第6話:誰が為に鐘は鳴る
片眼を失った0721の〈LOOADER〉が残る左眼を爛々と輝かせながら爆発的な速度で直進してくる様に、敵と化した上官達は驚愕の声を上げていた。
【指揮官】『イクシードブーストだと!!? 何故教えられていないはずの機能を!!!』
「自分でお勉強したんだよ!!!」
それは〈AS〉が人型であるからこそ行使できる機能。
全身フレームの
マニュアル操作でも可能だが、本来の機能としては〈
「どういうものかさえ知ってれば、リンクスシステムでマニュアル操作を全部脳内で処理して使えるって訳だ!!!」
おかげで〈リンクスシステム〉からの負荷がとんでもないことになるのだが。彼女なら耐えられた。彼女的にもぶっちゃけ賭けであったが。
一機落としたとはいえ一機vs十一機である。
無数の光の槍中を放り込んでくる部隊を直進で掻き分けていった。
【敵隊員】『直進しているだけの機体に、何故当たらない!!?』
【指揮官】『
【敵隊員】『そんな事ができたら苦労しませんよ!!!』
ユニコーン星圏の機動兵器に搭載されている機能の一つであるロックオンアシスト。これは捕捉した相手を常にカーソルで捉えていてくれるものだが、欠点として相手の移動速度が自機の反応速度より速いと捕捉しきれず弾が当たらないという。
今まさに〈イクシードブースト〉で飛行する
【敵隊員】『そもそも何故あの機体のジェネレーターとブースターであそこまで動ける!!?』
それは当然の反応であった。
実際、彼女の機体は〈イクシードブースト〉を発動する度に急激に
本来なら数秒と持たないのだが。彼女は
〈リンクスシステム〉で機体と深く
一定まで進んだところで振り返ると、0721はまた〈イクシードブースト〉を起動して直進する。
滅茶苦茶速いだけの行って帰るだけの機動。その行動に一体何の意味があるのか。
答えはすぐに出た。
【敵隊員】『いい加減に、墜ちろッ!!!』
痺れを切らした一機が一際激しく連射する。しかし。
その光弾は射線上の僚機に命中した。
【敵隊員(別)】『ぐあっ!!? 貴様、何を……!!!』
【敵隊員】『!!? 済まない!!!』
【指揮官】『誤射を狙ったというのか……小賢しい奴ッ!!!』
「――――どの口が言うんだ……ッッ!!!」
辛うじて動いた口から恨み節を放ちながら。たった今誤射を受けて怯んだ一機に狙いを定めて突っ込んでいく。そして、
「――――死ね」
短く発されるその言葉。
同時に、振り被った左腕の
【敵隊員】『なっ……!!?』
「これでもう一機……!!!」
パルスブレード等のパルス武器に使用される特殊な荷電粒子の放つ電磁パルスは〈
そしてもう一つ、0721は突破口を見出していた。
続けて一番近い一機に目掛けて超至近距離まで接近し、アサルトライフルをその組み付かんばかりの距離で突きつける。ほぼ零距離で、ぐにゃりと柔いものに阻まれる感触を操縦桿越しで感じながらトリガーを引いた。
〈
受け流せない程強力な攻撃で突破されるし、
そして何より、近接攻撃の間合いなら
防壁に阻まれることなく直接コクピット付近に弾丸を叩き付けていく。〈PL〉も一点を集中され破れかけたところに〈LOOADER〉の左腕がねじ込まれるとそのまま胸部装甲の隙間に突き刺してコクピットブロックを直接潰した。
これで
『45-45-0721、ですか?』
『あぁ』
部隊指揮官の男は直前にしていた上官との会話を思い出していた。
『この卒業式、彼女には特に気を付けてほしい』
そういう上官に応じはするものの釈然としなかった。
『所詮は序列九位程度でしょう? それも
『性格に難ありとはいえ、彼女の実力は本来ならば第一位となってもおかしくなかった。だが、主席を卒業させるのは
買い被り過ぎだろう、と。そう思っていた。
どちらにせよ全滅させるつもりではあったので気に留めてはいたが。
気が付けば、指揮官と副官の二機になっていた。
撃墜した機体からレーザーライフルを
【副官】『隊長はやらせません!!!』
最後に残った副官が果敢に挑むも。
右肩のミサイルを目晦ましに使い〈イクシードブースト〉で加速しながら両腕に持ったレーザーライフルを撃ち込んでいく0721。立て続けに放たれた光弾を最初の二発だけしか避けられずに副官はあっけなく仕留められた。
隻眼となった奴の機体がこちらを睨み付けてくる。
その様に指揮官は絶句していた。
彼はその機体構成の事情を知っている。
技術部の新人達に実習で組ませていた最低限の性能の機体を転用させた機体だということも。あの機体の
電飾としてただ光るだけのそれは、本来ならば何の
人類がまだ『母なる星』に住んでいた頃から脈々と受け継がれてきた巨人神話を元とした“眼を象った”部位。
『睨み付けるという行為で
何だったらその格好良さから『本物感』を演出して騙す為の部位。
それがどうだ。目の前の機体は、片眼を失ってなお、寧ろ一層強烈なまでの威圧感を放っているのだ。
【指揮官】『何なのだ……何だというのだ、貴様は!!!』
吼えた指揮官が右手のライフルを連射する。
特殊な光弾がいくつも放たれて0721の機体に襲い掛かるが、それを彼女は回避しながら迎撃で射撃する。
レーザーを回避してミサイルを迎撃していく指揮官。
一対一。互いに拮抗していた。
「…………ッ!!!」
だがすぐにそれは訪れた。
レーザーライフルの弾切れ――それも両腕で同時に。
【指揮官】『貴様の悪足掻きも!!! これで終わりだ!!!』
その隙を見逃さなかった指揮官。
ライフルを
最大まで溜める必要はない、その判断による溜め一段階目での砲撃――だが。
「――――おらっ!!!」
それが放たれるより先に0721がライフルを投擲して、それが手首辺りに命中。射線がずらされたことで砲撃は明後日の方に飛んで行った。
【指揮官】『――――何……!!?』
呆気にとられた隙に接近を許したことで、その右腕をパルスブレードで切り裂かれる。
指揮官も左腕のブレードを展開して一閃するが避けられ、蹴りを入れられて怯まされた。
そして0721は、指揮官のライフルを手に取り――。
【指揮官】『この……
恨み節を吐き捨てた指揮官機の胸部にそのライフルを突き立てた。
直前に脱出されてしまったことで、殺し損ねたが。
一先ずの危機が去ったことで。0721は全身を疲労に襲われる。
同時に、追手のおかわりが来ない内に逃げなければと鞭を打つ。
『LP:6801/9300』
機体の〈LP〉を確認して、同時に今手にしていた武器の表示を確認する。
〈URDI-F1997/0710PR KARASUMA〉
モニターに表示された、指揮官の武器の名前。
その名は『カラスマ』とでも読むのだろうか。
説明文によるとパルスライフルという武器種らしい。
「パルスって事は、ブレードと同じエネルギーの武器か……」
道理で効いた訳だと納得する。
『EN負荷限界超過』
『EN使用量許容上限超過』
その二項がエラーコードとして表示されており使用はできない様だった。
先程は撃とうとしてこれが出たから咄嗟に突き刺したわけだが。
「これは餞別として貰ってくからな!!!」
刺さっていた機体から引き抜きながら指揮官が去った方角にそう言い放って、元々空いていた
その後、自分のアサルトライフルを回収しつつ自らが撃墜した機体から比較的損傷が少ないと見込んだ一機を適当に選ぶと。彼女はその機体を〈LOOADER〉の空いた左手に掴ませて〈イクシードブースト〉を起動し、機体を飛翔させる。
元々地上に向かう進路だったとはいえ、その進路を今から宇宙に向けるわけにはいかない。軌道上には封鎖機構宇宙部隊の本隊が居座っているのもあるが、これを搔い潜ったところで隣の星系に辿り着くまで何年掛かるかわからないからである。
そしてもう一つ。
〈AS〉は理論上、適切な進入角度と速度を守りさえすれば〈PL〉を3000~4000程度失うくらいのダメージを負いこそするが、専用装備なしでも大気圏突入が可能であった。逆に言えば専用装備なしだとそれだけダメージを負うのであるが。
とはいえ、
そこで、
乗り換えるわけではない。そもそもコクピットを真っ先に潰していたのでそうすることができない。
故にどうするかといえば。撃墜した機体の背中に〈LOOADER〉を登らせ、言うなれば
『LP:6018/9300』
ほとんど削れることなく熱圏・中間圏と抜け、成層圏への進出に成功する。
「突入進路……元々目的地だった場所か」
適切な進路の計算上そうするしかなかった訳だが。下手に逆らって海に墜落したり空中で燃え尽きたりするわけにもいかなかった為に、任務で用意されたデータの突入経路を辿ることにしていた。
嘘任務が出任せならワンチャン戦闘は起きていないのでは、という薄い期待もある。
そんなことを回想しながら、ようやく対流圏へと突入した。厚い雲を裂きながら、御役御免となったサーフボードを
初めて見た地上の光景。それは……。
「――――やっぱりこうなんのかよ……クソが!!!」
あろうことか戦場のド真ん中だった。
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