第13話 ゴロー退治
「……カ、カイ。作戦が失敗したら速やかに私を殺してちょうだいあんなのに殺されるなんていや、いや、いや、いや、いやよいやよいやよいやよいやよ……!」
リオが顔面蒼白になってカイの服をギュッと握る。カイは呆れながら告げる。
「戦って死ね。前衛は俺が努めるから後方支援に徹しろ。まぁ、やれなくはないだろう」
「後方支援。素晴らしい言葉ね。あは、アハハハハ……!」
(こいつこんなメンタル弱かったっけ……?)
思いながらカイは、ゴローをさらに見分する。体長は10メートル程。しかしずっしりした体格のため体長以上に大きく見える。加えてキチガイの振舞い。とにかく凄い威圧感を全身から発していた。そのゴローが間近に迫る。
(さぁ、いよいよだぜ)
カイとゴローの目が合う。ゴローはにちゃぁ……と笑みに情欲を混ぜる。キチガイスマイルをウルトラキチガイスマイルに進化させて、吠える。イチモツがジャキーンと天を向いて臨戦体勢を整える。興奮がドピュっと溢れる。ゴローが、吠える。
「ウホほほほオホほほほっ! うホホホホォッ! オとコォッ! ホモォッ! もっほホホホホホホホホホホホオほほほほほホホホホホオホホホホホホホォ! むほぉオオオンっ!」
(ああ、死ぬ程気持ち悪い。殺すのが楽しみだ……!)
愉悦の予感に笑みを浮かべる。その笑みを見てゴローはさらに昂ぶる。カイへと一歩を踏み出す。
落とし穴の上に、両足が乗った。
(今だ!)
カイはアルメリウスの髪の毛に流し込んだ魔力を解いた。途端、ゴローの足元が陥没する。
「ウォホ?」
ゴローがあれ? という顔を浮かべながら落とし穴に落ちる。長時間落とし穴に封じ籠められていた煙がぶわっと一気に吹き上がる。そしてゴローの絶叫もまた同時に穴から迸り、天地を揺るがした。
「ウォホォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ! ウォボバっ! ウォバっ! ウォバァアアアアアアアアアアアアアアアア!」
ゴローが落とし穴の中で滅茶苦茶に暴れ回る。あまりの威力に穴が広がっていく。ゴローが穴に落ちてすぐ大きく距離を取ったカイはその様子を見ながら胸を撫で下ろした。
「どうやらちゃんと効いてくれたようだな。相変わらず凄い効き目だ」
「ガチキチ山のゴロー。まともに戦えばアルメリウスと同等か、あるいはパターン化できない分アルメリウス以上の強敵。まともに戦えば、ね。マンドラ草がこの世界でも激毒みたいで良かった。ほんっっっっとうに心の底から安心した。ああ、これでもう大丈夫だ……」
「……」
なんかゲームとキャラ違うなとリオを横目で一瞬チラ見して、すぐに落とし穴へと視線を戻すカイ。暴れる音はほぼ止んだ。まだ僅かに音がするが、それもやがてなくなった。煙ももう上がっていない。そこに至ってようやくカイは落とし穴へと歩み寄り、中を覗いた。
ゴローが真緑色になって白目を剥いていた。ピクリとも動かない。気絶している訳ではない。全身が麻痺しているのだ。ゴローはマンドラ草の粉末を炊いた煙が大弱点なのだ。
ルナティック・オンラインの敵はまともに戦うと常軌を逸した高難度。だが、弱点をつけば攻略難度を落とせる、という敵が多い。高難度ゲーとしての体裁とライト層への救済を天秤にかけた結果の仕様だ。ゴローはそれが特に顕著に表れるキャラだった。まともに戦えば赤月の八陰神並。だが、弱点をつけば全ボス屈指の雑魚。その弱点をついた結果が目の前で全身麻痺状態に陥り植物巨人と化した姿だ。
あとは麻痺が解ける前に殺し切るだけ。カイは既にフォームチェンジを終えた終焉魔杖ヴィヌス・ノアをゴローに向ける。リオもまた華天輪杖マジカル・ロッドをゴローに向ける。
「よし、遠距離魔法で安全に殺すぞ」
「ええ。早く殺さないと……!」
そして、2人で一斉砲火した。
「ダークネス・ボールダークネス・ボールダークネス・ボールダークネス・ボールダークネス・ボールダークネス・ボールダークネス・ボールダークネス・ボールダークネス・ボールダークネス・ボールダークネス・ボールダークネス・ボールダークネス・ボールダークネス・ボールダークネス・ボールダークネス・ボールダークネス・ボールダークネス・ボールダークネス・ボールダークネス・ボールダークネス・ボールダークネス・ボールダークネス・ボールダークネス・ボールダークネス・ボールダークネス・ボールダークネス・ボール」
「マジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライト」
「ヴォ、ヴォホ、ヴァ、ヴァメ……」
カイはレベル上昇によるMP量の暴力で、リオは武器に備わっているMP自動固定値回復の効果でひたすら魔法を連射し続ける。威力はカイの方が高い。しかし、リオの魔法も低レベルであることを考えれば破格の威力。単純な遠距離武器としての性能はリオの武器の方が上のようだった。そして、MPが先に尽きたのはカイだった。リオの武器には低レベル帯では無類の強さを誇るMP自動固定値回復機能がついているからだ。それを当てにしたカイはリオの助力を求めた。カイは腰に手をついてため息をついて、リオに言う。
「もっと痛めつけたかったが仕方ない。あとは任せた」
「マジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライト」
殆ど狂気的な勢いでリオは魔法を連射し続ける。まるでそうしないと死ぬと言わんばかりの気勢。その剣幕とメンヘラじみた眼差しには流石のカイも圧倒された。リオは念仏のようにひたすらにマジカル☆ライトの呪文を唱え続ける。本当に、念仏に縋り付く仏教徒のようだと思いながら、暇になってゴローの蹂躙を見ていたカイはふと思いつく。
「そうだ、サン。適当な石を持ってこい。こいつに投げろ」
「え?」
「レベルアップの機会だ。逃すな」
「! はい!」
サンが駆け寄ってゴローに石を投げる。その後ろから、サチが、なぜかエタマタたちをつれてきた。そして続々と石を投げる。カイは尋ねた。
「なにをしているんだ」
「レベルアップです。ゴローがいなくなってもモンスターはいなくならない。この機会にと」
「ああ、なるほど」
「マジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライトマジカル☆ライト」
そして、それからさらに10分の時が経過し、とうとう、ゴローが絶命した。絶命の合図はレベルアップだった。
「あぁあああああああんッ!」
「ふぁあああああああ!」
「おほぉおおおおおお!」
レベルアップに驚く声が重響する。ルナティック・オンラインの世界では戦闘に1でも貢献すれば経験値が発生する。その量は貢献度に応じて分配されるが、貢献度による分配とはまた別枠で、戦闘に参加しただけで貰える最低経験値というものが発生する。ライト層への救済処置だ。その最低経験値でエタマタたちはレベルアップし嬌声を上げていた。エタマタはみんなレベル1なのでゴローの最低経験値はかなりの量だったのだろう。
そして一番大きな声を出していたのは勿論リオだった。カイはリオの傍に駆け寄りその背中を叩いた。
「やったな」
「ひゃぁあああああああん!?」
「うわ」
「あ、ああ……」
リオは地面に蹲り股を抑えて涙交じりに涎を垂らす。その煽情的な姿にカイはごくりと唾を飲み込む。カイはリオに尋ねた。
「女性にとってこの世界でのレベルアップって、どんな感覚なんだ」
「……」
リオは真っ赤にした顔を背けて言った。
「言える訳、ないでしょ……」
「……」
カイは大体のところを察した。素晴らしい世界だと思った。
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