第3話 誕生日パーティーの前に
友人に招待された誕生日パーティーに向けて… デシルは自分と会った人たちに、少し派手めの豪華な印象をあたえられるように精一杯工夫した。
エスコート無しで招待を受けても、友人の前で胸を張っていられるよう、『婚約者のフリオを気づかい、いつもの地味な装いをしなくて済むから、1人でパーティーに参加するのも、悪くないよ!』 …と、デシルはそんな言い訳を用意していたからだ。
もちろん主役の友人より、目立たないよう心がけながら…
金色の前髪を半分上げて後ろへと流して整え、青紫の瞳が神秘的に見えるよう、目元に薄っすらと化粧をすると、白くてきめが細かい肌が引き立つ、繊細なデザインの小さなイヤリングを付ける。
今日着る予定の服は、金糸が織り込まれていて、光が当たるとキラキラと地紋が浮かび上がる特別な生地で仕立てられた物で… えりには宝石のビーズが縫い付けられたドレスコート。
そして上着が引き立つ渋めのパンツ。
職人が編み上げたレースを
どれもデシルの父が、外国から仕入れた材料で作られた
意地の悪い人たちはそんなデシルを見て、『新しい結婚相手を探し始めたのでは?』 …などと、陰口をたたいたりするが… だからと言って別のエスコート役を立てて参加すれば、今度は尻軽だと言われてしまう。
(エスコートを任せられそうな、年齢がつり合うアルファの親族がデシルにいれば良かったが、残念ながら弟はまだ幼く、従兄弟はオメガだった)
心の中では
「こんな時は本当にお父様に感謝だね! 裕福でなければ、こんなにお金のかかる装いは出来ないもの! お父様の
鏡にうつる豪華に変身した自分に、デシルは大きくうなずく。
婚約者フリオの家が名門の伯爵家でも、貴族の品位を保ち、贅沢な生活を維持できるのは、結局のところデシルの父コンドゥシル男爵が資金を提供した、共同事業があればこその話だった。
起業前は礼儀正しかったヌブラド伯爵は、事業が成功したのは、デシルの父のおかげではなく、名家出身の自分が高位貴族たちと強いつながりがあるからだと、息子のフリオと一緒に
「・・・・・・」
まぁ、僕は… 昔、貧乏だったお母様の方針で、金銭感覚が贅沢になり過ぎないよう、子どもの頃から僕のおこづかいは、自分で正しく管理するよう、
それにお父さまには、僕が結婚したらオメガでも、フリオを手伝えるようにと、領地運営の仕方まで教えてもらっている。
コンドゥシル男爵家の子育ては、一般的な貴族の子息に対するものとしては、珍しい教育方針を選んでいた。
「やっぱりフリオと一緒に、パーティーに行きたかったなぁ…」
完璧に着飾った僕をフリオに見て欲しかった… そうしたら、フリオも前みたいに僕を綺麗だと褒めてくれて、仲良く出来たかも知れないのに… 上手くいかないなぁ…
鏡をのぞいて自分の姿を見ているうちに、デシルの頭の中はフリオでいっぱいになった。
学園の卒業が近づき、結婚の予定日を意識するようになると、デシルとフリオとの間にできた深い溝について、増々考え込んでしまうのだ。
このままフリオに冷たくされ続けて、関係が最悪になったとしても、デシルからは婚約を解消することは出来ない。
婚約する時に両家が結んだ契約で、フリオとヌブラド伯爵家に深刻な問題や落ち度も無いのに、デシル側から婚約解消を言い出せば… フリオの伯爵家に提供した資金を、全額コンドゥシル男爵家は回収できなくなる。
逆にフリオの伯爵家側から婚約解消の申し出をすれば、契約ではデシルの男爵家側は、全額資金を回収でき、半分持っている共同事業の権利も、ヌブラド伯爵が買い取らなければならなくなる。
どちらにしてもデシルは、冷たくされてもフリオのことが好きだから、学園を卒業して、悪い影響を受けている友人たちから離れれば、フリオは以前のように、優しくなるのではないかと、デシルは期待しているのだ。
だから婚約解消はしたくなかった。
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