MISSION-2:初陣
第4話:卒業式
初任務への出撃まで30分前になる頃。
早々に準備を終えた0721は、改めて自機の〈
起動していない状態のツインアイと目が合っている気分になる。
「……粗方の準備は整った、が……」
思わずとばかりにポツリと呟く。
「何か違和感あるんだよなぁ……」
〈
〈
それぞれの弾薬用マテリアルが弾倉内に装填済み。
〈
至れり尽くせりと言わんばかりの配給。組織が組織なのだから当然といえば当然なのかもしれないが。0721はどこか違和感が拭えないでいた。
初の実戦となる作戦。
場所は〈北方大陸〉南方 ユニオン・共和国領 廃棄区画旧市街地。
内容は現地にて交戦中の〈ユニオン〉軍と〈ユニコーン解放戦線〉の戦闘への武力介入、両勢力の鎮圧。
惑星〈ユニコーン〉には海上に大陸が三つ存在している。大まかな配置として北と中央と南である。
その内の一つであり最大の大陸が〈北方大陸〉であり、〈ユニオン〉の各国家はこの大陸に存在している。
そこと一番近い地域では数km程度しか離れていない隣の〈中央大陸〉は次に大きく、北端地域では〈ユニコーン解放戦線〉が、中央部から南部にかけて〈星外企業勢力〉が点在する形で陣地を構築している。
そして、ほぼ南極の位置に存在する一番小さい〈南方大陸〉。小さいといっても地球でいうと南極かオーストラリアくらいはあるこの大陸は磁気嵐が強く天候もかなり荒れている様で、どの勢力も近寄っていないことから〈
その〈ユニオン〉の領土で、廃棄された区画とはいえ〈ユニコーン解放戦線〉の一派が陣地を構築していて、それを制圧しに来た軍と解放戦線で戦闘になっているという事で、その鎮圧をしろというのが任務の概要である。
また、戦闘の規模から別部隊と協働で任務に当たるという。
一小隊六人で、計四小隊――うち二小隊が新兵部隊だそうだ。
「0721?」
突然、話しかけられる。ふとそちらを見ると6180が居た。
「もう終わったの?」
「うん。そっちこそ、はやいねぇ」
「……まぁね」
話掛けるとほんわかとした様子で答えてきた。
教習課程の三年間をほぼ一緒に過ごしていた同期、ということではあるが。妙に懐かれている気がする。
訓練中に彼女がミスしたのを庇ったり彼女に誤射されたりそれらでしょげていた彼女をフォローしたりと色々あった気がするけど。何がそんなに気に入ったのだろうかというのを0721は分かっていなかった。
何だったら実戦形式訓練で彼女とチームになると五回に一回くらい誤射されていた気がする。他の仲間や教官からは全部勝手に突撃していった自分のせい扱いにされていたが。
「0721は不安じゃない?」
「え?」
少し黙りかけていた時に。そんなことを問いかけられた。
「実は私……ちょっとだけ、不安なの。初めての実戦で、私、どれだけ戦えるのかわからなくて」
「不安、か……」
少し言い淀む。正直に言えば答え辛い質問であった。
「確かにな」
肯定で返すと。どことなく嬉しそうな反応をしてきた。
「やっぱり0721もそう感じるの?」
「そうだね」
ニュアンスはだいぶ違うが不安はあった。それは事実だ。
「でも、一つだけ安心してることがあるんだ」
そう切り返す6180。何故、と問うと。
「0721が居るから。強いもん、私なんかより、ずっと」
自信を持った様にそんなことを言い出した。
「私より強いの8人はいるけどね」
「みんな評価してないけどすごい強いよ」
「今さら評価されたいとは思わないさ」
課程修了時、同期内の序列は第九位だった。
実力でねじ伏せるつもりであったがそんなものかと思ってしまった。
「そろそろ出撃する頃だ。機体に乗ろう」
時計を確認し、五分前だったのでそう言って切り上げようとする。
「ねぇ、0721」
だが、すぐに引き留められてしまう。
「私たち、生き残れるよね?」
そう言う彼女に0721は。
「……あぁ」
少し気まず気にそう答えて、0721は自らの機体に乗り込んだ。
【com】『メインシステム 起動。通常モード』
音声ガイダンスを聞き流しながら、操縦桿を動かしてあるシステムを起動させる。
『
SYSTEM SCORE:RANK-4
EXTENDED ERIA:98.8%』
「……中々いい感じ、かな」
〈
機体とパイロットを接続し『機体からパイロットへ』と『パイロットから機体へ』とそれぞれの情報のフィードバックを行う。
前者によりパイロットは脳神経系の拡張が行われる事で情報処理能力や反射神経を格段に向上され、後者により通常操作より直感的な機体操縦が可能となる。
特に〈X領域〉と呼称される『脳内に本来存在しない情報処理領域』を電磁パルス流信号で無理矢理拡張してそれを扱える様にするので、一見すると優れたシステムではあるが個人差こそあれ脳や神経系に莫大な負荷が掛かるという致命的な欠点がある。出力のランクが7段階存在するが、実際のところ普通の人間ではランク2が平均的に限界であるそうだ。たまに例外が存在するらしいが。
0721達強化人間は情報伝達素子または機能拡張パーツとして脳神経系に取り込まされた〈ユニコニウム〉の性質により、発生する負荷や情報流を低ランクならほぼ無効化でき高ランクでもある程度耐えられるだけの耐性と情報処理能力を獲得している。
【com】『メインシステム、戦闘モードに移行』
機体が起動し各部センサーが緑色に灯ると共に張り巡らされた〈
〈アクティヴアーマー〉という現象であり、傾斜装甲と反応装甲の役割を併せ持つこのバリアが発生することで機体は守られている。とはいえ被弾時の衝撃を減衰する程度ではあるが。
【オペレーター】『発進どうぞ』
「了解、発進します」
そこまで完了したところで、ほとんど事務的な挨拶の元、機体は発進した。
他の部隊と協働するという話だったが。
【????】『オッスおねがいしまぁす』
「…………」
【????】『いいよ、来いよ! 夢にかけて夢に!』
「……ちょっと静かにしてもらえるかな」
やたらと話しかけてくる僚機に遭遇した。
確か強化人間11-45-1419だったか。
(なんというか、中○悠一みたいな無駄に良い声してるのが余計に腹立つんだよなぁ……)
11番の部署といえば後天型強化人間の部署だったはずだ。元々生きてる人間の脳や神経に直接〈ユニコニウム〉を
「
【6180】『個体差があるとは言ってたね』
「こうもおしゃべりだと何か変な気分だなぁ」
【1419】『いいよいいよいいよいいよ~』
「……何だろう、マジで静かにしてくれませんかね」
実際、11番の部隊で喋っているのは彼だけであった。
とはいえ、どこか定型文染みた語彙力である。
後天的に処置する方式では『脳を焼かれる』と称される様で、それ故に精神に変性が起きたり
そのアレでこんな語彙力になってしまったのだろう、と何となく察してしまった。
【指揮官】『これより我々は、地上に降下し作戦を展開する――』
行軍しながら指揮官が演説をしている中。
(……こんな大人数で行くのか)
0721は内心で考え事をしていた。
総勢二十四名。半数が新兵とはいえ多くないかと疑問を抱いている。
(いわゆる強制執行、っていう訳でもないだろうに。そんな重要な任務に新兵を連れるはずがない)
そこまで考えたところで、ある事に気付く。
(そういえば6180を含めて、皆の成績は……正直、中より下程度。数が居りゃ戦力に、なんて理由で選ばれたとか……さすがにないか)
何だったら、正直なところ特に6180は兵士に向いてないと思っている。少々鈍くさいというのもそうだが、戦うには性格が優しすぎるというか穏やかすぎる。決めつける様でだが戦場に出ない方がいいと思う。どさくさに紛れて一緒に離反しようと誘おうかと思ってしまった程だ。流石にやめたが。
そんな部隊で大丈夫か。
ふと浮かんだその問いには誰も答えない。
(それはそれとしてあの指揮官の持ってるライフルめっちゃ格好よくね?)
指揮官機の武器に目が行ってしまう。
その機体のみ右腕に装備した火器は、銃身の下部が刀身になっていて妙に格好いい構造をしている。
絶対強いでしょアレ、と内心思っていた。
(いや。集中しよう)
どうせ自分はどさくさに紛れて離脱するのだ、と。そう言い聞かせて意識を任務と目的地に向ける。
だが。
【指揮官】『――そして最期に一言』
ほとんど軽く聞き流していた指揮官殿のお言葉。
その最後の言葉に何かを感じた0721。
瞬間、猛烈に嫌な予感がしたことで、彼女はブーストを吹かして隊列を離れる。
【指揮官】『我々もそういう任務なのでな』
そう言いながら指揮官機はおもむろに銃剣付きのライフルを構えた――直後、バチバチと紫電を放ちながら迸った光の奔流が、直線状にいた僚機の一機を穿ち、一撃でそれを爆散せしめた。
「は……!!?」
いきなり撃ってきた。それもあったが、その余りの威力に絶句する0721。
恐らく背面の推進器に当たった、というのもあったであろうが。当たり所が悪かったとはいえ〈PL《プライマルルミナス》〉を貫通する威力。
そして何より、何が放たれたのかわからない。緑色に輝いた光線状の弾丸はレーザーの様にも見えたが。
それはそれとして。
【指揮官】『
指揮官のその一言が合図になった様に、彼に追従する十一人の隊員が一斉に
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