第10話「消えるのは雪斗!?復活のソルベ!」

「こちら、瀬戌せいぬ市の私立サン・ジェルマン学園上空です。異臭騒ぎが解決したばかりの中等部のグラウンドに、巨大なドーナツ状の怪物が先ほどまで戦っていたマジパティ達を飲み込んでしまいました!!!生徒達も教職員の指示の下、次々と下校していきます!」



 瀬戌市と新居須にいす市の境目にほど近い広大な敷地にある大型ショッピングモールにある家電量販店のテレビが、一悟いちご達のいるサン・ジェルマン学園の校庭を映す。その様子を見た買い物中の1人の女性は、思いっきり表情が青ざめている。シュトーレンだ。

姉御あねご…」

「一悟達が…カオスイーツの中に…アタシ…どうすれば…」

 突然トルテに抱き着き、弱音を吐き出すあるじの姿…彼女は今まで、自分の前で泣き言を言った事などない。普段なら「勇者が泣き言なんて言うワケないでしょ」って言いくるめる主が、まるで人が変わったかのように弱音を吐く…身体に当たる豊満な柔らかい物体が、トルテの理性をかき乱そうとする。


「おやっさんが言ってましたよね?「勇者たる者、おのれの信じる者を信じろ」って…だから、今の姉御にできる事は…一悟達を信じる事なんスよ。それに、あの場所にはアンニン姉さんもいる…あいつらには心強い味方っス!!!」


 トルテが着ているシャツを涙で濡らしながら、1人の女勇者は黙って頷く。




「校舎内に残っている生徒は、寄り道せず、直ちに下校したまえ!!!」

 異臭騒動が落ち着き、大勢の生徒達が次々と下校していく…下妻しもつま先生はグラウンドにいる巨大なドーナツのカオスイーツを睨みつける。まさか、ティラミスがあれほど巨大なカオスイーツを生成するなんて思ってもいなかった。よっぽどカオスイーツにした人間が相当な負の感情を持っていたことなのだろう…下妻先生はそう確信した。

「先生、千葉ちば君達がいません!」

「ウチのクラスの高萩たかはぎもいません!」

仁賀保にかほ先生の指示で既に帰った!今は自分の身の安全を心配したまえ!!!教頭先生、私は仁賀保先生と一緒に校舎内に生徒が残っていないか確認して参ります!!!」

「気を付けてくださいね…下妻先生。」

 中等部校長である鳥居とりい先生は既に帰ってしまったようで、教職員達も、異臭騒動の時から気絶している守衛しゅえい以外は殆ど退勤していく。




 中等部の生徒達と教職員達が学校を出る中、1人の少年が高台のふもとにあるコンビニの入口に座り込んでいる。学校から半径1キロメートル以内の地域全域に避難勧告が出てしまったため、コンビニには誰1人姿が見えない。黒いパーカーから延びる黄緑色にピンクのメッシュが混ざった髪…マカロンだ。

「はぁ…はぁ…流石にこの姿じゃ、フェアリーマートまでが限界か…」

 マカロンは黒を基調としたパンクスタイルで、高台を見上げる。突然廃デバートにフランスからやってきた幹部たちが押しかけ、せめてカオスソルベだけでも逃がそうと、マカロンは少年の姿でサン・ジェルマン学園までやってきた。彼の両手には、カオスソルベの荷物がはいったボストンバッグがある。その時、彼のところへ赤い大型バイクが停まる。

「少年…お困りのようだな?」

 マカロンが振り向くと、バイクに乗ったライダーがフルフェイスのヘルメットのシールドを上げる。シールドから解放された緑色の瞳からは、歴戦の戦士のような勇ましさが垣間見える。


「今、僕の妹がこの中学校の中にいる!その妹が危ない奴らに狙われているんだ!!!せめて、あいつだけでも危ない奴らから逃がしたいんだよ…」


 マカロンの言葉を聞いたライダーは、バイクを指さし…


「後ろに乗りな…お前は、妹想いのいい奴だ。」

 その言葉に安堵したマカロンはライダーから黒いヘルメットを受け取り、ライダーのバイクにまたがった。


「吹き飛ばされたくなかったら、しっかりと勇者に捕まってな!!!!!」


 響き渡る轟音ごうおんと共に、マカロンを乗せた大型バイクはスピード違反で即・免停めんていを食らってもおかしくない程の速度で、高台を駆け上がる。


 ミルフィーユが気が付くとそこは暗闇に包まれた空間で、足場の一つも見当たらない場所だった。変身は既に解けて千葉一悟に戻っており、目の前にはピンクの宝石の付いたブレイブスプーンが浮いている。

「そうだ…俺達、巨大なカオスイーツに吸い込まれて…」

 意識が遠のく前の事を思い出した一悟は、辺りを見回す。プディングも変身が解け、米沢みるくの姿に戻っており、彼女の近くには黄色の宝石が付いたブレイブスプーンが浮いている。

「みるくっ!!!!!」

 唐突な幼馴染の言葉に、みるくはハッと起き上がる。

「いっくん!!!ここは一体…」

「恐らく…ティラミスが生成したカオスイーツの中だ…」

「それじゃあ、ライスとラテ達は…」

「突風の途中で弾き飛ばされた…あの時、俺もお前もカオスソルベの腕を腕をつかんでいただろ?だけど、ライスは俺の腕に捕まろうとした途端に弾き飛ばされた。ラテもココアも、恐らくは…

「そんな…」


 段々と視界が開けてくる…2人の目の前には、黒いもやに拘束されている雪斗とカオスソルベが現れる。カオスソルベはどことなく苦しそうだ。




「制限速度40キロオーバー!はい、免許証出して!」

 サン・ジェルマン学園中等部正門前で、通報を受けて来ていた一悟の父が赤い大型バイクに乗ったライダーを止めていた。

「なにやってんだよ!!!」

「名前は「首藤和真しゅとうかずま」…ね。ご職業は?」

 刑事に免許証を見せたライダーは、赤いフルフェイスのヘルメットを外す。ヘルメットから放たれた刹那、炎のような赤髪がなびき、どことなくある人物に似ているような顔立ちの、見た目30代の青年がその素顔をさらけ出す。


「首藤和真、41歳!勇者やってます!!!」


 その瞬間、マカロンと警察関係者が盛大にコケた。

「職業は「自称・勇者」…と。」

「冗談です。本業は調理師でーす♪」

 再びマカロン達がずっこけた。

「そもそも、この学校は「関係者以外立ち入り禁止」!建造物侵入の現行犯!!!」

 そう言いながら一悟の父は、「首藤」と名乗るライダーに手錠をかけようとするが…


「待ってください、刑事さん!この方はこの学校のマルチメディア部の外部顧問。よって、学校関係者です。」


「おや…そうでしたか。それで、あなたは?」

 突然の養護教諭の物言いに、刑事達は驚いた。

「養護の仁賀保と申します。速度違反でしたら後程本人に違反者講習を受けさせますので、それ以外はどうか見逃してあげてください。」

「ま、まぁ…今回だけですよ?とにかく、30日間免許停止!!!後日通知が来ますんで、指定された日の講習には絶対に出るように!それでは、本官達はこれで失礼します!!!」

 一悟の父はそう言い残すと、パトカーに乗って学校をあとにした。

「いやー…悪いねぇ、「杏子きょうこちゃん」?」

「勘違いするな!セーラ…いや、私の勇者様のイメージに関わることだからな!」

 そう言いながら、仁賀保先生はマカロンと首藤を敷地内へ案内する。


 案内しながら、仁賀保先生の姿は僧侶・アンニンへと変わっていく。解けるアップスタイルに、黄色を基調とした修道帽、いかにも高官職と言わんばかりのドレス姿…この姿こそ、アンニンの僧侶としての本来の姿だ。そして、彼女はスマートフォンである人物に電話をかける。

「…私だ。お前に頼みたいことがあるんだが…」




 グラウンドに取り残されたライス、ラテ、ココアはカオスイーツに攻撃を仕掛けるが、全く歯が立たない。

「たかが精霊、たかがスイーツ界の住人…そんな者がこの悪事が目立つジャーナリストだったカオスイーツに勝てるとでも?」

 ラテの幻影を打ち破り、ココアの攻撃も軽くあしらい、ライスの爆弾をも身体の空洞の中へ吸収してしまう…



「それなら、これはどうかしら?」


 突然サントノーレの声がして、突然ティラミスの足元とカオスイーツの足元に銃弾が撃ち込まれる。


「バンバンッ!!!」


「そ、その声は…」

「はぁい♪オグルさん。さっきはドリル頭のダームに素敵な言葉を浴びせてくれて、ありがとう。あのドリル頭、嗅覚がおかしいのよねー…」

 突然、ライス達とカオスイーツの間に割って入るかのように、サントノーレが現れた。

「さ、サントノーレ!!!」

「マジパティがいない中、ここまで時間稼ぎできたのは流石よ!」

 サントノーレの言葉に気が付いたココアはサントノーレを見るや否や…

「わぁ~お☆縞パン!!!ココア様、みなぎってきたー!!!!」

 別の意味で元気を取り戻したが、ラテは今にでもブチ切れそうだ。

「あら…元気になったのね?それじゃあ、さらに元気になってもらおうかしら?」

 サントノーレがスカートの裾をちらっとたくし上げたと同時に、ココアは嬉しそうな顔をして気絶したのだった。


「さぁ、下がってなさい!!!今、あなた達ができることは、マジパティ達を信じること!それだけよ!!!」


 サントノーレがそう言うと、ライス達の前にアンニン、ムッシュ・エクレール、マカロン、そして真紅の甲冑を身にまとった赤い髪の青年が並ぶ。

「マカロン様…そのお姿は…」

「今日だけ、アイツのお兄ちゃんっ!!!そして今日だけ、妹を泣かせたお前の敵っ!!!」

 そう叫ぶ主に対し、ティラミスは苦虫をかみつぶしたような表情で、小さなカオスイーツの群れを繰り出した。


「出でよ、カオスジャンク達!!!!!」




「あうっ…やめ…て…お父…様…」


 一悟達の目の前で、黒いもやはカオスソルベを「ギリギリ」と音を立てながら締め上げていく。負の感情が強いせいか、マジパティに変身して救出しようにも、一悟達は変身不可能となっていた。

「どうすればいいの?変身もできないなんて…」

「大丈夫だ…変身できなくても、俺は絶対にカオスソルベも…氷見雪斗ひみゆきとも…どっちも助ける!!!」

 そう言いながら、一悟は黒いもやの中へ消えつつある雪斗を両手で掴み、引きずり出そうと試みる。カオスソルベを助けるには、媒体である雪斗の素直な気持ちを呼び覚ます必要があると、一悟はそう思ったからだ。


「雪斗…俺は、5歳の時のお前を「女の子」だと思ってた…それで、「みるくが葬式から帰ってきたら、みるくにお前を紹介して、一緒に遊ぼう」って思ってたんだよ。でも…お前はあの時、黒いスーツの男たちに攫われた。俺は止めようとしたけど…」


 一悟はそっと左手で前髪をかき上げる…そこにうっすらと残る傷…

「「ユキちゃんとの思い出」ごと吹っ飛ばされるほど、お前のクソ親父が俺を殴ったんだ。お前が車に連れ込まれている時に…俺の父ちゃんも母ちゃんもお前の父親を訴えようとしたけど、ムダだった。来たのは氷見家からの謝罪だけ…あとは今川家がもみ消した。それからは、お前の事は思い出せないまま…」

 実は雪斗の日記帳を読んだ日、一悟は両親に5歳の頃の事について確認を取っていた。そして、いつつけたかわからない左のこめかみにある傷…その傷こそが、雪斗の父・今川麦いまがわばくが幼い一悟を殴った傷だった。

「入学式の時、俺はお前にとってヒドい事を言ったのは変えられない…でも、友達としてこれからを過ごすことができる。カオスソルベは、俺達にそれを教えてくれたんだ…」

 段々と雪斗が黒いもやから引きはがされると同時に、虚ろな目の雪斗の目から涙がこぼれ始める…


「だから…雪斗!!!遠回りしすぎたけど、俺とお前はもう友達だ!!!」


 一悟がそう叫んだ途端、雪斗は大粒の涙をこぼしながら、一悟の左肩に乗った。

「いち…ごん…あり…がとう…」

「だから、「いちごん」言うなって!!!」

「そうだよ!でも…氷見くんの「友達」は、いっくんだけじゃないからね?あたし…男の人が苦手でも、氷見くんなら克服できそうな気がするもん♪だから、一緒にカオスソルベを…ううん、ユキちゃんを助けよう!!!」

「あぁ!!!」

 3人はカオスソルベの方へ目を向ける。締め付けから時間が経過し、カオスソルベも段々と黒いもやの中へ消えつつある…もう時間がない…


「カオスソルベを救うだと?闇の力を使い誤った傀儡に生きる価値はない!!!」


「違います!!!闇の力だって、人を救うために使えば、立派な正義の力です!!!あなたにとって価値はなくとも、他の方たちに対しては十分な価値があります!!!!!」

 そう言いながら、みるくはカオスソルベの左手を握りしめる。


「なにをほざく!!!我はカオスソルベの父親であるぞ!!!!!子供をどうしようが、親の勝手だ!!!!!」


「何が父親だっ!!!!傀儡だの、価値なしだのほざいて、今、まさに娘を消そうとしている奴が、今更父親ぶるんじゃねぇっ!!!!!そんなの…ただの他人だ!!!!!」

 カオスに対する怒りを叫ぶ一悟は、カオスソルベの右手を握りしめる。


「こやつは消えるべき存在だ!!!貴様らにとっては意味なき存在に等しい!!!!」


「カオスソルベは…ユキは…消えるべきでも、意味なき存在でもない!!!もう1人の氷見雪斗…もう1人の僕だっ!!!!!」

 初めてカオスソルベを「もう1人の氷見雪斗」として認めた雪斗が、一悟の肩を飛び出し、カオスソルベの唇に己の唇をかさねた。それと同時に一悟の右手がみるくの左手と重なり合った刹那、3人の身体からピンク、黄色、水色…と、3色の光が放たれ、雪斗とカオスソルベの影が一体化する。




「あんな大勢のカオスジャンクを瞬く間に浄化するなんて…」

 ライスも息をのむほど、ティラミスが生成したカオスジャンク達は殆ど消え去ったに等しい。当のティラミスはまだ生成するつもりのようだが、どうにもティラミスには分が悪い。その反面、サントノーレやアンニン達は余裕の表情を浮かべる。

「ティラミス、私を煽るほどのいつもの余裕はどうした?もう限界か?」

 ブラックビターにいた時から、ティラミスに「目の上のたんこぶ」扱いをされてきたムッシュ・エクレールは、ティラミスを煽る。その様子に、マカロンも「フッ」と笑みを浮かべる。

「無理もないな!いくらカオスイーツにした相手の負の感情が莫大な量でも、媒体の肉体自体が存在しないお前にとって、カオスイーツの生成にはお前の力の半分は消費する。さらにジャンクを大量に生成したことで、お前の力はさらに減った!カオスの力が半減するこの姿の僕相手に歯が立たないのも、当然ってことだな!」

「くっ…」

 マカロンによって、勇者の仲間に自身の弱点を公にされたティラミスは恥じらいと同時に、さらなる屈辱感を覚えた。

「それに、そろそろカオスイーツの方も限界が近づいてきたわね…」

 アンニンがそう言うと、ドーナツカオスイーツの空洞の中央部からピンク、黄色、水色の光が現れ、カオスイーツとティラミスはその衝撃で5メートルほど後退する。


「カッ…」


 空洞から現れた光に呼応するかのように、ライスの持っている水色の宝石が付いたブレイブスプーンが光を放ち、3色の光が現れた空洞へと飛んでいく…

「どうやら元の持ち主も、再び「勇者の力を受け継ぎし者」として覚醒できたのね。」

「覚悟はしておりましたが…突然、戦線離脱を告げられるのは悲しいものですわね…」

 視線は皆、3色の光へ集まる。3色の光は段々と大きくなり、ライスの目の前に舞い降りると、3人の少女が現れた。一悟とみるく、そしてカオスソルベと同じ髪型をした藍色のロングヘアーの少女…

「か…カオスソルベでも…氷見雪斗でも…ない?」


「違う…僕はもうカオスソルベじゃない…もう1人の氷見雪斗…ユキ!!!!」


 そう叫んだユキの姿を見て、マカロンは少々寂しそうだ。

「ここからは俺達のターンだ!行くぜ!!!」

「「OK!!!!!」」

 3人は同時にブレイブスプーンを構える。


「「「マジパティ・スイート・トランスフォーム!!!」」」


 ピンク、黄色、水色の光が3人を包み、一悟はピンク色のロングヘアー、みるくは金髪のロングヘアー、ユキは水色のロングヘアーにそれぞれ変化する。それと同時に3人は背中合わせとなり、一悟の右手はみるくの左手が握り、みるくの右手はユキの左手、ユキの右手は一悟の左手がそれぞれ握りしめる。髪をなびかせながら、トップス、スカート…と、上から順に光の粒子によって装着され、それぞれのコスチュームに合わせたかのように、太ももから足元にかけて光の粒子によって装着される。一悟とユキにはチョーカー、みるくにはチョーカーとアームリングが装着される。手袋、イヤリングが装着されると、今度は全員身体をくるりと回し、向かい合う。一悟の髪はポニーテールに結われ、もみ上げの毛先がくるんとカールし、みるくの髪は触角が現れ、ツーサイドアップにされた髪ともみ上げが縦ロールにカールし、下された髪は2つに分けられ、それぞれ毛先をオレンジ色のリボンで結われる。ユキの髪は右側でワンサイドテールになり、青いリボンでまとめられる。それぞれの腰にチェーンが現れると、そこにブレイブスプーンが付くと、3人の瞳の色が変わり、変身が完了する。


「ピンクのマジパティ・ミルフィーユ!!!」

「黄色のマジパティ・プディング!!!」

「ブルーのマジパティ・ソルベ!!!」

「スイート…」

「「レボリューション!!!」」


「「「マジパティ!!!!!」」」


 最後はポーズが決まり、見事にハモった。

「禍々しい混沌のスイーツ、勇者の知性でその頭を冷やしてみせる!!!」

 変身したのはユキとしての人格だが、カオスイーツに対するその目つきは、完全に氷見雪斗そのものだ。

「えぇいっ!!!3人になろうが同じこと!行きなさい、カオスイーツ!!!マジパティどもをパパラッチするのです!」


「ドドドドドドドドドド…」


 ティラミスの命令に従うかのように、カオスイーツが空洞からガトリング砲の要領でリングドーナツを飛ばし始めた。

「ミルフィーユリフレクション!!!」

 ミルフィーユはミルフィーユグレイブを回転させ、リングドーナツを弾き飛ばす。そしてミルフィーユの背後からソルベが飛び上がり、カオスイーツに向かってソルベアローを投げつける。


「ソルベブーメラン!!!」


 ソルベの言葉と同時に投げ出された長弓は、水色の光に包まれ、ミルフィーユが防ぎきれなかったリングドーナツを次々と一刀両断し、再びソルベの手元に戻った。ソルベが再び地上に着地すると、今度はミルフィーユの背後からプディングがプディングワンドの球体を回転させながら飛び上がる。

「プディングメテオ!!!キャラメリゼ!!!」

 プディングワンドの先端から飴色の球体が現れ、球体はカオスイーツの空洞の前で爆発四散し、カオスイーツの空洞が塞がれる。カオスイーツは思わず封じられた空洞を叩くが、その空洞であらゆるものを吸収する能力を失ってしまった。そして、バランスを崩し…

「わわっ…」



「ドオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!」



 ティラミスを下敷きにして倒れてしまった。

「今だ!マジパティ!!!3人の武器を重ね合わせるんだ!!!!!」

 赤い髪の青年の言葉に、3人はそれぞれの武器を重ね合わせる。


「「「3つの心を1つに合わせて…」」」


 3人がそう叫んだ瞬間、3人の武器は光の粒子となり、真っ白な柄に、水晶のような剣先、そしてそれぞれのカラーに合わせた装飾が付いた細身の片手剣・パティブレードに変わった。


「勇者の力を1つの剣に!!!ミルフィーユブレード!!!」

「勇者の愛を1つの剣に!!!プディングブレード!!!」

「勇者の知性を1つの剣に!!!ソルベブレード!!!」


 3人はそれぞれのパティブレードを構え、ピンク、黄色、水色の光をまといつつ、カオスイーツに飛び掛かる。


「「「マジパティ・トリニティ・ピュニシオン!!!!!」」」


 ティラミスに蹴り上げられ、やっと起き上がったカオスイーツだが、ピンクの光を纏ったミルフィーユにミルフィーユブレードで縦に斬られ、続いて黄色の光を纏ったプディングにプディングブレードで横に斬られる。そして、最後に水色の光を纏ったソルベによってソルベブレードで斬られた。

「「「アデュー♪」」」

 3人が同時にウインクすると、カオスイーツは光の粒子となり、本来の姿を取り戻す。


「くっ…マカロン様の前で恥をさらすとは…マジパティども、覚えてなさいっ!!!」

 そう言いながら、ティラミスは「フッ」と音を立てて消えてしまった。サントノーレも、いつの間にかいなくなっている。

「あら…ホントに週刊「ZBA!」の烏森だったのね…看護学校に通っていた頃、私をストーカーした罪…今、警察に訴えてもいいのよ?」

「へっ…それなら、SNSで拡散してやろー☆彡」

「でも、目を覚ました時がヤバイな…こういう時は…」

 カオスイーツから元の姿に戻ったジャーナリストの烏森を見て、アンニンとマカロンはいつもの調子に戻るが、赤い髪の青年は最悪の状況を察知した。

「大勇者様…こういう時は…」


「勇者及び、精霊を含む勇者を知る者、マジパティ達全員、グラウンドからずらかれ!!!!!」


「大勇者様」と呼ばれた青年の鶴の一声で、ミルフィーユ達は一斉にグラウンドから正門へと走り出す。走り出したと同時に…

「って、俺達のカバン~~~~~~~~~!!!」

 変身前にブレイブスプーンを持ったまま教室を出たため、ミルフィーユはカバンの事を思い出してしまった。

「大丈夫だ。私が全員分アンニンの車の中へ乗せた。」

「あ…それならいいや。」

 それでいいのか…ミルフィーユ達は本校舎にある昇降口で変身を解き、急いで学校を出る。

「こういう事もあろうかと、いつものポルシェじゃなくてミニバンで出勤しといてよかったわ。元々ジュレの車だけど…」

 そう言いながら、アンニンは一悟達を乗せたミニバンのエンジンをかけ、ちゃっかり甲冑姿からライダースーツ姿に戻った首藤は再びバイクにまたがる。(取り締まりを受けたその日から免停になるワケではないので、今回の首藤の場合、運転は可能です。でも、スピード違反はほどほどに。(速度違反経験者・談))




「なぁ…氷見雪斗…」

「何だ?」

 アンニンが運転するミニバンの中、マカロンは雪斗にある事を話す。

「カオスソルベ…いや、ユキに伝えてほしい…「これからは光に生きろ」…って。敵がこんな事言うのも変だよな?でも…もうユキもお前も…一人じゃない。これ以上闇に染まるな…」

「言われなくとも、もう闇には染まらんさ…今回、お前には本当に感謝している。お前がユキを大切にしてきたからこそ、僕はユキを通して、自分の過ちに気づくことができた。」

「だから…お前も、ユキも…次に会う時は、敵同士だ!!!」

 マカロンは安心した表情だった。やがてアンニンの運転するミニバンが木苺ヶ丘の商店街入口にあるバス停に停まり、そこでマカロンは雪斗にボストンバッグを託し、ミニバンを降りた。そしていつものゴスロリ姿へと戻り、「フッ」と音を立てて廃デパートへと帰っていった。




 その頃、カフェ「ルーヴル」ではシュトーレンが居住スペース真横のガレージに止めた赤い普通乗用車の後部座席から荷物を出していた。そこへ、赤を基調としたライダースーツの男が運転する赤い大型バイクがやってくる。


「後ろ姿…母さんに似たな…」


 聞き覚えのある声に、勇者は不意にバイクの青年の方を向いた。青年がヘルメットを外した刹那、炎のような赤髪が宙を舞い、歴戦の戦士のような勇ましさが漂う緑色の瞳を見た瞬間、思わず勇者は肩を震わせる。

「大きくなったな…セーラ…」

 スイーツ界に於いて、勇者の本名及び、真名を家族や身近な者以外の者が呼ぶのは禁忌とされている。そんなシュトーレンの本名を躊躇ためらいもなく呼ぶ者(アントーニオは除く)…それは紛れもなく…


「親父…」


 そう…それはシュトーレンの父親で、彼女の2代前の勇者・ガレット…首藤和真こと大勇者ガレットは、久しぶりに再会した娘に抱き着こうとするが…


「ドサッ…」


 そんな感動の再会も虚しく、シュトーレンが車から取り出した荷物を持たされた。

「今からアンヌが一悟達連れてくるから、荷物を2階のリビングまで運んどいて。」

「やっと再会した父親に対して酷くなーい?セーラちゃーん…」

「しれっと仕事辞めた挙句、8年近く子供達ほったらかしにしといて、娘を「ちゃん」付けするなっ!!!!!(男声)」

「姉御、何モタモタしてるんスかー!!!早くしないとアンニン姉さ…って、おやっさん!!!??」

「おー、トルテ!相変わらず人間態はチャラいなー…」

 そう言いながら、ガレットは玄関から出てきたトルテの背中を叩く。

「トルテにちょっかい出してないで、さっさと運ぶの手伝え…(男声)」

「ちょっとぉー…父親に向かって、男声で怒るのやめてぇー?」

「何やってんだか…」

 そんな3人の様子を、僧侶は呆れた顔をしつつも、一悟達は苦笑いを浮かべながら見つめる。そして一悟は思わずシュトーレンと目を合わせる。勇者のまんざらでもなさそうな笑顔に、一悟は不意に安堵の表情を浮かべた。

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