scene 3. ネッドの評価
サムたちはまたかという顔をされながら近隣の警察署に赴き、捜索願が出された、またはそう申し出られたが既に成人していたために受理しなかった失踪者の情報を、しらみ潰しに当たった。若い女性の失踪者はそれなりに数があったものの、身長と失踪時期が合うものを篩いにかけると一割ほどに絞られた。
そこからさらに大腿骨を骨折したことがあるかどうか、一軒一軒連絡先に電話をかけて確認したが――きっとこのなかに、という期待は外れ、白骨死体の身許は判明せずという結果に終わった。
毎回こうだ。やっと糸口が掴め、今度こそと思っても、こんなふうに手繰った糸がぷつりと切れてしまう。サムは落胆とともに襲ってきた疲労感に、ぐったりと椅子に背をあずけた。
デスクの上に散らばっているファイルを端に寄せ、ネッドがコーヒーのペイパーカップを置く。
「答えがないのもまた答え、って感じですか。こうなると、考えられる答えはひとつしかないっすよね」
したり顔でコーヒーを啜っているネッドを見ながら、サムはカップを手に「ひとつ、というと?」と眉根を寄せた。
「死体を探してたときと同じってことっすよ。届けられていないんだ。つまり、独り暮らしで家族も友人もいない、無断欠勤だって騒ぐ職場もない、そんな女だってことです」
ネッドのその答えを聞き、サムはカフェインが必要だと云わんばかりにコーヒーを一口、さらにもう一口飲んだ。
「……いなくなったことを気にかける仲間がいたとしても、警察に届けようとは思わない界隈、でもあるかもな」
ある日突然、いつも見かける存在が消えてしまっても、誰もいちいち気にかけはしない。ましてや警察に届けたりもしない、そんな界隈――娼婦だ。
今度こそ、今度こそ間違いないと、サムは背骨の下のほうからびりびりと奮えがくるのを感じた。
「よし、オハイオ川に近いところから順に、街娼がいる場所で突然消えた女がいないか聞き込みだ。背広で行くと警戒される。ネッド、一度うちに帰って、ゆっくりメシを食って仮眠して、着替えてから来い。ここの駐車場に九時だ」
「わかりました。今夜は徹夜っすね」
「今日から徹夜、だろうな」
そりゃあ今夜だけで済めばいいがな、と呟きながら、サムは上着を手に椅子から立った。そして、まだコーヒーが残っていることに気づき、一息に飲み干す。
空にしたカップを置き、サムはふとなにかに気がついたように、ネッドの顔をまじまじと見た。
「ネッド。おまえ……」
「はい?」
いつもの飄々とした顔に、ちょっとばかり癪だと思いつつサムは云った。
「おまえ、やる気があるようには見えないし、いつもへらへらしてなんだかむかつく若造だと思ってたんだが――」
「うへぇ、ひどい」
「実は優秀なのかもな」
そう云ってやると、ネッドは目をぱちぱちと瞬いた。
「でも俺、銃が苦手なんですよ。てんで下手っぴぃで。キャラハンなんて
すぐにはぴんとこなかったが、サムは少し考えて「ああ」と人差し指を立てた。
「いいじゃないか。ダーティハリー*は相棒にしたいタイプじゃないし、下手なら犯人を射殺はせんだろ」
「狙って撃っても威嚇で終わるって云ってます?」
〝
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※ ダーティハリー・・・近年は映画監督として評価の高いクリント・イーストウッドが、七〇年代に主演して人気を博した、刑事もののアクション映画。シリーズで5まで制作された。
イーストウッド演じるハリー・キャラハンは、スミス&ウェッソンM29を愛用し、44マグナムをぶっ放す、超一流の射撃の腕を誇るサンフランシスコ市警の刑事。
彼の決め台詞「
(※ 当時の映画番組やDVDなどの日本語字幕では、いろいろな翻訳パターンがあるようです)
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