第6話 パワー系
「
エディット機能で自分好みの名前とエフェクトに改造したランク3魔法【ネガティブ・オーラ】による黒いオーラを纏った黒王魔剣カオスロードが、毒々しい紫色の木の陰から飛び出してきたゴブリンを切り裂いた。四肢を断たれたゴブリンが地に転がる。
攻撃の成果とダークネスオーラを纏うカオスロードを見てカイは満足げに頷いた。
「アルメリウスを倒して一気にレベルアップしたおかげか体がよく動く。剣も軽い。それに何よりレベル200から解禁されるランク3魔法が使える。ということは今の俺のレベルは200~300の間――感覚から察するに280~290くらいか。序盤に強敵を倒して飛び級的なレベルアップするのはやはり気持ちがいいな……地球じゃ絶対味わえない快感だ。ああ、気持ちがいい……」
(何言ってるんだろうこの人……)
もしかして頭がおかしいのではないか? カイの後ろを歩くサンは、無言ながら表情で流暢にそう語っていたがカイは全く気付かない。カイは幼少のころから他人への関心が薄く、また友人のいない人生を送ってきたため、他人の感情の機微を読む能力が欠落している。余程のオーバーアクションをされない限り他人の内心に気付かない。カイはハッタツだった。
「ほら」
カイがサンにカオスロードを渡す。サンは剣を両手で抱き抱え、キョトンとした表情でカイを見る。カイは親指でクイッと、四肢を切られて地に転がるゴブリンの方を指さした。
「殺せ」
「っ!?」
「大丈夫。安心しろ。ゴブリンは雑魚だ。四肢を切り落とせばなにもできない。うつ伏せにしてあるから醜悪な面を見る心配もない。唾も飛ばされない。お膳立てはこれ以上なく万全だ。それに、いざとなったら俺が助けてやる。だから安心して、殺せ」
カイはサンの頭を撫でながら笑顔を浮かべた。サンは引きつった笑みを浮かべた。そして、カイの言うとおりにした。ゴブリンの前に立ち、剣を振りかざして、首元目掛けて振り下ろした。
ゴブリンの首が宙に舞った。
「あ……」
ゴブリンを殺すと同時に、サンは体の内側からなにか生命力のようなものが湧いてきて、体に満ちていくのを感じた。
「凄い……熱くて、白いなにかが、体の内側から競り上がってきます……!」
「それがレベルアップだ。気持ちいいだろう」
「はい。気持ちいいです……私、この感覚を味わうのに夢中になっちゃってる。癖になりそう……」
サンが陶然と言う。カイもサンの嬉しそうな表情につられるようにして、笑った。
「しかしサン。お前は弱いな。どうしてゴブリンを一匹殺しただけでレベルアップするんだ。ちょっと吃驚したぞ。あと2、3匹は殺させようと思っていたのに。さてはお前、レベル1だな?」
「う……はい。私は、レベルを上げることを禁止されていたんです。……エタマタ、ですから」
エタマタ。
そう言って、サンは弱々しく笑った
(……エタマタ、ね。そう言えばニエ村にはそれ関連のイベントもあったな。さて、サンを生かして帰ったらどう発展するのやら。楽しみでもあるが――少し、怖くもあるな。俺は平静でいられるだろうか)
ちら、とサンを見る。この世界で初めて会ったNPC。いや、人間。大分、感情移入してしまっている。今、サンを殺せるかと言われたら、おそらく殺せない。それぐらい、もうカイはサンに感情移入してしまっていた。そのサンが、たどたどしく言う。
「あの、エタマタというのは、えっと、その」
「言わなくていい。全部知ってる」
「っ! そ、そうだったんですか。あ、あは、あはは……」
サンが媚びるような笑みを浮かべる。カイの胸が痛んだ。
「――エタマタなんてのは、あれは悪習だ」
「え――」
「アルメリウスがいなくなった以上もう必要もない。あんな悪習、ぶっ壊してやればいいさ。俺が手伝ってやる。俺は、いつだっていじめられっ子の味方なんだ。いじめっ子は殺されて当然の悪なんだよ……」
「……ぐす。ありがとうございます。私がエタマタだって知ってそんな親切な言葉かけてくれたの、同じエタマタの仲間以外ではカイさんが初めてです」
「……」
カイはなにか良いことを言おうとした。だが、なにも言葉が思い浮かばなかった。悪意に言葉を返すのは慣れている。だが、善意に言葉を返すのは慣れていない。だから、カイの中にはこの状況に即した表現が蓄積されていなかったのだ。中身のないそれっぽいだけのシングルワードをパッチワークして、カイは何とか会話を成り立たせる。統合失調症と観念奔逸のせいだ。カイはそう思った。
「……気にするな。行くぞ」
「はい」
カイはその後も、襲ってくるゴブリンなどの月の眷属をサンに殺させながら森を進む。
「あ、そういえば」
道中、サンが何かを思い出した。
「なんだ」
「2週間前から、ニエ村に【魔女】と呼ばれる人が滞在してるんですよ。サイケデリックな服装をしている恐ろしく強い人らしいです。村の外れの空き家に勝手に住み着いたのを追い出そうとした村の戦士があっさり返り討ちにあったとか。今では魔女を恐れて、その空き家には誰も近づこうとしません。なので、カイさんも近寄らないようにしてくださいね」
「ほう。イベントフラグか」
カイは絶対魔女に会おうと心に決めた。
そんな会話をしながらも襲ってくるゴブリンを半自動的に無力化してサンに殺させる。サンがしみじみと言った。
「……こんな恐ろしいモンスターに襲われなくてよかったです。村を出て真っ直ぐ進めばアルメリウス様の元まで無事に着くと長老には言われました。けど、道中、ずっと怖かったです。あの不気味な木の陰からいつモンスターが飛び出してくるかと。もう、発狂しそうでした」
「無駄な心配をしたな。この迷い子の森の全てはアルメリウスのコントロール下。迷い子の森限定で次元を操る特殊な魔法を奴は使えるんだ。贄を捧げられる日、村から奴の元へと伸びる道は覆い囲む森から隔絶された特殊な空間となる。万が一にも、月の眷属に襲われる心配はない。そもそも、贄に手を出したらアルメリウスの怒りを買うんだ。次元を操る魔術がなくったってよほどのことがなければ贄は手を出されないさ」
ドヤ顔でカイは知識を披露する。サンはそんなカイに訝し気な目を向けた。
「……どうしてそんなにこの森について詳しいんですか? その隔絶された空間にどうしてカイさんはいたんですか? そもそもカイさん――あなたは一体、何者なんですか?」
「ああ、俺は異世」
カイがサンの疑問に答えようとした。
その時――。
ズシィイイイイイイン!
と。
地響きを伴う巨大な音が、二人の立つ地面を揺らした。カイは咄嗟に右手でサンの体を抱き寄せ、左手で口を覆い、近場にあった大きめの木の陰に飛び込む。
「ッ! 隠れろッ! 決して音を立てるな!」
「んー!?」
暴れるサンの頬をギリギリと手で締め付けながら、耳元に口を寄せて威圧を込めた言葉を小声で吐く。
「黙れ」
「……」
巨大な音が、近づく。それは、足音だった。息をひそめる二人のすぐ近くまで足音が近づく。
そして、カイとサンの頭上に、巨大な影が落ちた。
「ウォホほほほオホほほほっ! うォホホホホォッ!」
「っ!」
突如として声。二人して、息をのむ。隠れる木の背後で、バリ・ボリと何かを咀嚼する音がする。
「ひっ……!」
(馬鹿野郎めっ……!)
サンが声を漏らした。カイは骨を砕く勢いでサンの口を握り締めた。
「ウォホ?」
(……っ! 糞っ! なぜ、ゴローがこんなところに現れやがる……!)
心中で悪態をつくカイ。どうか、見つかるな。そう祈りながら。
「ウォほホォ……ウォホっ!」
声に弾みがつく。カイの心臓が跳ねる。そして――。
「ゴックン♪」
なにかを、飲み込む音。その音を最後に、足音は二人の元から遠ざかっていった。
それから3分ほど経って、ようやく脅威が去ったことを確信したカイは、深く息を吐いた。
「ふぅーっ……危なかった。ゴローと近距離戦とか冗談じゃねぇや。残機1の状態でんなクソゲ―やってられるかよ……」
「あ、あの……」
サンが言葉を発する。カイはサンを見下ろす。命の危機を前にしてよほど興奮していたのだろう。耳が真っ赤だ。危機が去ったら怒鳴ろうと思っていたが、カイはその耳に同情心を引かれた。ため息をつき、軽く注意をするにとどめることにする。
「サン。音を立てるなと言っただろう。本当に死ぬところだったんだぞ……」
「そ、そのことはすいません。でも、その」
「なんだ。はっきりと言え」
「胸、触ってます。ずっと……」
「……」
カイはサンを抱いている、自分の右手のポジショニングを確認した。心臓の上に乗っている。サンの心音がバクバクと右手の腹を揺らしていることに今更ながら気づき、動揺した。右手が、揺れる。その右手の動きに引っ張られて、掌の中央で固いものがコリ、と、しなった。
「あんっ!」
「……っ!」
カイはロリコンではないがこの状況には並々ならぬファンタジーを掻き立てられた。ファンタジーが現実になる前に急いで手を離す。そして言い訳をした。
「胴体だと思ったんだ。平べったいから。ロリコンじゃないから俺はお前の体に1mmも性的魅力を感じない。だから安心してくれ。俺はお前の体に全く興味が無い。昨今好まれる草食系男子なんだ俺は。そもそも、お前の体は男の興味を引くには色々小さすぎる。間違いなんて起きるはずないだろ」
カイはここぞとばかりに童貞的女性観を発揮。女性は性欲を嫌うと勘違い。だからサンに性的魅力がない、興味がないと過剰なほどにアピール。女性に引かれる男の典型症状をこれでもかと見せつける。結果、サンは泣いた。
「ひっく、うぅ……」
「悪い。今のは全部言い訳だ。気まずくて心にもないことを言ってしまったんだ。えっと、だから、その……」
なんとか言葉を尽くしてカイはサンを泣き止ませた。ぐすん、と目をこすりながら、サンは話題転換も兼ねてカイに先程の化物について尋ねた。
「……さっきのは何だったんですか? 知ってるみたいでしたけど」
「あいつはゴロー。ガチキチ山のゴロー。ルナティッ――この世界屈指のパワー系モンスターさ。アルメリウスの眷属だったが、アルメリウスが死んだから暴走しているんだろう。柱が死ぬと配下のモンスターは暴走するんだ。本来ならこんな場所に現れるモンスターではないんだがな。糞、油断した……」
「パワー系……力が強いんですね」
「ああ。だが」
カイは己の頭を指さしながら、言った。
「その分ここが弱い。頭は弱いがパワーは強い。そのギャップが恐ろしいんだよ。パワー系は」
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