第25話 進級試験・ダンジョン攻略 初等部5年生
今日は待ちに待った攻略日だ。
昨日は家に帰ってから杖がお揃いだとアネモネからツッコミが入り、酷く嫉妬の嵐に晒された。
これまで嫉妬とは無縁だったアネモネだったが、これは琴線に触れるらしい。
素直に謝ったが、ダンジョンでガッポリ稼ぐことを約束させられた。
4人で70万ずつだから、280万も稼ぐ必要がある。
大変だが、仕方ないだろう。
フライングした俺が悪い。
しかし、その後の魔術付与については、アネモネも手伝ってくれた。
せっかくの高級杖なので、フル活用してみる。
もちろん、オリビアやフォールも一緒だ。
杖が変わったことで、魔術が大幅に変わる。
そうすると、戦術も変わるので、付与と同時に打ち合わせをする。
しかし、大幅には変えなかった。
混乱を減らすためだ。
俺は予定通り、重力と治癒と状態異常回復、オリビアは土、氷の大魔術に治癒、状態異常回復。
以上だ。
しかし、その内容は大きくかわっている。
俺の重力は15倍にして、ボスでも身動きできないようにした。
範囲は10倍にして、範囲でさえ、放置すればモンスターは死ぬ。
それに範囲を広めた。15倍は任意の方向に10m、範囲攻撃は自分を中心に20mの円盤状にした。
それでいて、必要魔力は同じに調整した。
アネモネは苦労していたが、4人で知恵を出し合い、術式を作り出した。
この手の上級術者向けの術式は公開されていないから、基本は自力作業となる。
一方、オリビアの魔術は魔術書に載っている物だったのですぐに解決した。
俺の初めの杖は二刀流にするために持っていく。
こちらは盾専用とし、容量をフルに使って守備範囲を任意で決められる土魔術にした。
盾専用に高級な杖を使うというのもかなりの贅沢だ。
高硬度の金属にオーラで強化するので、かなりの防御力だと思う。
杖と戦術が完成したことで解散となり、明日の朝にオリビアの家に集合することになった。
その日の夕食時、ダンジョン攻略についての話題となる。
「明日、ダンジョン攻略するんだろ?あんなの魔術屋で売ってるドロップアイテムを買えばおしまいなのに、よくまじめにするな?」
アースに小言を言われる。
「あら、いいじゃない。私は真っ向から勝負するのは好きよ。ライ、がんばりなさいね」
ママンがフォロー。
「いや、だからと言って上級に挑むのはどうかと思うぞ?それに、ライの杖はどう言うことだ?説明しなさい」
パパンは慎重だ。
あ、杖のこと説明してないや。
「これは、今日少しだけ下見に行ったら、モンスターを大量に倒したので、ドロップ品で買えました」
嬉しくてずっとつけてたのが裏目にでた。
「下見!?そんなことするヒトは見たことないぞ?危険じゃなかったのか?」
「はい。魔闘法と重力魔術を組み合わせれば、相手にならなかったです」
丁寧に説明する。
「そうか、やはりライにとっては上級も相手にならないか。『特別級』に行くのも時間の問題だな」
やはりそうか。
弱すぎたもんな。
「明日はマスター以外は大丈夫だと思うよ。とりあえずは、ドロップアイテムを運ぶ方が苦労したかな」
「あぁ、それなら、カートを使うといいぞ?昔、ママとアネモネの父さんとバイト感覚でしてたダンジョン探索の時に使ってた物がどこかにあったな」
「あぁ、あれかい?そうだねぇ、持っていくといいよ。少し古いけど、使えるだろ」
ママンが運んできてくれた。
1.5mほどの高さがある直方体の箱に大きな車輪と持ち手が付いている。
特に、魔術的な加工がされているわけではないらしく、近くの店舗に新品でも売ってそうだ。
「ありがとう。お父さんも使ってたのね」
アネモネが感慨深そうに見ている。
何も持たずに我が家へ引っ越したアネモネは父との思い出の品がない。
これは、今回使ったら、アネモネにプレゼントして、新しいカートを買おう。
さぁ、それじゃ、早く寝ないとな。
夕食を切り上げて、風呂に入り、就寝準備をする。
寝る前にふと考えると1つ不安材料があった。
ボスの強さだ。
全く情報がない。
困った。
まぁ、なんとかなるか!
寝ることにした。
翌朝、オリビアの家に向かった。
ラースがプロレスの興行用の大型バンで送ってくれることになっている。
もちろん魔力のプラグインカーだ。
ダンジョン内と外との時間には差があるようだから、ラースの待ち時間はほぼない。
1時間もするとダンジョン近くに到着した。
砂利道と、獣道は徒歩での移動となる。
しばらく歩くとダンジョン入り口に到着した。
昨日ぶりだが、相変わらずイカつい門だ。
細かな装飾までされており、見るものを威圧する。
「さぁ、入ろうか」
俺が言うと、みんなも頷く。
フォールは少し緊張しているだろうか?
「昨日も言ったけど、序盤は犬ばかりで、大したことないよ。魔闘法だけ忘れないでね。強めに土オーラ纏えば、攻撃は当たりもしないから」
オリビアが緊張をほぐすためにも説明する。
「そうだね。土オーラと冰剣で八つ裂きにするよ」
フォールが鼻息荒く言う。
「あぁ、慣れるまでは、俺が重力魔術使うから護符だけは持っておいてね。一緒に潰されちゃうよ?」
俺が注意する。
「了解、アタシは後方から巨大魔術を連発しておくよ」
「わかってるだろうけど、魔力管理は慎重にね」
マナ暴走は危険すぎるので、一応確認する。
「了解」
アネモネは落ち着いていた。
「入るよ」
前衛の俺から入る。
すると、早々に犬が5頭いた。
「犬5前方」
「了解」
全員が俺の合図に反応する。
俺は直ちに範囲重力を発動し、5体全てを範囲に収める。
10倍の重力は容赦なくモンスターを襲い、呼吸できない状態まで押しつぶす。
残り3人がオーラを纏ってプチプチと潰す。
やはり簡単作業だ。
「あっけないな」
フォールが死亡フラグを立てる。
「これはライの重力魔術が強力なだけだよ。気を引き締めないとあっさり死んじまうよ?」
アネモネがポッキリ折る。
「了解」
フォールも気を引き締める。
うん、大丈夫だろう。
「さぁ、ドンドンくるぞ!」
本当にどんどん来た。
俺は昨日通ってない道を中心に探索した。
積極的にモンスターハウスに突っ込んだ。
昨日の約束通り、70万は稼ぐ必要があるからだ。
特に、ゾンビはおいしい。
一体につき500丸落とす。
ホントに謎ドロップだけど、言いふらして人が溢れかえっても嫌だから黙るしかない。
あぁ、両親には相談すればよかったな。
すっかり忘れてた。
杖の話題で持ちきりだったしな。
そんなこんなでゾンビの出る5階まで来た。
分岐点は全て右に曲がるようにして全ての道を通った。
案の定、わんさかゾンビがいた。
ドロップ品を見て、2人が驚いた。
「なんだ?これ?」
フォールが取り乱す。
「500丸玉だよ?」
「見ればわかるよ。なぜお金がドロップするんだ?」
「そんなのわからんないけど、ドロップするんだよ。モンスターハウスに突っ込むと、一気に大金ゲットできるよ?」
オリビアが冷静に対応する。
俺もよくわからんから、補足はない。
「これって、マスター倒す前に全てのモンスター狩った方がよくない?」
アネモネがさらに冷静に言う。
「たしかにそうだな。昨日はカートが無かったから、あんまり無理に倒す気なかったけど、今日ならいけるな」
そう言うと、片っ端から重力魔術をかけて、全てのゾンビを潰していった。
5階のモンスターを全滅させてから休憩をはさんだ。
すでに500丸玉だけでカートの半分以上は埋まっている。
かなりの重量だが、オーラを纏い、フォールが運んできた。
水魔術で水を出して水分補給をする。
1番小さい魔術でオリビアの大魔術だったため、大量に水ができたが、気にしない。
フォールの氷魔術で氷を作って冷やしながら飲んだ。
あまり長時間滞在する予定はなかったので、食料は、簡単な保存食のみだ。
今は桃の缶詰を食べている。
他には、お湯で戻せるご飯や、カップ麺を持ってきている。
数日であれば滞在できるだろう。
今日は終了にして、続きは起きてからにした。
しばらく仮眠して休憩したのち、再度探索を再開した。
6階にもゾンビが大量にいた。
昨日もたくさん倒したが、途中でお金が持てなくなって、放置したからかもしれない。
5階と同じように右へ右へと進んで行く。途中、モンスターハウスを何度も経由しながら、全て倒してお金を回収した。
同じようにどんどん進み、最上階へ到達した。カートはほぼ満タンだ。
中身は全てお金。
莫大な金額だ。
「ねぇ。このマスターを倒すと、このダンジョン消えるのよね?」
アネモネが声をかけてきた。
「ん?そうだな?」
「多分、カートの中のお金って、数千万はあると思うんだけど…」
「あぁ、言われてみれば、それくらいありそうだな」
「これって、4000万として、山分けしたら、1000万でしょ?何回か来たら、とんでもない金額になると思わない?」
「たしかに。それは考えてなかったな…」
フォールが言った。
「そうだね。試験でマスターを倒すことしか考えてなかったね」
オリビアも同じらしい。
「しかも、その辺の下級ダンジョンのクリアでいいなら、計画無視して即日クリアできそうだね」
俺が代案を出す。
「このダンジョン置いておこうか?」
アネモネが、結論を出す。
「そうだな。確か、この隣のヤンツー山のダンジョン4は中級だったな。これでいいんじゃないか?」
フォールも乗っかる。
「よし、そうしよう」
全員の意見が一致した。
その後は早かった。
すぐに階段を降りて、ダンジョンを退出し、ラースの車で隣のダンジョンへ向かい、中級ダンジョンをクリアした。
ちなみに中級マスターは、ゾンビの王であった。
100体くらいのゾンビを従えた、ゾンビの王。
ドロップは1000丸札と王冠だった。
クリアすると、門に鎖をかけられるようになり、竜脈として利用できるようになる。
そして、市役所へは、間違えて隣をクリアした旨を伝える。
それを市役所職員がマナ抽出施設に改装し、国に売却するそうだ。
アネモネは中級ダンジョンのレポートと、重力魔術の術式レポート、大魔術を中級術者が実用レベルで使える術式をレポートで提出することで、問題なく首席進級となった。
俺たちもそれぞれ、オリジナル魔術を使いこなして中級ダンジョンを踏破したということが認められ、俺が首席、次点にフォール、次いで、オリビアと、中級クリア組が上位成績となった。
もちろん、日頃の授業や試験の成績も含まれている。小学校程度の問題で間違えるわけもなく、筆記、実技ともに満点での首席であった。
そのため、さらに近寄りがたい存在として扱われるようになり、オリビアとフォール以外とはあまり遊ばなくなっていた。
そして、ダンジョンクリアの報酬だが、ドロップの500丸だけで、5621万9500丸あった。
山分けしたが、正直、困惑している。
しかし、魔術関係の道具は時計や車と同じように、価格は青天井だ。
いくらでも高額の商品は存在する。
現金を大量に持って帰るわけには行かず、銀行で両替してもらった結果、手数料を取られ、1人分が1100万程度になった。
その金を、持って、都市の魔術屋へ行った。一応、ラースには保護者としてついてきてもらっている。
また、フォールはビビったのか、使わずに持って帰ってしまった。
「さて、アネモネさんや?お揃いが欲しいのですね?」
「何よ。その話し方。欲しいけど、どうせなら一級品がいいかな。新たに買わない?」
「いいねー!俺もそうしたかったんだ」
「どんなのにする?」
オリビアも目を輝かせている。
「ったく、プロレスの試合を何試合すればこんだけ稼げるとおもってんだよ?もっと苦労しろよな」
ラースがグチる。
もっともだ。
完全に棚ぼた案件である。
「お店の人に聞いてみよう」
俺が言うと、みんなで店に入る。
店内は近所の魔術屋とは違い、高級ブランドショップのような雰囲気だった。
「いらっしゃいませ。本日はどのような商品をお探しでしょうか?」
「杖が欲しくて。予算は1000万くらいです」
「かしこまりました。それぞれに合わせたオーダーメイドも承っておりますが、魔力測定はしますか?」
おっと、これで、うっかり測定すると危険がいっぱいだ。
「いえ、既製品でいいのですが、なるべく高性能なものがいいです。どんなものがありますか?」
「そのご予算ですと、当店の既製品でしたら、全ての商品をお買い求めいただけます。なかでも、こちらは、非常に実用的ですが、いかがでしょうか」
そう言って取り出されたのは、透明の石でできた指輪だった。
ダイヤだった。
巨大なダイヤモンドを指輪に加工したのだ。
とても素晴らしい商品だった。
宝石が触媒として優れていることは知っていたので、ダイヤモンドが優れていることは予想していたが、この年齢で手に入るとは思わなかった。
話を聞けば、人工ダイヤらしい。
天然でも、人工でも、性能は全く同じらしい。
むしろ、色ムラがない分、人工の方が性能が高いと言われている。
素晴らしい商品なのだが、1つ問題がある。
サイズだ。明らかに大人サイズである。
「さぁ、試着してみてください。試打用にファイアショットも付与していますので、よろしければ、試打場へもご案内いたします」
「えっと、大人用では?」
「おっと失礼しました。ご主人用のものではなかったのですね?申し訳ございません」
そら、こんな子どもが1000万の買い物しないわな。
「いえいえ、説明しなかったこちらが悪いです。僕たち3人分同じものが欲しいのです」
「3人でですか?少々思い違いをしておりました。失礼いたしました」
「商品はそれがいいと思っているのですが、サイズが合わないので、小さな物はありますか?」
「いえ、こちらのみとなっております。しかし、それなら、なおさらこの商品がおすすめでございます。こちらの指輪はサイズが使用者に合わせて変更できます。こちらの刻印をご覧ください。これがサイズを変更する術式です。マナを流していただくと、杖としての性能は落ちずにサイズだけ変更できます。もちろん、触媒はダイヤモンドですので、世界最高峰です。一部の魔法金属や、魔法石には劣りますが、それらは、世界的にもごくわずかしか存在しません。ダイヤモンドが世界一といっても過言ではありません。また、お子様であれば、成長に合わせて指輪のサイズも変更できます。これ以上の商品はございません」
魔術屋の営業トークが止まらない。
まぁ、3000万使うと言っているのだから、焦りもするか。
俺は世界一を目指しているわけだから、道具もこだわりたい。
それだけに、この指輪は気に入った。
「それで、これはおいくらですか?」
「1つで580万丸ですが、3つ購入されるのでしたら、500万にいたします」
「思ったより安いですね。これより高性能なものはないのでしょうか」
「そうですね。先ほど申し上げた、魔法金属や魔法石でしたら、加工だけでも1000万クラスですが、既製品となると、人工ダイヤの指輪が限界です」
「なるほど、よくわかりました。杖としてのスペックを教えて下さい」
「杖としては、最高性能で、マナの通りもスムーズです。触媒としては、1024節まで付与可能です」
「1024ですか。もう少し欲しかったですね。わかりました。僕は2つ買って2048節にします。2人は1つずつでいいよね?」
「そうだね。お金も集めてるわけじゃないからアタシも2つ買うよ」
「ボクは1つでいいかな。きっと、使いこなせないし」
「あ、あと、ダンジョン探索用のカートも1つ下さい。これも魔法付与できるタイプがいいです」
こうして、俺たちは散財した。
この先、俺たちはちょくちょくヤンツー山のダンジョン5でゾンビを倒し小遣い稼ぎをするようになった。
ちなみに、このダンジョンが俺たちの知らない間にクリアされたのはしばらく先の話である。
結論として、上級ダンジョン うま~ ということであった。
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