第13話「逃がした獅子は大きい…マジパティ変身不能!!!」

瀬戌せいぬ市で次々と女性が消えていく騒ぎがあった2日後、3人の高校生が横に並んで話をしながら歩いている。真ん中にはラズベリー色のロングヘアに白いウサミミのようなリボンが特徴的な少女、彼女の左側には中世的な雰囲気をした男子制服姿の人物…骨格からして女性であることが伺える。そして、ウサミミリボンの少女の右側には茶髪の少年が並ぶ。

「この間の事件、やっぱりカオスイーツだったんだね。」

「それにしても…このよろいの男、確かに媒体ばいたい自体がいかにも極悪人ごくあくにんである面構えだ…誰かさんみたいに…」

「オイ…今、誰を見て言った?ケンカ…売ってんのか?」

 男装の少女の言葉に、茶髪の少年はトラ柄の猫耳を出しながら少女を睨みつける。

「2人とも…こんなところでケンカはダメ!でも…カオスイーツはどうして女の人を次々と消していったんだろう…」

 リボンの少女はケンカに発展する2人を宥めつつ、先日の事件を考察する。

「おそらく、恋愛感情…だろうな。カオスイーツにされたの、女の人だったんだろ?自分以外の女が消えれば、相手はもう2度と浮気しないだろう…とか、そのあたり…」

「フッ…その事件で消されたお前にしては、随分ずいぶんと勘が冴えているな。性別という概念がいねんのない私達とはいえ、女としてお前だけが消されるとは、なかなかの傑作だったぞ!!!」

「お~ま~え~なぁ~…」

「たつきちゃんっ!いちいち虎太郎こたろうあおらないの!!!」


 男装の少女はたつき、茶髪の少年は虎太郎と言うようだ。そんな3人の後ろを、3人の中学生が歩く。一悟いちご達である。一悟達はなぜか雪斗ゆきとの母の元交際相手の話をしている。


「そういや、雪斗の母ちゃんのお金だまし取ったほしって奴…じゅくのお金を横領おうりょうした罪で、熊代美由紀くましろみゆきって女と一緒に昨日、捕まったって。」

「やっぱり、二股かけていたのか…母様をコケにしやがって…いい気味だ!!!熊代ってアバズレ共々、2度と母様に近づくな…」

 雪斗の母のお金をだまし取った星昼夫ほしひるおは、かねてから勤めていた学習塾の経費を横領し、それを交際相手の熊代美由紀に手渡していたとして、昨日の夕方、埼玉県警によって逮捕されたのだった。それを聞いた雪斗は、思い出したかのように星と熊代に対して憤慨ふんがいする。

「まぁまぁ…でも、家族がカオスイーツにされている事が続くと…ブラックビターもあたし達を狙っているって事…ともとれるよね?」

 みるくの言う通り、みるくの兄の我夢がむ、雪斗の母の冷華れいかが立て続けにカオスイーツ化された。また、ユキがカオスソルベだった頃には、雪斗の弟の冷斗れいともカオスイーツ化された上、雪斗の妹のみかんも人質となった。

「その流れだと…今度は…」

 雪斗がそう言うと、彼はみるくと共にある人物を指さす。

「何で2人して俺を指さすワケ?」

「特に…最近、ちかちゃんの様子がおかしいから…」

「はぁ?姉ちゃんいつもと様子変わらないだろ?まぁ…ゴールデンウィーク中に下妻しもつま先生の事聞いて、玉砕して、俺に八つ当たり…」

「それだ!!!」

 一悟のセリフを遮るかのように、雪斗が叫ぶ。


「いちごん…いちごんのお姉ちゃんは、絶対に恋してる!!!僕の目に狂いはないっ!!!!!」


 雪斗の言葉に、一悟は目を皿のように丸くする。




 サン・ジェルマン学園高等部は中等部と同じ高台だが中等部より少し高い場所に位置する。緩やかなカーブの途中で中等部正門と分岐し、そこから道なりに高台を上った先こそが、高等部の正門だ。中等部と高等部の校舎自体は繋がっていないものの、校舎外の石段とスロープが連絡通路となっており、自由に行き来ができるようになっている。そして、その石段の途中にあるのが学生食堂だ。


「おはよ、イナバ。」

 高等部の昇降口で、リボンの少女が一悟の姉の一華いちかに声を掛けられる。この少女は先日、高等部2年に編入してきた「倉吉イナバくらよしいなば」という少女で、先ほどまで一緒だった「根小屋虎太郎ねこやこたろう」と「根室ねむろたつき」とは幼馴染で一緒に暮らしている仲として通している。

「おはよ、一華ちゃん。今日も学園食堂に行くの?」

「勿論!何たって、首藤しゅとうさんの手作りカレーが食べられるチャンスだし!!!」

 イナバの目の前で、一華は目をキラキラさせながらそう叫ぶ。実は一華も、弟と同等のカレー好きである。特にここ最近はカレーを作っているのが見た目30代くらいの男性なので、最近の一華はその相手目当てに母からの手作り弁当を断るようになっていた。


「首藤さん…ああ見えて、23歳の娘がいるんだけどなぁ…」


 やはり、雪斗の読みは間違ってはいなかった。しかし、イナバの言葉に関しては、今は内緒にしておこう。


 一限目の体育が終わり、イナバ達は更衣室で体操服から制服に着替える。中等部とは違い、高等部は体育教師が2名しかおらず、学年ごとに合同となっている。先月は中等部で体育教師による不祥事が絡んで、体育の時間が1週間に1コマ自習になってしまうという事態が発生していた。

流石さすがでしたわ。たつき様…」

「華麗なサーブ…素敵でした!!!」

 女子生徒達に囲まれるたつきを見て、イナバは少し面白くない顔をする。彼女がちやほやされているお陰で、虎太郎と一緒にいる時間が増えているのは確かだが、どうにも納得がいかない。

「まぁ…ウチの学校って、女子は大抵ミーハーだからなぁ…あたし、書道室の鍵当番だから、先行ってるよ!」

「う…うん…」

 一華は真っ先に次の選択芸術の授業の準備に向かってしまった。たつきを囲む女子達は相変わらず、着替えが終わってもたつきを立てるばかりで、動こうとはしない。それどころか…


「ドンッ…」


 たつきに褒められて興奮した女子生徒がイナバを突き飛ばし、イナバは更衣室の隅へ追いやられてしまい、白いウサギの姿になってしまった。そして、女子生徒達はたつきを囲んだまま、更衣室を出て…


「ガチャン…」


 まだイナバがいる事にすら気づかず、更衣室を施錠してしまったのだった。

「あう~…」

 そして、再び人間の姿へ変えて、更衣室の窓を開ける…

「よーし、脱出だ。」

 イナバは窓の下枠に飛び乗り、周囲に白樺しらかばの木を見つける。壁を少し走って勢いをつければ枝に飛び移れそうだと判断した彼女は、そのまま校舎の壁を走る。

「ほっ…ほっ…」

 学校では目立たぬようにはしているが、魔兎まと族は脚力きゃくりょくとジャンプ力にたける。その能力は、オリンピックの陸上競技の選手にも引けを取らない。だが…


「バキッ…」


 白樺の木の枝がイナバの体重に耐え切れず、枝が折れてしまった。

「ぴえっ…」

 イナバは元々ドジっ子で、事あるごとにドジを踏む事が多い。そして、運の悪いことにスカートを3本の枝に引っ掛けてしまい、イナバは宙づりとなってしまった。

「これじゃ、魔界にいた頃と変わんなーい!!!」

 彼女の嘆きも虚しく、2限目を告げるチャイムが鳴り響く。


 その時、1人の中等部の学生がジャージ姿で白樺の木々の間を歩いてくる…一悟だ。美術の授業でスケッチに来たらしく、スケッチブックと筆記用具を抱えている。そんな一悟は、宙づりとなっている高等部の女子学生の姿を見て、驚きを隠せない。そして…


「ぶぼっ…」


 勇者とソルベの裸には慣れても、相変わらず、女性に免疫がない一悟であった。

「ぴゃっ…み、見ないでぇ~…」

 そう言いながら、イナバはスカートの前の部分を押さえようとするが…

「あ…」

 イナバがスカートを押さえながらじたばたし始めたと同時に、3本の枝が大きくたわみ…


「バリッ!!!!!」


 布地が引き裂かれる音と同時に、女子高生が一悟に騎乗するかのように落下する。

「ごふっ…」

「ご、ごめんなさい…更衣室に閉じ込められちゃって…」

 そう言いながら、イナバはブレザーからハンカチを取り出し、一悟の鼻血をぬぐう。

「いや…まさか高校生が木に引っかかってるなんて…」

 その時、一悟はイナバのスカートが破れている事に気づき、ジャージの上着を脱ぎ始め、そのまま上着をイナバに押し付ける。

「み…見えてませんからっ!!!ピンクの縞々なんて…見てませんからっ!!!!!」

 そう言いながら、一悟はスケッチブックと筆記用具を持ち、その場を離れてしまった。


「もーーーーーーっ!!!それって、見たってことじゃないのーーーーーーーーーっ!!!!!」


 そう言いながら、イナバは破れたスカートから下着が見えないように一悟のジャージでお尻を覆う。




 昼休みになり、イナバと虎太郎は学園食堂のテーブルで向かい合うように座っている。そして、イナバの隣には一華が座る。イナバの機嫌はとても悪い。

「ぷっ…はははっ…災難だったな?イナバ…」

「笑わないでよ…虎太郎…」

「ホント、ウチの弟がゴメンね…あのバカ、あとでシメとくから…」

「まさか、見たのが一華ちゃんの弟とは思わなかったし…虎太郎、スカート代立て替えといてね?」

「はぁっ?何で俺!?」

「虎太郎の教科書代立て替えたの、たつきちゃんじゃなくって、私なのーっ!!!」

 ただでさえ機嫌の悪いイナバの機嫌が、さらに悪くなった。


 一方、その渦中の人物は偶然にも生徒会長の隣に座ることになった。

「おいーっす、いちごん!幼な妻おさなづまちゃんとゆっきーはどうした?顔に紅葉もみじついてるけど…」

「昼飯の弁当…取り上げられた…俺の弁当だった奴は、今頃…雪斗の胃袋の…中…」

「おーおー…何ともおいたわしい…このおタマさんが、から揚げを分けて差し上げよう…」

 そう言いながら、玉菜たまなは一悟のカレー皿にから揚げを全部乗っける。

「んで…どうしてそうなった?理由ワケ…話してみそ。」

 何でか自分に優しい生徒会長に、2限目の時の事を話した。美術のスケッチで白樺の並木をスケッチしようとしたら、たまたまそこに高等部の女子生徒が木に引っかかって宙づりの状態になっているのをみた途端、一悟の真上に落下。一悟は彼女の下敷きとなってしまったのである。

「んで、白樺やめようと石段の所に戻ったら、雪斗がその様子スケッチしやがって…それを見たみるくにぶっ叩かれて、罰として飯抜き…理由りゆうも聞き入れてくれねぇ…」

 泣きながら話す一悟の話を、生徒会長は笑わず、真剣に聞く。そして、思いついたかのように決断する。


「よし!今日はいちごん、一緒にカフェ「ルーヴル」に行こう!!!アレは持ってるんでしょ?だったら、話は早い!いちごんに「だけ」話したいことあるのよ!!!」


 あまりの唐突な生徒会長の言葉に、一悟は思わず持っているカレーのスプーンを皿の上に落してしまった。




「キーーーーーーンコーーーーーーーンカーーーーーーーーーンコーーーーーーン」


 放課後を告げるチャイムが鳴る。中等部はもうすぐ中間テストを控えているため、部活は大会の近い部活は短縮、それ以外は放課後の活動は休みとなっている。そんな2年A組の教室に、ハチミツ色のポニーテールの少女がやってくる…玉菜だ。

「おっつー、いちごん♪」

「お…お疲れ様です…」

 玉菜は一悟の教室をのぞき込み、周囲を見渡す。どうやら教室にみるくと雪斗はいないようだ。

「それじゃ、聖奈せいなの家にれっつごー♪」

 ラテをカバンに入れた状態の一悟の背中を押しながら、玉菜は一目散に下校してしまった。そして、その様子を目の当たりにした雪斗は急いで保健室へ向かう。

「コラ、氷見!廊下ろうかを走るな!!!」


「ガラッ…」


「し、ししししし…失礼ひまふっ!!!」

 雪斗が勢いよく開けたのは、保健室のドアだった。保健室にはみるくがいる。

「あら…そんなに慌ててどうしたのかしら?」

「た…たたた…タマ…タマねぇが…」

「はいはい…3丁目の三毛猫みけねこが学校に来ちゃったのね…」




「ガチャッ…」


「安心して。既に聖奈には連絡してるから。」

 住居スペースの玄関の鍵を開けた一悟は、どうにも生徒会長の言動が怪しく感じるようだ。

「それに、精霊さんもいるんでしょ?出てきなよ…」

 そういいながら、玉菜は一悟のカバンのファスナーを開ける。そこから出てきたのは…

「わ…私の事にも気づいていたってワケですね…」

「そゆこと♪」

 ラテは一悟のカバンの中で目を回していたのだった。玄関にあがり、2階にあるリビングへと向かう。そこにいたのは、ガレットとココアだ。

「いらっしゃーい!セーラも暫くしたら、着替え済ませて下りて来るよ。」

「おっ…それじゃ、その時にフランスの時の事を話そうかな。」

 そう言いながら、玉菜は一悟をテーブルの前に座らせ、自分はガレットの隣に座る。ココアは玉菜の登場に興奮するが、恋人であるラテにプロレス技をかけられた。


「いちごん…この際だからハッキリ言うわ。頭脳戦、向いてないでしょ?ただ単に、カオスイーツにパンチやキックかませばいいってもんじゃないの。あなた、プディングの能力に頼りすぎてるのよ。」


「えっ…」

 玉菜は、まるで一悟がミルフィーユである事を知っているかのように話始めた。

「確かに、昔の俺や俺のプディングと似てる戦い方だもんねー…この間なんて、ティラミス…だっけ?彼女がいなけりゃどうなっていたか…」

「その話し方をされてるって事は…玉菜…あなたは…」

「察しがいいのね…ラテ。そうよ…私が白銀はくぎんのマジパティ・クリームパフ…」

 そう言いながら、玉菜はブレイブスプーンを一悟達に見せる。ハート型の宝石には紫色の宝石が輝いている。

「それなら…サントノーレは…」

「アレは変装。ちょっとワケありでね…まぁ、シュトーレンが来たら話すけど。」


「ドタドタドタ…」


 シュトーレンが階段を駆け下りる音がして、やがてリビングのドアが開く。そこにはメイド服姿のシュトーレンが立っている。

親父おやじ、あとは厨房ちゅうぼう任せたからね。」

「それじゃ、もうひと踏ん張りいきますか。」

 ガレットは立ち上がり、カフェの方へと向かう。そんなシュトーレンを見て、玉菜は嬉しそうだ。

「お父さんがカフェ手伝うようになって、少しは助かったんじゃない?」

「それもあるけど…とにかくやりたい放題が玉にキズなのよねー…でも、一悟にだけ話していいの?」

「いいの♪だって、いちごんはミルフィーユの時もだけど、反応が見ていて面白おもしろいのよねー♪すぐ鼻血出しちゃうとことか♪」

 そう微笑む玉菜の言葉に、シュトーレンは大いに納得する。「可愛い」とか「子供みたい」等には言われ慣れている一悟ではあるが、「面白い」と言われたのは初めてで、少しばかり照れ臭く感じた。


「ここからは真面目に聞いて欲しいの。私は、ゆっきーがあなたを追い掛け回した事の責任を負う形で、一時的に学校を離れたの。その留学先で出会ったのがシュトーレン…」


 ラテとココア以外の精霊の存在、パリでの戦い、クイニー・アマンとの決戦…そして、悲しい別れ…玉菜は一悟にパリでの出来事を包み隠さず明かす。




「あの時の決戦でさ…フォンダンは命にかかわる怪我をしたの。フォンダンの力を借りない限り、私はカオスイーツ相手に大きな決め技が使えないの。だから、私は今…「サントノーレ」として、ミルフィーユ達をアシストしているワケよ。」

 一悟は玉菜の言葉を一つ一つかみしめながら聞く。玉菜の一言一言には偽りがないからだ。

「いちごんがあの幼な妻ちゃんやゆっきーに誤解ごかいされちゃったみたいに、私もいちごん達に誤解させちゃったのは悪いと思ってる。でもね、そう遠くないうちにいちごん達にジョイントする予定ではいるの。私もさ…先代のマジパティの件で出向くときがあってさ…」

「先代の…マジパティ?」

 玉菜は黙って頷く。

「だから…一悟、玉菜を…クリームパフを信じて。午前中の事は、親父が本人に直接話をしてくれるから…だから、玉菜の件は時期がくるまでの間、みるくと雪斗には内緒ね?」

「はいっ!!!」

「私も秘密は厳守げんしゅしますっ!!!ほら、ココアも!!!」

「ほいっ!カカオとおっぱいは絶対に裏切ってはならないっ!!!」

 2秒後、ココアは恋人によって首を締め上げられたのだった。




 一悟が玉菜が白銀のマジパティ・クリームパフであることを知って3日が経った。あの後、無事にみるくと雪斗からの誤解も解け、一悟が出くわした高等部の女子学生の彼氏と名乗る茶髪の高等部の男子学生経由ではあるが、ジャージも返してもらえたのだった。


「いちごん…あの時、タマねぇと一体何を話していたんだ?」

「ゴリラとドジっ子には気を付けろって言われただけだっつーの…」

 今でも中間テストに向けての勉強を口実に、2人から玉菜とのやりとりの件を根掘り葉掘り聞かれるが、一悟はラテ共々、「玉菜イコールクリームパフイコールサントノーレ」の事は明かしていない。

「まぁ…でも、生徒会長はみるくの事、「幼な妻ちゃん」って言ってたのは確かだぜ。」

「お…幼な妻!?」

 みるくは顔を真っ赤に染め上げながら驚く。


 そこへ…


「ボボボボボボボボボ…」


 一悟達の真横を、白い大型バイクが通り過ぎる。

「な、なんだ…?」

 思わずきょとんとする雪斗とみるくの隣で、一悟はバイクを運転しているのがある人物だと理解し、2人の手を引きながらカフェの方へと向かった。




「やっぱり…」

 カフェの真横のガレージには赤いデミオとガレットの大型バイクが佇むばかりで、そこにある筈の白い大型バイクの姿はなかった。

「いっくん…さっきのバイクって…」

「勇者様だ。勇者様の身に何かあったんだ。」

 一悟がそう答えると、居住スペースのドアが開き、そこから大勇者とココアが姿を現す。


「この間のイタリア人の事で、昨夜…セーラとトルテが喧嘩したんだ。そして、今…木苺ヶ丘中央公園にギモーヴのカオスイーツが現れた。」


 重々しい口調で話す大勇者の言葉に、一悟達は今回の戦いが一筋縄ではいかないことを悟った。

「今回、お前達にとっては過酷な戦いになるかもしれん。俺はなんとかセーラとトルテを探すけど…」

「それなら、サントノーレやあずき達を…」

「カオスイーツの連絡が入ったのは、サントノーレちゃんからだ。」

 雪斗のセリフを遮るかの如く、ガレットはカオスイーツ出現の連絡をした相手の事を話す。

「それに、ライスもエクレールも家業や中間テストの準備で戦いに参加できねぇ…でも、俺を信用しろ!今回の援軍は、俺と一緒に戦った奴らだ!十分頼りになるぜ?だから、行け!!!マジパティ!!!!!」


「「「はいっ!!!!!」」」


 まるで背中を押すようなガレットの言葉に、一悟達はブレイブスプーンを構えた。


「「「マジパティ・スィート・トランスフォーム!!!」」」




 一方、ガレットにカオスイーツが現れたと連絡した玉菜は、サントノーレの姿で巨大なギモーヴと戦っていた。普段なら余裕で飄々と攻撃を避けるサントノーレだが、今日はどうにも調子がよろしくない。

「おやおや、この程度ですか?サントノーレも大したことはなかったようですね?」

「ナンパちゅうの高校生をカオスイーツにするセンスは褒めてあげるけど…ナンパされてた男性を体内に閉じ込めたり、戦う相手を侮辱するのはどうかと思うわよ?」

 ギモーヴカオスイーツにされてしまったのは、公園で男の人をナンパしていた女子高生で、彼女はカオスイーツ化と同時にナンパを断った男性を体内に取り込んでしまったのだった。


「こういう時、ガトーがいてくれたら…」…そう、白石玉菜しろいしたまなの脳裏に浮かぶ1人の精霊の少年・ガトー・ショコラの姿。今、彼は玉菜のそばを離れ、妹の看病に明け暮れている。そんな彼はパリではクリームパフにカオスイーツの弱点や欠点を常に教えてくれた…言わば、彼はみるくが変身したプディングと同じ役割をしいていたのだった。


「まずは人質の救出からよ?」

 そう言いながら、サントノーレは白銀を基調とした銃を構え、銃口から白銀の銃弾を解き放つ。


「クリームバレットクラッシャー!!!」


 解き放たれた銃弾は、まるでドリルのような螺旋を描きながらカオスイーツの身体を貫こうとするが…


「ぼよん…」


 白銀のドリルはクッションにぶつかるかの如く、カオスイーツの身体を跳ね、そのままサントノーレの方へと後退してしまった。

「ぐはっ…」

 自身が放った銃弾を腹部に受けたサントノーレは、背後の木に激突し、そのまま気絶してしまった。


「サントノーレ!!!」

 ミルフィーユ達が到着すると、サントノーレは我に返り、再び立ち上がる。先ほどの衝撃しょうげきで仮面の左側が割れ、割れたガラスからサントノーレのエメラルドグリーンの瞳が露わになってしまう。その事をミルフィーユは言及げんきゅうしようとするが…

「ちょっと無様な姿を見せちゃったわね。今回のカオスイーツだけど、アイツの体内には人質がいるわ!気を付けて戦って、サリュー!」

 ミルフィーユにそう囁くサントノーレは苦笑いを浮かべながら去ってしまった。


「ギモーヴはマシュマロと似てますが、マシュマロは卵白を使う分、固めで弾力のある触感。ギモーヴは卵白の代わりにフルーツピューレを使うので、マシュマロよりもしっとり柔らかく、口の中でふわっと溶けてしまうんです。」

 久しぶりのプディングのスイーツうんちくが始まった。

「じゃあ、物理攻撃ぶつりこうげきが通用しねぇってことか…」

「ご名答!!!サントノーレが撤退したその時こそ、あなた方の完全敗北の時です!!!」

 ティラミスがそう言うと、カオスイーツはミルフィーユ達に襲い掛かってきた。ミルフィーユ達はなんとか回避するが、カオスイーツからの攻撃は非常に強力で、ミルフィーユ達は回避するのがやっとだった。そんなミルフィーユ達にさらに追い打ちをかけるのが…


「カラン…」


 突然ブレイブスプーンがミルフィーユ達の足元に落ち、ミルフィーユ達の変身が一瞬にして解けてしまった。

「ど、どういうことなの!?」

「そ、そんな…」

「おや、変身が解けてしまったようですね…これは好都合こうつごう…カオスイーツ、構わず攻撃を続けなさい!!!」

 ティラミスの言葉に呼応するかの如く、カオスイーツは再び一悟達に襲い掛かるが…




「ミルフィーユリフレクション!!!!!」


 突然どこからか少女の声がすると、一悟達の目の前にピンクを基調としたうさ耳の少女が現れ、少女は一悟達をカオスイーツから守ったのだった。

禍々まがまがしい混沌こんとんのスイーツさん、勇者の力で反省してもらいますよ!!!」

「な、なんて憎らしい…カオスイーツ、そのマジパティにも…」

 ティラミスはそう言うが…


「ボコッ…」

 彼女のセリフを遮るかの如く、今度はキジトラ模様の猫耳を付けた少年がカオスイーツの中から飛び出し、人質となっていた男性を救出した。

ふぁんねんらったな残念だったな!ふらっふひたーブラックビター!!!」

 何故か彼も巻き込まれていた様で、カオスイーツの中でギモーヴを食べ尽くしてしまったようだ。

「まったく…プディング、お行儀が悪いぞ!!!でも、まぁいい…カオスイーツの中が空洞になったから今、私達の勝利は確定したも同然…」

 竜の耳としっぽを携えた少女が突然現れ、プディングの少年にそう苦言を呈する。少年は勢いよくギモーヴを飲み込み、男性を安全な場所へ落ち着かせると、うさ耳の少女の隣に回る。


「行くよ、みんな!!!」

「おうっ!!!」

「構わん…」


「「「3人の心を一つに合わせて!!!」」」


 一悟達の前で3人がそう叫んだ瞬間、3人が持つそれぞれの武器は光の粒子となり、それぞれのカラーに合わせた宝石を携えた細身の剣・パティブレードに変わった。彼女達のパティブレードは一悟達のパティブレードよりも刀身が大きく、「勇者の剣」と言われてもおかしくないビジュアルをしている。


「勇者の力を1つの剣に!!!ミルフィーユブレード!!!」

「勇者の愛を1つの剣に!!!プディングブレード!!!」

「勇者の知性を1つの剣に!!!ソルベブレード!!!」


 3人はそれぞれのパティブレードを構え、ピンク、黄色、水色の光をまといつつ、カオスイーツに飛び掛かる。


「「「マジパティ・トリニティ・ピュニシオン!!!!!」」」


 ピンク、水色、黄色のそれぞれの光に包まれたマジパティ達は、カオスイーツを切りつける。


「「「アデュー♪」」」




 突然現れたマジパティ達によって斬りつけられたカオスイーツは、本来の姿を取り戻し、カオスイーツによって破壊された設備を何事もなかったかのように光の粒子で修復される。

「ね…姉ちゃんだったのかよ!!!」

 カオスイーツにされたのは、一悟の姉の一華だった。そして、カオスイーツに閉じ込められていたのは…


「トルテ!!!!!」

 いきなりシュトーレンの声がして、一悟達は一斉に振り向くと、シュトーレンはまっすぐトルテの方へ駆けつける。

「あ…姉御あねご…」

「昨夜の事は謝るから…だから…もうアタシの傍から離れないで!!!素のアタシを受け止められるのは、トルテ…あなただけなのよ!!!」

 周囲に一悟達がいる事も構わず、大粒の涙をこぼしながらシュトーレンはトルテに自分の胸の内を明かした。

「何言ってんスか…俺っち、姉御以外は誰と共にする事もないっス!俺っちが愛するのは、姉御ただ1人だけ…」

「で、でも…今朝女の人と電話…」

「あれはモデル時代の事務所の社長と、モデルを続けるかどうかについて話し合ってただけ!姉御と再会できた今、俺っちがモデルを続ける意味はなくなった…だから、姉御とずっと一緒っス!!!」

 最愛の人の言葉に、女勇者は顔全体を真っ赤に染め上げつつ、トルテに再び飛びついた。


 しかし、幸せなひと時も束の間…


「セーラ…お前は、自らの手で自分のマジパティを窮地きゅうちに追い込んだ…」

 突然のガレットの厳しい口調に、その場にいた一悟達は凍り付く。


「グラッセ達が来なかったら、危うく一悟達は命に関わることになったんだぞ!!!!!アイツの時のように…」


 その重い言葉と共に、大勇者は突然魔眼まがんを発動し、一悟達は瞬く間に木苺ヶ丘きいちごがおか中央公園を離れ、カフェの店舗スペースへと飛ばされてしまった。




 一方、その頃…

「ぎゃーーーーーーーーーーっ!!!目を離したスキに強制アップデートおおおおおお!!!!」

 職員室で作業していた下妻先生のパソコンが、強制アップデートによって、再起動となった。この状況からして、作成中のファイルを保存していなかったと思われる。

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