第5話:敗者を送る者
「うっそだろマジかよオイ……!!?」
己の不信をバレているとは思っていた。日に日に隠す気が無くなっていたから。
まさか部隊で居る時に襲撃されるとは思ってなかった。それも部隊規模で。45番部隊と11番部隊にそれぞれ付いていた先輩部隊、計十二機がそのまま敵対する形となったのだ。
よりにもよって〈ユニコーン〉間近で。もうすぐで重力圏に入るという状況だ。一時間くらいは掛かりそうだが。
それで、一瞬前まで同期だった一機が消し飛ばされて。0721はその張本人たる部隊指揮官と副官らしい一機の二機と決死の鬼ごっこを繰り広げていた。
【1573】『何故ですか!!? お待ちください!!! お待ちください!!!』
【2938】『やめてくださ……うわぁぁ――――!!?』
ひたすら必死こいて、ブースターを吹かして攻撃を回避していく0721。そんな中で一人、また一人と、同期の隊員が放たれる青いレーザーに穿たれ撃墜されていく。
11番の部隊も無言のまま撃墜されていく者が出ていた。
判断ができなかったのか、諦めたが故に動かなかったのか、棒立ちで撃墜された機体もいた。
【1419】『ふざけんな! 頭にきますよ!』
そんな中、立ち向かう機体が一機居た。強化人間11-45-1419。
【1419】『ホラホラホラホラ!』
敵機体の一機に狙いを定めてブーストを勢い良く吹かして突撃し、果敢にもアサルトライフルをフルオートで撃ち攻め立てる1419。
その動きは決して悪くなかった。現に相手は右手の火器に被弾したことでそれを破壊される。
しかし。
【1419】『ファッ!!?』
他の敵機からの攻撃を背面に受け、発生した爆発に機体が揺さぶられたことで動きを止められてしまう。
そして、そのまま機体に被弾が重なっていく。
【1419】『やめてくれよ……あぁっ!!!』
命乞いも空しく青いレーザーによる集中砲火を受け、機体はたちまちに破壊されていく。〈
【1419】『イキスギィ!!! イクイクイクイクゥ……ンア──────ッ!!!』
その断末魔を最後に、1419の機体は爆発四散。
「クッソ、もう滅茶苦茶じゃねぇか……!!!」
悪態を付きながら自らへと迫る凶弾を避け続ける0721。
何が酷いかといえば。機体のUIに表示される『EN容量ゲージ』で確認できるエネルギーの管理。
〈リンクスシステム〉を介して
その一定量は〈
0[■■■■■■|□□□□□□□□□□□□|□□]100%
ゲージで表すとこんな感じであり。
いたずらにブーストを吹かし過ぎて残量30%以下になると〈緊急回復〉が発生し、そうなると90%以上回復するまでブーストが封じられる。
クソゲーかよと内心突っ込みたかった彼女だが雑念を払い除けて集中する。残念ながらこの状況は現実でありヘマすれば死ぬ。
実はここまで反撃を一発も撃っていない彼女だが。理由があった。
先に散った1419を含めて反撃している者が居たが、一向に効いてる様に見えない。本来〈PL〉とはそういうものなのだが。
というか相手の火力がおかしいのである。相手方は高火力のレーザーライフルを持ってきているのだ。
特に指揮官機の無駄に格好良い銃剣付きのライフル。これだけ性能が違う。放たれる弾は緑色のシャボン玉の様だが明らかに他機体の火器より弾速が速い上にマシンガン並みの連射速度で六連射してくる。そして回避した延長線で巻き込まれたデブリが一瞬にして溶けて消滅した。
「あと誰が残って……」
レーダーの反応を見る間もなく状況を気にしていると。
【6180】『うそ、なんで……!!?』
その声が聞こえてきた。
【6180】『機体が言うことを聞かない!!?』
機体反応の方を、オールビューモニター越しで後方を見やると。かなり遠くに、背部から閃光を迸らせる6180機の姿があった。
「メインブースターが破損したのか!!?」
【6180】『いや!!! 助けて!!! 誰か助けて!!!』
聞こえていないのか錯乱している6180。その向かう先には、〈ユニコーン〉が――それが何を意味しているのか0721は理解できた。
「救援……いや、間に合わな――!!?」
指揮官機のライフルがバチバチと閃光を迸らせている。
「────クッソ……!!!」
放たれる光弾を回避する。
間一髪の回避、だが。一息吐く間もなく副官からのレーザーを右肩に掠ってしまう。
『LP:8221(-1079)/9300』
「一気に1000も削れんのかよ!!?」
〈PL〉の減り具合を見て戦慄する0721。破損が無かったのが幸いであったが。
そこへ一発の光弾が頭部に迫り、丁度右眼部を穿たれる。
『LP:7402(-819)/9300』
また〈PL〉が削られてしまう。
「被害は……」
『頭部:右舷部ダミーセンサー破損 損害軽微』
「ダミーセンサー……!!?」
何でそんなものが積まれてるのか、と。雑念が過ったのが悪かった。
【6180】『イヤ!!! 落ちる!!! 落ちちゃう!!! 助けて!!! イヤぁぁぁ!!!』
意図して聞かないでいた6180の悲鳴が意識に入った。入ってしまった。
もう惑星の重力に捕まったらしい。
察していたのであろう指揮官側すら彼女には目もくれないでいた。
介錯する事すらないらしい。
【6180】『イヤ!!! 助けて!!! 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくないあついあついあつい――――――』
(やめろいうな意識を向けるな何も聞くな聞こえるな聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない!!!)
途中でプツンと音声が切れる。
6180の機体だった点が赤く輝いており、程なくしてレーダーから反応が消失した。
気が付けば自分のみになっていた。
同時に。気が付けば機体は〈緊急回復〉状態になっており、動きが格段に鈍くなってしまっていた。
「何でこんなことを……!!!」
その言葉が不意に零れた。どの口が、と自分でも思っていたが。
【指揮官】『それは貴様らが不良品だからだ』
「あ゛?」
その言葉を質問と捉えたのであろう、返ってきた返答に変な声を上げてしまった。
【指揮官】『貴様らに与えたその機体の名、〈LOOADER〉の意味を今一度教えてやろう。
〈
貴様ら不良品を廃棄場に送るのがその機体の役目なのだよ』
「『
言われてみれば気が付いたものだ。
『
同時に察したことがある。
指揮官側の機体は全員、外装こそ〈LOOADER〉の様だがよく見たら眼がスリット型であったり腕や脚の関節部の構造が違ったりと中身は完全に別機体の様だ。
【指揮官】『特に貴様は気性が荒いからな。貴様の様な秩序を乱す輩はこの組織には不要なのだ!』
熱烈に語ってきた指揮官は先程から撃ってこない。どころか光の弾雨はいつの間にか止んでいた。
代わりに、出力を溜めていたらしい得物が変形を始めていた。察するに極限まで多段チャージして消し炭にしてやろうという訳だ。
「……んだよそれ」
ENは回復しきっていた。
だがクソな状況なのは変わっていない。
「じゃあ、私は……」
その言葉が全てを諦めた様に聞こえていただろうか。
周りの機体も火器を構え始めていた。
まるで銃殺刑を待つみたいだと思った。
せわしなく動いて情報を送るモニター類を除けば。
『
『
『
【指揮官】『消えろ! 不良品!』
「私はぁ────っ!!!」
激烈な光の奔流が指揮官の得物から解き放たれる。
同時に他の機体もレーザーを発射してきた。
迫り来るそれらに対して、どうしたか。まず右肩のミサイルを放って指揮官の光弾の威力を減衰させながら、ある操作をした。
『
瞬間、〈LOOADER〉は頭部後方・胴体部の側面と背面・バックパック上部・両肩後部・腰部後方・大腿部後面・脹脛部と全身の装甲をスライドさせ、開いた中から機械を展開する。
そして、機体の全身から光を迸らせて、砲撃を完全に相殺した。
その光景が傍から見れば爆散したと思われただろうか。計十一機によるレーザー掃射だ。普通なら死んでいるだろう。
爆発の余燼から勢い良く飛び出した〈LOOADER〉が左腕のパルスブレードを展開して棒立ちになった一機を斬り落としたことで一同を愕然とさせてみせた。
そしてそれをやってのけた彼女は。
「──テメェら全員ブッ殺せばぁ!!! 晴れて自由の身って訳だなぁッッッ!!!」
完全に開き直った。
【指揮官】『なっ!!?』
「こちとらどうにか撃墜されたって偽装して脱走しようかと思ってたんだ!!! 手間ぁ省けて助かったぜェ!!!」
反逆の時だ。そう言わんばかりに、ある機能の操作をした。
『
排熱の為に装甲を展開したままのフレームが全身から輝きを解き放ち始め、0721の〈LOOADER〉は爆発的な加速を得て翔け出した。
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