三話 レベリング(2)
「では宿で調理いたしましょう」
「あ、俺にやらせてくれない? これくらいしかできることないからさ」
「ははは、お義父さんの料理は絶品ですからな。楽しみですぞ」
「別に自慢するほど、得意じゃないけど……それも未来の話?」
「ええ、みんなお義父さんの料理が大好きでしたな」
「そうなんだ? じゃあがんばってみるね」
表情や言動は違いますが、やはりお義父さんはお義父さんですな。できることは必ずする方ですぞ。
思えばフィーロたんはお義父さんの料理を非常に好まれておりました。
きっとクロちゃんも気に入ることでしょう。
お義父さんは宿の人から
ただ、未来のお義父さんの方が味は勝っていました。盾の技能や気の習得の影響でしょうな。
「いやぁ絶品でしたぞ」
「お粗末さまでした。調味料とか借りてみたけど、やっぱり異世界なんだね。塩以外はなんか感覚が少し違うや」
「さすがお義父さん、謙虚でありますな。では俺はクロちゃんと共に馬小屋で寝かせてもらいますぞ。お義父さんは厳重に鍵を掛けて部屋で寝るといいですぞ」
「元康くんは馬小屋で寝るの? むしろお金を借りている俺が寝なきゃいけないんじゃ?」
「ははは、クロちゃんを宿の部屋で寝かすことはできませんからな。これはしょうがないのですぞ」
「そう……なんだ? じゃあ貴重なモノは全部元康くんに預けておくよ。寝ている間に盗まれたらイヤだからさ」
と、お義父さんは金と
これは信頼の証。忠義を示す時ですぞ!
「お義父さんに託された品々、命をかけて守る所存です!」
「た、頼むね」
「その代わりに、俺が持ってきた素材を盾に入れておくといいですぞ」
土産に持ってきた素材の数々をお義父さんに手渡し、武器に収めさせました。
まだLvが足りていないでしょうが、後々役には立つはず。
「す、
「それはしょうがありませんな。少しずつ、盾に素材を集めて入れるといいのですぞ」
「例えば?」
「どんなものでも素材にはできますぞ。石でも草でも枝でもなんでも。未来のお義父さんは倒した魔物を解体して骨や肉などにして盾に入れておりました」
そうすることでより多くの武器を解放できるのですぞ。
「解体、ね。そのまま入れるだけじゃなくて、他の素材に加工することもできるんだ。なるほど……システム的に結構細かいんだね。うん、とにかくがんばってみるよ」
「明日にはクロちゃんがお義父さんのボディガードとして戦えると思うので、本格的に活動開始ですぞ」
「うん」
「ピヨ!」
こうして俺達は宿で休むことになりました。
クロちゃんは夜も空腹を訴え、持ち帰った食料をその度に食べていましたな。
そして、そんなクロちゃんの成長音と匂いを嗅ぎながら、フィーロたんに再会する夢を俺は見ました。
「グア!」
「一晩でこんなに大きくなるんだ? 魔物って凄いね」
翌朝、お義父さんが驚いた様子でクロちゃんを見上げております。
クロちゃんは現在、第二形態である通常フィロリアル形態ですぞ。
「それではクロちゃん、お義父さんと一緒に近隣の魔物と戦って経験を積んでくるのですぞ」
「グア!」
「えっと、パーティーってどうやって組むのかな? あ、これか……ということはあの女達、最初から騙すつもりだったのか……」
などと
アレは女ではなく豚ですぞ。
それにしても、お義父さんは時々殺意に満ちた懐かしいお顔をしますぞ。
なんて思っていると俺の視界にクロちゃんを編成させるかの許可申請が飛んできました。
これは魔物紋の機能における主人の了承ですな。
迷うことなく了承し、お義父さんとクロちゃんが編成を完了しますぞ。
「クロちゃん、お義父さんを乗せて戦ってくるのですぞ」
「グア!」
「乗ればいいの? わかったよ」
クロちゃんが腰を落とし、お義父さんがクロちゃんの背に乗りました。
「ではお義父さん、どうかご無事で帰ってくるのですぞ」
「う、うん。何から何までありがとう、元康くん」
「いえいえ、それではいってらっしゃいませですぞ!」
俺がクロちゃんに手を上げると、クロちゃんは元気良くお義父さんを乗せて走り出しました。
「わ! 速い速い──」
あっという間にお義父さんとクロちゃんが走り去りました。
さて……この後、俺は何をしますかな?
素材はある程度
過去に戻る前なら特に困ったことはありませんでしたが、俺には大きな目的がありますぞ。
それはフィーロたんと再会することですな。
しかもあわよくば、俺がフィーロたんのごしゅじんさまになれるかもしれませんぞ。
「よし!」
その日、俺は何をするかを決めました。
金稼ぎですな。
ギルドへ行ってダメだったら手に入れた素材を売って金にしますぞ。
それでも不足なら、盗賊を探して金を巻き上げましょう。
お義父さんがよくやっていたことですぞ。
こうして俺は城下町へ戻り、冒険者ギルドへ足を運びました。
「まことに申し訳ございませんが、槍の勇者様に仕事を
冒険者ギルドの受け付けで言葉が通じる男の職員に話しかけると、そう返されました。
俺は無言で槍を前に向けて力を込め、スパークさせながらお義父さん直伝(自称)の脅しをかけてから、もう一度尋ねますぞ。
「そう言わずに、いい金になる仕事はないですかな?」
「ブー!」
男の職員の後ろにいた豚が何やら鳴き声を上げていますな。
騒がしいですぞ。仕留めますかな?
俺は豚には容赦しませんぞ。家畜風情が調子に乗るなですぞ。
「ど、どんなことがあろうとも、国が許可を、していませんので」
「……それはオルトクレイの命令ですかな? 赤豚……王女も片棒を担いでいるのではないですかな?」
男職員は目を
きっとあのクズ共に脅されているのでしょう。
「この国の女王がこの話を聞いたら……どうしますかな?」
「う……」
俺が詰問していると背後から一通の書状を持った豚が近づいてきて、それを職員に手渡しました。
おそらくですが、影と呼ばれる集団の一人でしょう。
こやつ等を全面的に信じることはできませんが、お義父さんの味方だった存在ですぞ。
おや、また記憶の中のお義父さんが説明してくれるようですぞ。
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