第24話 進級試験・ダンジョン調査 初等部5年生
俺は、ゲームをするとき、レベルをマックスまで上げて、「こうげき」のみでじわじわ嬲るタイプだ。
ラスボスは倒してしまうとゲームが終わるので、最後まで楽しむために、レベルをマックスにする。
そして、物理攻撃だけで無双する勝ち方にこだわる。
それは、確実に不確定要素なく勝ちたいからである。
つまり、石橋を叩いて渡りたいのである。
より、安全に。
より、不確定要素なく。
しかし、それは、ゲームだからできることで、現実には「絶対の安全」なんてものはない。
つまり、ダンジョンにも同じことが言える。
いや、わざわざ危険な場所へ行こうとしているのだから、安全とは対極の位置にあるかもしれない。
ここに、大事な人間、アネモネやオリビア、ついでにフォールを連れていくことが間違いなのではないか?
否、行こうではないか!
なぜ?楽しいからだ!
何が?未知の発見がだ!
そうこうすると、パーティメンバーから相談があった。
「ねえ、ライ?アタシは後衛だし、助っ人ってポジションだから、トドメを刺すだけでいいんだよね?」
「そうだね。巨大魔術でバンバン攻めてくれれば助かるかな。もちろん、巻き添え防止はしてね」
「了解。それじゃ4属性の巨大魔術を仕込んでおくよ。範囲も広めにしておこうかな」
「ありがとう。今回俺はタンクに徹するから攻撃は任せるよ?ちなみに、この魔法陣で味方を巻き込まないようにするから、揃えてくれると助かるかな」
「あぁ、アタシもそれにするつもりだったから、ちょうどいいね。他のメンバーにも知らせておきなよ?魔法陣の護符を持ってないと効果ないだろ?」
「あぁ、そうだね。護符の用意はしたよ。はい、これがアネモネの分ね。俺も持ってるから、アネモネも気にせずぶっ放してね」
「あいよ」
俺はダンジョンマスターの地位を目指している。
そのために上級ダンジョン踏破は目標のためには必要な条件の一つである。
最終的には「単独踏破をいくつできるか」という勝負になる。
そのための資金石とするつもりだ。
今回はパーティ4人での上級クリアだから大きなポイントにならない。
上級なら単独踏破でやっとまとまったポイントになる。
「おっ、フォール君、ちょっと待ってー。」
早速出会った。
「ん?どうした?」
「誤爆防止の護符を渡しておくよ。君は近接で攻撃の予定だよね?後衛からバンバン魔術くるから持っておいてね。ちなみに俺も足止めの重力魔術使うつもりだよ」
「お、おう。ありがとう。本番はアイスブランド家の名に恥じない働きをすると約束しよう。魔闘法もかなり使えるようになったぞ」
フォール君は少し勘違い野郎なところもあるけど、実力はともなっている。
アイスブランド家は血統魔術で氷の剣を出せる。
血統魔術とは、血液に術式が刻まれており、手ぶらでも発動できる。
この氷の剣は水系の上位魔術で、攻撃魔術の扱いになる。
切り付けるだけでも強力だが、それに、オーラの攻撃力を乗せることもできる。
フォール君は隠の上級であるので、水系との相性はよく、陽は下級とは言え、火オーラを上乗せできる。
状況に応じて土と水のオーラを使うことで継戦能力が一気に高くなる。
「そうだね。期待してるよ」
「任せたまえ」
今回挑戦するのは、自宅から自転車で2時間という近場にある、山中のダンジョンである。
ダンジョンは前述の通り、竜脈にある。
しかし、立地が悪いと、放置され、ダンジョンになる。
我が家は都市の郊外にあるが、そこから2時間も自転車を一直線に進めると、山を一つ越えることができる。
越えた先には、さらなる山があり、森が生い茂っている。
山中は道路があるが、未舗装の道路の途中に獣道がある。
その道の先には、大きな門があり、その門の大きさから上級ダンジョンであることがわかる。
名前は「ヤンツー山のダンジョン5」と言う。
ヤンツー山というのが、越えた先の山で、その山には5個のダンジョンがあり、もっとも最近発生したのが、このダンジョンである。
竜脈はマナを大量に排出する場所であるが、そのマナが枯れることもある。
長寿なものとしては、我が家の近くの大都市には、大きな竜脈があり、それは、もう3000年以上も枯れることなく都市とその近郊の家庭用マナを補うほどのマナを排出している。
上級ダンジョンをクリアして得た竜脈からでも500年が限界と言われているので、都市の竜脈がいかに規格外かわかることだろう。
このような規格外の竜脈を掘り当てたり、ダンジョンを単独クリアするなどの条件を満たすことで、ダンジョン踏破ランキングは上昇する。
踏破ランキングは冒険者ギルドが管理している。
踏破ランキングの上位ランカーは特別級と呼ばれる、1000人の中級術師が同時にマナ抽出しても問題ないような大規模な竜脈のダンジョンをソロでクリアしている。
俺には、その経験はない。
しかし、俺は安全にダンジョンをクリアしたい。
そこで、下見に来た。
ソロで。
最悪、重力魔術と風オーラのコンボで逃げるつもりだ。
もちろん、世界中に冒険者ダンジョントラベラーはおり、常時上級以上のダンジョンは狙われている。
つまり、早い物勝ちだ。
もちろん、地図なんかも出回っていない。
門を潜った先にあるダンジョンは異空間で、方位磁針も使えない。
ちょっと雰囲気を見て、ちょっと戦ってから帰るつもりだ。
ぶっちゃけ、モンスターを見たこともないからビビってる。
「うわー、ダンジョンってこんなとこにあるんだね。ライ君?」
ん?オリビアの声が聞こえた気がする。
しかし、声の方を見るとオリビアがいた。
「え、なんで居るの?」
「いやー、たまたま通りかかったんで、ついてきちゃった」
てへって感じでベロを出した。
「いやいや、今から下見したかったんだけど?」
「一緒に行こうよ!ボクも見てみたかったんだ!」
なんてこった、黙って下見して、本番は、カッコよく立ち回るつもりだったのに…。
計画が崩れた…。
「お、おう。危なくなったら逃げるぞ?」
あっ、オリビアは隠の中級だ。
逃げるときの風オーラが下級じゃ話にならん…。
最悪、全開法を使って、火と風のオーラで担いで逃げる方向か…。
「わかったよ。よろしくね!」
なんか楽しそうだ。
余裕だな…。
俺はビビってるのに…。
「来ちまったもんは仕方ないな!早速、入ってみるか!」
「うん。そうしよう!なんかあってもライ君がいるから大丈夫だろうしね!」
俺をアテにしてたんかーい!
うまくいけばいいが…。
うん。まぁ、なんとかなるだろな。
行ってみよう!
門を押してみる。
意外と軽い。
門自体は5mはある大きさだ。5mを越えると上級扱いらしい。
ギリギリ上級なんだろう。
中に入り、見上げると空は赤かった。
これが異空間というヤツか。
外界とは、切り離され、時間の流れも変わる。
基本的に外の時間は止まるらしい。
もしくは、緩やかに流れるくらいとのこと。
異空間の中には、一つのタワーがあった。
これが今回のダンジョンだ。
ダンジョンによって、見た目は違う、城の場合もあれば、洞窟の時もある。
今回は塔だった。
白い巨塔。
回診に来そうだが、今はまじめタイム。
「よし、少し入ってみるか」
「そうだね」
オリビアは即答する。
入り口から入ると早速モンスターと遭遇。
犬のモンスターだ。
なんとかって名前はあったが、忘れたので、犬だ。
犬は3頭いた。
大型のシベリアンハスキーくらいある。
俺の身長と変わらない。
喉でも噛まれたらおそらく即死。
直ちに土オーラを纏う。
オリビアも同じことをしていた。
俺は大治癒と解毒を持ってきているので、今後のことを考えると、ある程度のダメージは受けてみたい。
「2体やっつけて、1体は残すよ?」
「了解」
オリビアは返事と同時に風オーラで駆け出し、犬の頭を火オーラで殴りつけていた。
ゴッと鳴り、吹き飛んで壁に激突すると、犬は死んだ。
「おっ!全開法できるの?」
「そうだよ。お父さんを負かした相手の技らしいから、家では禁止だけどね。やり方はお父さんが教えてくれたんだ」
やはり、オリビアの努力はすごい。
魔力こそ中級だが、操作の熟練度は、ラースに迫りつつあるのではないだろうか。
「わかった。あとの2体は任せてくれ」
俺はそう言うと、同じく全開オーラで迫り、殴りつけて倒した。
オーラが強すぎたのか、犬の頭は風船のように破裂した。
どうやらザコらしい。
最後の1体はわざと攻撃をさせて、腕を噛ませた。
何パターンか攻撃を受けて実験したが、土オーラはかなり強力らしく、ある程度のマナを使うと犬は近づくことすらできなかった。
オーラを弱めて噛ませてみたが、毒はなく、大治癒ですぐに回復した。
「1階だとこんなもんなのかな?」
「そうみたいだね。次も行っちゃおうよ?」
「そうだな」
俺は返事すると、歩き始めた。
「一体、何階まであるんだろうね?」
オリビアが質問をぶつけてくる。
「うーん、外から見た感じだと、10階くらいじゃないのかな?」
初めて見たときに、それくらいのマンションをイメージしたからだ。
「そっか、半分くらいは行けちゃうかな?」
「わかんないから、行っちゃおう!」
軽いノリでやり取りする。
どんどん進んで行くが、犬しか出てこない。
犬は100匹は殺しただろうか?
最初こそ慎重だったが、途中で飽きてきたので、重力魔術も試した。
結果は、犬くらいだと、即死級であることがわかった。
前方への重力10倍は、呼吸困難で死亡。
範囲の5倍は、身動きひとつできないので、プチプチ潰すだけ。
ちょっと弱すぎて話にならない。
魔術による疲労も問題なかった。
もう少し出力を上げても連発できるだろう。
そのためには、杖のグレードアップが必要なので、当分はできないが。
で、なんだかんだ、5階まで来てしまった。
途中、でっかいコウモリみたいなモンスターと、クモみたいなモンスターと、カブトムシみたいなモンスターがいたが、大して強くはなかった。
「どうする?」
オリビアに聞いてみる。
「余裕だし、もう少しいこうよ?」
「だよな?まぁ、もう少しだけな?」
進んでみると、初めて見る、ゾンビみたいな人型のモンスターがいた。
それも、1000体近く。
完全にモンスターハウスだった。
「あぁ、やらかしたかな?」
俺がボヤく。
「なんとかなるよ!きっと!」
オリビアはいつも前向きだな。
大量の魔力を持ってるのに、負けてちゃいけないな。
俺は全開法を使い、全身を強化する。
土魔術の大盾を作り、構える。
重力魔術で、範囲5倍にする。
すると、そこには、動きにくそうにしながら、ジタバタするゾンビがいた。
オリビアは殴りつけて潰していく。
俺は盾でまとめて押し潰す。
どんどん潰す。
2人で潰す。
結局は下の階とやってることは同じだった。
残ったのは大量のドロップアイテムだった。
しかも、ドロップアイテムは現金だった。
倒すと、ドロンと死体が消えて、ドロップアイテムが現れる。
これまでのドロップアイテムは、犬は牙、蝙蝠も牙、蜘蛛は糸、カブトムシはツノ、ゾンビはお金。
ちょっと意味がわからない。
しかも、全てのゾンビが500丸玉を持っていたので、1000体で50万丸くらいある計算になる。
どんどん進んでみる。
どんどん出てくる。
どんどん倒す。
もはや、重力魔術はいらない。
さらに、どんどん進む。
モンスターハウスは至る所にある。
全開法をマスターしている俺たちの敵ではない。
隠の魔力が強い俺たちにスタミナ切れはない。
そして、着いた。
着いてしまった。
一際豪華な扉の前に。
「これって…?」
オリビアが呟く。
「だよな?」
俺も同じ意見だ。
どう見てもボス部屋だ。
ダンジョンマスターがいる。
「どうする?」
俺は、帰った方がいいと思いながらも、オリビアに確認をとってみる。
「いや、これはダメでしょ?」
オリビアも帰る派だった。
「だよな?んじゃ、帰ろうか」
「そうだね」
大人しく帰った。
ドロップアイテムは魔術屋で買い取ってくれる。
ドロップアイテムだけで、おまけして15万丸あった。
ゾンビのお金を計算すると、126万5500丸あった。
大金だ。
運ぶだけで大変だったが、持って帰ってきて正解だ。
とりあえず、山分けした。
俺たちはそのまま、魔術屋で杖を買った。
70万の杖をお揃いで買った。
杖と言っても、杖の形ではなかった。
バングルだった。
複数の幾何学模様が彫られた、琥珀のような石でできていた。
このバングル自体が杖であり、触媒となる。
杖としては、触媒からマナ伝達の杖へのタイムロスが、無いのがウリらしく、店員おすすめの品であった。
そんなタイムロスは前の杖でも感じたことがないので、大げさだと思うが、見た目がかっこいいので買うことにした。
それに、両手が空くことが地味に嬉しい。
触媒としても有能で、256節もの大容量である。
俺の場合は、強大な魔力に物を言わせた、大規模魔術も可能であるし、オリビアの場合は、術式を通常より複雑にすることで、魔術の起動を早めることもできる。
今までの俺たちにとっては、手が出ないような高級品である。
さすが、上級ダンジョン。
と、思っていたが、パーティメンバーに相談したらめちゃくちゃ怒られた。
たしかに、2人でのほぼ攻略や、モンスターハウスへの突入など、普通では考えられないことをあっさり行ってしまった。
お金に目が眩んでいたが、「命の方が大切」とお説教された。
何も反論できない。
しかし、それはそれとして、明日の攻略はボス戦以外は余裕である。
ダンジョンの管理は市役所がしているので、ヤンツー山がある、ゾン市の役所に来た。
明日、ダンジョン攻略に挑む旨を伝える。
冒険者ギルドは攻略後に報告するシステムだ。
申請書に記入して、窓口に提出する。
この申請書の書き方は学校で習っている。
もちろん、市役所の窓口業務の方も慣れたもので、子どもの申請の対応もテキパキこなした。
しかし、どうやら上級の申請は初めてらしく、上司に確認するとのことであった。
しばらくして、OKをもらったが、上級が3人いてることと、アネモネが中級を単独クリアしていることが大きな源因らしかった。
今回はたまたま大丈夫だったが、今後も子どもの見た目で、ありえないことに挑む可能性は高い。
世界一を目指すからには、避けては通れない道だ。
何かしら後ろ盾か、名声が必要かもしれない。
今回の上級ダンジョン攻略だけでは少し弱いだろう。
一度、教授に相談するといいかもしれない。
心のメモに残しておこう。
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