第三章 獣人の冒険者クロエ(6)
それから数日が
「クロエ、こっちの担当の採取は終わったけどそっちはどうだ?」
「うん、終わったよ~」
そんな俺達の本日は、討伐系の依頼ではなく採取依頼を受けていた。
なぜ、今更採取系の依頼を受けているのか、それはランクアップのための依頼だからだ。
クロエと俺は現在、同じランクの〝鉄クラス〟で銅クラスに上がるための依頼をこなしていた。
木クラスから鉄クラスまでは、採取依頼か討伐依頼のどちらかを十回以上こなせば上がれる仕組みだった。
俺とクロエの実力があれば、そんな条件は簡単にクリアするため、冒険者登録をして数日で俺は鉄クラスに上がり、クロエと同じクラスになっていた。
「そういえば、銅クラスに上がるための依頼で先に討伐系を終わらせたのは、私達が初めてだってリコラちゃん達が言っていたよ」
「まあ、銅クラスに上がるための討伐依頼はどれもそのランクに見合った者達だときついところがあるから、必然的に採取系が先に終わるんだろうな。俺達の場合、どっちでもよかったけど紹介される依頼が討伐系ばかりに偏っていたからな」
実際、俺達はどちらが先に終わってもいいという考えで依頼をこなしていた。
しかし、フィーネさん達に紹介された依頼はどれも討伐系ばかりで、結果的に俺達は採取系の依頼達成が足りないことになってしまった。
そうして俺達は現在、採取系依頼を同時に受けて一気に消化していた。
「リコラちゃんから聞いた話だと、早いうちから色んな魔物との討伐経験を積んでほしいって思いで討伐系を増やしてたって言っていたよ」
「俺も同じことを言われたな……俺達だったらすぐに上にいけると思うから、そのために討伐系を多めにこなしてほしいってな」
「私達、新米の中でも活躍してる方だから期待されているんだね~。まあ、新米って言っても私は半年前から冒険者だけど」
「半年でもまだ新米のうちだろ? 普通の冒険者は、一年間は大体〝木・鉄〟で止まっているのにクロエは俺と一緒に銅への昇格を目指しているんだから」
俺がそう言うと、クロエは俺の顔をジト目で見てきた。
「確かに半年で銅クラスにいく冒険者は
「俺だって、まさかこんな早くに上がる予定がなかったのはクロエだって知ってるだろ? アスカの奴が、フィーネさんにいらんことを言うからだ……」
ギルドマスターであるアスカと出会い、気に入られてしまった俺は何かとアスカから依頼を頼まれることがあった。別に断ってもいいのだが、アスカの出す依頼はどれも報酬が良く、依頼自体そこまで難しくなかったせいで、つい受け続けてしまった。その結果、ポポンッとランクが上がってしまい、いつの間にか〝銅クラス〟への昇格ラインまできてしまっていた。
「冒険者に登録してすぐに、パートナー登録をしていて正解だったよ。普通の冒険者だったら、受付で昇格の早さに驚かれていただろうし」
「ジン君のこと、冒険者ギルドが結構隠してるみたいだもんね」
「そうお願いをしているからな、変に目立つのは嫌だし」
「そうだね。私も隠してもらっているから、周りの変化は特にないね。でも知り合いの子達には、最近頑張っているけど調子どうなの? って少し探られちゃった」
「報酬で装備も一式替えたから、うまくいっているってバレたんだろうな」
俺と違いクロエは半年前に購入して着けていた装備を最近一式、上位の装備へと買い換えた。
そのせいで周りから〝うまくやれている〟という目で見られたのだろう。
「その点、ジン君はうまく隠せているよね」
「まあ、元々知り合いがいないってのも隠せている理由だな。ほぼ家から出ずに過ごしてきて、そのまま外の世界に出てから知り合いと呼べる人間も両手で足りるからな」
「両手で足りるってジン君、本当に交友関係少ないよね……私以外に冒険者の知り合いっていないの?」
「今のところはいないな、別に作ろうとも思ってなかったが……まあ、居たら居たで情報交換もできるし、今後は作ってみようかな」
俺がそう言うと、クロエから「だったら、私の知り合いの子を紹介するよ」と提案された。
別に断る理由もないし、他の冒険者がどんなものなのかも知っておきたいと思った俺は会う約束をした。
その後、依頼分の採取を終えた俺達は王都へと戻り、報告を行った。
報告の際、フィーネさん達から「必要な依頼は終わりました」と告げられた。
「ようやくか、結局採取系の依頼を集中してやっても三日も掛かったな……」
「そうだね。それも一日何件もこなしていて、頑張ったね~」
そう俺とクロエが互いに
「どうしたんですか、二人して?」
「……クロエさんはまだ半年間冒険者として活動をしていましたからいいんですけど、ジンさんを本当に〝銅クラス〟に上げてもいいのかなと思いまして」
「俺自身が上げようと思って、積極的にやったわけではないですからね」
「ギルドのトップがやったことですから、何とも言えないのですが……短期間で銅クラスともなると、流石にこれまでのように隠せないと思います」
フィーネさんからそう言われた俺はすでにバレそうな雰囲気はあるため、そこに関しては大丈夫だと言った。
「先日、ギルドマスターと話す機会をいただいた際に、自分が目立つことで迷惑行為をされたら守ってくれると約束をしていただきましたから」
不意打ちでアスカと対面してから数日後、俺はフィーネさんにアスカと話す場を改めて設けてもらい、その際にそうお願いしていた。
もう気に入られてしまったのなら、自分の有利になるように利用しようと思っての行動だ。
それに駄目元で聞いただけで、駄目なら他のやり方も探そうと思いアスカにお願いをした。
「へぇ~、ギルドマスターとそんな約束したんだ。凄いねジン君」
「俺が目立つことになるとすれば元凶があの人だからな、責任とってくださいって言ったら承諾してくれたよ」
「確かに、マスターが間に入らなければジンさんも目立たずジックリと昇格できましたからね」
フィーネさんの言葉に、俺は
その後、これからの動きについての話になった。
「木から鉄への昇格は、依頼数の達成度で上がるものでしたが、鉄から銅への昇格は、昇格テストを受けて合格をしてもらう必要があります」
「ええ、前に言っていましたよね。それでその時は、昇格テストの相手が見つかっていないと言っていませんでしたか?」
「はい、そちらに関しては昨日無事に見つかりました。相手もジンさん達と同じく、パートナー登録をしている方で秘密を守ってくれる約束もしていただきました」
それを聞いた俺とクロエは、無事に昇格テストが受けられることに少し
「相手の情報って今聞けますか?」
「はい、相手の方は剣士で魔法も少しできるのですが、テストでは剣だけで戦うと言っていました。戦い方としては筋力で押すというより速さ、技術面で戦う感じの方ですね」
「なるほど……そのテスト、俺達が魔法を使うことはできますか?」
「可能です。試験者は魔法も使用可能で、武具だけはギルドが用意した物を使っていただきます」
フィーネさんはそう言うと、俺達に「他に確認しておくことはありますか?」と尋ねてきたが、俺とクロエは「大丈夫です」と返答した。
「テストは、明日行えればと思いますが日程の変更はしなくても大丈夫ですか? 相手の方に確認した限り、本日から三日以内だったらその方も調整できると言っていましたので」
「う~ん、俺は明日で構いません。クロエはどうだ?」
「私も明日でいいよ。今日も依頼をこなしてきたけど、そこまで疲れてないから試験に響かないと思うし」
「うん、そう言っていますから、明日の日程のままで進めてもらって構いません」
「わかりました。では、試験場の予約は明日の朝で取っておきますので遅刻しないように来てください」
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