第4話 世界一への第一歩 つかまり立ち編
「みんな!見て!ライが立ったわ!」
「おお!本当だ!成長したね!」
「わぁ、これでライと遊べることが増えるね」
「ライ、すてき…」
みんな思い思いのことを呟くが、アネモネはブレないな。
アース兄さんは優しいがあまり遊んでくれてはいないような。
それよりも、学校での勉強が忙しいようだ。
学校から帰ってくるなり、家庭教師の先生と2人っきりで勉強している時間が長い。
どうやらこの国は学力至上主義らしい。
もちろん、魔術に関する学習が一番重要みたいで、実技の練習をしている姿もよく見かける。
これは願ってもない情報だった。
今、俺が行動指針としている「世界一の魔術師」は世界の趨勢に対して王道と言える。
何も、世界一の魔術師を目指すことで家族に迷惑をかけるのなら別の世界一でもいいとは思っていた。
これで、はっきりと世界一の魔術師になることを目指していいということがはっきりわかったのだった。
さて、これでつかまり立ちもできるようになったわけだが、次は歩行のトレーニングが必要である。
生まれてからどれほどの期間で立てたのかがよくわからないのだが、おそらく半年は経過している。
世界一の魔術師を目指すからには、少しでも早く成長する必要がある。
頑張るぞ。
あぁ、でも、腹が減ってきたな。
「んぎゃーーー、あーー」
指を吸ってアピールしてみる。
「アンネさん!ミルクを欲しがってるんじゃないかな?」
アネモネはママンのことをアンネさんと呼ぶ。
お母さんでは無いのだ。
アネモネの両親はどうしたんだろう?
大きくなったら折を見て聞いてみよう。
つかまり立ちをできるようになって視線が高くなった。
ハイハイだと、どうも頭が重くて上を見る事ができなかった。
視線が高まった俺が初めに驚いたことは壁掛け時計だった。
文字盤の数字が12までなのである。
これまでのやり取りで予想はできたが、文字盤が12までということは1日が24時間でこの惑星の自転周期が地球と同じであることがわかった。
公転周期はわからないが、目に入ったカレンダーも日本のものと同様であった。
これは、並行世界説が一気に強まった。
おそらく、分岐自体は近代あたりで別れてしまったから和風文化を残しつつも住人の名前や顔つきが洋風なのかもしれない。
いや、そんなことより、重要なことがあった。
ハイハイの時には取れなかった、リビングの本棚の2段目に届く。
どんな本があるのかはわからないが、俺の行動範囲で文字に触れることができるのはそこだけだった。
1段目は絵本が中心だった。
2段目は何があるのかはわからない。
しかし、それはいいのである。
なぜ、2段目にこだわるかというと、2段目にはパパンが買ってくれた杖があるからだ。
全力でハイハイし、棚の2段目に手を伸ばそうとしている。
しかし、後ろからはママンが猛烈なスピード(歩いてるだけ)で迫ってきており、呪文の確認はおそらく1つが限界だろう。
前回はファイヤーボールを試した。
今回は屋内だ。
俺の魔力は中級らしく、ファイヤーボールを使うのは火災の恐れがある。
それに、前回失敗した魔術を再度試す気も無い。
そこで選択したのは、更なる、定番魔術「ウォーターボール」であった。
いざ、「ウォーターボール」と念じようと、水のイメージを膨らませる。
イメージと言っても、赤ちゃんのできるイメージではない。
中身は42歳のオッサンだ。
それなりに学もある。
分子構造くらいはすぐにイメージできる。
具体的な水のイメージはできた。
あとは念じるだけ。
(ウォーター…)
ボールと念じようとした瞬間。
世界は水に沈んだ。
俺を中心にとんでもない量の水があふれ出し、自宅を水没させた。
それにとどまらず、近隣の住まいを、町を、街を沈めていった。
いや、沈めたのではない。
天を貫く巨大な水の柱が爆散し、水の質量で国を圧壊したのであった。
その時、俺は水中にいた。
その時、俺は水中にいた。
はずだった。
瞬く間に水は逆再生する動画のように吸い込まれていった。
そして、本棚の前で杖を握ろうとする状態まで戻っていた。
その後、周囲は止まっている。
しかし、俺は動ける。
そして、1人の神に抱かれていた。
はっきりわかった。
神だ。
神威カムイを纏っていることが初めて見た俺でもわかる。
神だ。
あぁ、思わず2回言ってしまった。
大事なことであることは間違いない。
ただの神ではない。
女神だ。美しい。
その存在感だけでさっきの奇跡の説明もつく。
時間を巻き戻してくれたんだ。
今は時間が止まっている。
「あなたが神だったのですね」
「いいえ、違います」
あれ?違うの?
じゃあ、この神々しい存在感は気のせいとでも言うの?
「あなたが神です。間違いない!」
「いえいえ、違いますよ。私は神意の執行者、天使です」
「あぁ、なるほど。納得しました。先程は助けていただいてありがとうございました。家族全員おぼれていて困っていたのですよ」
「あれは、家族だけの被害ではありませんよ。国が1つと、周辺国家にまで被害は及んでました。先程の魔法で国民の9割が死にましたよ」
「えぇぇ。そんなことになってたんですね。そういえば、家の屋根も全て吹き飛んでましたもんね…。とにかく、助けて下さってありがとうございます」
「助けるも何も、私もあなたをずっと探していたので目立つ行動を起こしてくれて助かりました」
ん?俺って今回の件以前に、天使に指名手配されてたの? ちょっと怖いな。
まだ何もしてないんだけどな。
あ、さっきのは悪意なかったからノーカンで。
悪さしようにもまだ0歳だし。
「何か探していただくようなこと、しましたっけ?」
「いえ、何もあなたは悪く無いのですが、地球の天使が少し厄介なことをしたもので、ご迷惑をおかけするお詫びに参りました」
あれ? 逆に謝られる?
おかしな方向に話がいきそうだな。
「詳しくお伺いしてもよろしいですか?ってか、なんで、俺、さっきから普通に喋ってんだ?」
「今は念話を繋いでいます。神の力の一端です。地球の天使のことも含めて詳しくお話しさせてください。少し、お時間いただきますが、よろしいですか?」
「ええ、だって、今って時間止まってますよね?」
会心のドヤ顔で言ってやった。
0歳だけどね。
「ふふ。そうでしたね。それでは、今回の転生についてから詳しくお話しさせていただきます」
・
・
・
そして、天使は転生からのことを順に説明してくれた。
結論からいうと、今回の転生は想定外だったそうだ。
天使なのに想定外とかあるのか?なんて疑問も持ったが、天使は神とは違い、間違いやわからないことがたくさんあるようだ。
さらに、今回は地球担当の天使がやらかした問題が原因だそうだ。
そう、ここはまさに異世界であるが、同時に夢の国ではなく、隣の宇宙に存在する地球にそっくりな惑星であることがわかった。
あと、時間軸も並行しているらしい。
この天使は名前をアリエルというらしいが、この宇宙を担当しているらしい。
そして、転生事件を招いた天使アルターイが俺を殺し、こちらの惑星に転生させた。
なぜ、俺なんかを?と考えたが、それは、地球の中であの瞬間に最も死に近かったのが俺だかららしい。
いや、もっと、世界の紛争地帯や、戦争状態の国あるでしょ?と聞いても「あの瞬間だけを切り取ると、俺が最も死に近かったとしか言いようがない」と言われた。
納得はしにくいけど、過ぎたことだし、仕方ないか。
まぁ、同じことがなければいいや。
あ、あと、このやたらと楽観的な思考になる原因もわかった。
魔力が強ければ強いほど楽観思考になるらしい。
理由の説明はなく「そんなもんか」と勝手に納得した。
アルターイの狙いについては現在も捜索中らしいが、「こちらに任せてほしい」と言われたので任せることにした。
任せるもなにも赤ちゃんに協力なんてできないしね。
最後に、魔法について教えてもらった。
「ねぇ、アリエル様、俺が使った魔術について教えてよ。このままじゃ、また、周りを水浸しにしちゃうし」
「そうね。サクッと教えちゃおうっか!」
そう、天使アリエルは意外に話せるヤツだったのである。
意気投合し、仲良くなっちゃった。
「じゃあ、ライ君、基本なんだけど、マナの属性は4種類あるの」
「お、火、水、風、土かな?」
「せいかーい!ピンポンピンポン!それで、火と風を合成すると光のマナ、水と土を合成すると闇のマナを作れるよー」
で、さっきは水のマナを大量に使って水の魔術を使ったってとこかな?
ってか、登場した時の神の威光はどこへいったんだ。
おもしろい天使だな。
「さっきのライ君のは、魔術ではなくて魔法でーす。魔術は術式を刻んだパーツを杖に組み込んで使うものだけど、ライ君は赤ちゃん用の何の術式もない杖を使って魔術と同じことをしましたー。それは、魔術ではなく、魔法でーす。どうやら君の魔力は特別性みたいだけど、それにはアルターイが関わっているようね。だからアルターイの狙いがわかるまでは魔法は禁止でーす。さっきのも、実はキミ、死にかけてたよーん」
「うわー、すげー力抜けてくって思ってたんだけど、それは死にかけてたからかー。止めてくれてありがと!アリエル」
あれ?そういや、俺って中級だよな?それであんなすごい魔法使えるってこと?
中級程度であんな大災害…。
この世界何回滅ぶ気だ…。
「ライ君はどうやら、隠の魔力の方が優れてるようだね。でも、今回の暴走の正体がわからないから、隠の魔力は禁止ね。あ、でも、火と風の陽の魔力は使ってもいいよー。子どものうちに鍛える方が効率いいから頑張ってねー。それじゃ、私は早速調査に向かうねー。ちょっと地球に行くから何か起こっても今回みたいには止められないから注意してね。まぁ、ちょっと人が死んだくらいでは天使は干渉しない取り決めだから自力で頑張ってー。じゃーねー」
「おーう。ありがとねー。また結果は教えてくれよー」
こうして騒々しい天使とのやりとりは終了した。
どうやら、陽の魔力を使って火、風、光のマナを操作し、隠の魔力を使って水、土、闇のマナを操作することで、魔術が使えるってことだろう。
俺はどうやら、術式なしで発動させたから魔術ではなく、魔法と言われたってとこかな?
まだわからんとこあるから、大きくなったら本で調べよう。
アリエルのイラスト
https://kakuyomu.jp/users/ahootaaa/news/16817330663275345982
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます