第3話 世界一への第一歩 ハイハイ編

 その後、次第に頻度が減り、唇が蹂躙されることはなくなっていった。

 飽きたのだろうか?

 俺の恋心は残っているので、寂しい気もする。

 冷静に考えると、不思議なことだらけなので、これでいいのだろうが。

 甘くドキドキした時間は過ぎ去っていった。

 でも、気づけば、アネモネのキレイなロングの金髪を目で追っている。

 今思えばもったい無い気もするけど、まだ、0歳児だ。

 この先、いくらでもチャンスは来るだろう。

 前世の後半でこそ、苦労が絶えなかったが、前半はリア充な時期もあった。

 人並みに恋愛もしたし、複数の女性と同時に付き合った経験もある。

 それなりに恋愛は得意分野でもある。

 それなりに経験があっても、あのキスの嵐は度肝を抜かれた。

 0歳にして初恋を経験する今の流れも不自然だし、アネモネには注意をしておこう。

 何らかの魔術が影響している恐れもある。

 魅了チャームのような魔術があってもおかしくない。

 それにしても、5歳児の初恋というのも可愛いものだ。

 どうこうしたくても話せないし、黙っておくしかない。


 さて、キス騒動から時間が経過したこともあって、俺は無事ハイハイができるようになった。

 乳児の筋肉ではかなりキツイ運動であることがわかった。

 全身運動であるため、日によっては筋肉痛になる。

 赤ちゃんがぐずるのは案外、筋肉痛が理由かもしれない。

 とにかく頭が重い。

 しかし、動けるようになると、世界が広がるし、聞ける会話も増える。

 先日はついに魔術の使い方について目撃してしまった。

 どうやら魔術はコンセントから使えるらしい。

 というのも、我が家のコンロが故障したらしく、新しいコンロをパパンが買ってきた。

 そして、例の4本プラグに差し込んだだけで、炎が上がっていたのだ。

 4本プラグがガスって線も考えたが、明らかに電極のようになっている。

 先端が丸く加工されている直径4ミリほどのプラグだ。

 管のように穴が空いているわけでは無いので、ガスでは無いだろう。

 送風機のように明らかに電気製品と思われるものも4本プラグをさしている。

 この、ガスでも、電気でも何でも解決する感じは魔術に関係するのでは無いだろうか。


 また、パパンの職業もわかった。

 どうやら、肉体労働者のようだ。

 と言っても、国立の施設で働いている、公務員と呼べる立場にあると推察している。

 なぜなら、パパンの働いている場所は、「国立マナ抽出所」なる場所だからだ。

 出勤時の作業着のような制服に書いてあった。

 日雇い労働者でないことを祈ろう。

 国家事業としてマナを抽出するくらいだから、インフラの一部として使われている可能性が高い。

 そこで、先程の話と総合すると、電気の代わりに魔術を使い、送電線のようにマナを各家庭に送り届けている。

 その材料となるマナをパパンがどこぞから抽出しているのでは?という仮説立った。

 おそらく、間違い無いだろう。


 ハイハイすることで、わかったのだが、我が家はそれなりに広いらしい。

 1階だけで、部屋が3LDKある。

 おそらく、2階には少なくとも5部屋はあるだろう。

 ちなみに、階段が危ないから2階には連れていってもらっていない。

 今更気が付いたのだが、靴は脱いで家に入る、ジャパニーズスタイルらしい。

 俺の寝室は和室で、そこで家族3人が川の字になって寝ている。

 兄と姉は既に1人部屋が2階にあてがわれている。

 すると、ママンとアネモネがやってきて何やら話し込んでいる。

 あぁ、アネモネたん、今日もかわいい。


「ねぇ、アネモネ?あんたも5歳なんだし、そろそろ学校へ行ったら?」

「いやです。もう少し待ってください」

「そうだねぇ。別に焦らせるわけじゃ無いけど、学校行った方が気持ちの整理もつくかもしれないよ?まぁ、もう少しはゆっくりするといいさ」

「すいません」

「あやまらなくてもいいんだよ。もう、ここはあんたの家でもあるんだ。気が向いたら教えておくれ」

「はい。わかりました」


 あれ?

 アネモネは実の姉では無いのか?

 居候的な存在?

 しかも学校行ってないんだ。

 5歳から学校へ行くシステムなんだ。

 あぁ、そういえば、魔術は幼いころから使える方がいいって話だったな。

 すると、アネモネが近づいてきて

「学校なんて行っても楽しく無いもんね~」

 と、俺を抱き抱えながら言った。

 どうやら行きたくないらしい。

 元教員としては行ってほしいところだが、長年の経験で不登校児童が一定の割合でいることも知っていた。

 また、それらの子に無理やり登校させても幸せな未来が待っていないことも。

 俺は赤ちゃんだから何も言えず、唯一声帯がうまく機能する音だけを発しておいた。

 「あー、うー」

 すると、アネモネはにっこりと笑い、ぎゅっと俺を抱きしめた。

 今までは実の姉との情事であることに背徳感を抱いていたが、今は違う。

 アネモネは実の姉では無いのだ。

 血のつながりが無いということは、将来、ホントに付き合う可能性も出てくる。

 幼馴染と付き合うとか、青春モノの定番だ!

 やることの無い毎日がパッと色彩豊かに映った瞬間だった。


アネモネ・アフロディーテのイラスト

https://kakuyomu.jp/users/ahootaaa/news/16817330663278783850

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