第三章 激闘の魔闘士大会編 中等部1年生

第26話 魔闘士大会 予選申し込み

 俺は中等部へあがり、アネモネは高等部へ上がった。

 アネモネの進路希望は冒険者だ。

 この前のダンジョン探索で、生計を立てられる自信がついたのだろうか?

 冒険者ギルドに名前を売りたいのは俺も同じなので、冒険者の活動も進級への単位に計算してもらおう。

 いくら確実に進級できると言っても、首席進級は色々と特典がある。

 例えば、俺は初等部を首席合格したので、成績優秀者クラスに在籍している。

 そこには、2位のフォールと4位のオリビアもいる。

 この2人はなんだかんだ付き合いも長いし、ダンジョンも一緒にクリアした友達だ。

 あまり学校にいない俺は柔軟に単位を取得している。

 学校では出せない成果をあげる俺に単位を取らせるしかないような状況ができている。

 これは、アネモネが先輩として前例を作ってくれたおかげでもある。

 アネモネの学習内容は高校のものとなり、さすがに俺も記憶が怪しい。

 数学なんかはなんとかなりそうだが、理科系のマニアックな、知識など忘れてしまった。

 そもそも、社会系は知らないことばかりだ。

 しかし、アネモネは高等部である。

 前世でいう大学にあたる。

 単位さえとれば卒業できるし、大きな成果を上げれば、授業に出席するよりいい成績としてカウントされる。

 例えば、魔闘士大会の成績だ。

 オーラの使い方はまだまだ一般人には使いこなせない技術だ。

 これをレポートという形で提出すると、高等部の教授は内容に飛びつく。

 教授の研究に寄与すれば、それだけで単位はチョロい。

 そう、アネモネは要領よく生きるのがうまい。

 と、いうことで、魔闘士大会出場に向けて、魔闘士協会役員の推薦を得るために、国立大学のツバル教授のところへ来ていた。

 後から知ったことだが、教授の立ち位置は「国際魔闘士協会役員」であった。

 どうやら、推薦は非常に強力らしい。


「こんちはー!教授、元気にしてた?そろそろ大会の予選だから来たよー」

 俺は教授の私室である、寮の一室へ無遠慮に入った。

 すると、教授とシャイナがいい感じに抱きしめあっていた。


「・・・。」

 だまって、扉を閉めた。


 アネモネの方を見ると肩をすくめている。


 コンコンコン

 ノックをした。


「はい。どうぞ」


「こんちはー!教授、元気にしてた?そろそろ大会の予選だから来たよー」

 さっきと同じ言葉を告げた。


「ライ君、ミスというまのは消えませんよ?」

 教授は冷静に指摘してきた。

 シャイナは顔を真っ赤にしている。


「すいません…」


「はい。次はノックしてくださいね。さて、大会の申し込みですね?実は勝手に推薦してます。アネモネさんは本戦から参加できます。ライ君は年齢的に予選シードが限界でした。予選の日程としては、来月の13日ですね。本戦は2ヶ月後です。今から来月までトレーニングしませんか?シャイナも本戦出場なので、スパーリング相手もほしいですし」


「おお、さすが!仕事が早いね!ってか、予選と本戦の日程近すぎじゃない?」


「ええ、予選から本戦に出られる人はほぼいませんから、相手にされてません。だからこんな日程です」


「え?俺ピンチなんじゃ?」


「大丈夫ですよ。予選の対戦相手はゴーレムなんです。魔闘法を使った術者と同じ能力を持ったゴーレムが相手で、壊したら勝ちです。人間同士だと、日程がかかりすぎるので、ある程度の上位者はゴーレムと戦います。ちなみに、一回戦は明日ですよ。申し込みはとっくに過ぎてます」


「うおー!教授ありがとう!助かったぁ!」


「シードのライ君はゴーレムだけ倒せば本戦出場です。私の読みではおそらく楽勝かと。正確なデータのためにもこのあと魔力を測らせてくださいね」


 早速魔力を測定した。

 俺は、陽(2360)隠(167980)

 なんか、えらいことになってた。

 アネモネは、陽(13860)隠(560)

 2人とも化け物だ…。


「ライ君の上昇値がすごいですね。10万超えるとは。これじゃ、どんな攻撃も効きませんよ。アネモネさんの攻撃も人を殺しかねないので注意してください。おそらく、シャイナでも、大怪我では済まないでしょう」

 化け物認定された。


「実は、君たちのデータはまだどこにも公表していません。公表しても信じてもらえないか、モルモットにされるので…。ここからは、私の予想ですが、あなたたちは正真正銘のゴッドイーター、御伽話の存在なのではないでしょうか?」


「そうね」

 アネモネは短く返事する。


「やはりそうでしたか。なにか、根拠はあるんですか?」


「天使に会いました」


「なるほど。このデータもこれで裏付けできますね。しかし、天使なんて存在は公表できないから、どちらにしてもデータの公表はできませんね。時代が君たちを認めたときに公表するようにします」


「天使を信じるんですか?」


「それくらいしかありませんからね。御伽話の神殺しなんでしょ?そんな存在でないと、このデータは証明できません。天使の存在は立証のしようがないので、公表できないという結論になります」


 なるほど、さすが教授だな。頭がいい。というか、時代が認めたら公表するのね?


「さて、ライ君の予選の対策も一応しておきましょうか。あと、これは予想ですが、魔力を使えば使うほど成長しているようなので、これからは常時無色オーラ全開にしておきましょう。無色なら、そこまで日常生活にも支障をきたさないでしょう」


「わかりました。ありがとうございます」

 俺たちは心からお礼を言う。


「いえ、アネモネさんのご両親のことを思えば、罪滅ぼしにもなっていません。それじゃあ、さっそく、予選で使うゴーレムと戦ってみてください」


「え?あるんですか?」


「特別に取り寄せました。それじゃあ、早速、攻撃させるので、土オーラ全開にしてください」


「はい」

 俺はオーラを練る。

 マナは練り始めて1分後にピークを迎えるため、それまでは、蓄積し続ける。

 多くの場合は、ピークを迎えるまでに何らかの行動か、魔術が発動するので、マナが減少する。

 しかし、魔闘法はオーラを纏ったままの高速戦闘であるため、試合開始と同時に全種類のオーラを全開にする。

 そして、1分後のピーク状態を常にキープし、2分が経過すると、オーラが、さらに蓄積される。

 これを蓄積法という。

 状況に応じて、必要なオーラ以外を遮断することで、そのオーラに集中することができる。

 1つのオーラに集中するメリットは、拳など、1箇所に全身のオーラを集めることができるからである。

 それは蓄積した分もまとめて使うことができるため、オーラの力が最大10倍になる。

 これを瞬時に行うのが、全開法である。

 

 これら2つの奥義を駆使して戦うのが、トップランカーの魔闘士である。

 しかし、俺は少し勝手が違う。16万もの膨大な隠の魔力を持っているため、1秒で2800mpという規格外の出力がある。0.5秒でも1400あるので、上級術師の上限を超えている。さらに半分の0.25秒でも750mpと、上級術師の平均値くらいだ。

 つまり、俺が土オーラを全開にするとあらゆる攻撃が通用しない。


 実際、教授が用意したゴーレムは近寄ることすらできない。

 いろいろと攻撃は仕掛けているようだが、土オーラに阻まれて空振りしている。

 今度はオーラの密度を高めて薄い膜にする。

 より硬度は増すため、攻撃は当たっているように見えるが、薄皮1枚で「ガキン」と防がれている。

 こちらの攻撃がどれだけ通用するのかも試したいので、火オーラも発動する。

 陽の魔力も上級術師の平均値の3倍近くはあるので、おそらく一撃で勝負は着くはず。

 1分経過し、マックスまでオーラが溜まる。

 散々見てきたので、ゴーレムの動きは見切った。

 土オーラを解除して、火オーラを拳へ集める。

 渾身の一撃をゴーレムの腹部に叩き込む。

ゴーレムは粉砕し、真っ二つに分かれた。


 ドヤっと教授を見ると渋い顔をされた。

 何か問題があったのだろうか?


「どうですか?」

 感想を聞いてみた。


「あぁ、完璧に合格ですね。しかし、問題もあります。オーラの切り替えが遅いことと、オーラの量が多すぎることです。多すぎると、特級であることがバレます。多いのは、薄くすることで、対応しましょう。切り替えは、あと1ヶ月でトレーニングしましょう」


 その日からトレーニングは始まった。

 ちなみに、アネモネはオーラの切り替えが速かった。

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