scene 4. フラッシュバック
「でも、必要のないものはなにも買ってないわよ? このくらいは普通よ、車がないからちょっと大変だけど」
車。それを聞いてジョニーは一瞬真顔になったが、すぐに笑顔に戻り頷いた。
――秘密の倉庫にマスタングがあるんだと云ったら、彼女はどんな顔をするだろう。
もう夜中に遠出をするつもりはないし、最近買ったことにして乗ってもいいかな、などと考えながら、ジョニーはよいしょと荷物を抱え直した。ロザリーに「お、重くない?」と一言尋ねて、前を向く。
そのとき――店の入り口に向かって駐車場を横切っている女性に、ジョニーは吸い寄せられるように視線を奪われた。進める脚に纏いついてはためく、その赤いワンピースドレスに。
ジョニーはどくんと打つ自分の心臓の音を聞きながら、その場で足を止めた。頭のなかで、スライドショーのように焼きつけた記憶が瞬いてゆく。ブルネットの、赤毛の、金髪の、ブラウスの、Tシャツの、ミニドレスの――みんなみんな、この手で刺し殺した。何度も何度も繰り返し、肉にナイフの刃をうずめたあの感触。皆、薔薇の花束を抱くように真っ赤に染まり、花弁が散るように血が溢れ、自分のこの手も――
「――ニー? ねえジョニー? どうかした?」
はっと我に返り、ジョニーはロザリーを見た。
不思議そうな顔で自分を見つめている、愛しいロザリー。奇跡的にめぐり逢えた、運命のひと。
「……ロザリー。ば、バスを待つあいだ、あ、アイスクリームを食べようか」
ジョニーはそう云って微笑み、前方を指差した。バス停は広い駐車場を抜けた先の通りにあるのだが、その手前に青と白のストライプが目立つ大きなパラソルを立て、キッチンカーがホットドッグやフレンチフライ、アイスクリームを売っている。
「アイスクリーム? チョコチップとバナナスプリットのハーフガロン、ふたつも買ったのに」
「そ、それとそ、外で買って食べるのはべ、別だよ」
「ふふ、そうね。じゃあ私、迷って買わなかったストロベリーチーズケーキ」
「いいね。お、俺はネ、ネオポリタンかな」
じゃあ買ってくるから荷物を見てて、と云ってジョニーはその場にプラスティックバッグを置くと、キッチンカーに向かって走った。十歳くらいの子供を連れた老人が先に並んでいて、暫く待たなければならなかったが、ジョニーはそれをありがたいと思った。
ポケットから財布を取りだした右手を左手で押さえ、ぎゅっと握りしめる。手は突然襲ってきた殺人のフラッシュバックに、小刻みに震えていた。
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