一話 槍の勇者のやり直し(6)
そんなやりとりをしている最中にお義父さんがインナー姿で連行されてきました。
なんという
「マイン!」
クズや樹、そして錬がお義父さんを睨む。
「な、なんだよ、その態度」
この光景には苦いものがある……今度こそ、俺は間違えませんぞ。
「本当に身に覚えがないのですか?」
「身に覚えってなんだよ……って、あー!」
お義父さんが
「お前が枕探しだったのか!」
「誰が枕探しですか! 尚文さん。まさかこんな外道だったとは思いもしませんでした!」
「外道? 何のことだ?」
「待て──」
ここで俺が止めなくて誰が止めるのですかな!
そう……俺が赤豚に騙されていたことを理解した後、何度お義父さんを見て思い、願ったかわかりません。その奇跡と呼べるチャンスが舞い込んできたのですぞ。
俺はもう二度とお義父さんに冤罪など被せる気はないですし、助けたい。
絶対にお義父さんの無実を証明してみせますぞ!
「王様、俺は──」
「して、盾の勇者の罪状は?」
ぐ……完全に無視を決め込むつもりですな!
俺の姿がお義父さんに見えないように、兵士が何人も前に立って邪魔をしました。
奴等も理解しているのでしょう、俺がお義父さんを擁護しようとしているのを。
「罪状? 何のことだ?」
「ブブブ……ブブ……ブブブブブブブ」
「は?」
「ブブブブブブブブブブ!」
あの時はすっかり騙されましたが、これが奴の手口。
この醜い赤豚め!
「ブブブブブブブブブブ!」
「え?」
「何言ってんだ? 昨日、飯を食い終わった後は部屋で寝てただけだぞ」
「噓です! じゃあなんでマインさんはこんなに泣いているのですか!」
「なぜお前がマインを庇ってるんだ? というかそのくさりかたびらはどこで手に入れた?」
「お義父さん、俺は──」
「ああ、昨日、みんなで酒を飲んでいるとマインさんが酒場に顔を出したんです。しばらく飲み交わしていると、僕にプレゼントってこのくさりかたびらをくれました」
最初から、俺に喋らせるつもりはないようですな。
そっちがその気ならこっちだって手がありますぞ。
いい加減、ウンザリしていたのですぞ。思えば俺はこんな慎重に動くタイプではないですな。
「そうだ! 王様! 俺、枕探しに全財産と盾以外の装備品を全部盗まれてしまいました! どうか犯人を捕まえてください」
「黙れ外道!」
クズめ……最初から決まっていた計略を……殺しますかな?
いや、それをするとお義父さんの立場が危ないですぞ。
今のお義父さんはLvが低い。間違っても死なせるわけにはいきませんな。
「嫌がる我が国民に性行為を強要するとは許されざる蛮行、勇者でなければ即刻処刑ものだ!」
「だから誤解だって言ってるじゃないですか! 俺はやってない!」
ああ、お義父さんの敬語口調……まだクズやこの世界を信じているのですな。
そして……お義父さんの表情が怒りに染まりだしました。
ダメですぞ、お義父さん!
お義父さんは……お義父さんこそ、この……フィーロたんの生まれる素晴らしい世界を愛してほしいのですぞ。
フィーロたんのお陰で優しい顔になり、俺やみんなのためにがんばってくださっていますが、それでも人を信じるのが難しいというような悩みを抱いていたのを知っております。
常に疑心暗鬼と戦い、警戒し続けるお義父さんの姿は時に痛々しくもありました。
あんなお義父さんには絶対にさせたくないですぞ。
世界は冷酷で残酷かもしれませんが、お義父さんの周りだけでも優しい世界にしたいのですぞ。
俺に与えられた二度目のチャンスを絶対に逃しはしません。
「お前! 支度金と装備が目当てであらぬ罪を擦りつけたんだな!」
この状況把握の早さこそ、お義父さんの長所ですぞ。あの時俺が……少しでもお義父さんの持つこの長所を持っていれば、お義父さんを糾弾する前に止められたのではないですかな?
「はっ! 性犯罪者が何を言っているんですか」
「異世界に来てまで仲間にそんなことをするなんてクズだな」
錬がお義父さんを冷酷に断罪しました。
「ふざけんじゃねえ! どうせ最初から俺の金が目当てだったんだろ、仲間に装備を行き渡らせるために仕組んだんだ!」
俺には喋らせまいと兵士がまだ遮っています。
ですが、その程度で邪魔できると思わないことですな!
「邪魔ですぞ! ブリューナク!」
槍の穂先に発生したエネルギー光を、俺を妨げている兵士共に向けますぞ。
もちろん死なない程度に威力を加減して薙ぎ払うように放ちました。
「「ぐはあああああああああああああ!」」
吹き飛んだ兵士共を見てその場にいた全員が絶句し、辺りが静まり返りましたな。
その
「……え?」
「俺はお義父さんを信じていますぞ。お義父さんはやっていません。これは陰謀なのですぞ」
現状を
「鬼のいぬ間に随分なことをしでかすつもりのようですが、盾の勇者に被害を与えようものなら、槍の勇者であるこの俺が許しませんぞ。それは愛に反しますからな」
俺はお義父さんを拘束している兵士に槍を向けて脅しますぞ。
「お義父さん……盾の勇者を放すのですぞ。邪魔をするなら誰であろうと容赦はしませんぞ!」
ぼんやりとしていた頭の部分が、成し遂げたい光景に覚醒していくような感覚を覚えました。
次に樹と錬を睨みつけ。
「それはお前等とて変わりませんな。今のお前等では俺には勝てませんぞ」
そして自由になったお義父さんに手を差し出して告げますぞ。
これは俺の……真実を理解した時から永遠に続くと思われた後悔を清算できるまたとない機会。
もう二度とこの選択を間違えるつもりはありませんぞ!
俺は異世界に勇者として召喚され、今度こそ天使のような女の子達を信じようと、信じ抜いて信頼を得ようと決めておりました。
そのために俺なりにがんばっていました。
みんなのLvを上げる手伝いをしたり、料理を振る舞ったり、波に果敢に挑んで勝利したり、みんなが喜ぶと思って欲しがっているアクセサリーを購入したり、色々と献身的にやってきたのですぞ。
ですが、その決意も……間違っていたのですぞ。
俺がどんなに献身的に尽くしても奴等の正体は豚……
挙句思った通りの返事をしなかったり、気が利かなければへそを曲げ、暴力で事を解決しようとしたりします。
それは天使ではありません。
天使は慈悲深く、それでありながら道を踏み外しそうになった時に手助けをする存在なのです。
自分のことしか考えない豚は天使ではありません。豚を信じても何にもなりませんぞ。
天使のようなフィーロたん、そして神のように慈悲深いお義父さんのような方々を俺は信じなければいけなかったのです。
フィーロたんは豚を天使と誤信していた愚かな俺を見つけると必ず近寄ってきて、注意を促す蹴りを加えて走り去っていったのです。
当初、俺はフィーロたんのその慈悲を理解せず、警戒心を抱いておりました。
会うなり蹴り飛ばす凶暴な鳥の魔物と、殺意まで抱いていたのですぞ。
ですが天使の御姿だけでなく、その純粋な性格……全てが俺にとって天使を体現した存在であると気付くのに長い時間を要したのは苦い記憶ですな。
赤豚に裏切られていたことを理解し、落ち込んでいた俺を励ましてくれました。それまでの態度が俺に対して愛の
ただ俺を傷付けたいだけでしたら、あのようなことはしてくださいません。
そう……本物の天使は近くにいたのですな。
まさにフィーロたんは、青くはありませんが幸せの青い鳥だったのですぞ。
愚かな俺が更に道を踏み外さないように引き止めてくれたフィーロたんとお義父さんは、何があっても守り抜きますぞ!
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