第2話 デシルの婚約事情2


 顔を上げたデシルは、小さくなってゆく婚約者フリオの背中を見つめながら…

 ハァ―――ッ… と長いため息をついた。


「学園に入学する前のフリオは、あんな人では無かったのに… 確かに少しだけ、言葉が乱暴なところはあったけど…」

 今のフリオはあんまり好きじゃないよ…? なぜ変わってしまったの?! 昔のフリオに戻ってよ! 僕が大好きだった頃のフリオに戻ってよ!



 以前のフリオは、素直な明るい性格で、デシルや男爵家をけなすような、傲慢ごうまんな人間では無かった。

 それどころか同じ年齢のせいか、フリオとはすごく気が合うとデシルは思っていたぐらいだ。


「やっぱり付き合ってる、友達のせいだよなぁ…?」

 元々性格が素直だから、フリオは他人に影響されやすいんだよね…


 フリオの親しい友人たちは、学園でも有名な伯爵以上の高位貴族出身のアルファばかりで… その友人たちと付き合うようになってから、フリオの言葉づかいや好みが、ガラリと変わってしまったのだ。


 好んで使うフリオの持ち物も、一流の店があつかう高級品ばかりを選び、友達と一緒に流行の最先端を、追わずにはいられないらしい。



 父に頼みデシルが手に入れた、外国で採掘された珍しい宝石を使った、カフスボタンとタイピンのセットを、フリオの誕生日に贈った時も、デシルの目の前で中身を見て… 

『王都で流行の店で買った物以外はダサいから、こんな物をオレが使うわけ無いだろう?!』 …とその場でデシルはプレゼントを返された。


 学園の外ではフリオに会う時間を作ってもらえず、仕方なく学園の休憩時間にプレゼントを渡しに行ったせいで、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべるフリオの友達が側にいたのも、運が悪かった。


 数ヶ月後、デシルの父が大量に輸入した、その珍しい宝石が、王都で流行はやった時は、さすがにフリオも悔しそうな顔をしていたけど。

(ちなみにフリオに返されたプレゼントは、来年学園に入学する弟にあげた)



 学園に入学して4年目になるのに、デシルはフリオの友人に、一度も紹介されたことがない。 


 もうすぐ学園も卒業するのにだ。

 


 学園に通う生徒は貴族だけのため、デシルの父親が元商人の平民だと知ると、フリオのようにさげすみバカにする者が多く… デシルにも仲の良い友人はいるが、そんな環境のせいで、とても少ないのだ。


 その少ない友人に招待されたパーティーだからこそ、デシルは婚約者のフリオにエスコートしてもらいたかった。


「また1人で僕が参加したら、きっと友達に気をつかわせてしまうよね? 困ったなぁ…」


 優しい友人たちの顔を思い浮かべデシルは… 今日は何度目になるかわからない憂鬱ゆううつなため息を、ハァ―――ッ… とついた。


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