第6話 サリダの婚約事情 サリダside

 レセプシオン伯爵家の長男サリダは、2年ほど前に王立学園を卒業していたが、仲の良い騎士団の同僚パルケから、学園に在学するサリダの婚約者エンプハル公爵家の令嬢アオラに関する不名誉ふめいよなうわさ話を聞いた。



「お前の婚約者、エンプハル公爵家の令嬢が、男と楽しそうに腕を組んで街を歩く姿を見たと、学園生の妹が気にしていたけど… お前、彼女とは大丈夫なのか?」 


「アオラが?! 相手の男は誰かわかるか?」


「いや、オレも聞いた話だから… もう一度、妹のミラドルに確認してみるよ… 確か同じ学園のアルファだったらしい」


「ああ、頼む…! 教えてくれてありがとう、私もアオラと話してみる」



 婚約者のアオラと不名誉なうわさについて話し合う前に、サリダは友人の話がどこまで深刻な問題になりそうかを、先に見極めようと… さっそくレセプシオン伯爵家が信頼する、有能で口のかたい騎士を雇い、調査を依頼することにした。


 なぜなら他の知人からも、アオラについて似たような話を、聞いていたからだ。


 そして、その調査により婚約者アオラの浮気(愛人と肉体関係まであった)が発覚した。


 政略結婚と言っても、元々この婚約自体がレセプシオン伯爵家が求めたものではなく… ずっと格上の公爵家を相手にする面倒さを考えると、伯爵家にはほとんどメリットがない縁談だった。


 代々武門の家系で大臣たちからの信頼も厚い、そんなレセプシオン伯爵家を取り込もうと、王弟殿下が自分のめいとサリダを結婚させようと、サリダの父はほとんど命令に近い依頼を受け、強引に成立させられた婚約である。

(アオラの母、公爵夫人は、国王の妹で降嫁した王女)



「すまない、サリダ… お前には本当に、嫌な思いばかりさせてしまって!」

 サリダの父レセプシオン伯爵が、悔しそうに頭を下げて息子に謝罪した。


「止めて下さい、父上! 王弟殿下の命令を簡単に断われないことぐらい、私だってわかっています!」

 学園を卒業し王立騎士団に入団してから、サリダも騎士の立場から見て、父の苦労が理解できるから、責めることなど出来なかった。


「この結婚で、お前の幸せがみにじられるようなことになるぐらいなら、私は近衛騎士団を辞めるつもりだ」

 騎士の中でも、王族に一番近い場所で働く、近衛騎士団の騎士団長の任につく、サリダの父の立場を考えれば… 国内の騎士団を国王の代理で統括する、王弟殿下の命令に逆らうことが出来ないのは明らかだった。


「そんなことは、言わないでください! 私は父上を騎士として尊敬しているのですから… それにこれだけ浮気の証拠がそろっていれば、婚約破棄ぐらい出来るでしょうし」

 本音を言えば、私はアオラが大嫌いだ!



 婚約式の時……


『私は高貴な王族の血を引く公爵令嬢なのに… ずっと格下の伯爵家に嫁ぐなんて、嫌で嫌でたまらないわ! 私なら隣国の王家に嫁いでも良い血筋なのよ?! なんて不快なの?!』


 高貴な血筋と言いながら、たった一つしかない自分の純潔を捧げる相手を、愛人であるヌブラド家の息子を選んだのだから… レセプシオン家の家格が低いと言うよりは、単に我がままなアオラを甘やかして、ちやほやしてくれる相手が良かっただけなのだろう。



「・・・・・・」

 こっちの方こそ、親から与えられた血筋と、着飾ることでしか自分の価値を証明できないような、頭が空っぽな高慢こうまん女なんか要らないさ!



 レセプシオン伯爵家をバカにした婚約者アオラの無礼さが、サリダはどうしても許せなかった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る