第3章 花嫁修業の片手間で(1)
ルードランとマティマナは正式な婚約者となったが、困難が山ほどあることは自覚している。
まずは、ライセル家に降りかかっている呪いの品による混乱だ。
それと、ライセル家に嫁ぐならそれなりの魔法を使えないと務まらない、などと陰口としてだが断言されている点。
選んでくれたルードランに恥をかかせるわけにはいかない。
マティマナとしては、雑用魔法のなかに、なにか良い魔法が隠れていないかなぁ? と、考えていた。
ルードランは、マティマナの雑用魔法に対し、とても好意的だ。面白がってくれている。
「きっとマティマナの魔法は、ライセル家を助けてくれると思うんだ?」
ルードランは、にこにこと笑みを向けながら
雑用しかできませんよ? と、心で
実際、片づけで呪いの品を見つけ出せたし、お役に立てた。
今は、ライセル家の全体に魔法を敷きつめ、呪いの品と、それを仕掛ける者とを探し出そうと待ち構えている。そのためには、できる限り広範囲に探し物の雑用魔法を
ライセル城をあちこち歩き回れるようにマティマナは許可をもらっていたが、それでもライセル家の者しか入れない場所はたくさんある。
城の案内も兼ね、ルードランはあちこち連れていってくれた。万が一のこともないように、マティマナに魔法を撒いてもらいたい、という思いがあるようだ。
魔法の気配が強い秘密の小部屋などもあった。狭めで落ち着く感じだが、調度類はとても凝っていて高額そうだ。
……何に使う部屋なのかしら?
用途が思いつかず、こっそり首を
図書室には、古文書らしき巻物がたくさん棚に並んでいた。併設の部屋には宝物庫に入れるほどではないのだろうが、貴重な古い品々がたくさん飾られている。
音楽のための部屋もあった。高級そうで見たことのないような楽器が飾られている。
「ルーさまも、楽器を奏でたりなさるのですか?」
「小さい頃には、少しだけ習っていたよ」
マティマナは楽器を奏でる小さいルードランを想像し、さぞ麗しいお姿だったろうなぁ、と
どの部屋でも魔法を撒き、呪いの品がないことを確認して万が一に備えた。
食材の時を止める部屋や、氷部屋と呼ばれる冷たい料理を作ったり冷凍保存したりするための場所、地下の長期保存の食材庫など手伝いの者では入れなかった施設がたくさんあった。
ただ、ほとんど全ての場所に案内されたと思ったのに、撒いた魔法を立体映像のようにして頭のなかで
それとなくルードランに
ルードランですら入れない部屋が存在するのは驚きだが、そんな場所であれば魔法を撒くまでもないだろう。
ルードランの
「ディアートは、王宮仕込みで、踊りや作法を習っているから、教えてもらうといいよ」
ルードランは起き上がれるようになったディアートを連れ、マティマナに引き合わせながら告げた。
城内用の
ディアートは食欲も徐々に戻ってきているらしい。
「ええ。もっと元気になったら踊りも教えるわね。まずは、簡単な作法からいきましょう」
ディアートは、にっこり笑って親しみを込めた声でそう言ってくれた。特に最初は、食事に関する作法を集中して教えてくれるようだ。
「まあ! ディアートさまに教えていただけるなんて、嬉しいです」
マティマナは呪いの件もあり、ライセル家にいる機会が増えている。泊まり込みも多い。
なので、ライセル家の方々と食事する機会が増えそうで、冷や冷やだったところだ。
そこそこ厳しいが、ライセル家の者として一定期間の王宮勤めをしていたディアートの教え方は的確だ。わかりやすく作法を習うことができマティマナとしては幸運なことだと思う。
王宮での知識も、会話に織り交ぜて伝えてくれるので理解しやすかった。
「マティマナは、とても筋が良いわね。これなら、すぐに皆と一緒の食事も大丈夫になるわよ」
かちこちになりながらも、なんとかこなせているようだ。
ディアートは共に過ごす
◇◇◇
雑用魔法は使うほどに適用範囲が広くなっている。それに雑用魔法の種類が増え詳細になっているようだとマティマナは気づいた。
なにしろ今まで、こんなに雑用魔法を使い放題にしていたことはない。雑用魔法は種類が増えたり進化したりするのだと、たくさん使うようになって初めてわかった感じだ。
更に、特によく使う雑用魔法での拭き清めの効果や、探し物の効果も、次第に継続時間が長くなっていることにも気づいた。他の雑用魔法の効果も、使い続けることで時間が長くなっていく可能性がありそうだった。
マティマナは、ディアートから作法や王宮や国の歴史などを習う花嫁修業をしながらも、広いライセル城を歩いて探し物の魔法を撒くことが日課になっている。
歩きながら、ついつい楽しくて雑用魔法を働かせ小さな修繕も施したり、磨いたり。
「ルーさま、こんなに歩いて大丈夫ですか?」
ルードランは、何かとマティマナと一緒に城内を歩いている。ふたりきりで過ごせるのは、とても幸せな気分だったが、かなりの距離を歩くから心配になってしまう。
「とても愉しいよ。丁度、僕も城の点検をしたかったから、一石二鳥だね」
ルードランは、マティマナが魔法を使うと手に取るようにわかるらしい。
いつも雑用魔法を使いまくっているマティマナの隣を、うきうきとした気配をさせながら歩いていた。
一緒にいてくれるのは嬉しいし、呪いの品を見つけてしまったときにも安心だ。
「ルードラン様!」
長い渡り廊下を歩き、別棟のひとつへ入っていこうとすると、使用人が慌てて飛んできて止めるように声をかけた。
「どうかしたか?」
焦燥した気配の使用人に、ルードランは訊く。
「その棟は……幽霊が出るのだそうで……危険でございます」
「幽霊? そんな話は初めて聞くが?」
「誰からともなく、ライセル家の方々に知らせてはダメだと口止めし合っておりまして」
使用人は汗だくで、もう隠し立てはできない、といった表情をしている。
まるで不祥事をひた隠しにしていたような様子。
といって、幽霊問題をなんとかして解決しようとしている気配は皆無だった。ただ、恐れ、隠すことを選択していた感じだ。
「誰がそんなことを? 何かあれば即座に知らせるように、お達しが出ていたはずだよ?」
ルードランは
幽霊が出るという事実を知らせたところで、誰かがお咎めを受けるわけでもない。
「それが……言いだしたのが誰だったのか、誰もわからない
幽霊が出る事実よりも、なんとしても隠し通さなくてはいけないと思い込んでいた様子なのが奇妙だ。
来客用の別棟で長いこと誰も使用していない場所のようだが、担当の使用人や侍女は、いつでも使用可能な状態に整える役割を担っている。
「どんな幽霊が出るの?」
マティマナは、焦りまくっている使用人へと訊いた。
「鬼火のようなものだという
直接見たわけではなさそうだ。しかし、目撃情報的なものはあったのだろう。
「いつでも、出るのかい?」
「いえ、幽霊が出るのは暗くなってからのようです」
「暗くなってから無人の別棟に何の用があるんだい?」
「……あ、それは……」
話をしてくれていた使用人は、困ったように
使用されていない別棟を
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