一話 槍の勇者のやり直し(3)

 来客室で俺以外のみんなが武器をマジマジと見つめながらステータスの説明に目を向けていますな。

 こんな期待に胸を躍らせているみんなが、あんな地獄を見る羽目になるなんて数奇な運命ですな。

 お義父さんなんて割とすぐですぞ。

「なあ、これってゲームみたいだな」

「確かにゲームっぽいけど、ちょっと違うので──」

「この世界はコンシューマーゲームの世界ですよ」

「違うだろ。VRMMOだ」

「え? VRMMOってヴァーチャルリアリティMMO? そんなの未来の話じゃないのか?」

「はぁ!? 何言ってんだお前」

「待った待ったですぞ」

 俺はみんなの議論を遮りました。

 結論は出ていたはずですぞ。

「錬と樹、そして尚文くん。よく聞くのですぞ」

「な、なんだ?」

「ここにいる者達は、みんなバラバラの世界から来たのですぞ。同じ日本でも、全然違うんですぞ。それを覚えておいてほしいですぞ」

「そ、そうなのか?」

「そう、確か樹の世界は……」

 おや? 何か特徴があったはずなのですが、思い出せませんな。

「僕の世界が……なんです?」

「忘れましたな」

「というか、さっきから妙に詳しいですけどなんなんですか?」

「だから言ったはずですぞ? 俺は未来から来たと」

「あーはいはい」

 錬に流されました。貴重な情報を無視するとは何様のつもりですかな?

「とはいえ、この自称未来人の言葉も一理ある。情報を整理してみよう」

 お義父さん達は俺の話を無視して勝手にまとめ出してしまいました。

 むー……信じてくれないのですかな? これはむなしいですぞ。

 異世界転移をしたばかりなんだから、そういう超常現象を信じてくれてもいいのに。

 でもお義父さんには教えておきますぞ。

「何も知らない尚文くんには徹夜で教えますぞ」

「あ、ありがとう……親切だな、北村くんは」

「どうもどうも、元康と呼び捨てで呼んでください。その代わりに尚文くんのことをお義父さんと呼ばせてもらいますぞ」

「頼むからやめて!」

 すごく嫌そうに拒まれてしまいました。

 おや、この反応は失敗ですな。

「勇者の武器はお互いを信用することでも力になります。俺や錬、樹の強化方法を知ることで強くなれるんですぞ。錬や樹は盾が弱い職業って言うかもしれないけど、大丈夫、すごく強いのですぞ。同じくらいのスペックを持っているのですな」

 あの時は、みんな心がバラバラだったからお義父さんに負担を掛けてしまったけど、今ならやり直せるはずですぞ。

「錬も樹も聞いてほしいですぞ。俺の知る知識と皆の知識は違うかもしれません。ですが、信じることでその強化方法が出るのですぞ」

「はぁ。わかりました」

「……ふん」

 反応が薄いですぞ。

 信じてくれてないようですな……どうやったら信じてくれますかな?

「一応、俺は聞いておくかな」

 さすがはお義父さん。なんだかんだで強さに貪欲ですぞ。

 と、説明を始めようとしたところで。

「勇者様、お食事の用意ができました」

 食事の案内が来ました。

「では食後に説明しますね」

「ありがとう」

 こうして俺はお義父さんに徹夜でこの武器の強化方法を教えたのでした。

 具体的には記憶の中のお義父さんのお言葉を真似しましたぞ!

 この言葉を信用し、忠実に守ることで効果が発揮されるようになるのですからな。



 記憶の中のお義父さんは説明が終わるともやのように消えていきました。

 お義父さんにゆっくりと強化方法を教えていたら、こっくりと眠り始めてしまいました。

 俺は就寝した錬や樹を見てからお義父さんをベッドに寝かせ、夜の散策に出かけました。

 俺の記憶と外の景色が若干違いますな……。

 城下町の先にある草原に霊亀の山がありません。



 ほおをつねって夢ではないことを確認しますぞ。

 一体、何が起こっているのですかな?

 もしかしたら本当に……時間遡行をしてしまったのですかな?

 ならば……と、俺は何をすればいいのかを考えますぞ。

 答えは当然、フィーロたん。フィーロたんは俺に世界を平和にしてほしいと願っておりました。



 そんなフィーロたんの願いを叶えるのが、この俺、北村元康ですぞ。

 フィーロたんにまたいたいですな。

 待てよ……今はお義父さんがフィーロたんと出会う前……上手くすれば俺はフィーロたんともっと仲良くなれるのではないですかな?

 ぜんやる気が出てきますぞ!

 そう思いながら庭を歩いていると、フィロリアル様の匂いが漂ってきましたな!

 俺は匂いの方へ近づきますぞ。するとフィロリアル様のいらっしゃる舎を発見しました。

「グア」

「グア」

 夜も更けているので、フィロリアル様達は寝入っているようですぞ。

 ああ、あの匂い。辛抱たまりませんな。

 そういえばこの世界に来て半日以上フィロリアル様の匂いを嗅いでいませんぞ。

 禁断症状が出そうですぞ。

「こんばんはーですぞ」

「グア!?」

 フィロリアル舎に入って挨拶すると、フィロリアル様達が驚いて起きてしまいました。

 そしてなんか警戒気味にこっちを見てきます。

 恥ずかしいですな。

「け、警戒しないでほしいですぞ、フィロリアル様」

「グア?」

 クエって鳴いてない……フィーロたんが恋しいですぞ。

 でもフィロリアル様には違いありません! これはぜひ、フィロリアル様分を補給するべきですぞ。

「ささ、お食事を献上いたしますぞ」

 俺は近くの倉庫から干し肉を失敬し、フィロリアル様達に献上しました。

 献上品に興味津々のフィロリアル様達は我先にと干し肉をむさぼり始めたのですぞ。

「その代わりと致しまして皆様方をモフモフさせていただいてよろしいですかな?」

 フィロリアル様達は機嫌が良くなっているご様子。

「「「グア!」」」

「ありがたき幸せですぞ」

 俺はフィロリアル様達に触れ、その羽毛にくしを存分に通しながら香りを嗅ぎますぞ。

 そして……気がついた時にはフィロリアル様達と一緒に眠っていたのですぞ。


「なんか北村くんが臭くない?」

 翌朝、良い目覚めをした俺はみんなと合流しましたぞ。

「臭いとは失礼な、フィロリアル様の高貴な香りですぞ」

「フィロリアル?」

「フィロリアル様はフィロリアル様ですぞ」

「説明になってねえよ」

「馬車を引く鳥型の魔物でございますよ」

 案内の大臣が補足する。

「あー……あれね」

 お義父さんが理解したのかうなずきました。

 それからしばらく待つと、呼び出されましたな。

「勇者様のご来場」

 俺達が玉座の間に着くと、豚と男達が待っていました。

 全部で一二人。

 一応、俺達はクズに頭を下げる形になりました。

 クズに下げるのは不服ですな。

 だけど錬や樹、そしてお義父さんが下げているのだから合わせるしかないですぞ。

「前日の件で勇者の同行者として共に進もうという者を募った。どうやら皆の者も、同行したい勇者がおるようじゃ」

 確か前の俺は、女の子が俺のところに来てくれないかなって考えていたのでしたな。

 今、ここに女はいませんな。豚ですぞ。むしろお義父さんが心配ですな。

 ひとりぼっちにさせるわけにはいきませんぞ。

「さあ、未来の英雄達よ。仕えたい勇者と共に旅立つのだ」

 錬と樹、そしてお義父さんが驚いている。

 ああ、そういえば選ばれるのはこっちでしたな。

 仲間になりたい者がそれぞれの勇者の元へと集まってきました。


 錬、四人。

 樹、三人。

 俺、三人。

 お義父さん、二人。


「俺のところが一人少ないんだけど……」

 お義父さんが不満を漏らしました。

 前はゼロだったのですから、大分改善されていると思いますぞ。俺の手柄ですな!

「錬、一人分けるのですぞ」

 そう言うと、錬の仲間? はなんか錬を盾にして隠れますぞ。

 俺なんて豚ばかり集まっており、気持ち悪くて吐きそうですぞ。

「ブブー!」

「ブブブブブブー!」

 何言ってるか全然わかりませんな。人の言葉を喋れですぞ。

 うえ……お義父さんのところも豚が二匹。豚が多くて困りますな。

 クズも豚をあっせんするとは何を考えているのですかな?

「尚文くん、俺のでよかったら三匹あげますかな?」

「本当か!? でも北村くん、それだといなくなるんじゃ……というか匹?」

 さすがはつつましいフィーロたんのお義父さん!

 俺のことまで考えてくれるなんて……この元康、感激ですぞ。

 しかし、記憶の中のお義父さんは俺に背筋がゾクッとするような眼差しを向けていました。

 今も俺の記憶の中で『ゴミを人に押し付けるな』と注意しております。

 あの眼差しもいいですが、今の優しげな瞳も素敵ですぞ。

「勇者殿、勝手に仲間の交換はやめていただきたい」

「むー……」

 豚と一緒に冒険なんて勘弁してほしいですな。

「それでは支度金である。勇者達よ、しっかりと受け取るのだ」

 俺達の前に四つの金袋が配られますぞ。

 ジャラジャラと重そうな音が聞こえます。

 確か六〇〇枚の銀貨でしたな。

 お義父さんと一緒にいる赤い豚が気になります。

 見分けを付けるのが難しいですが、おそらくアレは俺達の宿敵である赤豚ですぞ。

 なるほど、俺が目を光らせているから最初からお義父さんのところに紛れこんだのですな。

「勇者にはそれぞれ六〇〇枚の銀貨を与える。それで装備を整えて旅立つがよい!」

「「「「は!」」」」

 ブヒィって声が聞こえましたぞ! こんな連中と世界を救えとは笑止千万ですな。


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