三話 レベリング(3)
影についての話を終えると記憶の中のお義父さんは消えていきました。
「……はい。わかりました……ではこちらからどうぞ」
「一番金になって時間を短縮できるのがいいですぞ。前金があるのがなおいいですな」
「こ、こちらです」
こうして俺は冒険者ギルドから仕事を受けました。
やはり女王の名を出せばある程度融通は利きますな。
これからも女王女王と口にすることにしましょう。
「「「槍の勇者! 覚悟!」」」
冒険者ギルドから出ると同時に冒険者が数名、俺を取り囲んで突撃してきました。
「大風車!」
問答無用で範囲スキルである大風車を放って薙ぎ払いますぞ。
これは槍を横に振り回し、最終的に竜巻を起こすスキルですな。
俺の作り出した竜巻に巻き込まれて冒険者共が吹き飛んでいきますぞ。
「「「ぐはああああああああああああああ!?」」」
「いきなりなんですかな? ふざけたことしてると殺しますぞ?」
降りかかる火の粉に遠慮なんてしませんぞ。どうせクズ共の刺客でしょうしな。
「ぐ……盾の悪魔に加担する偽勇者め!」
……なんか聞いたことのあるフレーズですな。
ああ! 三勇教でしたか。なるほどなるほど、まだこの勢力は生きているのですな。
お義父さんが壊滅へと導いたあのクソ宗教。
確かこの国の国教でしたな? すっかり忘れておりましたぞ。
「偽勇者? 知りませんな。俺は愛に生きる、愛の狩人。お義父さんに
槍の穂先を冒険者の
お義父さんを苦しめる害悪……どうするべきですかな?
「あ、悪魔……悪魔め! こんな真似をして許されると思うなよ!」
「
奴等はおそらく思い通りに動いてくれない信仰対象である俺をどうにか消そうとしているのでしょう。前も都合が悪くなったら偽者と
「これはお前等の神としての警告ですぞ。俺達に害をなすようなら迷わず始末する。覚悟することですな。ハハハハハッ!」
と、俺は高笑いをしながら立ち去りました。
もちろん襲ってきた愚かな狂信者共の財布は頂いておりますぞ。
これで新しいフィロリアル様を購入できますな。
「勇者を
雑魚の
あとは素材を適当に買い取り商のところへ持っていきますぞ。
もちろん
チャリチャリと金袋を揺らしながら、俺は魔物商のテントへ行きました。
魔物商は手ぬぐいで汗を
「こ、今回は何をご所望で? またフィロリアルですか? ハイ」
「そうですぞ。今日は複数欲しいですぞ」
考えてみれば一度にフィロリアル様が一匹である必要はありませんな。
ですから俺は現在の所持金で余裕がある分は全てフィロリアル様の購入費用にあてる予定ですぞ。
もちろん、お義父さんの装備代を残すのは当然。様々な魔物の素材を持って帰るのもいいですな。
「こ、こちらです」
奴隷商はまたも卵が沢山入った箱を見せてくれました。
俺はそこから何個か選んで購入したのですぞ。
さーて、まだまだすることは沢山ありますぞー!
もちろん、冒険者ギルドの依頼を速攻で解決させました。
そうしているうちに日が落ちたのですぞ。
「あ、元康くん。おかえり」
依頼を終えて村に帰ると、お義父さんがクロちゃんと一緒に待っていました。
「どうだった?」
「こちらの金策は程々でしたな」
俺はお義父さんに金袋を見せますぞ。
「わ、凄いね」
もちろん使った分もあるのでそんなに多くはないですが、ギルドでも達成が難しいという話の近隣の魔物退治をしただけで大金を稼げました。
Lv70は必要な依頼でしたが、強化方法を知らなかった頃の俺ならともかく今の俺ならこの程度造作もありませんな。
「これを足掛かりにもっとフィロリアル様を育成するのですぞ」
お土産にフィロリアルの卵をお義父さんに見せます。
沢山買ったので、その数に驚いておられる様子。
「クア?」
クロちゃんが首を
「お義父さんはどれくらいになりましたかな?」
「えっと……Lv15になったよ」
「なかなかの速度ですな」
「クロちゃんが魔物を
お義父さんがクロちゃんを
微笑ましい光景ですな。
「クア!」
「そうですな。明日の晩には言葉を
「え……フィロリアルって喋るの!?」
「そうですぞ。フィロリアル様はとても素晴らしいフィロリアル様なのです」
「へー……楽しみだね。喋る動物とか元の世界にはいないから夢があるよね。さすが異世界だ。じゃあ、そろそろご飯にしようか」
「はいですぞ」
この日もお義父さんの手料理を披露してもらったのですぞ。
そして翌朝のこと。
宿屋のカウンター前でお義父さんと誰かが話をしているのを見つけました。
「あ、元康くん」
「どうかしましたかな?」
お義父さんが俺を見つけて声を掛けてきます。
「あのね、この人達が俺に来てほしいって言うんだけど、元康くんならわかるかな?」
豚が二匹、男が一人……俺は男に目を向けますぞ。
男の外見は亜人、耳が
「私……シルトヴェルトからの使者でございます。槍の勇者様とお見受けするのですが、お話を聞いてくださいませんか?」
「聞きますぞ」
シルトヴェルト……確か亜人が主体の国でしたな。
メルロマルクとは長年敵対関係にあるという話を聞いたことがあります。
それにしてもどのような話でしょうか?
俺だって未来の全てを知っているわけではありません。
欠落している記憶も多く、お義父さんがシルトヴェルトに行った頃、そのことを知らず、領地にしている村を陰ながら見守っていてよく知らないのですぞ。聞かねば判断はできませんな。
ハッ!? 記憶の中のお義父さんが何かを言いたそうにしていますぞ!
ふむふむ、おや? 話を終えるとお義父さんはいなくなっていました。
「はい。槍の勇者様もぜひお聞きください。どうか盾の勇者様ともども我が国へ来てくださるようお願いいたします」
彼の話はこうですぞ。
この使者は四聖勇者召喚の話を聞きつけたシルトヴェルトの使者であり……メルロマルクで迫害されるお義父さんを迎えに来たそうですぞ。
「って話なんだけど……Lv上げも少しは
「うーむ……」
本来はメルロマルクで活動してきた俺達ですが、他の国に行くのは悪い選択ではありませんな。
ですが、俺にはフィーロたんのごしゅじんさまになるという夢がありますぞ。
おそらく、お義父さんがフィーロたんを購入したのはメルロマルクの魔物商から……ですな。
今日
「槍の勇者様の意見を聞いてからと盾の勇者様も
「あんまり元康くんに頼りすぎるのもどうかと思っていたし……俺を勇者としてしっかり評価してくれる所でなら戦えるんじゃないかと思うんだけど、どうかな?」
「わかりました」
確かにこの国はお義父さんには厳しいでしょう。
ですが、俺はこの国でやらねばならないことが多すぎますぞ。
「じゃあ……」
「お義父さん、名残惜しいですがシルトヴェルトでの活躍を期待してますぞ」
俺の言葉にお義父さんは納得したように
「……そうだね。いつまでも元康くんに甘えていられない。良い機会だから行くよ」
「では盾の勇者様」
「うん。シルトヴェルトへ行く話、受けさせてもらえるかな」
「はい! 槍の勇者様! ありがとうございます」
「なんの、これも一期一会ですぞ。何かあったらいつでも呼んでほしいですぞ。この元康、地の果てまでも駆けつけますぞ」
「クロちゃんはー……」
「グア?」
宿屋の扉の前から室内を
「元康くんと一緒の方がいいよね」
「……グア!」
何度か迷ったように俺とお義父さんを見比べた後、クロちゃんは頷きました。
そして……シルトヴェルトの使者が用意した馬車がやってきて、お義父さんは乗り込みますぞ。
「お金は大丈夫ですかな?」
「問題ありません。盾の勇者様が必要とする資金は私達が提供させていただきます」
使者も丁寧な口調で俺の問いに答えてくれますぞ。
「元康くん、今までありがとう。君もシルトヴェルトの方へ来たら挨拶に来てよ。歓迎するから」
「わかりました。俺も目的を達成したらすぐにでもお義父さんのもとへ
「う、うん。元康くんのお陰で俺、心が壊れそうになったのを助けてもらったんだ。だから……」
走り出す馬車から身を乗り出しつつ手を振ってお義父さんは言いました。
「ありがとうー! 大変な世界だけど、俺、がんばるよー! 必ず恩を返すからねー!」
「また会いましょうぞー!」
俺とクロちゃんは手を振って、お義父さんを送り出しました。
未来の出来事を思うと、お義父さんはこの国で戦い続けるよりは幸せになれるし、良い条件で戦えるでしょうな。
さあ! 俺にはまだ仕事がありますぞ!
フィーロたんのごしゅじんさまになるという使命があるのです。
その日の晩、クロちゃんが喋り出し、天使の姿に変身できるようになりました。
翌日にはフィロリアル様達が卵から孵って徐々に
~試し読みはここまでとなります。続きは書籍版でお楽しみください!~
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