第26話 祝福


 フリオとアオラの2人が、それぞれ会場の外へ連れ出されると… ざわつく卒業パーティーの出席者たちは、2人の婚約者、デシルとサリダの様子をチラチラと探るようにうかがい見る。



「そろそろだな…」

 

「サリダ様…?」

 隣に立つサリダのつぶやく声が聞こえ、デシルが見上げると…

 フッ… と微笑み、サリダはわざとデシルの姿が、自分の背中ですっぽりと隠れるよう前に立つ。



「私は、私の婚約者、エンプハル公爵家のアオラ嬢とその恋人、ヌブラド伯爵家の令息、フリオきょうの情熱を尊重したいと思います!」


 大声を張り上げているわけではないのに、サリダの声は会場内に驚くほど良く響いた。

 出席者たちが、サリダの話を聞きのがすまいと、ひそひそ話をピタリと止めたせいもある。


「婚姻前に“つがいちぎり”を交わし、深く愛し合う2人の間に割って入るほど、私は冷酷でも、無粋ぶすいな人間でもありません! 私はこの身を引くことで、2人を祝福したいと思います!!」


『婚姻前に“番の契り”を交わし』 と聞き、デシルの近くにいた誰かがハッ… と息をのむ音が聞こえた。

 これで証拠を提示しなくても、フリオとアオラが“番”だと、明日には社交界中で知れ渡ることとなる。


 何より、会場で発情した2人の姿を見たパーティの出席者たちは… 2人に自分たちは“番”ではないと、弁明べんめいされたとしても… 誰も信じないだろう。



 会場じゅうの出席者たちに、サリダが語り終えると… デシルがいる場所のななめ後方から、サリダに賛同する声がかけられる。


「愛し合う“番”の2人に祝福を―――っ!!!」


 デシルとサリダが驚いて、声がした方を見ると、ミラドルの兄でサリダの友人パルケが、賛同の声をあげていたのだ。


 パルケに続くように、ミラドルとデシルの友人たちも続けて賛同し… そして、その婚約者たちも続く。

「祝福を―――っ!!」


「2人に祝福を―――っ!!」


「祝福を―――っ!!!」 と、援護えんごするように声をあげ、派手に手をたたき祝福の拍手はくしゅを贈った。


 つられた会場中にいたパーティの出席者たちも、おずおずと祝福の拍手をする。


 サリダが感謝の気持ちを表し、友人パルケに向かって騎士らしいキビキビとしたしぐさで頭を下げると…


「愛する恋人たちの、勇気あるたちにも、祝福を―――っ!!!」 

 …と、パルケは笑いながら声をあげた。


 デシルとサリダが、捨てられたみじめな婚約者では無いと、印象付けるための… サリダの友人パルケがこの場で思いついたさくだった。


「勇気あるたちにも、祝福を―――っ!!!」

パルケに続き、ミラドルたちも楽しそうに声をあげ、再び手をたたき拍手をした。


 サリダは困った顔で後ろを振り向き、自分の背に隠したデシルを見た。


 恥かしさで頬を染めながらも、デシルは苦笑を浮かべサリダの隣にならび… サリダにならい優雅に感謝のお辞儀をした。


 

 手を差し出され、サリダの力強い手を受け入れたデシルは…

 サリダにエスコートしてもらい、卒業パーティの会場を出る。




 


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