第7話 サリダの婚約事情2 サリダside

 契約違反とも言える、アオラの不誠実さが明らかとなり、これを機にレセプシオン伯爵家は婚約破棄を進めようと… サリダは調査報告書を見せて、アオラを問いつめた。


 最初はアオラも浮気を誤魔化ごまかそうと、『知らない! 人違いだ!』 としらじらしい嘘をついていたが…


「君と君の愛人… ヌブラド伯爵家の長男フリオは、毎回同じ宿に泊まりみだらな行為を繰り返していたことは、こちらの調査でわかっているんだ! いい加減、自分の不貞ふていを認めたらどうだアオラ?!」


 何度も執拗しつようにサリダが追及するうちに、アオラは渋々自分の浮気を認めた。 


 ……だが、アオラはずうずうしくサリダの前で開き直る。


「どうせ政略結婚ですもの、貴族なら愛人が1人ぐらいいても、何も困らないのではないかしら?」


 最近の貴族階級では、結婚しても“つがいちぎり”を交わさず、後継者が誕生すると夫婦仲良く、それぞれ愛人を作るのが主流らしい。


「それは違うよアオラ! 先に結婚して伯爵家の後継者を君が産んでいたなら、その理屈りくつも通用するけれど… 結婚前に愛人を作られたら、結婚後に誕生した子供が、私の子だと確信が持てなくなるだろう? 伯爵家とは関係の無い愛人の子供かも知れない者を、私は未来のレセプシオン伯爵にする気はない!」


 その前にいくら貴族でも、結婚前に純潔を失ったこと自体が、女性オメガでも男性オメガでも、致命的な醜聞しゅうぶんになるかも知れないと、さすがにわかっているだろうに… この女の頭の中は、本当に空っぽなのか?! それとも私とレセプシオン伯爵家を、軽く見ているからか?!



「サリダ、それは考え過ぎだわ! あなたの被害妄想ひがいもうそうにしか聞こえないわよ?」


「…アオラ!」

 自分が犯した罪を、私の妄想で片付けるつもりなのか?! 何て女だ!! 自分が恥かしくないのか?! 公爵家は娘に恥が何かを教えないのか?!


「たくさんお話しをしたから、私… のどが渇いてしまったわ… この家はお茶も出して下さらないの? 公爵令嬢に対する礼儀も知らないなんて、本当に不快ね!」


 客としてアオラを呼んだのではなく、サリダは不貞を働いた尻軽女を尋問じんもんするために呼んだのだ。

 アオラをおびえさせ、洗いざらい自分の罪を吐かせてから、そのまま婚約破棄に持ち込もうと、サリダはわざと冷たい扱いをしていたから、お茶など出していなかった。


 始めはサリダの思惑通りに進んでいたが、開き直ったアオラの図太ずぶとさには敵わなかったようである。


「クソッ! 君の頭はどうかしているぞ!」

 この女の話を聞いていると、私の頭の方が、どうにかなりそうだ!



 不快な気分を抑えられず、サリダはののしりの言葉を口に出した。

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