一話 槍の勇者のやり直し(1)
それから、長い時が流れた。
俺の名前は
何があったんだと言われるような気がしますが、気にしませんぞ!
フィーロたんとフィロリアルを守ることを誓った、世界を救う槍の勇者なのですぞ!
だが──。
「ぐはああああ!?」
俺は尋常ではない強さを持った敵の手にかかり、倒されてしまったのですぞ。
相手の顔を見ようと思いましたが、それも
ああ……死ぬのはこれで二回目ですが、何度だって良いものじゃないですな。
この世界に来たのも、思えば豚に刺されたからでした。
あの時の俺は……そう、好きな女の子が二人いて、だけどどっちつかずな態度で悩み続けていたのですぞ。
そんな俺の態度が気に食わないのか、好きだった女の一人が陰湿ないじめをもう一人の女にして、それを救ったら助けられた女が俺を独占したがって……結局自分勝手な女二人が一緒に刃物を持って無理心中をしようとしてきたのですぞ。
どっちが先に俺を刺したのでしたかな?
忘れましたな。
女? 間違えました。アレは豚ですぞ。
あんな豚、もう顔も思い出せないですぞ。思い出の中でもブヒブヒとしか
そんなことよりフィーロたん!
あの天使は素晴らしい!
知っているゲームの世界に来て、今度こそ豚との関係はあっさりしたものにして、ハーレムを作ろうとしていた甘い俺に、鉄拳制裁を加えて矯正しようとしてくれたのですぞ。
豚を連れて歩いている俺をいつも爆走しながら
ヴィッチにして赤豚……俺を召喚した国の元王女がお
あの後も色々とありました。
騙されているとも知らず、
そして……自分がピエロだったことを知ってひどく落ち込みました。そんな俺をフィーロたんは励ましてくれたのですぞ! 元気を出せと!
あの時の顔は今でも忘れませんぞ。
結局、ゲームの知識も、豚共と仲良くする経験もあんまり役に立ちませんでしたが、フィーロたんに出会えたことで俺はまさしく生まれ変わったのですぞ!
俺はフィーロたんとフィロリアル様のために世界を救いたいと思って戦いました。
それで終わるのなら……たとえどんな結果になったとしても本望ですぞ。
なんていうのは……うん、少しだけ
もっとフィーロたんの笑顔が見たい。
フィロリアル様と一緒にいたい。
お義父さんのお役に立ちたい。
死にたくなんかないですぞおおおおぉぉぉぉぉ!
どうせならフィーロたんと結婚してからがいいですぞおおおおぉぉぉぉぉぉ!
なんて思っていると視界が暗くなってきました。
「おお……」
次に気が付いた時、視線を前に向けるとローブを着た男達が何やらこちらを見て
「なんだ?」
「あれ?」
誰の声だったか……多分、
夢ですかな?
周囲を眺めるとお義父さんと錬、
下にはこの世界の魔法陣。
それも比較的大きい規模のものですな。
レンガのような壁も祭壇も全て身覚えがありますぞ。
これは……俺が初めてこの世界に召喚された時に見た光景と寸分違わない状況ですな。
しかも、今まさに召喚されたかのような状況ですぞ。
「ここは?」
錬が城の魔法使いに向かって話しかけていますな。
これは懐かしいあの日の思い出……異世界に来た始まりの日ですぞ。
「おお、勇者様方! どうかこの世界をお救いください!」
「「「はい?」」」
お義父さんと錬と樹が一緒になって言いました。
そうそう、俺も一緒に、同じことを言ったのでしたな……妙にリアリティのある走馬灯ですぞ。
で、手に持ってる槍はなんですかな?
龍刻の長針 0/300 LR
能力解放済み……装備ボーナス、能力『時間
専用効果 分岐する世界
試しにウェポンブックを開いて確認してみますぞ。
そもそもこの槍の装備ボーナス、時間遡行とは何でしょうか?
ゲームの知識とか、さすがに俺も役に立たないと学んだし……あれ? 学んだっけ? よく思い出せません。
えっと……確かフィーロたんに励まされたところまでは思い出せるのですが、その先がまるで
飛び飛びな記憶で少々気色悪いです。
でも俺には絶対に忘れないことがありますぞ。
フィーロたんとフィロリアル様達を愛しているというこの
夢なのか、それとも幸運で得た能力によって過去に
「こっちの意思をどれだけ
「話によっては僕達が世界の敵に回るかもしれませんよ、覚悟しておいてください」
確か前回召喚された時に俺が言った言葉を錬と樹が二人して述べてますな。
お義父さんはなんか負けたような顔をしていらっしゃいます。
「ま、まずは王様に
城の魔法使いの代表が扉を開けさせて案内しようとしていますな。
「……しょうがないな」
「ですね」
「さ、行きましょう」
俺はお義父さんに手を差し出しますぞ。
「あ、ああ」
なんかお義父さんの顔が俺の知る顔よりも明るいというか、子供っぽく見えますぞ。
今なら娘さんをくださいって言ったらくれますかな?
……待て、ですぞ。
もし本当に過去に来られたのなら、お義父さんはまだフィーロたんを育ててないのではありませんかな!?
なんて考えていると玉座の間に通されましたぞ。
あ、クズがいますぞ。
文字通り人間のクズですな。玉座にふんぞり返っております。
「ほう、こやつ等が
なんかじろじろと俺達を見ていて背筋に寒気が走りますぞ。
とんでもない老害な奴ですぞ。
こやつにお義父さんがどれだけ苦しめられたか……。
「ワシがこの国の王、オルトクレイ=メルロマルク三二世だ。勇者達よ顔を上げい」
ああ、そういえばそんな名前でしたな。すっかり忘れてましたぞ。
この時の俺は何を考えていたんでしたかな?
確か異世界トリップでヤッホー! とか考えていて、システム知って更にテンション上げていた覚えがありますな。
で、波の説明をされたのでしたな。
実は波は……あれ? 思い出せません。
おかしいですぞ。何かとても大事な問題だったような覚えがありますぞ。
時間遡行の副作用ですかな?
多分、間違いないですぞ。
それにフィーロたんとデートした思い出が所々消えていますぞ!?
おおう……この元康、一生の不覚ですぞ。
「確かに、助ける義理もないよな。タダ働きした挙句、平和になったら『さようなら』なんてされたらたまったもんじゃない。というか帰れる手段があるのか聞きたい。その辺りどうなの?」
「ぐぬ……」
と、お義父さんの声で我に返りますぞ。
考え事をしていて話を聞いていませんでした。
今はそれどころではありませんが、覚えていることだから大丈夫なはず。
それよりも墓まで持っていくはずだったフィーロたんの思い出が消えてしまっていることが深刻ですぞ。どうすれば思い出せますかな?
……よくよく考えれば思い出すよりも新たな思い出を作ればいいのですぞ!
失われた思い出よりも華やかになるはずの新たな思い出を俺は夢見ますぞ!
「おい……」
こつんとお義父さんが肘で俺を小突いてきました。
「え? 何ですかな?」
「いや、自己紹介」
「ああ俺の名前は北村元康、年齢は二〇……」
何歳でしたかな?
いや、今は肉体的にも二一歳のはずですぞ。
ですがどれだけの年月を戦っていたかあやふやなのですぞ。
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