第3話:希望の花
自転周期はほぼ24時間だが公転周期は約1100日存在する〈ユニコーン〉。だが、一日=24時間・一年=365日と四年に一度1日追加という法則が、現存人類の祖先が元々住んでいた『母なる星』から引き継がれており、ここ〈ユニコーン封鎖機構〉でもそれが暦として採用されている。
……『母なる星』、やっぱ地球じゃね?
そう思いはした0721だがそれ以上は別に気にしないことにしている。
これは前世の記憶が戻って五年目が終わろうかという――年齢でいうともうすぐ12歳になろうかという時のことである。
強化人間の訓練生には基本的に休日など無いが、決して自由時間が無いわけではない。とはいえそれは当日の教練日程が終了して就寝時間までの時間であり、一日辺り二時間程度である。
睡眠時間を削れば増やせるが日々の訓練で疲れている肉体を休める時間を削るわけにいかず、またショッピングみたいな娯楽施設がこんな組織の中にあるわけないのでやることが限られていることもあり、0721は多少ありがたみを感じながら半ばやけくそ気味に貴重な自由時間を有意義に利用していた。
何をしていたかと言えば、部屋の端末を用いてデータベース内のアーカイブ類の検索と閲覧である。
実のところ、彼女は本格的に封鎖機構を脱走することを視野に入れつつあった。
何時も出される味気ない食糧より、より美味いものを選びたくなる。他人にあれこれと指図されたくない。それこそが人間というものだ(圧倒的偏見)。社畜に殉じるのはやめておけ。組織に飼い慣らされ続けるのは、やめておけ。
前世の記憶が生み出すかつての自分を象った幻影に諭されるが、そんなこと言われなくても激しく同意している。
それを今すぐ実行に移せない唯一にして最大の理由である『手段がない』というどうしようもない事実が引き留めているのだが。
〈AS〉の一機でも強奪すれば、とか思うかもしれないが。そんなことが簡単にできる様なら苦労しない。
基本的に訓練はシミュレーターであり、実機訓練もやったこと自体はあるが非武装機体でのみ実施されていた。そして居住区画と機体格納庫は結構離れている。そこまで辿り着くのにまず一苦労であり、運よく機体にありついて奪取できたとしても即刻捕まるか撃墜されておしまいだ。
前世で見ていたロボアニメ作品では割とよく描かれていた覚えのある機体強奪イベントだが、現実でそれをやるのは難しいのだ。
そんなこんなでアーカイブのデータを閲覧していると、色々と情報を得ることができた。
その一つが、教練では習わない範囲の〈ユニコーン〉の現状。
だいたい教練通りではあるが、現状そこまで大規模の戦闘はたまにある程度にしか起こっていないという。たまにはあるんかい。
恒常的な戦闘というのも各陣営間での喧嘩か陣取り合戦か理由は様々だがもっと小規模なものが多いのが現状だ。〈ユニオン〉と星外企業各社はあくまでも資源の採掘という目的の為にその防衛の為の組織を編成している、という最低限の大義名分がありそこから逸脱する程の戦闘は望んでいないのであろう。
その一方で〈ユニコーン解放戦線〉はといえば。元々移民団として〈ユニオン〉と丁度二分するだけの勢力であったのが、企業勢力と戦う内に復讐心や排他意識で戦うものが多くなり、あるいは切羽詰まったりして過激な思考をしだす『強硬派』的な組織と元々の教義に従う『慎重派』で二分されてしまっている。その上で強硬派が企業や〈ユニオン〉相手に戦闘を吹っ掛ける機会が多いというのが、たまにある大規模戦闘になりかねない要因であった。
そしてその程度の規模であれば、星内に駐屯している支部の部隊による鎮圧が行われる程度である。本当にある程度以上の大規模戦闘が起きた場合は封鎖機構の執行部隊による強制執行という大規模な鎮圧作戦が実施される様だが、封鎖機構樹立以降その様な事態は過去に三回しか行われていないらしい。三回はあったんかい。
さらに興味を持った資料がもう一つ。
この惑星に存在する、国家でも企業でもゲリラでも宇宙政府の治安組織でもないもう一つの組織について。
非政府・非企業的独立傭兵稼業支援機構〈
そこに所属する、依頼人を問わず多額の報酬と引き換えに任務を遂行する一個人――またの名を〈独立傭兵〉。
力さえ示せれば、国家・企業・宗教・思想……その他様々なイデオロギーに縛られることなく、己が意思の元で依頼を自由に選べるという。
……『組織に所属しない人間の所属する組織』という矛盾が発生している様だが厳密には〈
つまるところ、傭兵という存在がこの惑星ではちゃんとビジネスとして成り立っているという訳だ。
私の望む転職先が! 今、目の前の惑星にある!
その事実を知ったことにより、もう組織内で成り上がるという当初の目標は完全に失せていた。まぁ、それで何とか組織抜け出せないかと思いながらも手段がなくて困っているのが現状なのだが。
あとは……半ば趣味的な事柄になるが、『母なる星』時代に存在した動植物や鉱石類などの資料。
とりわけ花については前世の頃から好きだったが、この世界ではどんな植物があるのだろうと思って調べていたのだ。のだが、ほぼ知ってる植物は全部記事が載っていた。原産地名は何故か載ってなかったが花言葉すらほぼ一致していた。
……やっぱ『母なる星』って地球じゃね?
その癖に『母なる星』自体に関することは記事の一つとして一切存在しないのは一体全体どうしてだい?
色々疑問は浮かんでいたが無い以上はしかたないと割り切った。
何だかんだ言いながら、来る日も来る日も教練期間を過ごす中。
とうとう、期間の終了する日がやってきた。
そして0721は実働部隊に配属されることになった。
『これより我々は実働部隊員として、一層の奮励努力を――』
「……遂にか」
配属された部隊では6180が一緒であった。そしてそこでは〈
内心としては(『るーだー』ってなんだ、『
「機体構成は……まぁ、いかにも初期機体って感じか」
一通り終わってから、機体構成を確認し始めた。
・
鶏冠型の大型センサーユニットを搭載した頭部。
ツインアイタイプのセンサーが特徴的だと思った。
装甲が多めに備えられ、こめかみの位置に近接防御用の機関砲が搭載されている構成になっている。
・
人型の基礎フレームに前方へせり出す様にコクピットブロックが備わったコアフレーム。
ブロックの上下がハッチとして開き、
こちらも装甲を多めに構成されている。
・
普通の腕……としか言いようのない癖がなさそうな腕パーツ、というのが現状の評価。
前腕部に〈TRAINER〉と似た構成があるが、肩装甲が前後に長く後方向きにサブブースターが設けられている違いがある。
・
右腕と同じ構成の左腕。
・
標準的な二脚型フレーム。
装甲の構成も機動性に重きを置いている様になっていて動きやすいらしい、というのがスペック上での性能。〈TRAINER〉が軽量型なら本機は中量型という程度か。
・
通称的に『肩武器』と呼ばれる大型兵装を搭載するタイプの標準的なバックパックユニット。
・
標準的な性能のアサルトライフル。
過去に訓練で使用したことがある。
・
パルスブレードという、特殊な荷電粒子を収束して刀身を成型する近接格闘兵装。
曰く、〈
腕の側面に直接取り付けるタイプの武器。
・
バックパック右側に装備する四連装マイクロミサイル発射器。
訓練でも使用したことがある。
・
まさかの装備なし。
盾くらいは欲しかったが機体重量の為か、あるいは自由枠でいいという意図か。
基礎スペック
・LP:9300
・防御性能:1011
・EN出力:2380
・ブースト速度:210
確認を終え、初任務に備えておくことにした。
なおそんな0721だが。実のところ離反する気満々である。
任務で出撃したら
その初任務であるが、明日に行われることになっていた。
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