第2話:来る日も、来る日も……
前世の記憶が覚醒した45-45-0721の身体が推定10歳を迎える頃。
四年経過したのだから10歳のはずだった、のだが……。食事に成長促進剤でも盛られているのか、遺伝子調整で
戻して……年齢誤魔化せばまだ低い方な気がしないでもないが大人になんてなりたくないでござる(当人の弁)。
それはそれとして、惑星〈ユニコーン〉は今日も平常である。※平和とは言っていない。
星内外の企業がそれぞれ開発した機動兵器がどこかしらの地上を闊歩し、空中を飛び交い砲弾が地形のあちこちに穴を開ける。
そこにあるモノが人であれば無慈悲に命を散らせ、建物だったら無残にも消し飛ばされる。
理不尽なまでに無差別的な暴力とそれによって生まれる悲劇がこの惑星の中では日常茶飯事であった。
そんな事を座学で聞かされる程度の認識で、0721を含む〈ユニコーン封鎖機構〉の強化人間訓練生達は今日も訓練に励んでいた。
余談だが最初の『4』が強化の方針で別れた部署、『5』がその中からさらに枝分かれした一部署、次の『45』が世代、最後の四桁が固有名である。なので強化人間同士は基本的に四桁の番号で互いを呼んでいた。
この世界には三種類の機動兵器が存在する。
〈
表記上の略称として〈
『外惑星探査・戦闘用の多脚戦車を発展した』というのが起源となっている。
特性として安定性に優れ、攻撃力と防御力が高く地上での速力も高い機体が多い傾向があるが、飛行機能は総じてどの機種も高くない。
〈
〈
大まかに『直線移動速度が速い機種』と『運動性能に優れた機種』が存在し、どの機体も共通して機体下部に四脚を備えるが歩行用ではなく駐機用であり基本的に空戦を主戦場とする。
そして最後の一機種。
〈
通称〈AS〉。読みは『エイエス』とも『エース』とも呼ばれる。
『汎用人型重機〈
戦闘機の翼を
そうして構成された
パイロット自身の技能適正、戦術・戦略上の都合、敵との相性次第、ある特定の性能に極振り。ありとあらゆる理由と理論で自由自在に
前世の記憶が蘇ってからというもの、0721は〈AS〉のパイロットを目指すことにした。
単純に『人型機動兵器カッコいいよね!』という前世由来の価値観も多少影響したことは否定はしないが、実際のところ換装機能に魅力を感じたからだ。
部位を損傷してもすぐに換えのパーツに交換することができる。用意できればの話であろうが、組織に所属しているならば可能だろうと踏んでいた。
兵科を選ぶ権利くらいは与えて貰えたのが幸いである。成績から見出された適正を元に厳選された選択肢から選ばされる、というあってない様な選択肢であったが、普通にあったので選択したのだ。
何千人か居た同世代の中からパイロット科に選ばれたのは二百人程度。それ以外は他の兵科に向かったらしい。
『メインシステム、戦闘モード起動』
そんなこんなで現在、訓練課程開始から二年目にしてもう何度目になるかのシミュレーター訓練を受けていた。
コクピットを模したポッドの中で、音声ガイダンスを聞き流す。
ほぼ球状の
座席の側面から伸びるアームの先端に操縦桿があり、足元にあるフットペダルと共にこれらで機体を操作する。
操作する機体〈
スラッとした体躯の二脚型で機動性に優れ、武器も右腕:携行型マシンガン・左腕:レーザーブレード発振器・右肩:四連装小型ミサイル・左肩:小型物理シールドと、汎用性を意識している。
相手機体はAIがコントロールする〈TRAINER〉だ。
いうなれば
シールドを構えて前進しながらマシンガンの射撃と同時にミサイルを発射し、圧倒して動きを封じたところでブレードを展開し一閃。
慣れてくるとこのコンボで仕留められる様になる。
単機であればこれで終わり、なのだが。
「あと五機……!!」
シールドを構えて相手の弾幕を防ぎながらブーストを吹かして後退し、障害物の陰に隠れる。
移動中に
この世界の、というか〈ユニコーン星系〉の火器の特徴として、一つの弾倉が総弾倉と使用弾倉の二重構造になっている。総弾倉内に充填された〈ユニコニウム〉化合物が電気信号を送られて相転移反応を起こすことにより弾丸が形成され、使用弾倉側に送られることで装填が完了するのだ。
確認するなり、すぐさま飛び出して仕留めに掛かる。
だが。
「――あいたぁっ!!?」
後ろからミサイルが飛んできて、その内の一発が背部に被弾してしまう。
【6180】『あっ……ごめんなさいっ!!?』
通信のウィンドウ越しで、相手である少女から詫びを入れられる。
6180――後ろにいた僚機であったが、動き出したところで射線に入ってしまったらしい。
「大丈夫、かすり傷」
宥めながら機体のUI表示を確認する。
LP7312(-108)/9020
〈ユニコーン星系〉で運用される兵器には共通して〈
元々多少削れていたとはいえ、実際にかすり傷で済んでいた。
【1081】『0721! 先行し過ぎるな!』
続いてもう一機、別の僚機からも咎められる。
1081――こちらは男子であり、今小隊を組むメンバーの隊長役をやっていた。
「……了解」
そう返して、シミュレーションを続けた。
「0721」
シミュレーションが終わってから1081に呼び止められる。
それに対する0721は。何とも言えないとばかりに溜息を吐いた。
「君の実力は認めるが単独行動は慎め。何度も言っているだろうに……これで何度目だ?」
よく言われていた。何だったら終了後に教官からも通信越しに説教を受けている。
「……教官からも言われた。改めて言われる筋合いはない」
「言われたのなら直せ!」
「あーした方が速いじゃん」
「仮にも小隊を組んでいるんだ、指揮官に従えと言っている。統率を乱すな。いいな」
できる限り気取られない様に気を付けながらも溜息を吐く0721。このまま問答を続けているとどうなるか理解していた。故に。
「次からは気を付ける。……できる限り」
1081の反応をできるだけ見ない様に、それだけ言ってそそくさとこの場を後にした。
「あぁぁぁぁぁぁぁ……つら」
部屋に帰るなりベッドに飛び込むと、俯せになったまま愚痴り出す。
最初は成り上がる気でいたはずだったが今では完全に意気消沈していた。何だったらどれだけ努力して実力を付けても結局は体よく飼いならされていくだけの気さえしている。
「元々集団行動というやつに向いてないとは思ってたんだよなぁ」
それに関しては前世由来と言えないこともないが。
パイロットとしての適正はあったが、兵士としての適正はないらしい。訓練の成績や技能自体はかなり高いだったが、良くも悪くも突出し過ぎて足並み揃えるというものが苦手であった。
命令だ統率だとか言って縛られて、自由なんてあって無い様なものだ。組織なんてそんなものだと、理解していたはずではあるが。何とも言えない気分というものを未だに拭えずにいるのだ。
「パイロットの腕はあるんだし独立して傭兵稼業とかみたいな都合のいい転職先とかないかなぁ……いっそのこと自営業でもいい……」
もうそんな感じの現実逃避気味な願望すら浮かんでいた始末であった。
この先大丈夫であろうか……。そんな彼女の行く末だが、もう少ししてわかることになる。
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