第14話「大勇者様激白!!!先代マジパティ敗北の理由」

 8年前のスイーツ界の中心となる王国・シュガトピア王国…ある日、王宮正門前の広場に突然、勇者クラフティが変わり果てた姿で人間界から帰還きかんした。肉体はまさしく勇者クラフティこと、ニコラス・クラフティ・ブラーヴ・シュバリエそのものであったが、精神体せいしんたいなき状態の彼の肉体は、石のように冷たく、彼の姿を確認に来た王国の騎士団長きしだんちょうの兄は、声を上げずにその場に泣き崩れた。




 後日、シュガトピア王国の城下町じょうかまちの外れにあるブランシュ領の教会…この教会が後に僧侶・アンニンとなる少女・アンヌ・リン・ブランシュの実家である。

「パパ上様ーっ!国王様から…」

 王国から届いた手紙を片手に、修道着しゅうどうぎ姿のアンヌは父親・ブランシュきょうのいる礼拝堂れいはいどうの戸を開ける。そこに居たのは父親と…


「残念だが…君がそのビジョンを見てしまった以上、君の娘の運命は変えられない!!!!!」


 ブランシュ卿の言葉に愕然がくぜんとする、騎士団長の青年の姿だった。普段はアンヌの前ではひょうきんな顔をする青年は、赤い絨毯じゅうたんの上に膝をつき、そのまま上半身を前のめりに倒す。彼にとっては最悪の未来が見えてしまったのだろう…アンヌはそう確信した。



 彼は長女である娘が生まれた日に突然、娘の未来を見通す力を身に着けた。その力が災いして、娘や妻、妹と衝突する事はあったものの、彼はその力を授かった事を今まで不幸だと思った事がない。


 娘が幸せでいてくれるのならば…




 ギモーヴカオスイーツにされていた一悟いちごの姉の一華いちかが元の姿に戻り、一悟達はガレットの魔眼まがんによって、カフェ「ルーヴル」に飛ばされてしまった。シュトーレンの能力を受け継いだマジパティ、そして魔界からやってきたマジパティ、そしてトルテの前で、ガレットは突然ある事を言い放つ。


「セーラの好きな人が判って嬉しい気持ちはあるけど…マジパティを携えた勇者は恋愛禁止っ!!!」


 突然の大勇者の言葉に、一悟達は驚きを隠せなかった。

「ちょっと!!!それ…どういうこと!?」

「私達にもそんな事言わなかったのにぃ…」

「とにかく、大勇者が禁止と言ったら禁止!マジパティの強さが勇者の心によって左右される以上、恋愛感情に左右されている状態では、ブラックビターには勝てない…」

「そんな事言って…本当はあのライオンに娘を取られたのが悔しいんじゃないんですかー?」

「はいはい、どーせ「花嫁の父」です…って、人が真面目な話をしている時にふざけるなよ?キ・ジ・ト・ラ♪」

 ノリツッコミをかましながら、ガレットはトラ柄の猫耳の少年の両頬を引っ張る。


「それに、勇者が恋愛禁止である以上、マジパティの恋愛もダメ!勇者とマジパティ同士が恋愛感情を抱くなんて…以ての外だ…」


 大勇者の言葉に、竜の子はある事に気づく。

「お言葉ですが、勇者様…そう言わざるを得ない経緯に至ったのは、なぜですか?理由によっては我々も条件を飲まざるを得ないようですが…」

「さっきも言ったでしょ?勇者の心がマジパティの強さに影響するから、それに付け込んでブラックビターが狙いに来る…ってこと。」

「それだけですか?たったそれだけの理由で、理不尽に「恋愛禁止」と罵るのはいかがなものかと思いますが?」

 ネロの質問に、ガレットは何も答えなかった。その父親の態度に、とうとうシュトーレンはしびれをきらし…


「「勇者は幸せになってはいけない」って…言いたいんでしょ?」


 娘の言葉にも、ガレットは何も言い返さない。それどころか、娘の予想外の言葉に狐に顔をつままれたような顔をする。

「親父って…昔からそうだよね…事あるごとに家族巻き込んで…長い間子供たちをほったらかしにした挙句、今度は「勇者は恋愛禁止」って…いい加減にしてよ!!!!!アタシはあんたの勇者としての道具じゃないっ!!!!!」

「あ…姉御あねご…」

 シュトーレンはそのまま住居スペースへと入ってしまった。ガレットはうつむいたまま何も答えない。

「これ以上聞いても無駄なようですね。娘にあんな事を言われてだんまりを続けるなんて、勇者として…いや、父親としての威厳いげん…丸つぶれですよ?」

「と…とにかく、私達は帰るね?トルテくん…今日は残念だったけど、早まったことだけはしないで?娘さんを救えるの…あなただけだから…」

「ホレた女だろ?ぜってー泣かせんな!!!いっちー達も帰るぞ!」

 勇者ガレットの能力を受け継いだマジパティ達は、一悟達と共にカフェ「ルーヴル」をあとにした。店を出ると同時に、グラッセ達は獣人じゅうじん化を解く。獣人化を解いたその姿は、一般的な高校生と変わらない。



 帰り道を歩きながら、グラッセ達は一悟達に話をする。

「改めまして、自己紹介。私はグラッセ。普段は「倉吉くらよしイナバ」として、高等部の2年A組に在籍してます。学科は普通科です。」

「俺はボネ!普段は「根小屋虎太郎ねこやこたろう」として、高等部の2年B組に在籍してるんだ。学科は情報処理。そんでコイツは…」

「私はネロだ。普段は「根室ねむろたつき」として、高等部の2年C組に在籍している。学科は国際学科。お前達は?」

「俺は千葉一悟ちばいちご!中等部の2年A組だ。そして、隣にいるのが…」

「よ…米沢よねざわみるくです。同じく中等部の2年A組です!」

「僕は氷見雪斗ひみゆきと…同じく中等部の2年A組で、生徒会書記。部活は弓道部…」

 一通りの自己紹介が終わると、グラッセ達はさらに話を進める。グラッセ達は勇者・クラフティの調査のため、スイーツ界経由で人間界にやってきており、雪斗の祖父の協力の下、木苺ヶ丘きいちごがおかにあるアパートの一室をルームシェアという形で暮らしているようだ。




「とんでもない事をしましたね?朝っぱらからあなたの娘から「トルテが追い出された」って連絡来たんですけど?」


 午後の中等部の保健室…ガレットは、僧侶様からの呼び出しを食らったのだった。

「また…セーラの暗い未来でも見えたんですか?あの時みたいに…」

「あの時…って?」

「8年前…勇者クラフティが肉体「だけ」帰還した後、ブランシュ卿の所へ駆け込んできましたよね?」

 その言葉に、ガレットは観念かんねんし、ある話をし始めた。




「ブランシュ卿…ニコラスの後継が…」

「決まってしまったか…一体、誰だ?君がそんなに血相を変えているという事は…」

 ガレットの表情に、ブランシュ卿は何も言わずに悟った。

「セーラが勇者になる事が…こんなに怖い事なんて…あの子は、まだ…勇者としては…」

「彼がカオスに敗北した以上、そのツケは後継が引き受けることになる…カルマン、まさかそれを自分が引き受けようとは言うまいな?」

 どうやら図星のようだ。


「残念だが…君がそのビジョンを見てしまった以上、君の娘の運命は変えられない!!!!!」


 ブランシュ卿の言葉を聞いたガレットは、赤い絨毯の上に膝をつき、愕然とした。

「5年前に戦争でセレーネが…そして今度はニコラス…これ以上、カオスに大切な人を奪われる事だけは…」

「カルマン…娘の暗い未来から逃れる方法が一つだけあるとしたら…君はどうする?」

 その言葉に、ガレットは顔を上げる。父親として…先々代の勇者として…娘を戦火へ送り込まざるを得なくなった1人の男の彼に差し込んだ、一筋の光…


「ニコラスがカオスに負けた原因は、まだつかめていない。その原因を掴め次第、君の娘…セーラ・シュトーレン・シュヴァリエの運命は変わるだろう…あとは彼女の父親であり、先々代の勇者である君次第だ。」


 不意に浮かぶ娘の笑顔…覚悟を決めた1人の男は、すっと立ち上がる。あふれる涙で頬は濡れているが、彼の瞳は決意に満ちている。




「それで、その日に騎士団長辞めて人間界へ…後は「首藤和真しゅとうかずま」として北海道で板前やりながら、茅ケ崎ちがさきでニコラス達の身辺調査…やっと原因を掴めたのが2年前。その頃にはセーラは勇者として覚醒済みな上に、スイーツ界から別の世界へ…」

「その原因、本人に話したんですか?…って、聞くまでもありませんね。話す途中で泣きたくなって、言葉詰まらせたんですよね?」

 ガレットは何も言わずに頷いた。

「セーラには、俺は身勝手な父親にしか見えなかった…それはわかってる。でも、これ以上セーラにセレーネ達の様な事だけは…」

 弱音を吐く大勇者の言葉に、僧侶はある事を思いついた。

「それなら、セーラは私が説得します!だから…トルテを追い出した事を…」

「それ、誤解ですぅー…」

 アンニンの言葉にガレットが反論した刹那、アンニンのスマートフォンからLIGNEリーニュの通知音が響く。


「ピコン♪」


 僧侶は咄嗟とっさにスマートフォンを手に取り、LIGNEを開くとそこにはいかにも事後ともとれる2枚の画像。1枚目は見覚えのない大きな部屋、もう1枚はシュトーレンの部屋…どちらも左下にはトルテの姿。恐らく自撮りであろう。1枚目では爆睡しているシュトーレンだが、2枚目はトルテと並んで一緒に笑っている…そして、それらの画像に続けてのメッセージが…


「セーラ・シュトーレン・クラージュ・シュバリエはいただいた(3年ぶり2度目)」


「ふふっ…ホントに追い出してないんですね…それなら、まず私に話していただけますか?勇者・クラフティと先代のマジパティがカオスに負けてしまった原因を…」

 トルテからのLIGNEににやけた僧侶は、再び真面目な表情に戻り、大勇者に目を向ける。覚悟を決めた大勇者は、ブランシュ卿の娘に向かって、勇者クラフティと先代のマジパティが敗北した原因を話した。




 昨日の件でシュトーレンがショックを受けた事もあり、カフェ「ルーヴル」は開いていない。そんな本人はというと、殆ど住居スペースから出ておらず、リビングに置いてあった、ガレットが作った朝食も冷蔵庫に入れただけで手を付けていない。よっぽど、ガレットに対して怒っているのだろう…彼女は今、トルテと一緒に部屋のベッドにいる。

「まさかあの時、姉御があのホテルでバイトしていたなんて…」

「生活かかってたの…あの時は!でも…よかった…あの時抱いてくれたのが…トルテであって…」

 そう言いながら涙ぐむシュトーレンを、トルテは優しく抱きしめる。お互い一糸まとわぬ姿である時点で、2人がやっていた事は明白だ。

「親父はあぁ言っていたけど…でも、もうこれ以上「本当はトルテの事を愛してる」って気持ちに…ウソ…つきたくない…」



「自分の本当の気持ちにウソを重ねるくらいなら…もう…勇者なんて…」


 今でも思い出す…ガレットが突然行方をくらませてから2週間ほどした時のこと…彼女…少女セーラは、突然王宮に呼び出されたのだった。


「セーラ・シュトーレン・シュヴァリエ…突然呼び出してしまってすまないが、勇者の血を受け継ぐ君に頼みがある。」

 シュガトピア国王ベルナルド4世の口から出てくる、勇者クラフティと先代のマジパティ達の敗北後の事…勇者・クラフティの肉体が帰還して以降、スイーツ界にカオスが再び進行してきたのだ。15歳になったばかりの少女セーラにとって、正直荷が重い依頼だ。父親から剣技けんぎは教わっていたので、剣と運動神経の良さには自信がある。だが…

「その頼み…私には荷が重すぎます…それにいくら私が勇者の娘だからって、勇者としての力に目覚めていない…早すぎです!!!」


「だが、もうカオスはこの世界をむしばんでいる…もう…時間がないんだ。これは君でしかできない事なんだよ…わかってくれるね?勇者ガレットの娘・セーラよ…」


 その日から彼女は「少女セーラ」ではなく、「勇者シュトーレン」としての生活を余儀なくされた。弟と妹は置いていかざるを得なくなったが、諸侯しょこうたちからの計らいで旅にはトルテとアンニンが一緒になった。旅をしている間に勇者としての力に目覚め、ムッシュ・エクレールと出会った。生まれた時から、勝ち気で腕っぷしが強かったワケじゃない。幼馴染おさななじみ…そして、その時から淡い恋心を抱いてきた相手と一緒にいたからこそ、彼女は強くなれた…


「アタシの事…「勇者」としてじゃなく…「セーラ」として見てほしかった…本当の…」

 肩を震わせながらこぼれる女勇者の本音を、トルテは優しいキスで塞いだ。

「姉御…望まぬまま勇者として目覚めたのは、姉御には荷が重すぎたかもしれないっス…でも、勇者として目覚めたからこそ、姉御は一悟達と出会えた…悲しい事ばかりじゃなかったハズっス…勇者としての立場があっても、これからは俺っちが「セーラ」としての姉御を受け止める…それじゃ、ダメっすか?」

 シュトーレンは首を横に振る。泣きたい日も…寂しい日も…他の人の前では強がっていても、トルテの前では本来の泣き虫に戻りたくなる。それこそ、「勇者シュトーレン」から「セーラ」としての自分に戻りたい瞬間なのである。



「何があったか来てみれば…やる時くらい、部屋に鍵…かけときなさいよ?いつ父親が帰宅するのか分からないんだから…」


 突然アンニンの声がして、部屋の入口の方へ目を向けると、そこには1人の僧侶が呆れた表情で立っていた。

「聞いて…たの?」

「ホテルでバイトしていた辺りからね?ホント…幼馴染としては、ライオンにセーラを取られるのは悔しいけどさ…でも、セーラがライオンといる事で幸せになれるなら、私は何も言わない。それは、あなたに重い責任を負わせた男も同じよ!」

「えっ…」

 僧侶の口から出た父親の事に、シュトーレンは耳を疑った。


「セーラ…あなたの父親はね…あなたの未来が見えるのよ!!!あなたが生まれた日からずっと…だから、あなたに対して過保護なのよ。」


 僧侶の話を聞いた2人は着替えを済ませ、2階のリビングへと降りる。そこにはアンニンとガレットの他に、みるく、ラテ、ココア、グラッセ、ボネ、ネロも一緒だ。

「一悟と雪斗は?」

「いっくんは修学旅行しゅうがくりょこう実行委員会の集まりで、ユキくんは生徒会に…」

「2人にはあとで私が話しておくわ。それで、大勇者様!勇者クラフティと先代のマジパティ達が負けた経緯は?」

 僧侶アンニンの言葉に、大勇者は重い口を開く。


「先代のマジパティ達のうち、ミルフィーユ、ソルベ、プディングの3人は、ニコラス…勇者クラフティに恋愛感情を持っていたんだ。そのうちの1人は…クラフティと一線を越えていた。…それを当時のカオスは目を付け、彼らに襲い掛かった…それが、敗北に至った理由だ。」


 衝撃の言葉に、みるく達は息をのむ。

「勇者クラフティに恋愛感情を持っていたってことは…3人は勇者クラフティを取り合っていたライバル関係って…こと?」

「そう言うことになるわね…それに、勇者クラフティは元々勇者としての心が弱かったって、エレナさんから聞いたことがあるわ。」

「ご名答…心の弱い勇者と、その勇者を取り合うマジパティ…心を一つにするどころか…」

「3人が干渉かんしょうし合う者同士なら、心はバラバラ…確かに、カオスがその弱みに付け込むのは納得がいきますね。」

 ガレットの話に、ネロはカオスが目を付けた理由に納得をする。


 また、ガレットはマジパティ達のパティブレードについても説明する。パティブレードはマジパティ達の心が一つである事、そして、勇者の心が強い事が条件となっており、心の弱い勇者の前には出ない。それはまさしく、先代マジパティ達の心がバラバラであったこと、勇者クラフティの心が弱かった事の2つが重なり、パティブレードが出なかったのである。


「それじゃあ…恋愛禁止って…おにぃがカオスに負けたから?」

「それもある。お前までもがカオスに奪われるのがイヤだったから…そもそもセーラが勇者になる事自体、全力で阻止したかったし…1人の女の子として、幸せになってほしかったのに…」

 娘の質問に、大勇者は体育座りをしながらそっぽを向いて答える。やはり、父親として照れ臭くなるようだ。

「でも、「恋愛禁止」はやりすぎだと思いますがね?カオスに奪われるのが嫌なのに、あなたは娘から笑顔を奪った…幸せになってほしいなら、なぜそんなことをなさるんですか?」

「そもそも…勇者になる前からトルテの事が好きだった勇者様が、いっくんやユキくんに恋愛感情を抱くとは思えません!!!」

「みるみると同じー!異性に免疫めんえきのない中学生と、顔がいいだけのメンヘラ坊と娘ちゃんが釣り合うワケないっしょ!!!ナイナイナイ…」

 ネロの言葉に、みるくとボネが賛同する。

「そもそも、娘さんとトルテくんの場合、禁止したら禁止したで、カオスがしゃしゃり出て来て危ないと思います!!!」

「それもそうね…最も、一番気を付けるべきなのが…「当時、パリのホテルでバイト中だったセーラにボンボンショコラ与えて酔わせた上、自身のVIPビップルームに連れ込んでベッドに寝かせたら、これまた酩酊めいてい状態のトルテが上がり込んで、そのままトルテがセーラと一夜の関係築いたのを目撃しつつ、彼が帰った後にセーラに向かって「ご馳走ちそう様」言って、そのまま関係を要求し続けてくるイタリア人の捜査官」1人くらいしかいないけどね?」

 淡々とした表情で生々しい話をする僧侶に、全員がドン引きする。そして、ふてくされる大勇者のポケットから1枚の紙きれを取り出し…


「それに…市役所でこういうものをもらって来ておきながら、恋愛禁止とか矛盾してません?」


 アンニンが取り出したものは、瀬戌せいぬ市の婚姻こんいん届だった。そして、ガレットが抱えている包みをチラ見する。

「結婚情報誌まで…娘や一悟達に言った事と、自分がやっている事…辻褄が合わないんですけど!!!」

「そもそも、恋愛禁止ってどこまでがボーダーラインなのかハッキリしてないです。そこがハッキリしていない限り、恋愛禁止は納得いきません!!!」

「それに勇者クラフティの敗北は、勇者とマジパティが恋愛関係に発展したことで起きた悲劇…それが発生しない限りは、2人なら大丈夫かと思います。」

「親父…ホントにアタシの幸せを願っているのなら、答えて!!!本当はどうしたいのか…」

 娘達ににじり寄られる大勇者は、とうとう観念したのか…


「本当は調査が終わったら、トルテを結婚相手として紹介したかったのー!!!でも…悔しいんだもん…調査が終わって戻って来たら、セーラは既に勇者になってたし…消息不明だったし…やっと再会したら、距離取られてるし…挙句の果てには、しれっとトルテの事が好きだってバラすし…面白くねぇ…」


 まるで小学生に戻ったかのような言い回しで白状する父親の姿に、シュトーレンは後ろめたい気持ちになる。そんな親子を見かねた僧侶は、リビングに勇者親子とトルテを残し、住居スペースから出てしまった。

「8年近くも家族ほったらかしして、今更父親ヅラされるのがイヤなのはわかってる…それでも、何度も何度も俺が魔界からスイーツ界に…いや、セーラが生まれた日の事が甦って…」

「親父…アタシは、親父がアタシを見つけてくれて、ホントは嬉しかった…でも今、親父の目の前にいるのは15歳のセーラじゃない…23の女だよ…」

「それでも…いくつになっても…お前は…セーラは…俺とセレーネの娘なんだよ。例え重荷だって思われようが、嫌われようが…」

「でも…アタシはトルテがいないとダメなの!!!他の人の前では強がっていられても…トルテの前では、どうしても本当の自分を出したくなるの…ずっと出さないようにしていたけど、もう我慢の限界っ!!!」

 父親の言葉を遮るかのように、シュトーレンは自身の好きな相手を告白する。

「アタシ…もう「勇者」って身分を盾に、自分の気持ちに嘘なんてつきたくないの!!!自分の気持ちに嘘を重ねて、一悟達に迷惑かけるなんてしたくないっ!!!!!」

「おやっさん…俺っちからもお願いします!アンニン姉さん並みの力も金も知識もはないっスけど、それでも姉御には「セーラ」としての自分を受け入れる存在が必要なんです!!!」

 シュトーレンの言葉に続いて、今度はガレットの前でトルテが土下座をする。


「ホント…セーラってば、そういう意地っ張りな所がセレーネそっくり!!でも…考えてみれば、俺もセレーネが支えてくれたおかげで、何度も救われたんだよな…」


 大勇者は2人の言動に呆れながらも、とうとう観念したようだ。

「2人のことは認めるけど、あくまで「セーラ」として結婚を前提に付き合うこと!それからセーラ…父親としても、先輩勇者としても…昨日と今朝の態度は流石に腹がたったからな?突然男の姿で俺に殴りかかったり、俺が用意した食事食べないで、トルテが作った食事食べたり…」

「親父も親父で、娘に卑猥ひわいな言葉ぶつけんじゃねぇっ!!!!!(男声)」

 トルテは再びケンカに発展しようとする2人を宥めるが、やっと2人が本音をさらけ出した事で、安心したようだ。




 一方、一悟と雪斗は中間テストの話をしながらカフェ「ルーヴル」に向かっている。

「最悪だ…勇者様と大勇者様のケンカが心配で…数学の解答欄、途中から…ズレた…」

「いちごんの方はまだ可愛いものさ。僕なんか、英語の時にユキが…」

「お前はユキに頼らないで、英語のテストを受けろよ…」

 一悟の言葉に、ユキが「そうだ、そうだ!」と罵ったのは言うまでもない。

「やだー…単語覚えるのめんどいー…ムッシュ・エクレールの教え方とは基本的に合わないのー!!!」

「どんだけ仲悪いんだよ…お前ら…あれっ…」

 雪斗の言い分に呆れる一悟は、僧侶たちがステップワゴンに乗る様子を目の当たりにする。


「あら…やっと来たのね。お疲れ様…ってなワケで、買い物に行きましょ。乗りなさい。」


 なりゆきで一悟と雪斗はアンニンの運転するミニバンに乗る事となった。ミニバンには既にみるく、グラッセ、ボネ、ネロの4人が乗っている。

「修学旅行の買い物もあるし、特に2人は夏用の私服も追加しておかないとね。」

 僧侶の言葉に、一悟と雪斗はブレイブレットで女の子の姿に変身する。そして、アンニンから「恋愛禁止」命令に至った経緯、そして途中で変身が解かれた事を聞かされる。先代のミルフィーユ達が勇者クラフティと恋愛関係にあった事については、一悟も少々引っかかるところがあるようだ。


「そう言えば、あすちゃん…「ニコラス」って男と付き合ってたんだよな…」


 木苺ヶ丘から車で15分ほど走り、大きなショッピングモール・アリアモール新居須にいすへとたどり着く。ここは新居須市ではあるが、市の境目が近いこともあり、瀬戌市民が買い物に来ることも多い。実を言うと、アンニンが看護学校時代によく買い物をしていた場所で、尚且つシュトーレンと再会した場所でもある。


「おぉー…これなら、痣もめだたなーい♪」

「こーゆーカッコも、悪くねーな♪」

 ユキは白と水色を基調とした、シャーリング多めのトップスに、デニムのミニスカートと白のレギンスに足元は白いミュールと、一悟は赤いバルーンタイプのオフショルダーのトップスに、白いレギンスと赤いスニーカーにそれぞれ着替え、ブレイブレットに記憶させる。みるく達も夏の装いに着替え、アンニン引率の下、買い物を続ける。


 そして、下着屋にみるく達が入った途端…

「俺、待機~。」

「おう、ちこう寄れ…」

「男に近い恰好をしている私が入って、一悟が入らないとは何事だ!来いっ!!!」

 一悟はボネと待機しようとするが、ネロによって強制的に下着を選ぶハメになったのだった。

「うぅ~…やっぱり、Fカップのブラ高い~…」

「かと言って、わざとカップ数下げるんじゃないわよ?発育の妨げになるんだから…」

 養護教諭の説得力はそれ以上の高さだ。

「ユキちゃんは、ブラ…キツくないの?」

 試着室にいるユキに、みるくが声をかける。

「全然…マカロンお姉ちゃんが図り方も付け方も叩き込んでくれたから。おっ、ジャストサイズ♪」

 ユキがそう言うと、1分ほどの間の後で、試着室のカーテンが開き、ユキが黒地にパステルブルーの水玉模様とフリルが付いたブラを持って出てくる。恐らく、雪斗のお小遣いで買うと思われる。

「コレにしよ♪」

 そんなみるく、ユキ、グラッセ、アンニンのやり取りに、もはや部外者と化してしまったのが約2名…一悟とネロだ。


「あんな大きなモノなど、弦が当たって痛いだけだぞ…まぁ、ソルベアローは光の弦だから、痛みはないが…」

 ネロは一悟の隣で、ユキの胸を見ながらつぶやく。

「同じこと言ってた奴、いる…ライスって言うんだけどな…」

「一悟…あとでそのライスとやらを紹介してくれないか?」

「あぁ…あいつの家の事が落ち着いたら紹介するよ。」

 このところ、ライスこと、高萩たかはぎあずきは人間界に於いての大伯父が亡くなり、葬儀やら、彼が運営していた仕事の引継ぎについてやら…で、人間界に於いての両親の代理として進めており、最近学校に来ても、挨拶を交わすだけとなってしまった。


「因みに、下着は布の面積が極端に小さくなければ、色の指定はないって僧侶様が上手く他の先生達に言いくるめたらしいぜ♪」


 一通りの買い物を済ませ、一悟達はシュトーレン達との合流のため、隣接するアミューズメント施設「ラウンドアン」へとやってきた。この施設にはゲーム、ダーツ、ボウリング、カラオケなどが備わっており、一悟も新居須駅から出てくるシャトルバスを使って、リズムゲームをやりにくる事もある。

「あー、あのぬいぐるみ可愛い~♪」

「おぉ…シューティングゲームか…面白そうだな。」

「メダルゲームか…悪くない…」

「僧侶さま…こんなところで、時間つぶし…」

「ただ時間を潰すだけだと思った?におうのよ!禍々しい混沌のニオイが…」

 僧侶の言葉に、一悟達は驚きを隠せない。僧侶は無言でオンラインゲームが集中するエリアへと歩き、とあるオンラインクイズゲームの筐体の前で立ち止まる。


「ここが一番ニオイが強い…つまりカオスイーツにされたのは、この人で間違いないわ!!その証拠に…」


 アンニンは筐体に映る怪物を指さす。そこにはクグロフと、マシュマロのカオスイーツの姿がある。筐体の椅子に腰かけている男性は、まるで抜け殻の様に倒れている。恐らく、カオスイーツ化の時に肉体以外を筐体の中へと持っていかれたのだろう。

「でも…ゲームの中でどうやって…」

 そう言いながら空席の筐体のモニターに触れる一悟だが…

「いっくん!!!手が…」

 一悟の右手が筐体の中へと入りこんでしまったのである。

「ぬ…抜けねぇ…」

 必死に手を引っこ抜こうとする一悟だが、まるで吸い寄せられるかのように身体ごと筐体の中に入り込む。一悟を支えようとするみるくも、ユキも、一悟の隣、さらにその隣へと、まるでクグロフに指名されたかのように吸い込まれてしまう。

「み…みんな…」

「私達も助けたいが、筐体に入れない…どうして…」


 一悟達が気が付くと、そこは見慣れぬ景色…恐らく、ゲームの世界へ入り込んでしまったのだろう。そして、目の前にはクグロフとマシュマロのカオスイーツ…

「みるく、ユキ!行くぜ!!!」

 一悟の言葉に、みるくとユキがブレイブスプーンを構える。



「「「マジパティ・スイート・トランスフォーム!!!!!」」」


 筐体の画面には、一悟達のちびキャラの変身シーンが映像化される。

「いっちー達が変身しやがった…俺達、どうすりゃ…」

「決まってるじゃない!一悟達を操作してアシストするのよ!!!プディングは私がアシストするわ。」

 そう言いながら、僧侶様はみるくが入り込んだ筐体に腰かける。

「それなら、私はソルベをアシストしよう。」

「ボネ、私達はミルフィーユを…」

 全員配置につき、筐体の椅子に腰かける。

「僧侶様…このゲームって…」

「看護学生の頃に、一時期やっていたの。階級が金属から宝石の色がついた矢先に、実習で忙しくなってからはそのままだけど…感覚は覚えてる。」

 その言葉に、グラッセ達は少し心配そうな顔をする。


「ピンクのマジパティ・ミルフィーユ!」

「黄色のマジパティ・プディング!」

「ブルーのマジパティ・ソルベ!」


「スイート…」

「「レボリューション!!!」」


「「「マジパティ!!!!!」」」



 最後は綺麗にハモった。

禍々まがまがしい混沌こんとんのスイーツ、勇者の力で木端微塵こっぱみじんにしてやるぜ☆」

「ゲームの世界にも入り込めたか…マジパティ!!!まさか、チャットスタンプやタイピングで他のプレイヤーをあおる事で有名なプレイヤーの負の感情がここまでとはな!!!この世界らしく、クイズゲームで勝負だ!!!」

「ミルフィーユ…このゲーム…」

「やってるけど、最寄りは台パン野郎がうるさくって、今はここに来るときしかやらねぇ…」

 一悟もプレイヤーではあるが、未経験者である2人よりは若干有利になるかどうかは、今後の展開次第だろう。

「まずは1問目だ…」


「次の種類を犬の種類か、猫の種類かグループ分けしなさい。」


 突然ミルフィーユ達の前に問題文が現れ、選択肢と分けるためのボックスAとBが現れる。

「ポメラニアン、シェパード、スフィンクス、マンチカン…」

「え、えーと…スフィンクスは…」

「犬の種類はボックスAに入れればいいのか…」

 段々と制限時間が迫って来る…

「答えはポメラニアンとシェパードが犬!スフィンクスとマンチカンは猫だ!」

「ミルフィーユと同じ答えです!!!」

「えぇっ!?答え入れたのに、確定してなーい!!!」


「ジリリリリ…」


 制限時間終了を告げるベルが響く。


「あーん…時間切れー!!!」

 ソルベも正しく答えてはいるが、「OK」ボタンで答えを確定させるのを忘れてしまったようだ。

「ミルフィーユとプディングには簡単すぎたか…では、2問目だ!」


「下北半島と津軽半島で、より西に位置するのは下北半島である」


 今度は問題文と共に〇と×のボタンが現れる。

「〇×か…これなら…答えは×だ!」

「下北半島は、太平洋側ですので×です。」

「え、えーと…マカロンお姉ちゃんが言うには、確か…×!!!」


 今度は正解を告げるチャイムが鳴り響いた。


「これもミルフィーユ達には簡単すぎたか…なら、今度は多数決で1つの答えを出してもらおう…」


「東京ビックサイトは有事の際、巨大ロボットに変形する」


「変形するワケないでしょ!!!×っ!!!」

「えっ…変形したらカッコよさそ…って、ミルフィーユ…真っ先に×押してやんの…」

「な、なん…だと…わからん時は、〇!〇だっ!!!」

 筐体前に座る者達も、中には不正解を出している者もいるが、あくまで多数決のため…


「これも簡単すぎたか…なら、少し問題の難易度を上げてみるか…」

 正解を告げるチャイムが響く中、クグロフは4問目を出題する。


「「いつも」という意味がある岩手いわて県の方言です」


 ミルフィーユ達の前に現れたのは、問題文と回転する六面体で、その六面体には文字が書かれている。見たことのない形式に、ミルフィーユ達は戸惑うが…

「か、身体が勝手に…答えを…」

 最初は「と」、次は「ろ」…プディングの指が一文字、一文字指さし、答えを作る。それと同時に、プディングの目の前に白い拡声器が現れ、制限時間を示すゲージが巻き戻る。

「こ、答えは「とろぺっつ」ですっ!!!」

 拡声器から響くプディングの声に、ミルフィーユとソルベは急いで答えを入力し、「OK」ボタンを押す。すると、正解を告げるチャイムが鳴り響く。

「よ、よくあんな問題解けたな…」

「わかんない…けど、「三人寄れば文殊の知恵もんじゅのちえ」!クイズに答えて、カオスイーツを浄化しましょう!!!」


 それもそのはず…

「私に岩手の方言の問題をぶつけるなんて、いい度胸ね?アイテム、使わせてもらったわ。」

「流石は僧侶様!!!」

「だからあなた達もしっかりアシストなさいっ!それから、ネロとボネは筐体を叩かないように。コレ…壊したら警察のお世話になるし、ケガもする。それに、壊したら一悟達は出てこられないのよ!!!」

 八つ当たりするなら自分に…5問目は将棋の問題が出題され、プディングとソルベが正解する。そして、クグロフは6問目として協力して答える形式を出題する。


「次のうち、特撮番組「ミラクルマン」シリーズに出演した俳優を1人ずつ答えなさい」


「最初に答えるのは、ミルフィーユからだ!」

 クグロフがそう言うと、プディングとソルベの選択肢に斜線が引かれ、2人は一時的に答えられなくなった。

「簡単だ…「高瀬一誠たかせいっせい」!!!」

 ミルフィーユが選択肢を選ぶと、今度は解答権がプディングに移る。

「自分の父親ですからね…「椎名元哉しいなもとや」!」

「最後はソルベだ!もう時間がないぞ?」

 最後の解答権がソルベに移り、ソルベは自信満々に「ミラクルマンダイナ」の俳優である「かめの剛士たけし」を選ぼうとするが…

「えっ…?」

 突然ソルベの右手が、その右隣りの選択肢を選んでしまったのだった。


「不正解!!!ソルベが選んだ「丁田健人ちょうだけんと」は、「御面おめんライダー」俳優さ!さぁ、カオスイーツ…思いっきり痛めつけな!!!!!」


 カオスイーツが両腕を上げた刹那、ミルフィーユ達の頭上に石の入った色とりどりのマシュマロが暴言を吐きながら降って来る。

「マナイター!」

「いってぇ~…てか、少しはあるわっ!!!まな板言うんじゃねぇ!!!!」

「デブー!」

「ぽっちゃりとふくよかならまだしも…「デブ」は言語道断ですっ!!!!!」

「ポンコツ!ソルベ、ポンコツ!」

「…うっさい、バーカ!!!」

 因みに、間違えてしまったのは、ネロの早とちりである。7問目は競馬の問題が出題されたが、流石の僧侶も競馬だけは無理だったようだ。

「大体…馬は乗りものでしょ?何でギャラリーがお金かけて競わせるの?」

 今度は全員が不正解となり、再びマシュマロが暴言を吐きながら、ミルフィーユ達の頭上に降って来る。


「うっさい、バーカ!!!」


 ミルフィーユ達にもわからない上に、僧侶様の管轄外である昭和歌謡、サッカー、韓流ドラマのクイズが出題され続ける中、シュトーレン、ガレット、トルテの3人が合流する。

杏子きょうこちゃん、大丈夫か?カオスイーツが現れたって…」

「丁度良かった…このフランス語の問題、解ける?」

 突然の僧侶の一言に、シュトーレンは狐につままれたような顔をするが…

「コレは「JOUR」ね。」

 そう言いながら、勇者は4文字の英字を入力する。ここでグラッセがルーペを使い、プディングとミルフィーユが正解する。

「5年もフランスにいたんだから、この程度なら朝飯前よ!」


「次のうち、邦画ほうがドラマを1人1つ選びなさい」


「また芸能…香水女クグロフ…私に恨みでもあるのか?」

「待ってください!邦画ドラマなら、俺っちCHUTAYAチュタヤのバイトで覚えたっス!!!」

 そう言いながら、トルテはソルベが入り込んだ筐体に正解の選択肢を示す。

「今、示した所を選択してくださいっス!」

 そして、全員が「OK」ボタンを押す。今度は正解のチャイムが鳴り響き、カオスイーツのダメージが可視化される。

「次は秋保あきう温泉のある県か…これは簡単♪宮城みやぎはここ♪」

「少女漫画なら、俺に任せなっ!!!」

 段々と筐体側でアシストする僧侶たちが解ける問題が出題されていくが…


「次のうち、読得よみうりヂャイアンツに所属していた外国人選手を全て選びなさい。」


「親父…確か、野球好きだよね?」

「野球は好きだけど、俺はカープしかわからないからヂャイアンツは無理ー!」

 全員が不正解をかまし、ミルフィーユ達の頭上にマシュマロがまた、暴言を吐きながら降ってきた。

「うっさい、バーーーーーカ!!!」

 ソルベだけならず、ミルフィーユもプディングも、降ってくるマシュマロに対してカンカンだ。

「おやおや…暴言ぼうげんに食って掛かるようじゃまだまだだねぇ…では、17問目だ。」

 今度はフランスの問題が出題され、シュトーレンが食って掛かるように3つの筐体に正解を打ち込む。

「花の都で修業していたアタシをナメないでちょうだい…」

 続いて幕末の問題が出題され、今度は時代劇にハマりつつあるグラッセが活躍し、次はトルテが過去のバイトの経験を生かした解答を導く。


「なかなかやるもんだね…だが、これで最後だ…」


「次の言葉を順に並べて、ジャイアントパンダの学名にしなさい」


「僧侶様、お願いします!!!」

「やっときた理系問だけど、パンダなんて管轄外よ!!!しかも、初めて見る問題だもの!!!!!」

「ライオンの学名なら自信満々で言えるのに…」

「これは…詰んだっス…」

白浜しらはまは温泉とパンダが有名だけど、温泉に浸かっただけだしぃ~」

 筐体前でそんな騒ぎが勃発する中、突然ソルベのルーペ以外のアイテムが全部開かれ、本人の意思に反して一つの言葉を作り上げる。そして言葉が完成したと同時に、ソルベは白い拡声器で答えを叫ぶ。


「アイルロポダメラノレウカっ!!!!!」


 ソルベの言葉にミルフィーユとプディングは急いで解答する。


「くっ…このパターンは…」

 正解のチャイムと共に、ミルフィーユ達の力があふれ出す。

「コレで決めるぜ!!!!!」

 ミルフィーユが叫ぶと、3人はそれぞれの武器を出し、重ね合わせる。


「「「3つの心を1つに合わせて…」」」


 3人がそう叫んだ瞬間、3人の武器は光の粒子となり、それぞれのカラーに合わせた細身の剣・パティブレードに変わった。今回は成功したようだ。


「勇者の力を1つの剣に!!!ミルフィーユブレード!!!」

「勇者の愛を1つの剣に!!!プディングブレード!!!」

「勇者の知性を1つの剣に!!!ソルベブレード!!!」


 3人はそれぞれのパティブレードを構え、ピンク、黄色、水色の光をまといつつ、カオスイーツに飛び掛かる。


「「「マジパティ・トリニティ・ピュニシオン!!!!!」」」


 カオスイーツはピンクの光を纏ったミルフィーユにミルフィーユブレードで縦に斬られ、続いて黄色の光を纏ったプディングにプディングブレードで横に斬られる。そして、最後に水色の光を纏ったソルベによってソルベブレードで斬られた。

「「「アデュー♪」」」

 3人が同時にウインクすると、カオスイーツは光の粒子となり、魂は元の持ち主へ帰っていくが、その反動でゲームの世界が崩壊を始めてしまう。

「やはり、カオスイーツを浄化したことで、ゲーム自体に相当な負荷がかかったみたいね?このゲームの基盤自体、サポート終了済みの基盤だから…」

「マジっすか!?」

「エクレールのパソコンですら10なのに!?」

 崩れ行くミルフィーユ達の足場を目の当たりにしたガレットは、無言で魔眼を放ち、ミルフィーユ達のゲームの世界から引きずり出す。




 一方、その頃…

「さぁ、頑張れ…私を楽しませてくれ…ディオサマブラック!!!貴様の活躍が、私の中間テストの採点作業を捗らせるのだぁぁぁぁっ!!!!!

 下妻先生はアパートの部屋で、最近ハマった競馬の放送を聞きながら、中間テストの採点をしていた。ご丁寧にも、左手には馬券が握りしめられている。

「ゴーーーーーーーーーーーール!!!2番のディオサマブラックと6番のシシノダイヤモンドが同時にゴールインいたしました!!!さぁ、写真判定の結果は…」

 写真判定の結果、下妻先生の購入した馬券は、瞬く間に紙切れと化した。




 ゲームの世界から戻って来たミルフィーユ達は、ギャラリーの目をかいくぐり、その場を離れる。そして、カオスイーツになっていたプレイヤーが座る筐体から白い煙が噴き出てきたのだった。

「それにしても、最後の問題…どうして僕の身体が勝手に動いたんだろう…雪斗ですらわからなかった奴なのに…」

 最終問題を不思議がるユキの言葉に、ネロが自分を指さす。

「あら…あなただったのね…」

「絶滅危惧種には、少し詳しいんだ。それにしても、あんなに難しい問題がうじゃうじゃ湧いているとは…クイズ、実に奥深い…」

 一悟達は再びショッピングモールへ戻り、今度はレストラン街へと入る。そして、ある焼肉バイキング店に到着すると、僧侶は店員に声をかける。


「10名で予約していた仁賀保ですけど…」

 店員はすぐさま席へと案内し、店内のシステムについて説明をする。

「今日は「聖奈」の祝いの席よ!!!だから、私のおごり!しっかり食べなさいね?」

「そ、それって…つまり…」

「トルテ相手なら…いいって…元々…トルテと結婚させるつもりだったみたいで…」

 顔全体を真っ赤に染めながら、シュトーレンは答える。本人もトルテもよっぽど嬉しいようだ。

「だから、一悟も雪斗も…セーラには手を出すんじゃないぞ!!!まぁ…「セーラ」として、結婚前提って条件付きだけどさ。」

「そう…みんなもじゃんじゃん祝いなさい!!!」

「…って、自分が盛大に祝いたいだけじゃないっスかーーーーーーーーーーーー!!!!」

「言えてるー!「杏子」って、昔からそうだもの…」

 その言葉を聞いて、一悟は安堵の表情を浮かべる。やはり、勇者様は太陽のように笑う姿が彼女らしい…と、思ったからだ。

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