二話 恩返し(2)

 そこでお義父さんと仲が良かった武器屋の店主と出会いましたぞ。

「おい、盾のアンちゃん」

「う……」

 武器屋の店主に睨まれてお義父さんは困った表情を浮かべる。

 とっに俺はお義父さんをかばうように前に立った。

「聞いたぜ、仲間を強姦しようとしたんだってな。一発殴らせろ」

「違いますぞ!」

「ん? アンタ誰だ? その槍を見る限り、槍の勇者様ってやつか?」

「そうですぞ。ですがあなたは一つ勘違いをしております。お義父さんは強姦なぞしておりませぬ!」

「アンタに話はしてねえよ。俺はアンちゃんに話してんだ」

「俺は……やってない」

 お義父さんは視線を外していらったように答えました。

 武器屋の店主はお義父さんをしばらく睨んだ後、ためいきをつくように力を抜きましたぞ。

「そうだなぁ。盾のアンちゃんはいきなりそういう行動に出るようなタイプじゃねえだろ」

「信じてくれるのか!?」

「そりゃあな。どっちかというと彼女の方が怪しい感じがしたぜ。長年接客をしてると自然となんとなくわかるぜ」

「親父さん……」

「それに……犯罪を働いたのにその格好はないだろ? 心当たりがあったら捕まる前に逃げるだろ、普通」

「まあ、そうだよね」

「で? 服とかどうするんだ?」

「お金はここに」

 と、俺が金袋を武器屋の親父に渡しますぞ。

「この金でお義父さんに合う防具を選んでほしいですぞ」

「元康くん。それ、君のお金……」

「ははは」

「笑って誤魔化さないで」

「なんていうか……仲良さそうで何よりだな」

 と、武器屋の店主は機嫌よく店に戻り、お義父さんに合ったよろいを見繕ってくれた。

「くさりかたびらでいいかい? アンちゃんも不幸だったな。サービスしてやるよ」

「いや……いいよ」

 お義父さんはウンザリした口調で、くさりかたびらを拒み、皮製の鎧を着ましたぞ。

 やはり盗まれたものと類似したものを着るのは抵抗があるのかもしれませんな。

「そうかい?」

「元康くん、じゃあこのお金は君に返すね」

 お義父さんは律義に店主さんからおつりをもらうと、俺に手渡しました。

「気にしなくていいんですぞ」

「俺が気になるんだよ」

「で? アンちゃん達はこれからどうするんだ?」

「俺は既に強いですから、お義父さんが強くなるためのお手伝いをしますぞ」

「勇者同士だと反発が起こるんじゃなかったっけ?」

「そうでしたな……ですが、武器の素材は共有可能と前に説明しましたが」

「ああ、そういえば……じゃあ元康くんに素材を集めてもらって、教えてくれた通りの強化方法を試せばある程度は戦えるのかな?」

「とりあえずはそれでいいと思いますぞ」

「うん。じゃあしばらく一緒にいようか」

「はい! お義父さんの命ずるままに」

 俺はお義父さんにこうべを垂れて忠誠を誓いますぞ。

 するとお義父さんは困ったような表情をして数歩下がりました。

「元康くん、ホントやめて!」

「アンちゃん、変な奴と仲良いな……」

「誤解が増えていく……」

 溜息交じりにお義父さんはつぶやきました。

 そんな会話をしていると懐で温めていた器が震えだしましたな。

「む……」

 俺は孵化器を取り出して店のカウンターに置きますぞ。

「ん? 槍の兄ちゃんは魔物の卵を買ったのか?」

「ですぞ。フィロリアル様の卵ですぞ」

「ああ、あの馬車を引く鳥?」

「フィーロたんと同じ神々しい鳥ですぞ」

「へー……元康くんが本当に好きな魔物なんだね」

「はい!」

 震える卵を見ていると、ピシッとヒビが入って卵が孵化した。

「ピイ!」

 元気な声と共にフィロリアル様が顔を出しました。

 ……黒い……フィロリアル様のオスでした。

 既に俺はフィロリアル様の性別鑑定ができるほど、目が肥えているのですぞ。

「ピイ!」

 既に魔物紋の登録は済んでおります。

 人に飼われる魔物には生まれる前から付けられているのですぞ。

 言わば俺とフィロリアル様を結ぶ絆のような紋様なのです。

「うわぁ……可愛いね。元康……くん? なんで残念そうなの?」

「残念ではありませんぞ」

 フィーロたんではありませんでしたか。

 ですが、しょうがありませんな。

 俺はフィロリアル様に指を近づけ、軽く喉をでますぞ。

「ピイイイ……」

「君の名前は……そうですなぁ。クロちゃんがいいですかな」

「色からかな? 安直だなぁ……」

 お義父さんが何やら言っております。

 フィーロたんを見つけるために沢山買うことになるでしょうし、黒いフィロリアル様ですからな。

 この名が一番しっくりくると思います。

 ですが、お義父さんが気に入らないなら別の名前でもいいですな。

「お義父さんが気に入らないなら……ブラックサンダーとでも名付けるのはどうですかな?」

「それはちょっと……それよりはクロちゃんがいいのかもね」

「ピイ!」

 そういうわけでこの子はクロちゃんで決まりました。

 きっと元気な天使に成長することでしょう。

「これで仲間が増えましたぞ」

「ペットじゃないの?」

「フィロリアル様はとても頼りになる仲間ですぞ。いえ、家族ですぞ!」

「……元康くんは色々と凄いね」

「とにかく俺、元康はお義父さんの手伝いとフィロリアル様の育成に励みますぞ」

「まあがんばれよ、アンちゃんと槍のアンちゃん」

「うん。これからがんばろう」

「では出発ですぞー!」

「ピイ!」

 フィロリアル様を手に乗せて俺達は城下町を後にしたのですぞ。

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