第2話 ……かかりましたわね。


 王子は自分から声をあげて皆の注目を集めておきながら、貴族達の自分を見る冷たい視線にこの場をどう収めたらいいのか迷い焦っているようだった。


「え~! 私はファビアンの恋人でしょう? 

婚約者のあの女が、私に酷いイジメをするのをファビアン王子が優しく慰めてくださって、私達は晴れて恋人になったのですわ!」


 王子に自分との関係を否定されそうになったので、思わずといった様子で後ろに隠れていた子爵令嬢がしゃしゃり出て来た。

 ……晴れて、ですって! まあ、厚かましいわぁ。それは横恋慕とか略奪とか浮気とか……っていうのよ。


 はい。ではそんなド厚かましい方には遠慮なく、悲劇のヒロインは更に攻めます!


「……ッ! ……ではやはり、殿下は私という婚約者がありながら、別な方とそのような不埒な関係におなりになった、と……。そして、邪魔になった私をお捨てになる為に、全く身に覚えのない罪を私に着せこのような酷い仕打ちをなさろうと……!? ……まさか、殿下が……、この国の第一王子殿下ともあろうお方がそのような事を……なさる訳がございませんわよね!?」


 ザワッ!


 周囲の貴族達が騒めく。その中にはこの国の重鎮ともいうべき方々がたくさんいらっしゃる。……彼らは第一王子派の方々ばかりではない。第一王子の弟である第二王子の派閥の方々もいらっしゃるのだ。


 そしてこの国の王太子はまだ決まっていない。

 第一王子と第二王子は母が違うことから兄弟仲もよろしくない。そして5ヶ月違いで同い年のお2人は、何かと比べられることが多かった。


 そして第一王子の婚約者であった私のリースハウト侯爵家は、当然第一王子派だったのだけれど……。あらあら、一つ味方が減ってしまいましたわよ? もしかして我が侯爵家と共に動く貴族の方々もいらっしゃるかもしれませんし、かなり第一王子派は不利になりますわね……。

 そうでなくとも、こんな馬鹿な三文芝居を公式なパーティーで起こして、第一王子を見離す貴族達もいるかもしれませんわよ?


 そんなご自分のお立場は一応分かってらしたのだろう。第一王子は周りの自分を見る冷ややかな態度に焦りを感じ始めたようだった。


「あ……。いや……。そのような関係ではない! ……ただ、私は婚約者である君がこの令嬢に酷いイジメをしているから、それを諌めようと……」


「王子ぃ! どうしてですかぁ!? そんな関係でしょ? 私の方が可愛いって、生意気な婚約者に罪をきせて、私を婚約者にしてくれるって、そう言ったじゃないですかぁ~!」


 ザワザワッ!


 ……はい、自爆。


 もうパーティー会場はファビアン王子に対する非難の嵐。今更ながら自分の発言が墓穴を掘ったと顔を青くする子爵令嬢。

 ファビアン王子は一生懸命何か言い訳しているけれど、もう後の祭り。


 正直もう大勢は決まってるんだけれど、やっぱりここは締めておかないと……ね。チラリと後ろを見ると、そこには私の父リースハウト侯爵が控えてくださっている。うん、いい立ち位置ですわ。流石はお父様。


「殿下……! 私、信じておりましたのに……。幼き頃より殿下をお支えする為に王子妃教育に私の人生のほぼ全てをかけてまいりましたわ……。……それが、まさかその私に罪を着せ他の方と結婚なさろうとしていたなんて……。ああ……! 信じておりましたのに……!」


 私は悲しみに涙を流しながら絞り出すように言葉を紡ぎ、ショックの余り倒れそうになる……、演技をする。


 そこに、お父様がやってきて私を抱き留めてくださった。まるで台本でもあったかのように、素晴らしいタイミングでしたわ! お父様は私の身体を支えて労るような視線を送ってから、キッと鬼の形相で第一王子を睨む。


「殿下……!! なんと、なんという酷い仕打ちを……! 長年の婚約者である我が娘にこのような非道なことをなさるとは! 我がリースハウト侯爵家は、この恐ろしく不当な扱い、非道な出来事を国王陛下に奏上させていただく!!」


 途端に真っ青な顔になるファビアン王子。

 次期王太子がまだ確定していないこの時期、味方である有力な我が侯爵家を敵に回してまで何をしてるのかしらねぇ。少し考えればこんな事をすれば我が侯爵家を敵にまわす事くらい分かりそうなものだけれど。


 ……ああ、あのお花畑の頭でお似合いの子爵令嬢と婚約する事しか頭になかったのね。


「ま……、待ってくれ! こ、これは誤解で……! そもそも貴方の娘がこちらの令嬢に酷い仕打ちをしていたのだ! 私はそれを諌める為に言っただけで……! 侯爵よ! 貴方は私に義父と呼んでくれと、そう言っていたではないか……! 我らはそれほどの仲ではないか……!」


 王子はお父様に縋り付かんばかりに言ってきたけれど、


「……殿下が今、我が娘に婚約破棄を申し付けられましたので、そのご縁はスッパリ切れました。我らはなんの事はない、全くの赤の他人の仲でございます」


 お父様は、冷たく言い放った。


「そ……、そんな……。で、では、婚約破棄を破棄する!! ほら、これで元通りだ! 侯爵よ、貴方の息子だそ!」


 第一王子はとんでもなく馬鹿な事を言い出したけれど、コレでまた会場は紛糾した。


「王子ぃッ! 恋人の私を捨てるのですかぁ!? あの女と別れるって、このパーティーで皆に認めさせるって、言ってたじゃないですかぁ! 婚約破棄を破棄だなんて、させないぃッ!」


 捨てられそうになった子爵令嬢が王子に掴みかかっていき、それを王子は必死で止めていた。

 ……スゴイ修羅場ですわね。

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