第27話 魔闘士大会予選

 魔闘士大会とは、およそ2000年前に地球で言うイタリアに似た半島の街、ヌーマンで行われた、円形闘技場での格闘技大会が起源と言われている。


 うん。

 ローマのコロッセオだな。

 さすがに、地球と文化が重複しすぎて気持ち悪いが、もう、そういうものだと割り切ろう。


 さて、今日は魔闘士大会の予選の日となっている。

 ゴーレムを壊したからと油断することはせず、トレーニングを積み重ねてきた。

 この1ヶ月は、主にオーラの切り替えと、オーラ圧縮のスピードを上げることに費やした。

 もちろん、シャイナやアネモネとのスパーリングや格闘技の基礎も怠らなかった。

 やはり、まだ成長途中の子どもの体ではリーチが短いことが大きく不利な点である。

 身長は143cmだ。

 しかし、オーラの総量が文字通り桁違いなので、完全にノーダメージになる。

 それはアネモネの全開火オーラで試したから間違いない。

 やはり10倍異常の魔力差は覆らないらしい。

 アネモネには「反則だ」と何度も言われた。


 魔闘士大会はワールドランキングの試合とは違って、素人も出場出来るので、魔力測定が義務付けられていない。

 これに助けられた。

 測定されてしまえば、すぐに特級だとバレる。

 魔力も反則級なので、試合も盛り上がらないだろうし、出場停止にされるかもしれない。

 ワールドランキングは試合を盛り上げるために魔力を始め、様々なデータを公表しなければならない。

 あくまで、集客目的の興行としての性質が強い。

 しかし、魔闘士大会は違う。

 予選には素人も多数参加し、次世代のトップランカーを発掘する目的が強い。

 その為、参加するためのハードルもかなり低い。

 エントリー自体は無色のオーラが使えるかどうかを確認する書類提出のみで可能である。


 予選の場所は各地の協会役員が場所を選定する。

 つまり、俺が参加する東アレジア大会の役員はツバル教授となる。

 もちろん、教授は場所として、国立大学の広大なグラウンドを用意した。

 予選の内容は、協会が用意したゴーレムの討伐。

 予選会場は、協会役員の数だけ存在し、その数だけゴーレムが存在する。

 世界中に割り振られたゴーレムを倒すために各会場に参加者が群がる。

 ゴーレム1体に対して、参加者の多い予選会場で1万人は集まる。

 国立大学にもおよそ1万人集まっている。

 もちろん、お祭り騒ぎに便乗したい、記念参加者もいるが、ケガや事故については自己責任としている。

 その中からゴーレムを倒した1人だけが本戦に出場できる。

 ゴーレムの取り合いとなる場合も存在し、参加者同士の戦いに発展することが多い。

 そのような会場では、怪我をしたくない冷やかし参加者たちが一気に棄権する。

 これらの事情を報道されるようになって、参加者は減る傾向にある。

 

 それでも、1万人という数の暴力は強い。

 そこで、参加者全員で協力してゴーレムを倒しにいった場合はどうなるのか?

 答えは簡単である。


 それでも合格者は生まれない。


 これが、例年の答えである。

 そもそも、ゴーレムが強すぎる。

 魔力の設定は、陽が400で隠が800で設定している。

 その上、ボディはアダマンタイトでできており、非常に硬い。

 この条件でクリアできるのは、トップランカークラスとなるため、自動的に弱者は本戦に参加できない仕組みになっている。


 教授との練習の時にゴーレムを見て気づいたが、アダマンタイトの正体はどう見てもステンレスだった。

 魔法金属の夢を潰してしまった。

 文化が似ているだけで、名詞が変わっていることはよくある。

 ステンレスがアダマンタイトに変わることくらいあるだろう。

 しかし、もう少し夢が欲しかった。

 これじゃあ、ミスリルやオリハルコンも、たいしたことなさそうだな。

 

「さて、ちゃちゃっとやりますか!」

 もう予選は始まっている。一万人近くももいるので、ちょっとやそっとでは順番がまわってこない。


「どうしたもんかな?」

 やっぱり、単純なのが1番いいな!

 そう決めると、前に立ってる参加者を投げ飛ばした。

 50mくらい飛んで行ったけど、オーラがあるから死なないだろう。


「よし、これでいこう!」

 投げのるもの大変なので、突き飛ばしていく。

 少しすると、異常事態に気づく参加者が現れる。

 俺のことを襲ってこようとするが、突き飛ばしていく。

 突き飛ばしも時間がかかりそうなので、頭の上を踏みつけて走っていく。

 足には火オーラを纏う。

 踏みつけるたびに「ぐぇ」とか「ぐはぁ」といった呻き声が聞こえる。

 オーラに纏われた脳は加速して思考できる。

 体感時間にして1分であるが、ものの数秒で、20人近くを戦闘不能にし、100人以上を跨いでいってた。

 いわゆる、思考加速というやつだろうか?

 脳を風オーラで纏っている。

 一度、無色オーラで纏った時は、時間が止まったかのように感じるほどの思考加速が体感できた。

 しかし、無色オーラは変換ロスが多いので、風だけにしている。

 そうこうしてる間にもどんどん踏み潰している。

 ゴーレムまで200mといったところか?

 ゴーレムに攻撃している参加者の様子が見え出した。

 ふと後ろを振り返ると、同じ作戦で進んでくる参加者が数名いた。

 対応はあとにしよう。


「アニキ!あいつめちゃくちゃ強いからついていきましょうぜ?」


「そうだな。同じ作戦に切り替えるか!ついていけば、適当に蹴散らしてくれるだろ。最後のおいしいとこだけもらっていこう」


「はいっす!ついていきます」


 怪しい会話が聞こえたが、無視しよう。

 どんどん進んでいき、あと50mくらいになった。

 この辺りはゴーレムの攻撃に少しは耐えられる猛者が集まっているらしい。

 踏みつけただけでは潰れなかった。

 しかし、ゴーレムを倒したもの勝ちなので、無視していく。

 ゴーレムに辿り着いた。

 周りからは激しい攻撃が行われている。ゴーレムは、強固な防御と、強靭な攻撃を両立できる。


「とうっ!」


「やぁ!」


 あちこちから声が聞こえてくるが、全ての攻撃が捌かれるか、効果がない。

 逆にカウンターを受けている者が大半で遠くへ吹き飛ばされている。

 邪魔者が多いので、俺もゴーレムと共闘する。


「このやろう!」


「ジャマするな!」


 なんて聞こえてくるが、無視だ。

 どんどん突き飛ばす。

 すると、先ほどの兄弟?が現れた。


「おうおうおう!お前ぇー!アニキのゴーレムに手を出すなよー!俺らはこの日のために兄弟で特訓してきたんだ」


「そうだ。ゴーレムは俺たちグラーケン兄弟がいただくぜ!」


「ゴーレムは一体なのに、どうして兄弟で出場するつもりなの?」

 単純な質問を投げてみる。


「ん?まぁ、アレだよ!気合いで出るんだよ」

 弟が答える。

 絶対に考えてなかった顔をしている。


「んじゃ、俺は他の参加者を、片付けるから話し合っといてね」

 俺は無視することにする。

 そうこうしている間にもどんどん襲われる。もちろん後ろのゴーレムからも襲われる。

 開始して5分程度たったが、参加者の半分は棄権していた。

 残りの半分くらいは行動不能だった。

 残りは2000人くらいだろうか。

 ここまで来るとなんとかなりそうな気がしてきた。

 グラーケン兄弟は何か叫びながら戦っている。

 

「人数が減ってきたな。そろそろ、お前を倒す」

 グラーケン兄が話しかけてきていた。

 周囲を見ると、俺たち3人対、残りの参加者という構図ができており、周囲の参加者が取り囲んでいた。

 俺はチャンスと捉える。


「俺たちの強さはわかっただろ?ここで、勝負するからお前たちは待ってろ!」

 グラーケン兄も同様に考えたらしく、実質、予選決勝をするようだ。

 と言っても、向こうは2人でかかってくるようだ。

 どちらが優勝させるか問題は解決したのだろうか?

 まぁ、いいや。


「そうだな!これが決勝ってことでいいな?」

 全員相手にするのも時間がかかるからこれでいいや。


 周囲では

「おおー!」

 とか言ってる。


「いいようだな!決勝を始めるか!」

 弟が言う。


「あぁ、わかった。いつでもいいよ」

 俺も答える。


 無言で弟が殴りかかる。

 俺は差を見せるために無色オーラで捌く。

 無色オーラは全開で、590mpある。

 ちなみに、話している最中もオーラを練っていたので、すでに590mpある。

 この先、バトルで興奮状態になれば、蓄積される。

 薄く密度の濃いオーラを纏っているため、素人の目にはオーラ無しで戦っているように見えるだろう。

 この状態でグラーケン弟を圧倒する。

 全ての攻撃を捌き、足をかける。

 ある程度、力の差を見せつけて、みぞおちへの貫手で沈める。

 そのまま一般人でもギリギリ見える速さで、グラーケン兄の元へ行き、同じくみぞおちへの一撃で行動不能にする。


「さぁ、これだけの力の差で勝ったんだ、今からゴーレムへ1人で挑むからみんなは見ててくれ」


 辺りは静まり返っている。

 さっきまで、元気に戦ってた2人が一瞬でオーラ無しの子どもに倒されたのだから、驚きもするか。

 まぁ、いいや。

 一直線にゴーレムの元へ向かい、振りかぶられた腕をかわし、懐へ潜る。

 火のオーラ900程度に切り替え、胴体への正拳突き一撃でゴーレムを2つに割る。


 ゴーレムの上に足を乗せて叫ぶ。

「俺が世界一だー!」


 周囲が沸く。

 おおおーー!

 という、参加者の雄叫びとともに、俺は予選を突破した。


 予選突破の報告をアネモネと教授とシャイナにしに行くと、

「カッコつけすぎ」

 とか、

「無色オーラは必要なかった」

 とか、

「火オーラはもう少しギリギリに上げないと、特級だと気づかれる」

 とか、なんとか文句ばかり言われた。

 もう少し祝ってくれてもいいのにな。

 まぁ、いいか。


 さっそく、教授は役員の仕事として、予選突破者が出たことを電話(この世界では、フォンと言う)で報告した。

 すると、もう3人予選突破者がいて、合計24人のトーナメントとなったそうだ。

 4人も合格するのは珍しいことらしく、例年になく、レベルの高い大会になるそうだ。

 楽しみだ。

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