第9話「クグロフ来日!異臭騒ぎの放課後」

「ここがシュトーレンが開いたカフェね。随分いいお店建てたわねぇ…」


 飛行機の到着時間が深夜であったため、やむなく開店時間狙いでの来訪とはなってしまったが、久しぶりの勇者・シュトーレンとの再会に、白石玉菜しろいしたまなは心を躍らせている。


「カランカラン…」


「いらっしゃいませー!!!」

 20代くらいの金髪の青年がドアを開ける。早速カウンター席に座り、カウンターにいるマスターに声をかける。

「久しぶり!今は…「聖一郎せいいちろう」って呼ぶべきだったわね?聖一郎…」

「ちゃんと覚えててくれたんだ。」

「当たり前でしょー?あの時は「男の姿でパティシエ見習いやってる」って言ってたし、このお店も「首藤聖一郎しゅとうせいいちろう」名義だってトーニから聞いてたの。」


「首藤聖一郎」…これが、シュトーレンが男の姿の時の名前である。当初は本来の姿でパティシエの資格を取得するつもりだったが、一部の厄介な人間に腕っぷし見せつけたところ、運悪くその場にパティシエの専門学校関係者がいて、門前払いを食らい、仕方なく男として資格を取得。そしてそのまま「首藤聖一郎」名義で木苺ヶ丘に店を構えることになったのである。そして、この店のための費用は全て、アントーニオ・パネットーネの実家が負担している。


「会いに来た理由は、パリでのことだけじゃないでしょ?はい、玉菜の大好物♪」

 そう言いながら、シュトーレンは玉菜の目の前に山積みのシュークリームのお皿を出す。

「きゃはっ☆ひっさびさのシュークリーム!!!あれから「次にシュークリームを食べるときは、絶対に聖一郎が作ったやつ」って決めてたんだー♪」

 玉菜は山積みのシュークリームを美味しそうにほおばった。クイニー・アマンとの戦い直後はしんみりとしてしまい、シュークリームを食べる気にはなれなかった。でも、久々に勇者様の働く姿を見て、玉菜は元気を取り戻した。

「おいふぃぃ~!!!!!それからさぁ…ミルフィーユ達の事なんだけど…」




 一方、一悟いちご達は住居スペースにいる。リビングにはみるく、あずき、ラテ、ココアがいるが、そこに一悟はいない。実を言うと一悟の治療の件でアンニンから申し出があり、それが理由でシュトーレンが一悟に住居スペースの掃除と洗濯を任せたのである。そんな彼は、現在洗面所でシュトーレンの下着を、ティッシュで鼻を押さえながら洗っているのだった。


「いいのかなぁ…勝手に人の日記帳見ちゃって…」

「世の中、ブログというサービスや、SNSがあるんですのよ!!!それに…先ほどの一悟の言った事を理解するためにも…ワタクシ達は知らなければなりません。ユキ様の心の本音を…」


 古ぼけた水色の日記帳…「氷見雪斗ひみゆきと」と書かれた名前の部分には、明らかに修正テープで消された跡がある。みるくとあずきは恐る恐る、雪斗の日記帳に手を触れる。




 雪斗の失踪事件から4日。今日は振り替え休日なのだが、サン・ジェルマン学園中等部では実力テストがあるため、中等部の生徒達はみんな高台にある校舎へと向かっている。しかし、雪斗の情報が公開されて初めての登校であるため、報道陣が何人も押しかけている。

「お姉ちゃん…お勉強になると、厳しい…」

 高台のふもとで「はぁ…」と、ため息をつくカオスソルベの所へ、一悟とムッシュ・エクレールもとい、下妻しもつま先生がやってきた。ココアは一悟のカバンの中にいるようだ。


「ちゃんと来たんだな?」

「ミルフィーユが誘ってくれたんだもん♪」

 カオスソルベは、一悟の言葉ににっこりと微笑んだ。

「媒体が媒体である以上、実力テストはお前が「氷見雪斗」名義で受けなければならない。それにしても、カオスの力でカオスイーツに牙を剥くなど、本当に悪い奴には見えないが…まぁ、その着崩した制服だけは個人的には認めんがな!!!」

 そしてみるくとあずきも、ほぼ同時にやって来る。報道陣の事もあり、ラテはみるくのカバンの中にいる。

「おはよう、いっくん。」

「おはよ。」

「おはようございます、叔父様に一悟。そして…ユキさん。」

「ユキ…さん?」

 あずきの突然の呼び名に、カオスソルベは首をかしげる。

「昨日話し合って決めたんだもんね?」

「えぇ…彼を媒体としているのなら、彼の呼び名に近い方がよろしいかと思いまして。ご迷惑でした?」

「別にいいよー♪だっていちいち「カオスソルベ」じゃ長いもんね?」

 無事にカオスソルベと合流できた一悟達は、正門へと向かった。


 カオスソルベ曰く、元々カオスソルベと雪斗は感覚が繋がっているのだが、雪斗はそれを認めようとせず、例え一悟達が雪斗の話をしていても、雪斗には聞こえていても理解できず、視界も雪斗の目の周りは真っ暗な闇の中にいるようにしか見えないということだった。




 正門にいる守衛には、下妻先生がカオスソルベは「転校生の「雪ヶ谷ゆきがやヒミカ」で、学校の体験編入にやってきた」と説明し、下妻先生はカオスソルベを職員室に連れ、アンニンもとい仁賀保にかほ先生にも事情を説明した。

「この子がそうなのね。言動は本当に彼が媒体なのか疑わしくなるほどだけど、あのボンクラ政治家のせいでマジパティが戦いづらい状態の今だからこそ、彼女の匿い方を考える事が一番ね。」

 仁賀保先生は納得したようだ。そして2年A組の教室へ入り、下妻先生は体験編入生を紹介する。

「本日、体験編入をしていただくことになった、雪ヶ谷ヒミカさんだ。みんな、仲良くするように!」


 テスト自体は難しい問題こそあったものの、大半はマカロンから教わった問題も多く、カオスソルベにとってはなんとかこなせる手ごたえだった。




「はぁ~…頭がパンクしそうだぜ…」

「ワタクシも…これが本当の「思考回路はショート寸前」…ですわ。」

 昼休みになり、共に理科が苦手な一悟とあずきは中庭にあるベンチに座り、目の前にあるテーブルに突っ伏している。

「ユキちゃんはどうだった?あたしは、埋められる所は埋めてきたけど。」

「僕も大体は埋められてきたかな。お姉ちゃんから教えられた所、たくさんでたから。」

 みるくもカオスソルベも余裕だったようだ。


「フン…あんなの、埋められたうちに入らんがな…」


 突然カオスソルベの胸の谷間から雪斗の声がして、一悟達は一斉に雪斗の声がする方向に目を向ける。すると、いきなり谷間から黒い猫耳が飛び出し、雪斗を2頭身にしたような風貌の着ぐるみ姿の少年が出てきた。

「ニャロ…なんつー羨ましいところから…」

 おっぱい大好き精霊の言葉に、あずきとラテの表情が強張った。

「なぁ…そいつ…もしかして…」

「うん…身体を返せ返せうるさいから、あのあと僕の力で猫のぬいぐるみに入れてあげてたの。みんなに見えているってことは、媒体が感覚を共有しているって事を認めたってこと♪」

「みんな人の事を好き勝手罵って…」

 雪斗の言葉に、みるくの表情が曇った。

「それ…勇者さまの力を使って好き勝手なことしてきた氷見君が言える立場?反省の色もなく、そんなことばかり罵るなら、もう一生このままでいいと思うよ?」

 球技大会の日、ソルベに変身した雪斗に襲われたみるくにとっては、腹立たしい言葉であるのは確かだ。

「甘いね、ミルク!!!コイツ、人の着替えを見ながら人の下着姿に派手だとかケチつけるんだよ!!!この姿のままでって言うよりも、もう消えてしまった方がいいから!!!!!」

「なぁ~~~~~~にぃ~~~~~~~のぞきだけならまだしも、下着姿にいちゃもんつけるとか…最低だな、オメー…」

「ココア…俺と勇者さまが着替えている時、見比べてため息ついてたお前も言えた立場じゃねーぞ?」

 一悟の話を聞いて、鬼の形相をしたラテが、背後からココアの首を締めあげた。その怒りレベルは「激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリーム」といったところだ。


「私という恋人がいながら、勇者様や一悟の前で何やってんだーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」




 午後の部の実力テストも無事に終わり、ホームルームが始まった途端、誰もが予想していない光景がグラウンドにて発生した。気味の悪いニオイと共に、グラウンドにたくさんのドーナツのカオスイーツが現れたのである。マカロンは学校におらず、ティラミスも汀良瑞希てらみずきの姿ではカオスイーツが出せない。そして…カオスソルベがカオスイーツを出した気配はない。下妻先生はカオスイーツを生成したのが、今まで会ったことのない「ブラックビター」の幹部であることを確信した。

「先生、グラウンドから異臭がします!!!!」

「みんな、落ち着きたまえ!!!今すぐに机の下へ隠れろ!!!!!」

 大地震を想定した避難訓練でもあるまいし、なぜ怪物が現れただけで机の下にもぐるのか…誰もがそう考えたが、下妻先生には考えがあった。そして、教卓の陰で聞こえないようにテレパシーを送る。


「ラテ、カオスイーツが現れた!!!大至急一悟、みるく、カオスソルベのいる空間を歪めるんだ!!!」

「了解ですっ!!!」


 みるくのカバンからラテが飛び出し、ラテは一悟達の空間を歪め、他の生徒達に見えないようにした。ラテが出てきたことでココアも一悟のカバンから飛び出し、一悟達は急いでトイレに駆け込んだ。そして、隣のクラスにいるあずきも…

夙川しゅくがわ先生、ワタクシ腹痛のため、1人で保健室へ行ってまいります!」

 昨日の反省もあり、あずきはスイーツ界の住人・ライスへと姿を変え、トイレへ駆け込んだ。




 そして一悟、みるく、ライスはブレイブスプーンを構え…


「マジパティ・スイート・トランスフォーム!!!」


 一悟達と同時に、カオスソルベはノワールスプーンを構えた。


「カオス・ビター・トランスフォーム…」


「うーむ…勇者さまには劣るけど、カオスソルベのおっぱいは柔らかそうだなぁ…悪役だけど。」

「コーーーーーーーーーーコーーーーーーーアーーーーーーーーー…」

 2頭身の雪斗の腕を掴みながら、精霊サイズのスマホで変身シーンを撮影するココアに、恋人のラテはカンカンだ。ちなみにココアのスマホのアルバムには、みるくの変身シーン、シュトーレンの入浴シーンと着替え、そして拾い物のソルベのエロ画像で埋め尽くされている。恋人が激怒するのも無理はない。


「ピンクのマジパティ・ミルフィーユ!!!」

「黄色のマジパティ・プディング!!!」

「ブルーのマジパティ・ライス!!!」

「混沌の使途・カオスソルベ…」


 一悟達は無事、変身完了し、カオスソルベも黒を基調としたツーピースのコスチューム姿になった。


「スイート…」

「「「レボリューション!!!」」」

「「「「マジパティ!!!!!」」」」


 最後は綺麗にハモった。




 下妻先生の読み通り、ティラミスは学校に来てはいるが、いつもとは様子がおかしい。

「うぐっ…この悪趣味なニオイは…」

 流石の鬼メイドも、最も苦手なものが存在しているようだ。


「ク…クグ…ロフ…」


 瑞希は椅子ごとぶっ倒れた。

「先生!汀良さんが倒れました!!!」

「保健委員!汀良を保健室に連れて行きなさい!!!」

 担任は保健委員に瑞希を保健室へ連れて行くように頼むが、それを生徒会長の腕章を付けた一人の生徒が名乗りを上げる。


「先生!!!汀良さんは私が連れて行きます。私もこの異臭で気分がよくないので…」




 突然現れた大量のカオスイーツと、謎の異臭…異臭の原因はカオスイーツの前に立っている30代の見た目をしたエルフ族の女性からしている。彼女の名は「クグロフ」。見るからに分厚い化粧、どぎつい香水のニオイ…そして、金髪ロングヘアーにいくつもの縦ロールをこさえた髪型…一言で片づけてしまえば、「ケバい」が相応しいだろう。(作者偏見あり)

「出てきな!マジパティ!!!この学校にいるのはわかっているんだよ!!!!!!」

 大量のカオスイーツの正体は、雪斗の失踪事件に関して取材するために学校に張り込んでいる報道陣達で、その規模は今までとは格が違う。


「待たせたな!!!!禍々しい混沌のスイーツ達!!!勇者の力で木端微塵にしてやるぜ☆」

 ミルフィーユ達が校舎から出てきた。そして、それと同時にミルフィーユの背後からライスとプディングが攻撃を仕掛ける。

「ピオニーファン・スライサー!!!!!」

 ライスが投げた白い扇子は、クグロフの背後にいるカオスイーツ達を切り刻んだ。

「プディングメテオ!!!ミストシャワー!!!」

 プディングの放った球体はクグロフの頭上で破裂し、大量の霧がクグロフ達を包み込む。

「香水の付けすぎは、瀬戌せいぬ市の条例違反です!!!」

「それに、どういう付け方をしたら、シャネルの香水が酷いニオイになりますの?ワタクシのお母さまが去年使用していた香水と同じですけど、お母さまの方が上品な香りでしたわ!!!」

「なっ…なんて生意気な…香水は当たってるけど…」

「これぞまさしく「お前のシャネルが泣いている」ですわっ!!!!!」

 ライスの言葉に、霧で化粧が崩れたクグロフの頭の何かが切れた音がした。




化学物質過敏症かがくぶっしつかびんしょう…ね?」

 瑞希は保健室に運ばれ、仁賀保先生から治療を受けている。そんな先生はなぜかガスマスク着用だ。

「汀良さん、この学校の校則に於いて、香料の使用はどうなっているか、言えるわね?」

「はい…第25条、瀬戌市の「香りと健康に関する条例」に基づき、香りの強い洗剤、柔軟剤及び、香水の使用を禁止する。」

 校則の条文をスラスラと暗唱する風紀委員長に対して、仁賀保先生は黙って拍手をする。そして…


「「鬼の風紀委員長・汀良瑞希」とは仮の姿…本当は「ブラックビター」の幹部…そうでしょう?」


 養護教諭のただならぬ言葉に、瑞希は酸素マスクを外し、ベッドから飛び上がる。

「なぜ…私の素性を…そういうあなたも、ただの養護教諭ではありませんね?」

「ご名答…私はカオスのニオイに敏感なの。それと、あなたが話した第25条は不正解。本当の第25条は内部進学に関する条文よ?香料の使用については第9条の服装に関する条文に記載されているわ。」

 ガスマスク越しに余裕の笑みを浮かべる養護教諭を前に、瑞希は思わず足がもつれる。

「今のあなたと私は、生徒と養護教諭…戦うに値しないわ。それと、これからマジパティを追い詰めたいのならばご自由に。異臭を放つお仲間さんと話をしたいなら、ガスマスクならいくらでも無料で貸してあげる。壊したら弁償してもらうけど。」

「くっ…悔しいですが…おかりします…」

 瑞希はティラミスの姿に戻り、養護教諭からガスマスクをかりた。そして、たまたま潜入している途中で気絶してしまったジャーナリストを見つけ、ポケットから名刺を取り出した。


「「週刊ZBA!」専属ジャーナリスト・烏森藤一かすもりふじかず…かねてから取材対象に対して手ひどい取材で有名な男…それなら、一役買っていただきますよ?」

 ティラミスの言葉に呼応するかのように、ジャーナリストの男は黒い光を浴び、その姿を変えてしまった。




「ハーッハッハッハ!!!!このクグロフ様を侮辱しようとする小娘どもにはさらにお仕置きしてあげようかい?」

 崩れたメイクを直し、香水も付けなおしたクグロフの手によって、プディングとライスは向かい合うようにしてドーナツカオスイーツのリングで締め付けられてしまった。ライスに至っては、既に変身が解け、スイーツ界の住人の姿に戻ってしまっている。ミルフィーユとカオスソルベは他のカオスイーツに蹴りやパンチで応戦するが、数が多すぎるようだ。

「どうしてこうなりますのっ!!!!」

「あの年増相手に「お前のシャネルが泣いている」なんて罵ったお前が原因だろ」…と、ミルフィーユは思ったが、ここは敢えて言わないことにした。



「雪斗…お前、本当に体を返して欲しいと思ってるのか?」

 ラテが雪斗の左手を持ち、ココアが雪斗の右手を持ちながら戦いの様子を見つめている。雪斗の体制はいかにも「囚われの宇宙人」だ。

「当たり前だ!!!僕は早く元に戻って…みんなと…一緒に…」

「その想いを、なぜミルフィーユ達に伝えられないんですか?日記では恐ろしいほどに一悟と一緒に居たい気持ちでいっぱいだったじゃないですか!!!!」

「なっ…僕の日記を…どうして…」

 ラテの発言に、雪斗は顔全体を赤く染め上げた。それと同時に、クグロフの鞭がプディングとライスに炸裂する。

「悪りぃけど、一悟も、みるくも、ライスも勇者さまもみぃ~んな…お前が口に出さなかった本音、知ってるぜ?だから、昨日一悟はカオスソルベに「一緒に学校へ行こう」って提案したんだ。」

「それに、あなたが日記に書いても、口には出せず、行動にも出せなかったこと…ぜーんぶカオスソルベがやってるんですよ!!!」

「ひょっとして…怖いのか?本音漏らして、一悟達に嫌がられるの…まぁ、顔立ち良くても中身はコミュ障だもんなー?お前…」

 ココアが雪斗を煽ったと同時に、クグロフの蹴りがミルフィーユとカオスソルベの腹部にそれぞれ炸裂した。己の目の前で傷ついていくマジパティ達とカオスソルベ…助けたくても力になれない…そんな雪斗の心の中に、もどかしさが芽生える。




「クグロフ!!!!!学校でのスメルハラスメントは、校則違反ですよ!!!それに、学校内は関係者以外立ち入り禁止です!とっとと去りなさい!!!」


 顔にガスマスクを付け、頭に肌の色と同じ色の鬼の角を付けたメイドとくノ一を合わせた姿をした人物・ティラミスが校舎から現れた。

「誰かと思えば、その生意気な声…ティラミスじゃないか。お前も小娘たち共々いたぶってやろうかい?」

「お生憎さま、私はいたぶられるのは趣味ではありません!!!!相手に快楽の一つや二つも与えられないサディストはお引き取り願います!!!!!」

 そう言いながらティラミスはクナイを使って、クグロフの鞭を切り裂き、プディングとライスをドーナツの締め付けから解放した。

「マジパティども!!!この自称・サディストは、このティラミスが引き受けます!!!!!」

「敵を有利にしてどうするつもりだい?お前もあのカオスソルベとやらと同じ運命を辿るつもりかい?」

「あなたのテロ行為が気に入らないだけです!!!!あなたのニオイを嗅いだだけでも、吐き気が止まりません!!!!!」

 これはチャンスなのか…ミルフィーユとプディングは再び立ち上がる。


「行くぜ、プディング!!!」

「はいっ!!!」


 ミルフィーユは再びミルフィーユグレイブを構え、プディングも再びプディングワンドを構える。

「ミルフィーユパニッシュ!!!!!十文字斬りっ!!!」

 ミルフィーユの攻撃が、カオスイーツ達を次々と切り裂いた。

「プディングメテオ!!!フランベ!!!」

 プディングの放った球体は炎を纏い、カオスイーツを焼き尽くす。カオスイーツはみるみるうちに光の粒子となり、本来の姿に戻っていく。


「くっ…日本に来て初めてだったのに…ティラミス、更に生意気になりおって…」

 クグロフは去り、異臭騒動は解決した。ラテとココアは雪斗を連れて、ミルフィーユ達の所へ駆け寄る。



「み…ミルフィーユ!!!」

「…!?」

「僕…本当は君と一緒に戦いたかったんだ…でも、拒絶されるのが怖くて…つい…強がって…」

 今まで日記でしか話せなかった本音が言えた瞬間だった。今までミルフィーユに対して対抗的な態度をとっていた自分自身への恥じらいが勝り、言葉こそ詰まるが、今なら言える…雪斗はそう確信した。


「僕だって…君と張り合うつもりも…ケンカをするつもりもなかった…また…あの時みたいに遊んでほしかった…友達に…なり…たかった…」


「やっと…言えたね?でも…僕は消える気ないから!」

「それは僕も同じだ…」

 カオスソルベは手のひらに雪斗を乗せ、お互い微笑み合った。その瞬間、カオスソルベの腰にあるノワールスプーンが一瞬にして消え去り、カオスソルベの恰好が変化する。

「ま…まさか…」

 髪型はワンサイドテールからワンサイドアップに変わり、黒を基調としたツーピースのコスチュームも、瞬く間にサン・ジェルマン学園中等部の制服姿へと戻ってしまった。

「変身…解けちゃった…」

 カオスソルベの変身が解けたと同時に、ミルフィーユ達の足元から黒い光が放たれ、ティラミスはフッと笑った。


 ティラミスは、まさにこの瞬間を狙っていたかのように、ミルフィーユ達を横目で見つめる。


「今度こそ、完全敗北を差し上げましょう…マジパティども…カオスソルベと共に…」


「パチンッ」


 ティラミスが指を鳴らした途端、先ほどのカオスイーツ達よりも大きいドーナツカオスイーツがミルフィーユ達の頭上に現れる。


「ぴゃっ…」

「てぃ…ティラミス…」

「吸い込ま…れる…」

 ドーナツの空洞に風穴があいたかの如く、謎の突風にあおられたミルフィーユ達は空洞の中へと引きずり込まれてしまった。


「ドスンッ!!!!!」


 突然の突風が収まった瞬間、グラウンドに尻もちをつく音が響いた。

「きゃっ!!!」

「あうっ…」

「ぐべっ…」

 ライス、ラテ、ココアは空洞からはじき出されるが、そこにはミルフィーユ、プディング、カオスソルベ、雪斗の姿はなかった。

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