第5話 私にしてもらいたいことはありますか?

 友人の奥村深おくむらしんから月島がいるから来てとメッセージが来たので俺はすぐに場所を教えてもらい月島がいる場所へ向かった。


「月島、心配したぞ」


「千紘! 心配させてすみません、ヘアピンを無くしてしまって探していました。でも見つかって良かっ────ふぇぇ!!」


 俺は会うなりぎゅっと彼女を抱きしめた。待つんじゃなくて一緒に行けば良かったなと後悔しながら。


「連絡先交換してないから離れるんじゃなかった……」


「千紘……あ、あの……嬉しいのですが、お友達が見ています」


 月島にそう言われて俺はハッとして慌てて離れるがもう手遅れだった。


「千紘、私達のことは気にせず続きをどうぞ~。ねっ、深」

「あぁ、俺達のことは気にしないでどうぞ」


 友人で髪をハーフアップにしている女子、望月もちづきひまりと深は、ニコニコしながら俺達を見守っていた。


「や、やるわけないだろ」


「えぇ~、気にせずやってもいいのにぃ~。それより噂は本当だったんだね。最近、昼休みはいなくなるし、放課後はどっか行くし怪しいなとは思ってたけど付き合ってるんだね」


 ひまりはうんうんと頷き、納得していた。


 自分自身、怪しい行動をしていたつもりはなかったが不思議に思われていたのか。


「初めまして、月島さん。千紘の友達の望月ひまりだよ」


「は、初めして、ひまりさん。先程は一緒に探していただきありがとうございます」


 どうやら深とひまりはヘアピン探しを手伝っていたようだ。どういう流れでそうなったかは知らないが……。


「そちらの方も……」

「奥村深です。千紘がいつもお世話になってます」


 深がそんなことを言うので俺はおいと言ってそれはどういう意味だと目で尋ねた。


「奥村さんですか。お世話になってるのは私の方です。千紘くんには────」

「ストップだ。言ったらひまりが鬱陶しいほど聞いてくるからそれは俺とだけの秘密な」


 彼女だけに聞こえるようそう言うと月島の顔は真っ赤になった。


「は、はい……秘密です」


 月島と2人で小声で話しているとひまりがひょこっと顔を出した。


「1人だけあーちゃんと仲良くなってズルいぞ、千紘」


「あーちゃん……私のことですか?」


 いつの間にかあだ名がつけられており、彼女は私のことかとひまりに聞いていた。


「そだよ。私のこともひまりでいいよ。名字だと堅苦しいからね」


 そう言ってなぜか俺のことを見てくるひまり。呼び方なんて自由なんだから別にいいだろ。


「ひまり、デート中だからこれぐらいに。じゃあ、また学校でな千紘」


「もっと喋りたかったけど仕方ないかぁ。あーちゃん、千紘またね」


 ひまりは、手を振り深と共に立ち去っていく。手を振り返す月島は2人が見えなくなるまで振っていた。


「ふふっ、優しい方達ですね。あーちゃんというあだ名を付けてもらいました」


 どうやらひまりが付けたあだ名が気に入ったようで彼女は嬉しそうな表情をしていた。


「良かったな」


 俺は優しく彼女の頭を撫でた。すると彼女の表情がふにゃりと緩むのだった。






***






「ふにゃ~、疲れましたぁ~」


 家に帰るなり、彼女はソファの上で寝転がっていた。


 ショッピングモール、電車とどこも人が多くて疲れたのだろう。俺も正直に言って少し疲れてしまった。


 けど、月島と一緒にどこかでかけて楽しかった。あれがデートになっていたかはわからないが。


「千紘」

 

 寝転びながら何かアピールしていたので俺は彼女の近くへ行った。


「膝枕して……か?」


「いえ、膝枕してあげます」


 彼女はそう言って起き上がり膝をトントンと叩いた。ここに寝ころべということだろうか。


「いつもしてもらっているので今日は千紘の番です」


 ニコニコしながら待っているので断ることができず俺は彼女の膝に寝ころんだ。


 目を開けると月島とバッチと目が合った。長い髪が顔に当たってくすぐったい。


「撫でてもいいですか?」


「ど、どうぞ……お願いします」


 膝枕してもらって頭を撫でてもらうとかどんなご褒美なんだろうか。


(幸せすぎる……)


 月島に優しく撫でてもらい俺は眠くなってきた。


「千紘の髪は、さらさらですね」


「そうかな……月島の方がさらさらだと思うけど」


 そう言って俺は彼女の髪に手を伸ばした。さらさらの髪を触ると彼女は固まってしまった。


「ち、ちひ……ろ」


 よく見ると顔を赤くしてあわあわしていたので俺は慌ててバッと髪から手を離した。

 

「ご、ごめん! 急に触って嫌だったよな?」


「い、いえ、少し驚いただけですから。あの、夕食まで家に戻ります」


「そ、そうか……」


 俺が起き上がると彼女はソファから立ち上がり玄関へ向かった。


 ガチャンと扉が閉まり、俺はやってしまったと思い机に突っ伏した。


(絶対に怒っているよな。後で、また謝らないとな……)






***






「驚きました……」


 家に帰ってきた有沙は、ベッドへ寝転びさっきあった出来事を思い出し、つい顔がニヤけてしまった。


 さっき千紘に触られたところの髪を触り、またニヤけてしまう。


 夕食の時、どんな顔をしたらいいのだろうか。今の表情を千紘には見せることはできない。


 私は千紘にもらってばっかりだ。料理を毎日作ってもらったり、今日はヘアピンをプレゼントしてもらったり。


(私も何かできることはないのでしょうか……)


 膝枕や撫でるだけじゃお返しにはならない気がする。何をしたら喜んでくれるのだろうか。


 ベットに寝転がって考えていると6時になっていたので起き上がり髪の毛を整えてから家を出た。


 インターフォンを押すと千紘が出てきて中に入れてもらった。


「ち、千紘……今日の夕食は何ですか?」


 イスに座りキッチンで準備をする千紘に尋ねた。


「今日は唐揚げ。月島……さっきはごめん」


「えっ……? なぜ謝るのですか?」


「だって、髪触られて嫌だっただろ?」


「……嫌なわけないです。先程も言いましたが、驚いただけどすから。ところで千紘、私にしてもらいたいことはありますか?」


 千紘が夕食を運んできてくれたタイミングで私は彼に尋ねた。


「してもらいたいこと?」


「はい。何でもいいですよ。いつも夕食を作ってもらってるので何かお礼がしたいです」


「な、何でも……。それなら────」


 

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