Chapter-1:DAY AFTER DAY

MISSION-1:転生

第1話:転生したら美少女だった件

「知らない天井だ……」

 目が覚めて第一声に言いたい台詞No.1(当社比)な言葉が、本当に思わずといった具合に零れた。

「……いや、ホントにどこだここ?」

 本当に知らないところに来ていた。

 それを認識したとたん、一瞬にして視界と思考がクリアになる。

 幼い頃見ていたSFアニメの研究所を思わせるほとんど真っ白い殺風景な部屋。その中で、たった今目が覚めるまで日本で社畜をやっていた一般男性としての記憶が引き出される。だが、同時にという意識が、それと同時に存在していた。

 前世の記憶と共に、こちらの世界で生まれ変わってからの記憶も朧気ながら存在したからだ。

 視線を少し下に向ける。その視界に映る、病院用の患者衣を思わせる簡素な服を着させられた自らの身体。それは随分と華奢な姿になっていた。声もかなり高く幼さすら感じられた。

 そして何よりも違和感を感じたところが。

「おっ……」

 股間に触ってみる。

 ない。

 裾をめくってみる。

 ない。

「お……おぉ……」

 前世にはあったナウい♂息子が。

 つまるところ。

 目が覚めたら少女になっていたのである。

「お○んぽおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」

 失った(?)息子を追悼する慟哭が、一人部屋で空しく響いた。




 一しきり発狂し終えて、気持ちの整理をつけると。寝床から起き上がり、個室備え付けの洗面台に向かう。

 そこにあった鏡に映る、薄く緑みがかった白い髪と深い碧色の瞳の少女が今世における自分の姿だ。

 外見年齢はおおよそ6歳程度。

 部屋に備え付けられていた端末から検索したデータベースに記されている。

 前世の記憶を思い出してからというもの、その情報量からか思い出す以前の記憶が少し曖昧になった為に、いうなればおさらいとして一通り確認したのだ。


 窓に映る、地球によく似た青い星を見る。

 こいぬ座α星系 第6惑星 識別名コードネーム〈ユニコーン〉

 それがこの施設の窓から見える惑星の名前。

 今自分が居るこの施設は、その惑星の衛星軌道上に存在するスペースコロニーの様なもの。


 今から100年以上前に『母なる星』から移住した末裔の一派が自分たちということらしい。

 その『母なる星』の情報が閲覧できるデータの中に無かった為、そこが地球かどうかはわからなかった。が、別に興味はなかったのでそのまま省略スルーした。

 余談だが、もし『母なる星』が地球だったら場合こいぬ座α星とは〈プロキオン〉の名で知られる地球から約11.4光年離れた位置に存在する天体である。この星は確かα星Aとα星Bの二つの恒星からなる連星系だったはずだが。もしかしたらこの世界は元居た世界とよく似た言語体系なだけの異世界的なところなのかもしれないし、ご先祖達が移動していた期間中に恒星の変動があったのかもしれない。ともあれ突っ込むのは野暮だと思いその疑問もまた省略スルーした。


 そんなこんなで移民たちが辿り着いたこの惑星ユニコーン

 長旅の果てに辿り着いたこの惑星で、先人達は『母なる星』には無かった全く新しい物質を発見する。

 それがこの星の名から命名されることになった〈ユニコナイト〉という鉱石と、その主成分である超伝導物質〈ユニコニウム〉。

 金属と合金化するだけでなく、特殊条件で液体化・気体化したそれを相転移発電反応の触媒とすることができる。その発見により、この星の移民者達は技術を大幅に発展させることができた。


 そんな〈ユニコーン星圏〉と呼ばれる移住人類経済圏は現在、紆余曲折あり幾つもの勢力に分かれて混沌を極めていた。


 移民団の主体を起源とし〈ユニコニウム〉をこの星系の特産品として他星系と自由に貿易しようという勢力、ユニコーン星国家連合――通称〈ユニオン〉。


 星系民の〈ユニコニウム〉発見後にこの惑星に介入し、その資源や関連技術を独占しようという星外企業勢力。

 三大勢力として〈BANDAMバンダム〉〈MYTECTOミーテクト〉〈H.A.W.S.Harp Arms and Weapons Stores〉と、他いくつか。


 星内国家から独立し、星内の資源を持ち出してはならないとして資源保護を理由に立ち上がったレジスタンス組織――〈ユニコーン解放戦線〉。


 そして、今自分が居るこのステーションを運用する組織――〈ユニコーン封鎖機構〉。

 〈ユニコニウム〉発見から不特定多数の勢力による不法的介入と、それが原因で恒常的に騒乱が起こるようになったこの星圏を、文字通り外部から来る者と内部から出ていこうとする者を制限、ないし鎮圧することを目的とした治安維持組織。


 自分はその組織の一部署で生み出された強化人間ということらしい。それも、生産方式によっていくつかタイプがあるらしい中で『受精卵の段階で遺伝子操作を行い、胎児期に〈ユニコニウム〉を投与された』という先天型。


 前世ではない方の記憶に従い一日を過ごしていく。決められた時間に与えられた食事と休憩を取り設定されたカリキュラムをこなしていく。

 一日分の全てを終えて、ベッドに横たわると。

「完ッッッ全にディストピアじゃねぇかぁぁぁぁぁぁ!!!」

 枕に顔面を押し付けて本日の感想という名の憤懣をぶちまけていた。

「訓練、訓練、訓練やって座学やったらまた訓練ッッ!!! 6歳の子供にやらせることじゃねぇよ!!! 倫理観はどうなってんだ倫理観は!!?」

 人体弄り回したり受精卵に遺伝子操作したりする組織に今さら倫理観もへったくれもないんだろうが。

「配給される食糧も典型的なディストピア飯!!! なにでできてんのか全くわからん謎のペースト状のナニカと錠剤と水!!! ろくに味もない!!! なんだこれは!!! 家畜じゃねぇんだから食事くらいなんか良いもんよこせ!!!」

 組織からしたら家畜みたいなもんなんだろうが。

 分かり切っていたことではあるが、その扱いがあんまりにもあんまりであった。

「そして何よりッッッ!!!」

 そして一番嘆きたかったことをぶちまける。

「私の名前、ってか型式番号!!! 何だよ45よんごー-45よんごー-0721ぜろななにーいちって!!! 女の子に付けて良い名前じゃないだろうが!!! シコシコするモンぇんだよ今世いまの私にはよォ!!! ってかどんな確率で引くかな!!? 同世代だけでウン万人居るんだけど何でこの名前ピンポイントで引き当てるかな!!?」

 吼えながら元青年の少女……もとい〈強化人間45-45-0721〉は、どかどかとベッドを連続で殴りつける。前世の記憶の影響もあるだろうが、どうもこの身体はストレスに耐性が無いらしい。多少は加減しているつもりであったが、逆にそれが災いしてるのか、なんともやりきれないのである。

 一しきり殴り終えると、仰向けに寝返って溜息を吐いた。

「あぁー、神様的なやつとかいるんならぶん殴ってやりてぇぜ……よくもこんな家畜に生まれ変わらせやがって、って」

 息を整えながらも、そんな罰当たりなことを言ってのける。

 前世で知ってる異世界転生を題材にした創作物によくいるその存在に、別に転生前の死後の世界で会ったとかそんな事はないのでそれが叶うことは恐らくないが。

「……まぁ、いいさ」

 整ったところで言い放つ。

「身分はともかくこの身体、割とスペック高いのは分かってんだ」

 先にこなしたカリキュラムの結果。世代最高とまでは行かなかったがそれなりにいい成績を出していた。

 何より、少なくとも前世の肉体よりも身体能力が優れていることは確定的に明らか。

 故に。

「だったら、成り上がってやるまでだ」

 そう決心してみせた。


 惑星〈ユニコーン〉――闘争が蔓延る宇宙の片隅。

 これはそのほんの些細な出来事であった、はずだった。

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