第9話 サリダの婚約事情4 サリダside


 サリダはアオラがお茶を飲んでいた、ローテーブルに置かれたティーカップをにらみながら、1人で考えをめぐらせていた。


「・・・・・・」

 アオラに“つがい”がいることを、私がこのまま証明できなければ、王弟殿下の命令通り、本当に結婚しなければならなくなる。 


 父親の公爵と、王弟殿下にアオラが逆らえないのはわかるが… 自分の価値をここまで下げて、アオラは本当に私がまともな結婚生活を保障すると思っているのだろうか?!


 そこまで考えて、サリダは頭を振った。


「いや、今は結婚後のことを考えるのは止めよう! それよりもだ…」

 とにかく結婚してからでは、何もかもが遅い! 私がアオラの“番”ではないことを証明するのが、今より増々難しくなる! 

 夫が妻の“番”ではないという主張を、誰が信じると言うのだ? 何よりアオラの言う通り、私は結婚前から妻を寝取られた、みじめなアルファだと、一生そんな醜聞しゅうぶんが付いて回ることとなるだろう…


「死んだ方がましだ!!」


 胸の中から自分の怒りで、ヂリヂリと焼かれるような不快感が込みあげ… アオラが使っていたティーカップまで憎くなり、サリダはテーブルから払いのけ、カップとソーサーが壁まで飛んでぶつかり、ガンッ… パリンッ…! と派手な音をたてて砕ける。



「フンッ! あんな女と“つがいちぎり”を交わさなくて済んで、私はある意味幸運だったかもしれないな! いくらでも愛人にくれてやる!!」


“番”となればアルファとオメガの本能で結ばれてしまい、大嫌いな相手でも執着心が生まれ、発情期になれば欲しくなるのだから、想像するだけで、サリダには屈辱くつじょくの地獄である。  


 アオラの愛人、ヌブラド伯爵家の長男フリオについても、サリダが追加調査させると… 婚約者のコンドゥシル男爵家の令息デシルとの関係は、すでに冷え切っているという報告を受けていた。


 学園で顔を合わせても、婚約者デシルは家格の違いから一方的にフリオに無視され、婚約者の義務とも言えるパーティーでのエスコートさえしてもらえないほど、冷遇されているらしい。


「それだけ嫌な思いをしているのなら… きっと婚約者のデシルも、私と同じように、不誠実な尻軽婚約者を、すぐにでも切りすてたいと思っているはずだ!」



 そこで、アオラの愛人フリオの婚約者デシルを味方に引き入れたくて… サリダは騎士団の友人パルケに頼み込み、妹の誕生パーティーでデシルを紹介してもらうことにした。




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