第25話 卒業4


 頬を染め吸い寄せられるように、繊細なレースの手袋で包まれた、華奢きゃしゃな両手を差し出してアオラはさけび… 婚約者でもないアルファの胸に飛び込んだ。



「会いたかったわ、フリオ!! フリオ―――ッ!!」


「グウウゥゥ…ッ…!! もうダメだ!! アオラ… オレはこれ以上、耐えられないよ! これ以上、オレは“つがい” の君と離れてはいられないよ!!」

 フリオは獣のような唸り声をあげ、アオラの細い腰を引きよせて乱暴に唇を奪う。


 2人は明らかに発情していた。



 周囲にいた卒業パーティーの参加者たちは、最初はその光景にあっけにとられて固まっていたが… 


「おい、フリオ! 止めろよ、アオラ嬢を放せ!」


「こんな場所で発情しているのか?! バカか、お前は?!」



 オメガの女性がアルファの男に襲われている?! …と、フリオをアオラから引き離そうと、周囲にいた者たちは手を出そうとして気づく。


 唇を奪われているオメガの女性アオラが、フリオの背中に手を回し、ギュッ… としがみつき、熱烈ねつれつにキスを受け入れていた。


 本人同士は合意の上で、抱き合っているのだと、その場にいた全員が理解したが… だからと言って、卒業パーティーの会場でみだらな行為にふけられても困ると、無理やり抱き合う2人を引き離そうとする。



「嫌あぁぁぁ―――っ!! だめよ! 彼を私から奪わないでぇ―――っ!! フリオは私のものよ!! フリオ、愛しているわ―――っ!!」

 3ヶ月間、“番”のフリオと会えなかったことが、大きなストレスとなり、アオラにその反動が出て半狂乱となる。


 まるで… “運命の番”と無理矢理引き離されたと言わんばかりに、かん高い声でアオラは泣きさけび、引き離されたフリオに向かって夢中で手をのばす。



「アオラ―――ッ! クソッ! お前ら、彼女を乱暴に扱うな!! アオラを今すぐ放せ!! オレの“運命の番”にケガをさせたら容赦ようしゃしないからな!!」

 

「バカ! 正気に戻れフリオ! お前は彼女と破滅はめつしたいのか?!」


「うるさい! アオラはオレの“番”だ!! オレの“番”に触れるな!」


 発情した2人は、お互いのフェロモンに狂い、周囲にいた卒業パーティーの出席者たちが、止めるのも聞かず大騒ぎをし始めた。

 



 自分の婚約者フリオが、愛する“番”を取り上げられたと、獣のように暴れ、暴言をはき、取り押さえられる姿を、ぼんやりとデシルが見つめていると… いつの間にか、デシルの隣には寄り添うようにサリダが立っていた。


 サリダの視線の先には、アオラが狂人のように金切声をあげ、出入り口から連れ出されて行く姿があった。




 2人はまるで、自分たちの婚約者たちが演じる、『三流の喜劇を無理やり見せられた』 …そんな気分だった。 





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る