第3話「プディング誕生!ミルフィーユの弱点見たり!」

 瀬戌せいぬ市にあるとある大型スーパー跡地…ここにはかつてザティ瀬戌店として営業していたが、アメリカのとある銀行の経営破綻の影響を受け、閉店。それ以降は駅から遠いこともあり、一切のテナントが入らず、解体すらされず廃墟と化した建物である。


 その廃墟にムッシュ・エクレールがやって来た。彼の目の前には、黄緑色のピッグテールに黒を基調としたゴスロリ服の少女と、額から2本の肌と同じ色の鬼の角を生やした黒髪の和装メイドらしき人物が彼の帰りを待つかのように佇んでいる。

「「また」しくじったのぉ?エクレール…」

「昨日みたいに、また「マジパティがー」とか仰いませんよね?」

「ぐっ…」

 どうやら図星のようだ。

「それなら、マカロン!!!貴様も現場へ行ってみたらどうだ?この私の苦労がどれほどかわかるはずだ!!!」

「えぇー…めんどくさーい…」

 ピッグテールの少女は「マカロン」という名前のようだ。

「マカロン様は、動画配信者としての活動でお忙しいのです。これ以上、「ブラックビター」の顔に泥をお塗りになられるのでしたら、このわたくし・ティラミスが出向きましょうか?」

「えぇ~…ティラミス、まだ僕の傍に居てよぉ~…」

 ティラミスの言葉に、マカロンはフグのようにぷーっと両頬を膨らませた。

「マカロン様、可愛いお顔が台無しですよ?」

 そう言いながら、ティラミスはマカロンに笑顔で囁く。そして、再びムッシュ・エクレールに向かって不機嫌そうな顔をする。

「ムッシュ・エクレール、カオス様は待つのがお嫌いであらせられます。さっさとマジパティを始末してきてください!!!」

 ムッシュ・エクレールは苦虫を噛み潰したように、マカロンとティラミスを睨みつける。




 翌朝、サン・ジェルマン学園中等部―



一悟いちご、これだけは約束して!「彼」と争わなければならなくなった時ができたとしても、「マジパティの本来の目的」と「勇者の能力は誰かを救う力である」という2つの事を思い出してちょうだい!!!」



 桜舞う通学路の中、一悟は昨日シュトーレンから言われたことを頭の中で繰り返していた。雪斗から言われた事は確かに悔しくも悲しくもあったが、「マジパティの本来の目的」と「勇者の能力は誰かを救う力である」という2つの言葉、そしてパリにいる白銀のマジパティの存在が彼の背中を押した。その様子に、暫く一悟と一緒にいることにしたラテもどことなくうれしそうだ。

「今日はみるくさんは一緒じゃないんですね?てゆーか、昨日もお家に居ませんでしたけど…」

「みるくは今日、去年の飼育委員ってコトで、ウサギの飼育当番として早く学校にいるんだ。昨日は、朝から病院。けいさん…いや、みるくの父ちゃん、この間映画の収録で足をケガしちまって…」

 みるくの父・米沢桂よねざわけいはアクション俳優「椎名元哉しいなもとや」で、かつては特撮ヒーロー番組「ミラクルマン」シリーズで主役を務めていたことがある。家に居ない事が多いが、一悟はみるくの父親にとてもよく懐いている。通学路を走りながら、一悟はリュックの中にいるラテに聞こえるように話す。昨日ココアを勇者の家に置いて行った事もあり、ラテはちょっとご機嫌だ。


 正門をくぐり、昇降口へ入る。一悟が自分の下駄箱を開けると、そこには一通の手紙が入っていた。一悟は青い花柄の封筒の封を明ける。そこには封筒と同じ柄の便箋と、写真が何枚か入っていた。



「ミルフィーユさま


 突然のお手紙失礼します。

 私はあなたの正体を知っています。

 バラされたくなければ、昼休みに特別棟屋上に通じる階段の踊り場まで来てください。


 あなたの正体を知る者より」



 便箋にはそう記されていた。写真は全部ミルフィーユに変身した一悟が写っており、一悟とラテは思わずぞっとした。

「ミルフィーユの写真ってことは…まさか…あの氷見ひみって男…」

「まさか!あんな奴がこんな女子力たけぇ便箋使うワケねぇし…筆跡もいかにも「女子が書きました」ってぐらい、可愛げのある字なんて書かねぇし…」

 その刹那、一悟は筆跡からとても身近な人物が描いたのだろうという事に気づいた。




「オーッツッホッホッホ!!!待ってましたわ!千葉一悟…いいえ、ミルフィーユ様!米沢みるくの筆跡を真似たのは大正解でしたわ!!!」


 昼休みになり、特別棟屋上へと続く階段の踊り場に向かった一悟とラテが見たのは、予想外な人物だった。

「た…高萩たかはぎあずき…」

 黒のストレートロングを頭頂部でツインテールにまとめて青いリボンで結び、サン・ジェルマン学園中等部女子制服に水色の腕章を付けたお嬢様…一悟の隣のクラス・2年B組の生徒で、雪斗のファンクラブ「Club YUKIクラブ・ユキ」の会員番号1番・高萩あずきである。この学園の中で、一悟にとっては雪斗の次に天敵である存在…それがこの人物なのである。

「オーッホッホッホ!!!覚えて下さって光栄ですわ!姿が千葉一悟でなければの話ですけど…」

 一悟は事あるごとに雪斗と突っかかるため、雪斗のファンクラブの女子達からは目の敵にされている。

「それに、ラテ!お久しぶりですわね。」

「えっ…私の名前を知ってるってことは…」

「えぇ…ワタクシは勇者・シュトーレン様を探すべく、人間界へとやって来た1人である「ライス・ケーキ」ですわ。もっとも…こちらでの両親は人間界の方々ですが。」

 あずきの衝撃的な事実に、一悟とラテは目を皿のように丸くした。

「ミルフィーユ様はとても勇ましい…勇者様を思い出すように…」

「ミルフィーユが気に入ったなら、ソルベの方も…」

 一悟がそう言いかけると、あずきはミルフィーユを思い出しながらウットリとしている表情から、もの凄い剣幕の表情に切り替わった。

「あんなクッソ傲慢でデカパイな輩のどこを慕えと仰るのですっ!!!!!あの輩の正体がユキ様でなければ、思いっきりディスりましたけどねっ!!!」

「「傲慢」な所は、お前も同じだろ」…と、一悟とラテはそう思うが、ここはあずきには言わないでおこうと心に決めた2人だった。


「だから…千葉一悟…ワタクシをスイーツ界の住人の1人として、マジパティとしてのあなたをサポートさせていただきたいのです!!!」


 一悟は「冗談か?」と思ったが、あずきはいたって本気な目をしている。

「それなら、黄色のマジパティで確…」

 一悟はそう言いかけるが…


「マジパティになることだけは、お断りします!!!マジパティに変身できるのは、原則として勇者様が飛ばされた世界の住人のみ…ワタクシのようなスイーツ界の住人がマジパティになるのはあり得ませんわ!!!」


 あずきは悔しそうな表情を浮かべつつ、マジパティになることを拒んだ。その言葉には、ラテも納得するしかなかった。

「スイーツ界の住人や精霊がマジパティになるなんて、あってはならない事…白銀のマジパティも、パリに居た人間界の者…人間界の者以外がマジパティになるなんて…」

「ラテ…」

 ラテの悲しげな表情に、一悟は何も言い返せなかった。


「だから…ワタクシはマジパティになりません!!!その分、スイーツ界の住人としてミルフィーユ様をサポートさせてくださいましっ!!!」


 マジパティになれない自分を悔やみつつ、スイーツ界の住人としての意志を見せるあずきの言葉に、一悟の返事は1つだった。

「勿論だぜ!!!」


 昼休みが終わり、放課後…今日は弓道部の活動日である。あずきは弓道着に着替え、射場しゃじょうへ赴くと、そこには既に雪斗が弓道着に着替え、弓を構えていた。凜とした姿勢、鋭い視線…そして、1本の矢が雪斗の右手から離れた刹那、撃ち放たれた矢は的の中央に命中した。

「ユキ様、今日も素晴らしい射形でしたわね。ですが、ユキ様の今の矢には迷いがありました。何か…事情がおありでも?」

「別に…何でもない…」

 あずきの言葉に雪斗はそう答えるが、何でもなくはない…昨日の木苺ヶ丘きいちごがおか中央公園に現れたカオスイーツの件で何かがあった…あずきはそう確信した。ちょうどここにはあずきと雪斗の2人だけ…あずきは意を決して昨日の事を聞き出そうとするが…

「ところで、ピンクのマジパティ…いえ、木苺ヶ丘に現れたピンクの長身の女性のことは…」

「アイツはいずれこの僕が倒す…アイツさえいなければ、僕の家族は事件に巻き込まれなかったんだ!!!」

 その言葉を聞いたあずきの頭の中で大噴火が発生し、大量の火砕流が小さなソルベの集団を次々と飲みこんだ。



「やっぱり、マジパティに変身したユキ様の態度はクソクソクソォーーーーーーーーーっ!!!!!!」



 噴火した火山の背後では、某どくろ怪獣の着ぐるみを着たあずきが火を噴いた。


「ただいまー…」

 極真空手の練習が終わり、カフェ「ルーヴル」でシュトーレンに会いに行き、自宅に帰宅した一悟は、玄関でにこやかな表情に反して、怒りのオーラを纏ったみるくと出くわした。

「おかえり、いっくん。極真会館に行ったにしては…遅かったね?」

「そ、それは…その…後で話すっ!!!」

 そう言いながら部屋へ入ろうとするが、一悟の腕をみるくが離さんとばかりに力強くつかむ。


「ねぇ…マジパティって何?勇者様って…誰?」


 一番バレてはいけない相手に、バレてしまった瞬間であった。一悟とラテは腹を括るかのように、みるくを一悟の部屋に入れ、この3日間の事を説明した。みるくは一昨日助けてくれたミルフィーユが一悟であることに気づいていたようで、一悟とラテが思った以上にすんなりと納得した。


「やっぱりそうだったんだ…あの女の人がいっくんだったんだ…」

「黙ってて悪かった…でも…お前を危険な目に遭わせたくなくって…」

 一悟にとって、これほどの後ろめたさはあるのだろうか…今でも脳裏に甦ってくる…みるくの母・米沢かえでの最期の言葉…



「一悟くん…どんくさい娘だけど…みるくのこと…頼んだわよ…」



 無残に転がるみるくの弁当箱の中身…血塗られたみるくのお稽古カバン…そして、段々と大きくなる救急車のパトライトとサイレンの音…あの日、みるくの母は、8歳の一悟の目の前で息を引き取った。それ以来、一悟は何があってもみるくを守ると誓った。みるくを守るために極真空手も始めた。勉強はみるくに教えてもらうこともあるが、それでも千葉一悟にとって米沢みるくは一番守るべき存在なのだ。


「危険な目って…何?あたしはいっくんにとって…守られるためだけのお人形?」




 みるくの口から放たれたその言葉に、一悟は何も言い返せなかった。一悟の母が仕事から、一悟の姉が部活の練習からそれぞれ帰宅し、みるくも大学生の兄の帰りを待つため、自宅に戻った。自身は一悟の家で済ませたため、今日は兄のための食事のみを作る。母が生きていたころは主に母が作っていたが、母亡き今は、一悟の母の指導の下、兄共々料理を教わった。現在兄は東京の大学へ在籍しているため、帰りが遅い。時々、日付が変わる頃に帰宅する時もあるくらいだ。兄の夕食を作り終えたみるくは、浴室の中、1人で考える…



 どうしていっくんは、あたしを守るの?

 あたしは「守って」って頼んでない…

 どうしてもいっくんが「守りたい」って言うなら

 あたしがいっくんの事を「守らせて」よ…

 あたしだけが「守られる」なんて不公平だよ…



「いっくん…ミルフィーユの事を守れるなら…マジパティにでも…なんにでもなりたい…」


 みるくが湯船に浸かりながらでそう呟いた刹那、突然米沢家の浴室から黄色い光が放たれた。




「えー…いよいよ明日から新入部員争奪戦が始まるワケだが、今年度から着任した私はどこの顧問を持つつもりはないので、今現在帰宅部の者は自分自身の「入部したくない」という意志をハッキリと示していただきたい。特に個別で指導を受けたい者、家庭の事情で入部が難しい者!しつこい勧誘にはハッキリと断りたまえ!!!」

 翌日の帰りのホームルーム。担任の下妻しもつま先生が教卓の上に両手を置き、部活についての話をした。現在「帰宅部」となっているのは、一悟やみるくだけではなく、何人か様々な事情でどこの部活にも所属していない者もいる。その者達にも目もくれず、なぜだか一悟だけ雪斗にしつこい部活勧誘を食らっている。

「それから誰とは言わんが部活の勧誘をする者で、特定の人物にしつこく勧誘してくる者は、己の言動の愚かさに今すぐに気づいて、しつこい勧誘は逆効果であることを自覚したまえ!!!!!」

 一悟は下妻先生の説明に対して「うんうん」と相槌を打つが、遠回しに名指しを食らった雪斗は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。


 担任の下妻稲生しもつまいなお先生は、今年度よりサン・ジェルマン学園中等部に赴任した英語教師で、なぜか昨日の英語の授業からやたらと雪斗を指してくる。英語が苦手な雪斗にとっては、非常に分の悪い存在だ。一悟は英語が苦手ってワケでも、得意ってワケでもないが、下妻先生の一言、一言には妙に納得してしまう。




 ホームルームが終わって、職員室へ向かう下妻先生はある光景を目にした。体育教師の都賀巌美つがいわみ先生が、なぜか女子更衣室をのぞき込んでいるのである。

「おやぁ…都賀先生、女子更衣室を覗くとは感心致しませんねぇ?最近は、この手の行為はマスコミとSNS、そして教育委員会がうるさいですよ?」

 下妻先生に声をかけられた都賀先生は、「チッ」と舌打ちし、下妻先生の方を振り向いた。

「いやぁ…下妻先生。おたくの米沢が更衣室に来ているらしくて…」

「おかしいですねぇ…米沢さんを呼び出したのは都賀先生で、私は米沢さんに「放課後、体操服に着替えて、グラウンドの体育倉庫の前に来るように」と伝えただけですよ?」

 どうやら、更衣室ではみるくが体操服に着替えているようだ。

「米沢は昔から運動音痴と聞きまして、あのだらけた身体をですね…私が顧問を務める陸上部で鍛えさせようと…」

「私は米沢さんがだらけているとは思えませんけどねぇ…そもそも、「だらけている」のはあなたではありませんか?その「すぐ大騒ぎするマスコミとSNSに対する危機感のなさ」が…」


 次の瞬間、下心丸出しの体育教師の身体が黒く光り出した。


「運動の得意な生徒を勧誘するならまだしも、運動が苦手な女子生徒を無理矢理運動部に誘うのは問題行為ですよ?先生…」

 そう都賀先生に語る下妻先生のメガネがギラっと光る…まるで都賀先生の身に何が起こったかを示すかのように…




「バンッ!!!!!」


「千葉一悟はいらっしゃいますの?」

 2年A組のドアが勢いよく開き、そこからあずきが大慌てで入ってくる。丁度クラスメイトと雑談していた一悟だったが、あずきの表情に何かを察した。一悟はクラスメイトに一言断りの言葉を述べ、カバンを持ってあずきの所へ駆け寄る。

「何があったんだ?」

「みるくさんが…プリンのカオスイーツに捕まりましたの!今すぐマジパティに変身なさって!そうすれば、カオスイーツの気配をしっかりと感じることができますわ!!!!!」

「了解っ!!!」

 そう言いながら、一悟はトイレに駆け込み…


「マジパティ・スイート・トランスフォーム!!!!!」


 トイレの個室からピンクの光が放たれ、光がおさまると同時に個室からピンクのマジパティ・ミルフィーユが飛び出した。ただし、入ったトイレは男子トイレのため…

「うわっ!!!」

 トイレに入ってきた男子生徒が、突然個室からでてきたピンク髪の長身少女を見るなり驚いた。ラテは顔全体を真っ赤に染め上げている。

「男子トイレで変身してどーするんですのっ!!!」

「仕方ねーだろ?元々男なんだから…」


 こればかりは仕方ない…仮に男装レイヤーが無理して男子トイレ入るワケにもいかんし。(異装レイヤー経験者・談)


「ワタクシは更衣室からみるくさんのカバンの類を持ってまいります!!!ミルフィーユ様はカオスイーツの所へ!!!!!」

「オッケー!頼んだぜ!!!」

 ミルフィーユとあずきは二手に分かれた。ラテはミルフィーユと一緒に向かう。




「そう言えば、みるくさんは放課後にグラウンドの体育倉庫に来るように言われてましたよね?」

「あぁ…もっとも、体育の都賀の頼みっぽいけどな。」

 カオスイーツのニオイをかぎ取りつつ、ミルフィーユはラテの問いに答える。都賀先生の「運動が苦手な女子生徒を無理矢理陸上部に誘う」という行為は元々生徒達の中で噂として囁かれていたらしく、ひそかに問題になっていた。みるくは1年生の頃から都賀先生に目を付けられており、一悟はその時からみるくを都賀先生から庇っている。


「でやっ!!!」


 ミルフィーユが思いっきりグラウンドの体育倉庫のドアをけ破ると、そこにはプリンカオスイーツとムッシュ・エクレールの姿があった。

「待っていたぞ!ピンクのマジパティ!!!」

「そういや、慌てて変身したから名乗り忘れてたわ…」

 そう呟いたミルフィーユは、深く深呼吸をし始めた。


「ピンクのマジパティ・ミルフィーユ!!!!!禍々しい混沌のスイーツ、勇者の力で木っ端微塵にしてやるぜ☆」


「木っ端微塵にできるものなら、するがいい!ゆけ、我が下僕!!!!マジパティを叩き潰すのだ!!!!!」

 ムッシュ・エクレールがそう言うと、プリンカオスイーツはミルフィーユにとびかかる。

「ミルフィーユパーーーーーーーーーーーンチ!!!!」

 ミルフィーユは、カオスイーツに向かって思いっきりパンチを決めようとするが…


「ぽよん♪」


 拳でめり込んだはずのカオスイーツの身体は、はずみをつけて跳ね返り、ミルフィーユはグラウンドに跳ね飛ばされ、背中を激しく打ち付けた。

「ぐはっ!!!!!」

「格闘技で抵抗なんぞ、無駄無駄無駄ァッ!!!!!」

 今回のカオスイーツは、柔軟性があるようだ。接近戦重視のミルフィーユは懲りずにプリンカオスイーツに向かってキックを放つが、ミルフィーユが飛び上がった瞬間にくるっと背中を見せ…


「ぶほっ…」


 ミルフィーユはカオスイーツの背中を見るや否や、鼻血を噴出してしまった。

「ミルフィーユ!!!」

「見たぞ!!!ピンクのマジパティの最大の弱点を!!!!!」

 プリンカオスイーツの背中には、恐らく着替えの途中で捕まったのだろう…制服のブラウスに学校指定ソックスという姿のみるくが磔にされていた。ブラウスの裾からは、時折クリーム色のショーツがチラっとミルフィーユの視界に入る。両手足はカオスイーツの身体の中に入り込んでいるため、安易に脱出することは不可能のようだ。

「くそっ…みるくを盾にしやがって…」

 ミルフィーユの姿が女であっても、変身前の千葉一悟は思春期真っただ中の少年…母親、姉は見慣れていても、幼馴染を含む女性には慣れていないミルフィーユにとって、現在の幼馴染の状態は刺激が強すぎた。


「惑わされてはいけません、ミルフィーユ!!!」

「そんなこと…言ったって…」

 ラテの言葉にミルフィーユは反論するが、ムッシュ・エクレールはカオスイーツに新たな指示を出した。

「これは面白い…カオスイーツ、人質を脱がしなさい!!!」

 その瞬間、プリンカオスイーツはミルフィーユに背中を向け、みるくの来ているブラウスの中に触手を突っ込み…


「ブチブチブチッ…」


 ブラウスのボタンがすべて弾き飛び、全てのボタンを失ったブラウスからはクリーム色に白いレース、そして赤いリボンをワンポイントとしたブラとショーツが露わになり、それと同時にミルフィーユの鼻から再び鼻血が噴出した。


「ぶばっ…」


 今度は噴水の如く、ミルフィーユの鼻から鼻血が噴出した。咄嗟に両手で鼻を押さえるが、手袋は既に鼻血で赤く染まり、度重なる鼻血でミルフィーユの足元はふらついている。

「これは楽しいことになってきた!!!カオスイーツ、もっとマジパティを追い詰めろ!!!」

 ムッシュ・エクレールがそう言い放った刹那、人質とされていたみるくが目を覚ました。あられのない姿と化した己の姿と同時に、ピンチに陥ったミルフィーユの存在に気づき…

「いっくん!!!」

 みるくが一悟の名前を呼んだと同時に、ミルフィーユはさらに鼻血を噴出し、目を渦巻のように回しながら気絶をしてしまった。

「ほてきゅ~~~~ん…」

 ミルフィーユにとって、殆ど下着姿の幼馴染の姿は刺激が強すぎた。そんなミルフィーユを目の当たりにした人質のみるくは…

「…ォーム…」

「フッ…無駄なことを…カオスイーツ!!!さらにマジパティを追い詰め…」



「マジパティ・スイート・トランスフォーム!!!!!」



 みるくが叫んだ瞬間、ブラで押さえつけられたみるくの胸の谷間から黄色い宝石が付いたブレイブスプーンが飛び出し、みるくをカオスイーツから引きはがしつつ、みるくを黄色い光の中へ包み込んだ。

「ば…馬鹿なっ!!!」


 みるくの髪は黄色い光の中、瞬く間に赤茶色から輝かしい金色のロングヘアに変化した。黄色のアンダーリムのメガネは光の粒子として溶け込み、肩から腰にかけて、オレンジと白を基調としたフリルの可愛らしいトップスで覆われ、さらに腰からお尻は白いフリルがついたオレンジ色のボックスプリーツスカートで覆われる。足は白のオーバーニーソックスが履かされ、そこに黄緑色でハート型の宝石と白い羽の飾りの付いた白いブーツが履かされる。


 そこからみるくがかわいくかつあざとさ満開でステップを踏むと、腕にオレンジと白を基調としたフリルの可愛いアームリングと、白とオレンジを基調としたミルフィーユと似たような形状の手袋が現れた。髪は頭頂部の一部をツーサイドアップとしてオレンジのリボンで2つにくくられ、くくられなかった髪は2つに分かれ、それぞれ毛先をオレンジのリボンでまとめられ、もみ上げは最初にくくられたツーサイドアップと同様に縦ロールにカールされ、さらに頭頂部から2本の触角が現れる。そして、さらに黄緑色でハート型の宝石と白い羽の飾りがついたイヤリングが両耳に付けられる。


 腰には黄緑色の宝石が付いたチェーンが現れ、そこにエンジェルスプーンが付けれらる。目を開いたみるくの瞳の色がオレンジから赤みがかったピンク色に変化すると、変身完了の合図となる。


「黄色のマジパティ・プディング!!!!!禍々しい混沌のスイーツさん、勇者の愛でおねんねの時間ですよ?」


 マジパティに変身したみるくは、顔の真横でハートマークを作った。

「う…嘘…みるくさんが…」

 気絶したミルフィーユを起こしている真っ最中のラテは、驚きを隠せなかった。いや…ラテだけではない。ムッシュ・エクレールも、人質としていたみるくがマジパティに変身したという事実に開いた口が塞がらなかった。

「変身…できた…メガネがなくてもちゃんと見えてる…」

 米沢みるくから黄色のマジパティ・プディングに変身した彼女がやることは、一つだった。プディングは右手を前に突き出すと、黄色い光が現れ、徐々に変化を遂げる…


「プディングワンド!!!!!」


 黄色い棒の先端に水晶のような球体、黄緑色のハート型の宝石と羽根の装飾が施された杖…これが、プディングの武器・プディングワンドである。プディングがプディングワンドを掴むと、球体はくるくると回り出す。球体の回転が止まった刹那、球体が黄色い光を放つ…


「プディングメテオ!!!フランベ!!!!!」


 プディングが叫んだ瞬間、カオスイーツの頭上に1つの巨大な球体が接近してきた。

「無駄なことを…柔軟性のあるカオスイーツ相手に球体をぶつけるとは…」

 ムッシュ・エクレールはそうあざ笑った直後、カオスイーツから「じゅわっ」と蒸発する音がした。彼が振り向くと、プリンカオスイーツがプディングの放った球体の熱で溶けていく…


「アデュー♪」


 プディングがそう言いながらウインクすると、プリンカオスイーツは完全に消えてなくなり、カオスイーツがいた場所には都賀先生がうつぶせで倒れている。

「くそっ…とうとう3人となってしまったか…」

 そう吐き捨てたムッシュ・エクレールはふっと消えてしまった。

「ミルフィーユ様っ!!!」

 みるくの荷物を持ったあずきが校舎から走ってきた。あずきの言葉にミルフィーユはようやく気付き、起き上がる。既にカオスイーツとムッシュ・エクレールはもういない。代わりにいるのは…


「やっと気が付いた?」


 ミルフィーユの目の前にいたのは、幼馴染の米沢みるくではなく、彼女と同じ背丈の黄色のマジパティであった。ミルフィーユを見つめる彼女のたたずまいは、どことなくみるくそのものだ。

「みるく…お前…」

「勇者の能力って…誰かを救うためにあるんでしょ?だから…いっくんを…ミルフィーユを救いたいって思っていたら…なっちゃった…」

 ミルフィーユは納得するしかなかった。今まで守ってきた相手に助けられるなんて、初めての事だっただけに…

「これで…マジパティが揃いましたわね…」

「…だな?今日はすっげー情けねぇ所、見せちまったけど…」

 あずきの言葉に、ミルフィーユはバツが悪そうに答えた。あずきはそのままプディングを着替えに連れて行こうとするが、プディングは体育倉庫からカラーコーンを1つ持ち出し、先ほどまでカオスイーツにされていた体育教師に向かって振り上げた。


「この覗き常習犯め…えいっ!えいっ!」


 プディングはカラーコーンで都賀先生を軽く小突き、小突いたカラーコーンに貼り紙を施した後、ミルフィーユ達の所へ戻った。

「やっぱり、女子更衣室を覗いていたっていう噂は本当でしたのね…」

「俺も後でシャベッターで拡散してやろー…んじゃ、みるくが着替え終わったら、勇者様の所へ連れてってやるぜ。」

「ご案内いたしますぅ~」

 その夜、都賀先生の不祥事は瞬く間にシャベッターで拡散され、翌朝はトップニュースにまでもなった。


「ふえぇ~ん…まころんのお着替え、この先生に見られてたぁ~許せないから、拡散よろぴこ☆彡」

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