第10話 信じたくない真実


 難しい話をしたいからとサリダに連れられ、ミラドルの誕生パーティーを抜け出して、邸内の応接間までくると、2人はローテーブルをはさんで向かい合い、ソファに腰を下ろす。 


「私の口で説明するよりも、まずはありのままの真実を、君自身の目で確認した方が良い」


「真実… ですか?」


「この報告書に書いてあることはすべて真実だと、私の方で本人から聞き取り、確認は済んでいる… ただ、少し衝撃しょうげき的な内容だから、君は途中で読むのを止めたくなるかもしれない…」


「・・・っ?」

 何だろう?! すごく怖くなって来た…


 緊張から、思わずゴクリッ… とつばを飲み込んでから、サリダから手渡された調査報告書を、デシルは指示された通りにその場で読んだ。



 読み進めて行くうちに、エンプハル公爵家の令嬢アオラに関する調査の報告書だとわかり、その愛人がデシルの婚約者フリオだという内容が詳しく書かれている。


「そんな、嘘だ… 嘘っ…! フリオが…?!」

 ヌブラド伯爵領にある宿屋… “オオマス亭”に宿泊し、フリオがみだらな行為を繰り返していた…?! 公爵令嬢のアオラ様と?! 


 信じられないと思うのに、2人が密会に使った宿屋の名前や場所に、デシルは覚えがあった。 


「残念だが、私の婚約者アオラから聞いている… 君の婚約者フリオと2人で、この宿屋に休日になると通っていたそうだ… 宿屋の主人の証言もある」


「この宿に…?! “オオマス亭”にフリオは… アオラ様を連れて行った…の…?」


 宿屋がある村の近くに、大きな湖があって… そこで毎年開かれるマス釣り大会に、僕とフリオは子供の頃、2人ペアを組んで参加していた。

 大会が終わると、2人で釣った大きな魚を宿屋へ持って行き調理してもらい、フリオと伯爵家の人たち、僕の家族… みんなで食べて、その日はその宿に泊まるんだ。 

 宿は王都からあまり遠くない場所にあるけど… 僕とフリオはいつもクタクタに疲れてしまい、魚を食べ終わると眠くて我慢できなくなるから。


 学園に入学する前の年まで続けて来た、ヌブラド伯爵家とコンドゥシル男爵家の親睦会で、デシルにとっては、フリオとの最も幸せで楽しい時間だった。 



「だって彼は子供の頃から僕の婚約者で… 信じられない… 信じられない…っ! 何かの間違いです… 何かの…!」

 指先を震わせながら、報告書を読み終えると… デシルは顔をせたままサリダにうったえた。

 

「初めて会った私に、いきなりこんな話を告げられて… 君が信じられないのも仕方ないと思う… だがデシル君、この話は私の婚約者アオラの話でもあるんだ」


「確かに… 学園でも、フリオとアオラ様が… 2人でいるところを、僕も何度か… 見かけました! でもあれは、単なるたわむれで… アオラ様にも、婚約者がいると聞いて… 僕は…」


 ずっと僕はアオラ様に嫉妬をしていたから、変な風に見えただけで、気のせいだと… 僕の瞳がみにくい嫉妬で曇っているからだと… 僕は自分に言い聞かせてきた… でも、本当に違った!! 



「やはり君も… 気づいていたんだね?」


「はい」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る