン、下ろした毛先を2束に分けるかのように、同じオレンジ色のリボンで括られる。雪斗の髪はワンサイドテールに結われる。腰のチェーンにブレイブスプーンが装着されたと同時に瞳の色が変わり、変身が完了する。


「黄色のマジパティ・プディング!!!」

「ブルーのマジパティ・ソルベ!!!」


 ラテはプディングとソルベの空間を歪めながら、2人について行く…空間を歪められた2人は、他の人からは見えなくなるが、ドアを開けた痕跡と、誰かにぶつかった名残だけは残るので…

「何だ?突風か?」

 そして、何故か開いている保健室のドア…千葉先生は日ごろから勇者の関係者として怪しんでいる保健室を覗くと…

「せんせー、熱っぽいから体温計かせー!」

「ワタクシ、弓道の練習で指を切りまして…」

「仁賀保先生…い…胃薬を…」

「はいはい、順番ですよー♪」

 それはいたって、いつもの保健室の光景だった。

「あーら…千葉先生、ただいま満床ですので、順番お待ちいただくか、そのまま病院に行ってくださいねぇ?」

 千葉先生に向かって話すキョーコせかんどの口調は、どことなーくとげとげしい。己の主が嫌っている相手だから尚更なのだろう。


 プディングとソルベはカオスイーツのいる場所へ駆けつけると、そこにはフルーツサンドのカオスイーツとティラミスの姿…そして、カオスイーツの攻撃を受けたのか、3人の女子生徒がパンにはさまれ、サンドイッチになっていた。

「禍々しい混沌のスイーツ、勇者の知性でその頭を冷やしてみせる!!!!!」

「どうやら、ミルフィーユは不在のようですね。」

「えっ…極真会館って、ここから…」

「冗談じゃありませんっ!!!ここから片道で徒歩20分はかかりますっ!」

 仮に合流できたとしても、今すぐには来られないようだ。


「では、ご説明いたします!!!今回のカオスイーツとなったのは、2年A組出席番号17番、中津ゆめ!!!」

 ティラミスの言葉に、プディングは耳を疑った。

「ゆめちゃんっ!!?」

「実に哀れな生徒です…そこでサンドイッチにされた川原祐香、鈴木金美、蛸島サオリのアバズレ3人に、かねてから脅迫きょうはく行為などの嫌がらせを受けていたらしく…負の感情をたくさん抱えていらしたようです。それに、3人が蔵書に落書きした事についても、かねてから彼女が庇っていたようです。カオスイーツ化して真っ先に3人に攻撃したのも、無理はないでしょう。」

 ティラミスの言葉に、プディングとソルベは肩を震わせながら、それぞれプディングワンドとソルベアローを構える。




 一方、一悟は極真会館を出てカフェ「ルーヴル」に向かっていた。大勇者様の様子を見に行くようだが…

「ミルフィーユこと、千葉一悟さんでいらっしゃいますね?」

 背後から突然彼を呼ぶ声がして、振り向くとそこには1枚の白い円形の平皿に乗ったチョコレート色の髪のメガネの少年…

「お初にお目にかかります、私はガトー・ショコラ!勇者・シュトーレンの力を受け継いだあなたに頼みがあります。」

「えっ…」

 そして、彼の目の前には生徒会長・白石玉菜しろいしたまなの姿…




「プディングメテオ…みゃっ!!!」

 プディングはプディングメテオを放とうとするが、詠唱の途中でカオスイーツのパンチ攻撃を受けてしまった。

「甘いですよ!!!接近戦をミルフィーユにゆだねたあなた方がいけないのです!!!!」

 カオスイーツを元の中津ゆめに戻そうするプディングとソルベだが、近距離で殴りかかろうとするカオスイーツに対して、非常に分が悪い。ソルベもソルベアローを投げつけようとするが、投げる前に蹴り飛ばされてしまう。

「接近戦は…殆どミルフィーユに頼り切ってたところがあったからな…」

 2人の脳裏のうりに思い浮かぶ、接近戦で戦うミルフィーユの姿…「こういう時、ミルフィーユがいてくれれば」…そう思ってしまう所もある。だが、目の前に立っているのがクラスメイトであることを知っている以上、なんとしてでも2人で浄化せねばならない。

「こうなったら…私がおとりになって、ソルベとカオスイーツの間合いを取るしか…ゆめちゃんを助ける方法は、それしか…」

 プディングがそう思いついた刹那せつな、突然2枚の食パンのようなものが飛び交い、プディングとソルベは白樺しらかばの木に縛り付けられてしまう。


「ぴえっ…」

「うぐっ…」

「プディング!!!ソルベ!!!」

 パンのような白い物体はとても固く、精霊は愚か、マジパティ1人では振りほどけない程、プディングとソルベを締め付ける。

「さぁ、これでマジパティどもの完全敗北ですよ!!!!ミルフィーユはいらっしゃいませんが…」

 ティラミスの言葉と同時に、カオスイーツは色どりのフルーツを2人に向けて、ガトリング砲の要領で撃ち放つ。




「あーら、完全敗北なんて…何時何分何秒に誰が決めたのかしら?」


 突然誰かの声がして、ティラミスは上空を見上げる。そこには中等部校舎の屋上に立つサントノーレと、白い平皿に乗ったベージュ色の髪の少女…

「あ…あれは…」

「さ…サントノーレ!!!」

 ティラミスの叫びに、サントノーレはちっちと人差し指を振る。

「ノーンノン!それは今朝までの呼び名よ?今の私は…」

 そう言いながら、サントノーレだった少女はすみれ色の仮面を外し…


白銀はくぎんのマジパティ・クリームパフ!!!!!」


 夕日に煌めく緑と水色のオッドアイ…今まで仮面に隠されたその瞳からは、余裕が見える。


「シュッ…」


 そして、クリームパフは屋上から飛び立ち、それと同時に菫色の仮面を白樺の木に向けて投げつける。


「パキィィィィィン!!!!!」


 プディングとソルベを縛り付けていた白い物体はクリームパフが投げた仮面によって砕かれ、2人は身体の自由を取り戻す。クリームパフは一度カオスイーツの頭上目掛けてキックを放ってワンバウンドすると、菫色の仮面をキャッチし、プディング達の前にやって来る。

「さぁ、禍々しい混沌のスイーツ!!!勇者の光を恐れぬのならば、かかってきななさいっ!!!!!」

「な、なんて憎らしい…カオスイーツ、やってしまいなさいっ!!!」

 鬼メイドの言葉に返事をするかの如く、カオスイーツは再びマジパティに殴りかかろうとするが…


「ドゴッ…」


「甘いのは、あなたよ?オグルさん…本来の力を取り戻した私をナメないでちょうだいな?」

 無言でクリームパフの上段蹴りがカオスイーツに炸裂し、カオスイーツは10mほど後退するなり、その反動でティラミスを踏みつけてしまう。

「さぁ、行くわよ!!!フォンダンっ!」

「はいでしゅ!!!」


 フォンダンがクリームパフの右肩に乗ると、クリームパフはウインクをする。

「精霊の力と…」

「勇者の光を一つにあわせて…」

「バレットリロード!!!」

 フォンダンの身体が白く光るなり、フォンダンはクリームパフの持つクリームグレネードのレンコン状のシリンダーに光の銃弾を装填そうてんする。そして、クリームパフは左手でシリンダーをくるくると回転させ、狙いを定める。


「クリームバレットシャワー!!!」


 彼女の掛け声と当時に、クリームパフの人差し指は拳銃けんじゅうのトリガーを引く。


「インパクト!!!!!」


 銃声音と共に、クリームパフが放った無数の銃弾は、カオスイーツに全弾命中し、再びフォンダンは銃口に息を吹きかけるクリームパフの右肩に乗る。

「「アデュー♪」」

 2人のウインクと同時に、カオスイーツは瞬く間に光の粒子となり、本来の中津ゆめの姿を取り戻す。

「くっ…またしても…クリームパフ、次はこのままでは済まされませんよ!!!」

 そう言いながら、ティラミスはフッと音を立てながら消えてしまった。プディング達は生徒達に気づかれないよう、白樺の木の陰でその後をそっと見届ける。


「先生~こっちぺろ~☆彡」

 突如マカロンの声がすると、カオスイーツにサンドイッチにされた川原佑香、鈴木金美、蛸島サオリの3人は、マカロンが連れて来た教師たちによって校長室へ連れて行かれた。

「ねぇ、先生…僕、ゆめゆめの傍に居てもいい?ゆめゆめに話したい事、いっぱいあるの。」

「はいはい…いいですよー♪今の中津さんには、心のケアが必要ですからねー。」

 そう言いながら、キョーコせかんどは中津ゆめをお姫様抱っこして、保健室へと連れて行く。


「ゆめちゃん…この後、どうするんだろう…」

「恐らくはあの3年生共々、吹奏楽部をやめるのは確実…だろうな。蛸島は吹奏楽部じゃないけど。仮にも、ウチの吹奏楽部は強豪きょうごう校だ。今年のコンクールに打撃は受ける。」

 ソルベの言葉に、クリームパフは相槌あいづちを打つ。

「うんうん…そして、あんた達はこれから、さっきの戦いに関して私からのお説教を受ける…」

 その言葉に、久々の再会を喜ぶラテとフォンダンの背筋が凍りつく。


「接近戦、ミルフィーユに頼りきるとか…バカなの?そりゃ人には向き、不向きがあるけど、ミルフィーユ不在の時を考えた戦い方くらい、考えとかんかーーーーーーーーーーいっ!!!」


 夕暮れの高等部と中等部を隔てた白樺の木々の間を、クリームパフの怒鳴り声がすり抜ける。

「そ、その喋り方は…」

 ソルベがそう言うと、3人は腰につけてあるブレイブスプーンに手をかけ、プディングは米沢みるくに、ソルベは氷見雪斗にそれぞれ戻り…


「やっぱり、ソルベはゆっきーだったんじゃん!」


 ハチミツ色のロングヘアーを紫色のリボンでまとめた、中等部の制服姿の少女…それはまさしく、生徒会長・白石玉菜だった。

「これ…いちごんに話したら…」

「いちごん?いちごんなら既に話しちゃった♪本人には時期が来るまでの間、口止めしてたんだよーん♪」

 しれっと話す玉菜に、雪斗とみるくは目をお皿のように丸くする。


「「そんなぁ…」」




 ほぼ同時刻…


「ミルフィーユパニッシュ!!!!!」


 ミルフィーユの決め技によって、スコーンのカオスイーツは光の粒子と共に警備員へと姿を変えていく。


 そんなミルフィーユはガトー、そしてライスと共に木苺ヶ丘のある場所へと来ていた。目の前の大きな屋敷…苔桃台こけももだいにある高萩たかはぎ家の邸宅程ではないが、庭先はそれなりに広い。そんなミルフィーユ達を、クグロフが睨みつける。

「おのれ…勇者のニオイを嗅ぎつけたかと思ったら…」

 そう言いながら、クグロフはフッと音を立てながらどこかへ消えてしまった。

「一悟、このお屋敷で間違いありませんわ!」

「そのようだな…」

 ひしひしと伝わる、勇者の気配…やはりキョーコせかんど達の予感は当たっていた。

「ココアを傷つけた事…倍にしてお返しします…」

 そして、ミルフィーユは千葉一悟の姿に戻り、ある人物に連絡を取る。


「大勇者様、勇者様の居場所が分かった!住所は…木苺ヶ丘きいちごがおか4丁目の…」


 そんな一悟達の様子を、白いロングワンピース姿のシュトーレンが、まるで「早く助けに来て」と訴えるかのような悲しげな表情で見つめる。

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