第5話 世界一への第一歩 あんよ編
誕生して半年程度過ぎた、ある夜のこと。
本日、人類にとって偉大なる一歩が歩まれようとしています。
そう、わたくしライラックにとって人生初めての二足歩行での一歩です。
世界一の魔術師の第一歩なのだから人類にとって偉大なる一歩と言えるはず。
そうして、一歩踏み出したのであった。
一歩、二歩、、、
「きゃー!エルバー!見てー!ライが歩いてるぅ!!」
ママンがキャラ崩壊しながら喜ぶ。
「おお。すごいすごい!早過ぎないか?」
「いいのよ!頑張ってるんだから応援しましょ!!」
両親に見守られ歩いていく俺(42歳)。
なぜか喜んでしまう俺(42歳)。
なぜか、オムツなしの素っ裸の俺(42歳)。
別の何かに目覚めてしまいそうだ。
さて、つかまり立ちしてからは早かった。
だって、つい半年前まで歩いてたんだもん。
ズルしてごめんなさい。
パパンやママンに褒められた時より、アネモネに褒められた時の方が嬉しくなってしまってごめんなさい。
さて、魔術についてだが、大きな収穫があった。
本棚の2段目には、やはり俺用の魔術書が置いてあった。
幼児向けでひらがなだけで書かれた本だ。
そう、魔術書と言っても完全に絵本だ。
絵本でも魔術に関する本は初めて手にとったので、なんとも言えない嬉しさがあった。
本によると、陽か隠のどちらかのみが使えるようで、上級、中級、下級の3種類に分類され、それは生まれてから死ぬまでずっと変わることが無いそうだ。
たったこれだけのことを1冊の絵本に書いてある。
幼児に学ばせることが、いかに難しいのかということがよくわかった。
いや、そこではない、生後間もない頃に行われた階級鑑定が一生変動しないという点が大きな問題だ。
ってことは、俺は中級のまま変わらないってことか?
夢のない世界だ…。
幼少期から魔術の訓練をするといいというのは天使アリエルも言ってたな。
あれは、等級が上がるのではなく、発動までの時間や、土魔術でフィギュアを作るなどの、ちょっとしたアドリブ程度の熟練度の話か。
てっきり等級がガンガン上がって上級や、その上の特級? とかになれるもんだと思ってた。
特級なんてあるのか知らんけど。
甘かったか。
歩行については転生特典と言える早さで身に付けたが、魔術に転生特典がなければ世界一になりにくいではないか。
いや、待てよ?先日の天使騒ぎの時に暴発した魔法は水だったな。
水は闇のマナと同じ属性だから、隠の魔力を使うはず、ということは俺は隠の魔力は上級なんじゃないか?
確か、俺は陽の中級と言われていた。
でも、アリエルには魔法を使うなと散々クギを刺された。
次に会うまでは使えないと思っておいていいだろう。
あれだけ注意されたのに、また大惨事をやらかしたら、さすがにフォローしてくれないだろう。
せっかく使える魔法もコントロールできないなら使えないのと変わらない。
術式を経由した魔術ならコントロールできるかもしれないが、できなかった時のことを考えると、実験に踏み切れない。
いや、俺は、恵まれた力を持っているということで満足しておこう。
今は調査中らしいが、地球の天使であるアルターイのことが落ち着けば報告に来てくれるだろう。
成長の過程で、隠の魔力も使えるようになるかもしれないしな。
よし、俺は俺ができることに専念しよう。
当面は、歩行訓練と魔術に関する情報収集だな。
こうやって前向きに考えられるのは、アリエルの説明によれば魔力が影響しているらしい。
前世ではうつ病に悩まされていた俺にとってはありがたい話だ。
前世の病気は脳だけでなく、自身の性格まで蝕んでいた。
案外、国を水没させるほどの水魔法を炸裂させられるだけの魔力が、俺のうつ体質を抑えてるのかもしれないな。
ありがたいことだ。
これだけ考察しているのに、うつ考察にはまらないのがいい証拠だ。
前世なら、確実にイヤな想像だけして、やる気がなくなっていた。
魔力に感謝。
明日もがんばろう。
最近は全てがうまく進んでいる気がする。
ママンは歩くと褒めてくれるし、パパンも褒めてくれる。
アースは特別可愛がるわけでは無いけど、程よい距離感で接してくれる。
アネモネはベタベタよしよししてくれる。
もう、何も言うまい。
完璧だ。
すでに前世の幸せを超えている。
いや、だからといって、前世にも幸せなタイミングはあったよ?
最終的に不幸せに感じてただけで、周囲から見れば十分幸せだったのかもしれない。
でも、俺は不幸せに感じる状況だったわけで…。
あぁ、もう、今の幸せを全力で楽しみたいだけなんだ。
前世のしがらみを持ち込むのは野暮というものだろう。
比較するのではなく、今を楽しもう。
あぁ、我ながらいい事言った気がする。
さて、今日はそういう話では無い。
なんと、アネモネが絵本を読んでくれるらしい。
さっきからあれやこれやと探しているのを、ただただ見せられている。
ようやく見つかったようだ。
「はーい、今日はアネモネお姉さんが大好きなライ君のために絵本を読んであげるよー。はくしゅー。パチパチー」
「……。」
いや、まだ喋られないから!
拍手も出来ないくらい上手く体が動かせないから!
ごめんね!
「はい、拍手はできないねー。また、大きくなったらしてねー。それじゃあ、さっそく、絵本を読んであげましょう。タイトルは、『うちゅうのはじまり』だよ」
むかしむかし、あるところに何でもできる1柱の神様と天使たちがいました。
神様は天使たちを育てて新しい神様にしようとしました。
大きな爆発が10回起こる間に全ての魔術を教え、魔法を使えるようにしました。
天使たちはがんばって覚えました。
神様は1人1人の天使に順に教えました。
全ての魔術を使えるようになって、魔法を全て使えるようになった途端、爆発がおこります。
つまり、天使は10人いるということです。
爆発は宇宙を生み出すエネルギーを持っています。
できた宇宙はそれぞれ1人の天使が大切に育てることになりました。
ある日、ある宇宙に、天使より魔法が上手なヒトが生まれました。
そのヒトは天使に、魔法で勝負を挑みました。
すると、天使は断りました。
ヒトは魔法がどれほど上手なのか見せるために爆発を起こしました。
そして、11個目の宇宙ができましたとさ。
「おしまい。…どうだった?ライ君に聞かせるために何度も練習したんだよー?それにね、この絵本は神様とか、天使とか、魔法が爆発とか、かっこいいでしょ?アタシはライ君にはこれくらいかっこよくなってほしいんだー。アタシも一緒に練習するから頑張ろうね。」
にこっと笑ってみたら、ギュッと抱きしめられた。
「あ、それじゃ、アタシは学校に行くね。今日から行くことにしたんだ。ライ君に教えてあげられるくらいにはなっておくね。」
アネモネは不登校を解除したらしい。
俺に教えるために勇気を出してくれたと思うと、感無量ですな。
それにしても、アネモネはなんで半年以上も不登校だったんだ?
いきなりキスしてきたり、よくわからん姉だな。
絵本の読み聞かせは上手だったな。
ほんとに練習してきたんだろうな。
かわいいな。
内容も、この前天使に会っただけに、リアルだったな。
アリエルが調査に行ったのが隣の宇宙だって話だから、十分信じられる内容だったな。
それに、あの話が実話なら、人間が天使になれるってことだよな?
それについては、ちょっと、ぶっ飛びすぎてて、荒唐無稽だな。
あくまで絵本の内容ということだろう。
桃太郎や一寸法師と同じだな。
あれ?そういえば、実話をもとにファンタジーにして、昔話にしたものとかあったような?
まぁ、いいや。
それより、魔術のことも書いてたな。
術式を使わないで直接マナに干渉することを魔法というってのは、世界の常識なのかもしれないな。
心のメモに残しておこう。
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