【書籍試し読み増量版】槍の勇者のやり直し 1/アネコユサギ
MFブックス
プロローグ 異世界に行くまで
「
「え……えっとー……あ、携帯が鳴ってる。ちょっと行ってくる!」
俺のことが好きだと言った
「あ、元康さん!」
だって俺にとって君と彼女はどっちも同じくらい好きな子なのは確かだったから……まだ決めかねていたんだ。
紅葉さんとは今夜、家で話をすることになっている。
俺は……同級生で隣の席の郁世のことを嫌いになりきれない。
話によると俺の知らないところで紅葉さんは複数人からいじめに遭っていたらしい。
その首謀者の一人が郁世だと言われている。
実際に、紅葉さんのことを郁世がいじめていたのは事実だ。
ただ、郁世の知らないところで周りが勝手に察して行動し、陰湿ないじめに発展してしまっただけだ。
全てタイミングが悪かっただけなんだ。
でも、女の子と話をしたり遊びに行ったりするのだって、みんな当然のようにすることのはずだろ?
みんな仲良くしてほしい。いじめなんてみっともない。
だから俺は、いじめに正面から向き合って解決させたつもりだった。
周りも間違いを認めて、紅葉さんに謝ってこの問題は解決したはずだったんだ。
なのになんでこんな事態になってしまったんだろう?
俺は……友達の郁世と箱入りお嬢様の紅葉さんのどっちと付き合えばいい?
●同級生の郁世
●お嬢様の紅葉 ←
でも郁世とも一緒にいたい。
大学三年の俺は今まで色々な女の子と付き合ってきたけれど、その中でもっとも難しい恋愛をしている自覚がある。
中学生の時も高校生の時も女の子と仲良くしていることが当たり前だった。
当然、女の子同士がここまで
みんな仲良しだった。
互いが互いを尊重できていた。
そうして、大学生になった際に心機一転して上京し、新しい生活……恋愛を始めた。
新しい経験をしたいという俺を温かく送り出してくれた高校までの彼女達が懐かしい……。
俺にネットゲームを教えてくれたのも女の子だったな……あの子よりも深くはまっちゃったし。
それ以外に……『魔界大地』というゲームにもどっぷりと
このゲームに登場する天使の女の子がすごく好きだ。
天使だなんて非現実的な存在だけど、俺の好みはまさに天使だった。
女の子は等しく天使だよね。
懐かしいな……あの頃の恋愛に比べて今はなんでこんなに大変なんだろうか。
ああ……こんな日は、夢中になっているネットゲームを一日中やってストレスを解消したい。
「楽しくみんなでいたいと思うのはわがままなのか……?」
友達の郁世の悪いところは、強引すぎるところ。
押し掛け女房的に俺の家に来ては掃除をしてくれる……けど物を勝手に捨てられてしまう。
で、郁世の部屋に行った時、捨てたと言っていた物が見つかったことがあった。
聞いてみたら、もったいないから持っていったとか言っていた。
逆にお嬢様の紅葉さんは、偶然にしては高頻度で行く先々に現れる。
こう……つけられている気配があるんだ。
気の
郁世も紅葉さんも、そんなことをする子じゃない!
「おっと、遅れる!」
俺は走って約束の場所へと向かった。
俺は、その日の授業を終えた後、この前ナンパした女の子とデートをしてから家路についた。
そして……一人暮らしのアパートの部屋の前に来ると、中から
「どうして元康の家にアンタがいるのよ!」
「それはこっちの台詞です! 郁世さん!」
ガチャンとモノの壊れる音が聞こえる。
俺は急いで部屋の扉を開ける。
するとそこでは二人が、取っ組み合いの
戸締まりはしっかりとしていたはずなのにどうして?
「紅葉は金持ちなんだから元康じゃなくても男なんて一杯いるでしょ! 諦めてよ!」
「私が好きなのは元康さんだけです! 私の王子様は元康さんなんです!
「勝手に決め付けるんじゃないわよ!」
「二人ともやめるんだ!」
俺が間に入って二人を引き離す。
「元康さん!?」
「元康!」
やっと俺がいることに気付いた二人は冷静になったみたいだ。
「郁世さんに元康さんも言ってください! 元康さんと付き合っているのは私だって」
「違うわよ! 元康と付き合っているのは私よ!」
ああもう! どうしてこの二人は喧嘩ばかりなんだ!
これじゃ、女の子を集めた合同デートにだって連れていけない!
とても自己主張が激しくて手に負えない!
「この際だから言っておく。俺はまだ誰か一人とだけ付き合うなんてできない。そんなことを考えたくないんだ」
「そんな……」
紅葉さんが言葉を失って数歩下がる。
カッとしたように目を見開いた郁世がその
「何をするつもりだ? やめるんだ!」
「元康が悪い! 私をこんなにしたのが悪いのよ! だから──」
そして紅葉さんに向かってダッと走り出す。
俺は郁世から包丁を奪おうと構え──。
脇腹に何かが突き刺さる感覚があった。
「え……」
振り返ると紅葉さんが俺にナイフを突き立てていた。
鋭い痛みと共に、信じられないくらい赤い液体が俺の脇腹から
「あは……どうせさっきまで女の子とデートしてたんですよね。郁世さんや他の人に取られるくらいなら私が殺して私も死にます。天国で一緒になりましょう。アハハハハハハハ!」
壊れた人形のように笑って、ズリュッとナイフを抜いた紅葉さん。
ぐっ……傷口が熱くて、徐々に力が抜けていくのを感じる。
「郁世、助け──」
俺は
すると郁世は
ドスッと俺の胸に包丁を突き立てた。
「──」
俺は声にならない叫びを上げる。
ガクガクと震え、血がドバドバと溢れ出す。
体の奥底から熱が逃げていき、熱いのにどんどん冷たくなっていくのがわかる。
い、痛い……た、助け……!
「元康と天国で一緒になるのは私よ! アンタはそこで勝手に死んで地獄に行くといいわ!」
「貴女こそ地獄に行くんです!」
「そう? 元康を殺したのは私よ?」
「まだ生きてます! 元康さん、待っていてくださいね。今、楽にしてあげますからね」
と紅葉さんは俺の喉に向けてナイフを──。
「邪魔はさせないわ! 元康と結ばれるのは私なのよ!」
「私に勝てると思っているんですか!?」
二人は刃物を手にして戦いを続行した。
俺は震える手を胸に当て、
俺は──死ぬのか?
なんで……なんでこんなことになるんだよ。
俺は……みんなで仲良く楽しくやっていきたかっただけなのに!
今まで付き合った女の子達はなんだかんだ言っても俺にどこまでも付いてきてくれた。
みんな仲良く、友達として楽しく学生生活を
だけど……どうして、こうなってしまった?
俺は何を間違ったんだ?
今までとの違い……そうだ。
俺の知る郁世は……こんなことしない。
紅葉さんも、もっと優しい人なんだ。
二人が思う、俺への愛を俺が信じてあげられなかったんだ。
だからちゃんと言ってあげればよかったんだ。
俺にはいっぱい、女の子の友達がいる。
みんな俺を信じてくれるし、信じてる。
だから君達も俺を信じて楽しく生きていこうって。
失敗した。失敗したんだ。
……もしも、もしも次があるんだったら、信じよう。
女の子は等しく天使なんだから、信頼を得られなかった俺が悪いんだ。
これは……俺がやり込んだオンラインゲームにそっくりな異世界に召喚される直前の出来事……。
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