せっかく美少女になったのに社畜なんてやってられるか!そう言って組織を離反したTS女子の末路
王叡知舞奈須
第0話:前世での出来事
これはある青年のお話。
『○○くん、これやっといて貰えるかい。今日中に』
『○○くん、これ今日中にやってね』
「…………」
同じ様な文句で仕事を押し付けてくる。
『おいテメェ! これやっとけって言っただろうが! 聞いてんのかコラ!』
「…………」
元々遅れてやってきた仕事を、他の仕事を片付けていて多少遅れるとこの調子、理不尽なまでに怒鳴りつけてくる。
『○○くん。辛いのはわかるけど。君の退職は認められないわ』
度々、辛いからと辞めようとするのだが、その都度社長にそう言われる始末。
「っああああああああああああしゃらくせぇええええええええええええええ!!! やってられっかよクソがぁぁぁぁぁああああああああああ!!!」
そんなこんなで嫌々仕事を続けて数年。控え目に言って精神が崩壊しかけていた。
「ただでさえ仕事量やべぇのにパワハラとモラハラの嵐!!! そのくせ人居ねぇからって退職届受理されなくて辞めさせてもらえない!!! ってか受理されないって普通に違法だろうが!!! 労基法はどうなってんだ労基法は!!?」
元々社会人というやつに向いてないとは思っていた。だがこうも露骨の碌な目に合わないと辟易してくるものだ。
かろうじて正気を保とうとした結果。
身の周りのありとあらゆるものが敵に見えていた。
もうこいつら全員ブッ○してやらねば自分は自由になれないのではないかとすら思っていた。
それぐらい悉くを憎んでいないと己の心の均衡を保てなかったのだ。
その日も相変わらずに最悪な日だった。
来た仕事は悉く納期が遅れているわ、それを急務として次から次へと容赦なく放り込んでくるわ、やらないとキレるわ。
滅茶苦茶切れ散らかしたくなったのを辛うじて理性で押し込んで、叫ぶのは心の内で留めて。
休憩室のある建物の二階から階段を下りる、丁度そのタイミングだった。
最期の瞬間。突然、プチっと。自分の身体が、まるで糸が切れた様に急に動かせなくなった。
何が起きたか青年にはわからなかった。
気が付いたら右目が見えなくなったかと思えば、急に制御が効かなくなった様に身体が崩れていく。
ストレスで血圧が上がって脳卒中にでもなったかと冗談気味に思う。結果として彼が真実を知る権利は永遠に失われるが、本当にその通りだったのは何という皮肉だろうか。
どちらにせよ間に合わなかったと思われるが、それが起きたのがよりにもよって下り階段だったのも、彼の最期が早まった要因だろう。
このまま落下すればどの道死ぬ。それ故か。こんな状況で冷静になれたのは。
すごくゆっくりに感じる、自らの末路。
来世は鳥になれるだろうか。このまま飛べたらいいのに。
こんな死に方するくらいなら――――。
言えたかもわからない最期の言葉を誰にも知られることなく。青年の意識は暗転するまま消されてしまった。
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