一話 槍の勇者のやり直し(2)

「二〇歳?」

「いや、二一歳ですぞ」

 俺は胸を張ってありのままの真実をお義父さんに話しますぞ。

「ですぞ? えっと、職業は?」

「愛の狩人ですぞ」

「は?」

 フィーロたんのハートを手に入れるために戦う俺は、既に槍の勇者なんてつまらない称号は捨てているのですぞ。

 フォーエバーラブハンター!

「無職ですよ、きっと」

 樹が補足しましたな。

 まあ、どうとでも言ってくれですぞ。

 俺の愛によるフィーロたんとの日々は、職業では縛れません。

「ふむ……レンにモトヤスにイツキか」

「お義父さんの名前を忘れるなぁああああああああああああ!」

「ぬ!?」

 よりによってお義父さんの名前を忘れるとは! そういえば確かこのクズは赤豚の親だったな!

 成敗してくれる。

「お義父さん!?」

 しまった、ですぞ。

 この状況でこんなことを言ったら怪しまれてしまいますぞ。

 人間第一印象は大事。なるべく俺に良いイメージを持ってもらわないと、お義父さんがフィーロたんを嫁にくれませんな。

「ああ、悪い。俺の大事な人のお義父さんにそっくりでつい」

「へ、へぇ……俺ってそんな老けて見えるんだ?」

「いえいえ、見た目がほとんど同じなんで若いですぞ」

「お前の好きな子いくつなの!?」

「確か……」

 いくつでしたかな? フィーロたんの年齢……とりあえず真実を説明しますぞ。

「まだ生まれていませんぞ」

「……お前、なんかすごいね」

「そうですか? お義父さん」

「その呼び方で呼ぶの? できればやめてくれない?」

「勇者様達、私語は程々にお願いします」

 あんまり目立たない大臣が俺達に注意していますぞ。

「じゃあ本題に戻しますぞ。お義父さんの──」

「えっと北村くん。お義父さんって呼ぶのやめて」

「わかりましたぞ。なおふみくんの名前を意図的に呼び忘れたのを訂正してもらいたいですな」

「「意図的?」」

「ああ、このクズは盾の勇者を陥れようと数々の策略を考えて──」

「わあああああ! すまなかった。ワシが悪かったから、槍の勇者よ。どうか怒りを鎮めてくれ」

 ふむ……どうやらクズも反省しているようですな。

 まだ四聖勇者の威光は効果が高いですぞ。

「王様にクズって、お前、何様だよ」

 錬が警戒気味に俺に尋ねました。

 ん? 何かおかしいことを言いましたかな?

 コイツの名前はクズのはずですぞ?

 先ほどの名乗りはすっかり忘れました。無意味ですからな。

「俺は愛の狩人ですぞ」

「……」

 なんか錬の目が冷たくなった気がしますぞ。何かおかしいこと言いましたかな?

「うむ……余計な脱線をしたが、皆の者、己のステータスを確認し、自らを客観視してもらいたい」

「へ?」

 何を今更……俺は自分のステータスを確認しましたぞ。

 覚えているよりも強い状態ですな。

 つまり……強くてニューゲームですぞ!

 これは余裕すぎますな。最初の波なんて雑魚すぎてやることないですぞ。

「えっと、どのようにして見るのでしょうか?」

「何だお前等、この世界に来て真っ先に気が付かなかったのか?」

 錬が情報通っていうような顔で、ありきたりな説明を始めようとしていますな。

 よし、ここはお義父さんに良いところを見せるチャンス!

「な──」

「なんとなく視界の端にアイコンがないですかな? それに意識を集中するようにしてほしいですぞ」

「え?」

 錬が俺に先を越されてあっに取られてますぞ。間抜け面ですな。

「Lv1ですか……これは不安ですね」

「というかなんだコレ」

「勇者殿の世界には存在しないので? これはステータス魔法というこの世界の者なら誰でも使えるものですぞ」

 この台詞は俺ではありません。

 大臣め、俺の真似をするなですぞ。

「そうなのか?」

 お義父さんにもこんな時期があったのでしたな。

 俺の知るお義父さんって目付きは悪いし口も悪いし、怒りっぽかったのですが、このお義父さんは話が通じそうでいいですぞ。

 おや? 俺の記憶の中のお義父さんが冷たい目で、『話が通じないのはお前だ』と言っております。

 HAHAHA! ご冗談を! この元康、物分かりのいい男ですぞ。

「それで、俺達はどうすればいいんだ? 確かにこの値は不安だな」

「ふむ、勇者様方にはこれから冒険の旅に出て、自らを磨き、伝説の武器を強化していただきたいのです」

「強化? この持ってる武器は最初から強いんじゃないのか?」

「はい。伝承によりますと召喚された勇者様が自らの所持する伝説の武器を育て、強くしていくそうです」

 俺が黙っていると、困ったように考え込んでいたお義父さんが口を開きましたな。

「伝説の武器っていっても俺は盾だ。剣でも使った方がいいんじゃないか?」

 ああ、お義父さんは知らないのですな。

「そうはいかないみたいですぞ。この伝説の武器を持っていると、別の武器は装備できないのですぞ」

「げ!? そうなのか?」

「そう、だから……尚文くんは仲間に頼るといいですぞ」

「となると俺達四人でパーティーを結成するのか?」

「それもダメですな」

「え?」

「勇者の武器同士は反発して経験値が入らなくなるのですぞ。武器の成長に使う素材の共有はできますがな」

「お待ちくださ──」

「ん?」

 俺に遮られて、大臣が黙りました。どうしたのですかな?

「妙に詳しいですね、元康さん」

 樹がげんな目で俺を見る。

「ああ、俺は未来から来たのですぞ」

「……そうですか」

 なんかあっさり信じてくれました。

 この頃はみんな優しいですな! やはり固定観念に囚われないうちに説明するのが一番ですぞ。

「で、話の続きはなんですか?」

 なんと樹は大臣に話を促したのですぞ。俺の話を聞いていたのですかな?

 樹のくせに信じてくれなかったみたいですぞ。

「一応、槍の勇者様の言葉はある程度正解です。勇者同士では成長を阻害してしまうそうです」

 お義父さんがシステムを閲覧しているみたいですぞ。ヘルプを見ているのですかな?

 さすがはお義父さんですな。

「本当みたいだな……となると仲間を募集した方がいいのかな?」

「ワシが仲間を用意しておくとしよう。なにぶん、日も傾いておる。勇者殿、今日はゆっくりと休み、明日旅立つのがいいであろう。明日までに仲間になりそうな逸材を集めておく」

 む……たくらみが見えますぞ。絶対に注意しないといけないですぞ。

「ありがとうございます」

「サンキュ」

「盾の勇者にも他の勇者と同様の権利を──」

「わかっておる! 集める! 絶対に仲間になる者を集めるから!」

 黙れとクズが身のほど知らずにも俺に注意してきますぞ。

 まあ、大丈夫ですかな?


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