第8話「甦る記憶!カオスソルベの正体が明かされる時」

 瀬戌せいぬ市の廃デパートの屋上…カオスソルベは、男物の大きめのTシャツ1枚に黒のオーバーニーソックス、そして青いスニーカー姿で、マカロンが作ったミルフィーユのぬいぐるみを抱きかかえながら、体育座りをしている。


「ミルフィーユ…会いたい…」


 昨日はティラミスに学校へ連れて行かれたが、ミルフィーユもとい一悟が居なかったため、彼女にとっては退屈でしかなった。

「ティラミスのいぢわる…ミルフィーユ、お休みだったじゃん…」

 そう言いながら、カオスソルベは頬をフグのように膨らませる。そして屋上に寝ころび、ミルフィーユのぬいぐるみを空高く掲げる。


「ミルフィーユ…昨日からね…僕の身体の中が騒がしいの。「でたらめを言うな」…だって。おかしいよね…ティラミス、ウソ言ってないもん。鬼だけど…」


「カオスソルベー、お風呂行くよー!!!!」

 屋上の階段から、マカロンの声がして、カオスソルベは咄嗟に起き上がる。

「お姉ちゃんが呼んでる…お風呂行くから、お部屋で待っててね?ミルフィーユ…」

 カオスソルベはそう言いながらルンルンと鼻歌を歌いつつ、屋上をあとにして、入浴の準備のために部屋へと戻った。




「勇者様になんの御用?アントーニオ・パネットーネ!!!」

 突然、アントーニオの正面から1人の女性の声が聞こえた。彼が顔を上げると、そこにはもの凄い剣幕の女性が麻酔銃をアントーニオに突きつけながら立っている。アンニンだ。

「おや…誰かと思えば、キョーコじゃないか。」

「まさか、彼女にアルコール飲料飲ませてないわよね?あなたが彼女にやった前科という前科…慰謝料としてきっちりユーロで償ってもらおうかしら?」

 怒りの表情のアンニンに対して、アントーニオは「自分は悪くない」と言わんばかりに、へらへらと笑う。

「ははは…キョーコ、君は怖いねぇ…僕はあの時、酒におぼれたセーラに介抱してあげただけというのに…」


「セーラ・シュトーレン・クラージュ・シュヴァリエ」…これが勇者・シュトーレンの本名である。スイーツ界に於いて、勇者及び、勇者の右肩ともいえる存在の本名及び、真名を家族や身近な者以外の者が呼ぶのは禁忌とされている。アンニンも勇者・シュトーレンの右肩ともいえる存在であると同時に僧侶としての地位が高い。だが、本名の「アンヌ・リン・ブランシュ」と呼ばれること以上に、どこの馬の骨かもわからない人間界の男に幼馴染の本名を連呼されるのは、彼女にとっては非常に腹立たしい事である。


「あれが介抱?随分と一線を越えた介抱ですこと…勇者様を真名で呼んだだけならず、勇者様に手を出すという事は、私を敵に回すに等しいというのに…」

 アンニンのあまりの怒りに、アントーニオはソファから立ち上がる。

「今日、僕は彼女にパリのカオスイーツの話をしにきただけさ。今日はもう帰るよ…シュトーレン…くだんの失踪事件について、気がかりな所もあるからね。」

 そう言いながら、アントーニオは去ってしまった。


「大丈夫?セーラ…」

「ありがと…アンヌ。何とか…ね?」

 シュトーレンが仰向けの状態から身体をねじるようにソファから起き上がった刹那、突然何かが噴き出る音がした。


「ぶぼっ…」


 一悟いちごが鼻血を吹き出した音だった。

「ティッシュ!ティッシュ!!!」

「あの男とは真逆だなほら、シュトーレン…早く着替えろ。女の子の姿とはいえ、一悟は男子中学生なんだからな?」

「えっ…?」

 突然真名から呼び方を変えた幼馴染に今の恰好をつっこまれた勇者様は、瞬く間に腕で両胸を押さえ、言葉にならない程の悲鳴を上げながら一悟に背を向けてしまったのだった。




「何はともあれ、おかえり。一悟…」

「ただい…ま…」

 先ほどの光景が衝撃的だったのか、2人はどことなくぎこちない。それもそのはず、ソルベよりも大きくて柔らかそうなHカップが殆ど見える状態で、中身が男子中学生の奴の方を振り向くなんて、無防備で敵に攻めに行くようなものであるから。

「エクレールは別件で警察の事情聴取。あとで顔を出しに来るらしい。」

「アイツ…またやらかしたか…」

「今回は被害者の方だ。カオスイーツにされたのが、ちょうどエクレールのあまり入ってなさそうな財布をスった奴で…」

 一言余計である。

「それから、ライスがマジパティに変身できたことを話しておこうと思ってな。」




「あの時は無我夢中でした。ミルフィーユが戦闘にでられず、プディングがピンチになって…その時でした。「こんな時、ミルフィーユだったらどうする」って思った途端、プディングを助けたいっていう気持ちが一層強まって…」

「それで、石化したブレイブスプーンが元に戻ったってワケ…か。」


「ライスのプディングを助けたい想いが、石化した雪斗ゆきとのブレイブスプーンに反応した」

 …まさに奇跡の瞬間だった。


「でもライスが持っているのは、雪斗の強い想いから生まれたブレイブスプーン…それを他の人、ましてやスイーツ界の住人が使うっていう事は、相応の制限がある。特に、雪斗が再びブレイブスプーンを手にした時は覚悟して頂戴ね?」

「はいっ!!!!!」


 スイーツ界の住人がマジパティに変身する…これまでに前例のない事だ。その前例を作ったことによる制約は少なからず存在する。それも、生み出した本人以外の人物が使うならなおさらだ。勇者様からの言葉に、あずきは覚悟を決めた。


「それから、あの男の言っていた「件の失踪事件」だが、あれは恐らく氷見ひみくんの失踪事件のことだろう。」

 そう言いながら、アンニンはテレビの電源を付け、チャンネルを現在ニュース番組が放送されているチャンネルに切り替える。



「先日、埼玉さいたま県瀬戌市で発生した男子中学生の失踪事件について、瀬戌警察署は先ほど、失踪した男子中学生の情報公開をすることを発表しました。」


 テレビの画面が瀬戌警察署内部に切り替わる。記者会見が行われるようだ。その会見の場には一悟の父も、先ほどまでシュトーレンと一緒だったアントーニオもいる。



「この度、4月26日に発生した男子中学生の行方不明事件について、ご家族のご意向も踏まえまして、この度情報公開をする運びとなりました。失踪したのは私立サン・ジェルマン学園中等部の2年生、氷見雪斗。男性、13歳。26日午後3時ごろに中等部正門で雪斗くんが門を出る様子を、守衛の男性が見たのを最後に行方が分からなくなっています。」



「余計なことを!!!何を今更家族面なんて…」

 記者会見の様子に、アンニンが声を荒げる。以前から雪斗の生い立ちを氷見家当主である雪斗の祖父から聞いており、今回の情報公開も明らかに父方の一方的な意向だという事も彼女は気づいている。

「どういう…ことだ?」

「虐待だ…彼はプールの授業をいつも見学するだろ?…それ、虐待による火傷の跡を隠すためなんだ。それに、彼のコミュニケーションに対する問題、簡単な算数ですらできなかった小学校6年の時の話…彼は「氷見雪斗」を名乗る前に、父親と父方の祖父母に虐待され続けていたんだ。」

 アンニンの話に、一悟達はどよめく。先日聞いたコミュニケーション能力の問題以外にも、雪斗の過去は想像を絶する話が多いようだ。

「やけに詳しいのね?」

「氷見くんのおじい様、たまにお忍びで将棋を打ちに保健室にくるんだ。その時、氷見くんの話を何度か聞いているってワケ。今日もそれで保健室に来ていたんだ。」

「それでは…この情報公開は…」

 僧侶の話を聞いたライスは、テレビの会見内容に対して思わずゾッとする。

「氷見家の意向ではない。情報公開を促したのは、十中八九…氷見くんの父方の祖父・今川武夫いまがわたけおが仕組んだこと。」

 アンニンがそう言うと、一悟は何かを思い出したような表情を浮かべる。

「今…川…?」




「い…いまがわ…ゆき…と…」


 一悟が雪斗に初めて出会ったのは、中等部の入学式ではない…一悟は、やっとそれに気づいたのだった。



「きょうは いちごんと あそんだ。」

「いちごんと あそぶの たのしい。」

「あしたも いちごんと あそびたい。」



 シュトーレンが仕事に戻り、みるくとあずき、そしてアンニンが帰った後、一悟はリビングで、シュトーレンが預かっていた雪斗のカバンの中に入っていた日記帳を読んでいる。古ぼけた水色の日記帳…名前の所は、「氷見雪斗」となっているが、明らかに修正テープで消された痕跡がある。それは、平仮名で「いまがわゆきと」と記されているからだろう。幼い5歳児の日記は1週間で途切れている。そして、途切れた次のページから筆跡が変わった。



「5年ぶりに木いちごヶ丘に来た。これからまた、れいととみかんといっしょにいられる。」

「タマねぇと会った。かみを切ってもらった。」

「国会ぎいんの先生がおじいさまに会いに来た。これでぼくもやっと「氷見雪斗」になったんだ。」



 小学校5年生にしては、漢字の少ない字…アンニンの言う通りだ。雪斗は小学生の頃、学校に通わせてもらえなかった。病気やいじめではない。父親、父方の祖父母による虐待…そこから段々と毎日書くようになり、漢字も増えている。



「今日、テレビでいちごんが出ていた。スポーツ推せんでタマねぇの通うサン・ジェルマン学園に合格したそうだ。」



「…!?」

 小学校6年の時の辺りで、5歳の時の日記で記された「いちごん」が再び出てきた。丁度その時期は、母が「あの人は今」という番組に「ボナパルト森野もりの」として出演する事になり、その時一悟も姉の一華いちかも「ボナパルト森野の子供」として紹介されたのだ。一悟が空手でサン・ジェルマン学園のスポーツ推薦に合格したのも、ちょうど収録の時だった。



「タマねぇに、いちごんのスポーツ推せんの事を話した。そして、僕はサン・ジェルマン学園の入試のために勉強をがんばることにした。」



 恐らく勉強が忙しくなったのか、秋ごろから毎日ではなくなっている。一般入試のあとは行数が減ったものの、毎日書くようになっている。そして…




 桜舞う入学式…あの時、教室で初めて交わした会話…

「久しぶり、いちごん。」

「誰だよ、お前…何で俺の昔のあだ名知ってんの?」

「覚えてないのかい?5歳の時、一緒に遊んだじゃないか?」

「お前みたいな男と遊んだ記憶、ねェもん。」


「それじゃあ…あの時…」

 ミルフィーユとしてソルベと戦った時の言葉の数々を再び思い出す。あれは確かに「氷見雪斗」の言葉だった。入学式以降の日記に目を向ける。異常なほどに、殆ど一悟の事しか記されていない。



「いちごんの傍に居たい。でも、いちごんにはいつも米沢みるくが居る。何であんな簡単にいちごんに近づくのか分からない。」

「僕だっていちごんの友達なのに、いちごんは僕を友達だと思ってくれない。」



 段々と日記が今年の4月になる。



「いちごんが女の子に変身し、僕の目の前で戦った。氷の怪物はとても固く、いちごんは歯が立たなかった。だからこそ、僕もいちごんの助けになりたかった。」

「高萩あずきに、変身したいちごんの事を聞かれた。ファンクラブの人間…ましてや会長に、いちごんの前で素直になれない事を知られたくなかった。」



「自分が許せない…いつもいちごんに助けられているのに、僕は最初の変身でいちごんのピンチを救っただけ。そんな自分が許せない。」



 日記はそこで止まっていた。雪斗が勇者の力を使ってまで、してきたこと…それは5歳の頃から思い続けていた、友達・一悟と一緒にいるための事。しつこく部活に誘うのも、一悟と一緒にいるため。虐待されている間も思い続けていた友達…それが一悟だった。




 雪斗の失踪事件がおおやけになり、一夜が明けた。一悟はある場所へ向かって走り込みをしている。昨日は雪斗の日記帳を見てしんみりとしてしまったが、一悟はあの日記帳を見て、尚更雪斗を「ブラックビター」から取り戻したいと誓った。千葉ちば一悟として、話をつけるために。


 目的地に到着する。いつもなら飼い犬の散歩コースだった公園も、マジパティになって以降は因縁の場所と成り果てた。

「ここで…アイツはソルベに変身したんだよな…」

 ソルベに変身していた雪斗は今、どこへ行ってしまったのだろうか…それは誰もわからない…



「ミルフィーユ、強いもんねー♪」


 突然カオスソルベの声がして、一悟は辺りを見回すと、男物の大きめのTシャツを胸の下辺りを黒いリボンで結び、下は黒のオーバーニーソックスと青いスニーカー姿に、ミルフィーユのぬいぐるみを抱える少女が、雪斗の弟・冷斗れいと、妹・みかんと無邪気な表情で話をしている。そんなカオスソルベを見ていると、どことなく面影が雪斗と重なる…

「まさか…な…」

 もしそうだとしたら、このままカオスソルベのままでいさせていいのだろうか…いや、失踪事件が公になってしまった以上、このままではいけない…一悟の頭の中には葛藤が生まれだす。

「でも…ミルフィーユは、お兄ちゃんを連れて来てくれないんだ…」

「雪斗お兄ちゃんだって…ミルフィーユのこと、大好きなのに…」

 その言葉を聞いて、ミルフィーユもとい一悟は胸が痛くなる。

「大丈夫だよ…きっと、ミルフィーユはお兄ちゃんを連れて来てくれる。ミルフィーユが好きなら、信じてあげなよ…」

 双子の言葉に、カオスソルベはそっとなだめる。その様子は、まるで双子達とは血縁関係があるような雰囲気だ。そこへ…


「どこをほっつき歩いていると思ったら、今回の私のターゲットと接触していたとは…いいでしょう!カオスソルベ!!!そこの兄を失った少年の本性を、しっかりとその目に焼き付けるのです!!!!!」


 茂みの中からティラミスの声がした途端、黒い光が放たれ、その黒い光は冷斗の身体に直撃してしまった。

「うわああああああああああああ!!!!!!」

「冷斗!!!!」

「レイト…」

 カオスソルベ、そして双子の妹の目の前で、7歳の男の子はアイスクリームのような巨大な怪物へと変化を遂げる。


「さぁ、存分に暴れなさい!!!アイスカオスイーツ!!!!!兄への憎しみを力に変えるのです!!!」


「れ…冷…斗…」

 突然双子の兄が怪物となってしまい、みかんはこの世の終焉を見てしまったかのような表情をしながら怯えている。そんなみかんをカオスソルベはぎゅっと抱きしめる。

「ティラミス…鬼っていうより…悪魔…お姉ちゃんのほうがまとも…」

「マカロン様並みに言ってくれますね…ターゲットの予定はありませんが、あなたがそこまでガードするのなら…妹の方もカオスイーツにさせて差し上げましょうか?」

 カオスソルベの言葉に、ティラミスはどことなく怒りを露わにしているような口調で答える。そんなカオスソルベは彼女に向かって「べーっ」と、舌を突き出している。




「いっくん!!!!!」


 突然、一悟の背後からみるくの声がして、振り向くとみるく、あずき、ラテ、ココアが走って来る。

「カフェに行ったら、勇者様が「公園に行ったんだろう」って仰ってまして…」

「とにかく、カオスイーツが現れた以上…行くぞ、変身だ!!!」

「おっけー!!!」

「かしこまりましたわ!!!!」

 咄嗟にエンジェルスプーンを構える一悟の言葉に、みるくとあずきはブレイブスプーンを構える。


「「「マジパティ・スイート・トランスフォーム!!!!!」」」


 ピンク、黄色、水色の光が3人を包み、一悟はピンク色のロングヘアー、みるくは金髪のロングヘアー、あずきは紫色のロングヘアーにそれぞれ変化する。それと同時に3人は背中合わせとなり、一悟の右手はみるくの左手が握り、みるくの右手はあずきの左手、あずきの右手は一悟の左手がそれぞれ握りしめる。髪をなびかせながら、トップス、スカート…と、上から順に光の粒子によって装着され、それぞれのコスチュームに合わせたかのように、太ももから足元にかけて光の粒子によって装着される。一悟にはチョーカー、みるくにはチョーカーとアームリング、あずきには着物と同じ色合いの振袖が装着される。手袋、手甲、イヤリングが装着されると、今度は全員身体をくるりと回し、向かい合う。一悟の髪はポニーテールに結われ、もみ上げの毛先がくるんとカールし、みるくの髪は触角が現れ、ツーサイドアップにされた髪ともみ上げが縦ロールにカールし、下された髪は2つに分けられ、それぞれ毛先をオレンジ色のリボンで結われる。あずきは再びツインテールに髪を結われ、毛先は腰の辺りでくるんとカールする。それぞれの腰にチェーンが現れると、そこにエンジェルスプーンが付くと、3人の瞳の色が変わり、変身が完了する。


「ピンクのマジパティ・ミルフィーユ!!!」

「黄色のマジパティ・プディング!!!」

「ブルーのマジパティ・ライス!!!」


「スイート…」

「「レボリューション!!!」」


「「「マジパティ!!!!!」」」


 3人そろって初めての変身…最後はハモって、ポーズもバッチリ決まった。3人は目線をカオスイーツの方へ向ける。カオスソルベはみかんをぎゅっと抱いて離そうとしない。

禍々まがまがしい混沌こんとんのスイーツ、勇者の力で木っ端微塵こっぱみじんにしてやるぜ☆」

 ミルフィーユがいつもの名乗りを決めたと同時に、ティラミスはマジパティの存在に気が付いた。

「現れましたか…マジパティども。カオスソルベの方はおいといて、ご説明いたします!今回のカオスイーツにした人間は、氷見雪斗の弟・氷見冷斗!!!僅か1歳で氷見家の当主としての厳しい教育を受けさせられたものの、兄の親権が母親になった途端、当主の跡を継ぐのがその兄となってしまった、実に哀れなお子です!!!」

「…あたしの知ってる鬼さん、子供を巻き込んだりしないのに…悪魔…」

「ユキ様の弟までをもカオスイーツにするなんて、卑劣極まりないですわ!!!」

「カオスソルベ共々、何度でも罵りなさい!!!さぁ、カオスイーツよ!マジパティどもを追い詰めるのです!!!!!」

 カオスイーツの正体を聞いたマジパティ達にまで、ボロクソに言われ、ティラミスの怒りのボルテージがさらに上がった。


「とにかく、氷見の弟を元に戻さねぇと…でやあああああああああっ!!!」

 ミルフィーユはカオスイーツにパンチを連続で浴びせるが、カオスイーツはビクともしない。

「プディング・サーチャー!!!!」

 プディングは頭の触角を動かして、カオスイーツの弱点を探ろうとするが、その途中でカオスイーツにはねのけられてしまう。

「みゃっ!!!!」

 はねのけられたプディングは尻もちをついてしまった。

「それなら、コレをお見舞いいたしますわ!!!ピオニーファン・スライサー!!!!!」

 今度はライスが白い扇子を飛ばし、カオスイーツを切り刻もうとするが、カオスイーツは扇子を全て跳ね返した。


「流石はマジパティだった者と血を分け合った者…硬さは折り紙つきですね!!!」

「これが本当の「カオスイーツスゴクカタイアイス」ですわ…」

「こんなトコでハッシュタグ使うな!!!!」


 カオスイーツは突然口から冷気を放ち、冷気を浴びた大地からは白い人形が無数に現れた。その瞬間、ラテが悲鳴を上げる。

「ぴええええええええええっ!!!!!集合体っ!!!!気持ち悪いっ!!!!」

 ラテはかねてからトライポフォビア(集合体恐怖症)であり、ハチの巣、アリの巣、ハスの実、そばかす…と、小さな穴や斑点が集まったものが大の苦手だ。


「ラテ!!!ぴゃっ…動けない…」

 プディングは怯えるラテを助けようとするが、白い人形達に両脚の動きを封じられてしまう。プディングだけに限らず、ミルフィーユとライスもカオスイーツが生成した白い人形達に襲われる。

「うわっ!!!つめてっ!!!!!」

「服の中まで入って来ないでくださいましっ!!!!」

「そう悲鳴を上げるのも今のうちですよ?その白い人形達は徐々にあなた方の体温を奪っていきます!!!!!」

 ティラミスがそう言うと、白い人形達はミルフィーユの太ももをまさぐり、ライスの腋からコスチュームの中へと侵入…さらには、プディングの胸を白い布の中で徘徊していった。


「と、とにかく…私が助け…ぴえええええええっ!!!!やっぱり怖い!!!吐き気するうううううう!!!!」

 ラテはミルフィーユ達を助けようとするが、やっぱり苦手なものは苦手で、勢い余って木に激突してしまった。

「んげっ!!!!!」

 木に激突したラテは、みかんを守るカオスソルベの足元へと落下した。

「お姉…ちゃん?」

「ここでじっとしててね?レイトは必ず元に戻すから…」

 そう言いながら、カオスソルベは黒いティースプーン・ノワールスプーンを構える。


「カオス・ビター・トランスフォーム…」


 黒い光を放ちながら、カオスソルベは瞬く間に黒を基調としたコスチュームに姿を変え、髪もワンサイドテールへと変わる…



「さぁ、カオスイーツ!!!もっと白い人形を出すのです!!!!」

 ティラミスの言葉に呼応するかのように、カオスイーツは口を開こうとするが…


「とおっ!!!!!」


 カオスソルベの突然の蹴りで、カオスイーツは数十センチほど後退した。

「混沌の使途・カオスソルベ…ミルフィーユ達をこれ以上襲わせはしない…」

 そう言いながらカオスソルベは黒い長弓を出し、カオスイーツに黒い矢を向ける。


「カオス…シュート…」


 カオスソルベの放つ黒い光の矢は、見事にカオスイーツに直撃するが…

「残念でしたね!!!カオスイーツにカオス様の力をぶつけるなど、カオスイーツを強くするためのドーピング行為ですよ!!!!!」

 ティラミスの言葉に、カオスソルベはむっとした。ティラミスの言葉通り、カオスソルベの攻撃を受けたカオスイーツは身体を大きくし、さらに冷気が強まり、白い人形達がさらに増えた。

「うわっ…そこは冗談ならねぇっ…」

 白い人形がとうとうミルフィーユのスパッツの中に侵入し始め、ミルフィーユはこれまで感じたことのない感覚を覚えた。

「さて…ただ辱めるだけでは面白くありませんね…スキだらけですよ?カオスソルベ…」


「きゃあああああああっ!!!!!お姉ちゃーーーーーーん!!!!!」


 なんと、カオスイーツは避難していたみかんを捕まえてしまったのだった。

「ミカン!!!!」

「さぁ…これ以上カオスイーツに攻撃してみなさい…さもなくば、氷見みかんの命は保証いたしませんよ?」

「く…くそっ…小さい子を盾にするなんて…」




 マジパティ側の劣勢の状態は、深刻だ。突然、ライスの帯留めの飾りが「ピコンピコン」と、電子音を響かせながら赤く点滅し始めた。

「そ…そんな…」

 スイーツ界の住人が変身したことによる制約…それはマジパティとしての活動時間の制限と、強力な決め技が使用できないことだった。帯留めの飾りの点滅が止まったと同時に、ライスは白い光を放ち、一瞬にして高萩あずきの姿へと戻ってしまった。変身が解除されていても、白い人形達はあずきから離れない。

「おや…新しいマジパティは3分しか活動できないのですか…これは好都合です!!!さらにマジパティとカオスソルベを追い詰めなさいっ!!!!!」

 カオスイーツはまた口から冷気を放ち、さらなる白い人形達を生み出す。今度はミルフィーユにまとわりつく白い人形達を引きはがそうとするカオスソルベのコスチュームの中にも侵入し始めた。

「あうっ…」


 今度のターゲットはカオスソルベだけではなかった。ラテも白い人形達にまとわりつかれ、とうとう泡を吹いて失神してしまった。

「ぶくぶくぶく…」

 白い人形達は、徐々にマジパティ達の体温を奪っていき、元々寒いのが苦手なあずきは、ついに白い人形達に埋め尽くされた。それでもミルフィーユを助けようと、カオスソルベはミルフィーユにまとわりつく白い人形達を引きはがそうとする。


「ぺろんっ」


「ちょっ…お前、胸っ!!!」

 白い人形達の1人が、ミルフィーユの目の前でカオスソルベのトップスを掴み、カオスソルベの左胸をまるごとミルフィーユの前で晒しものにしてしまった。ミルフィーユにとっては、色々な意味で危ない状況である。後方にいるプディングは、すでに胸を覆う白い布がずれており、押さえるものを失ったプディングの胸を白い人形達が這いずりまわる。さらに至近距離には、カオスソルベが片方の胸だけはだけさせているという光景だ。これには、流石のミルフィーユの理性も限界である。

「うぐっ…」

 白い人形達はさらにミルフィーユを追い詰める…普段はガードの固いミルフィーユのスカートの中から、スパッツが引きずり下ろされたのである。これ以上ないぐらいの恥ずかしさに、ミルフィーユは今にでも泣きそうだ。




「パンっ!!!!パンッ!!!!!」


 その時、突然2発の銃声が鳴り響き、その銃声がティラミスを襲った。ティラミスは咄嗟に避けるが、相当腕の立つ者が現れた事を、彼女は確信した。そして、ミルフィーユ達はそのスキにコスチュームを直す。

「何奴!?このティラミスに対し、なんたる無礼な!!!名を名乗りなさい!!!!!」

 ティラミスがそう叫ぶと、電灯の上に突如1人の少女が現れた。銀色のワンサイドアップのロングヘアーをなびかせ、マジパティと似たような紫と黒を基調としたコスチュームに、菫色の仮面…身体つきはソルベとほぼ変わらないようだ。そんな少女は、紫色の拳銃をティラミスに向けている。



「ルミエール・デ・ピストレ!!!マジパティに倣って「サントノーレ」とでもしておきましょうか。」


 銀髪の少女は「サントノーレ」と言った。そんな彼女は電灯から飛び降りるや否や、ティラミスに拳銃を突きつける。

「カオスイーツにした人間の個人情報をベラベラ喋るなんて、随分と親切なオグルね?私の銃がお礼を言いたがってるの。受け取ってくれるわね?」



「パーーーーーーーーーン!!!!」


 サントノーレは、喋りながらティラミスに向かって拳銃のトリガーを引くが、ティラミスは咄嗟に避ける。

「どうやら只者ではないようですね?ですが、こちらには人質がいます!!!これ以上銃を放つなら、人質の命はありません!!!!」

 ティラミスはカオスイーツの近くまでバク転し、持ってるクナイをみかんに突きつける。

「ひっ…」

「な…なんてヤツ…」

「そう…それでいいわ。それでこそ立派なメッションよ、あなた。」

 銀髪少女の口元から、余裕であることが伺える。彼女はそう言いながら拳銃を空高く投げ飛ばし、フッと音を立てて消えた。


「いいことを教えてあげましょうか?本当のヒーローってのはね…民間人を撃ったり、盾にしないのがセオリーなの…」


 ティラミスが消えたかと思った刹那、サントノーレはカオスイーツの至近距離までやって来るや否や、飛び上がって右足に炎を纏わせる。

「よっ!!!!!」

 そう言い放つサントノーレの炎をまとった蹴りが、カオスイーツの腹部に炸裂する。その炎を纏った蹴りはカオスイーツの腹部を凹ませ、カオスイーツは思わずみかんを手から放してしまった。


「ミカン!!!」

 空中に放り出されたみかんをカオスソルベが受け止めるが、カオスソルベはみかんを抱きかかえたまま、背中を激しく打ち付け、バウンドした。幸いにもみかんに怪我はなかったが、カオスソルベのコスチュームは背中の部分が大きく破れ、そこからタバコを押し付けられたような跡が露わになった。


「あ…あれは…」

 カオスソルベの背中を見て、ミルフィーユはある話を思い出しかけるが、それを遮るかのように、右手に放り投げたはずの拳銃を持ったサントノーレがミルフィーユの背中を「ポン」とたたく。

「あとはみんなで何とかすることね!オルヴォワ♪」

 そう言いながら、サントノーレはどこかへ去ってしまった。


「あんな固てぇヤツ、どうしろって…」

 ミルフィーユがそうぼやくと、プディングはある事に気づいた。

「ミルフィーユ、今回はあたしに任せてください!!!気づいたことがあるんです!」

「気づいたこと?」

 突然のプディングの発言に、ミルフィーユは驚きを隠せない。

「はい…なので、カオスイーツが生成した人形たちはお願いします!あたしが元を絶ちますので…」

 そう言いながら、プディングはカオスイーツの前に立ち、プディングワンドを構える。

「あぁ、任せたぜ!!!ライス、ラテ、今助けるっ!!!!!」

 ミルフィーユはミルフィーユグレイブを構え、アイスカオスイーツが生成した白い人形達に埋め尽くされたライスとラテの救助を試みる。



「ミルフィーユの拳と蹴りが効かず、先ほどのサントノーレの炎を纏った蹴りが効いたのは…恐らく、カオスイーツの身体の中に含まれている空気が少ないから。空気の少ないアイスは濃厚な味わいですが、そのままいただこうとすると固いんです。そして含まれている空気が少ない分、断熱効果は一目瞭然っ!先ほどのサントノーレの蹴りで証明されました!!!」

 プディングの言葉と同時に、プディングワンドの球体がぐるぐると回転を始める。回転が収まったと同時に、プディングワンドは黄色い光を放つ。


「プディングメテオ!!!フランベ!!!」


 カオスイーツの頭上から炎を纏った大きな球体が降ってきて、カオスイーツをみるみるうちに溶かしつくしてしまった。

「アデュー♪」

 プディングがそう言いながらウインクをすると、カオスイーツは光の粒子となり、みるみるうちに氷見冷斗の姿へと戻っていく。カオスイーツが元の姿に戻った事により、カオスイーツが生成した白い人形達は消え去った。

「大丈夫か?」

「えぇ…助かりましたわ。」

「怖かったですー…」

 集合体恐怖症のラテは、涙目になりながら咄嗟にミルフィーユに抱きつく。

「くっ…またしても…カオスソルベ、帰ってきたらお説教です!!!」

 そう捨て台詞を吐きながら、ティラミスはフッと音を立てて消えてしまった。




「虐待だ…彼はプールの授業をいつも見学するだろ?…それ、虐待による火傷の跡を隠すためなんだ。」



 何事もなかったかのように遊ぶ冷斗とみかんを見つめるカオスソルベ…背中にあるタバコを押し付けられたことによる火傷の跡が、一悟達を認めたくない現実に陥れる。

「あ…あの火傷の跡は…」

「カオスソルベ…お前…本当は…」

 昨日のアンニンの言葉が脳裏に甦る。双子達と一緒にいる時のカオスソルベと重なるあの面影…



「気づいちゃったんだね…僕の媒体のこと…」

 そう言いながらカオスソルベは、ミルフィーユ達の方へ振り向く。

「媒…体…?」

「そうだよ…僕は氷見雪斗の身体を媒体として、お父様に力を分け与えられて生まれた。媒体のことはミルフィーユの事しか覚えてなかったけど、大体はマカロンお姉ちゃんとティラミスから聞いてる。傲慢ごうまんで、自己中で、素直じゃない癖に、マジパティとしては最弱だって…そんなんだから、勇者様からマジパティとしての地位をはく奪されたんだ。」



「違う!僕は傲慢で自己中なんかじゃないっ!!!」


 まるでカオスソルベの言っている事を否定するかのように、どこかから雪斗の声がした。

「やかましい…媒体は媒体らしく大人しくしてよ。ウザいんだよ…」

 雪斗の言葉に対して、カオスソルベが一蹴する。

「氷見雪斗の失踪事件が全国に知らされたのは知ってる…でも、変に強がり続けてずっと1人ぼっちのままでいる奴なんて、もういなくなっていいと思う。レイトとミカンには悪いけど…」



「だったら、早く僕の身体を返せ!!!」


「返さないって言ってるでしょ!!!!!」

 カオスソルベは、今度は声を荒げた。

「僕はお前と違って、ミルフィーユとケンカするつもりなんてない!!!ただ「トモダチになりたい」、「一緒に戦いたい」って言えば済む話を、ここまで引っ張った分際で…だから、お父様の力がカオスイーツを強める力であろうとも、僕はミルフィーユと一緒に戦うもん。媒体は引っ込んでなよ…」

 そう言いながら変身を解くカオスソルベに対して、雪斗の言葉は出てこない。そんなカオスソルベと雪斗のやり取りに、一悟は不意にある事を思いついた。


「カオスソルベ…明日、一緒に学校へ行こう!!!お前に…話したいことがある…」


「「「ええええええええええええええええっ!!!!??????」」」

 一悟のその発言に、みるく、あずき、ラテは驚きを隠せない。


「このままだと俺も…お前も…前に進めない…」

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