第三章 獣人の冒険者クロエ(5)
フィーネさんのその話を聞いた俺は驚き、眼を見開いてフィーネさんを見つめた。
あの話のキャラがフィーネさんだったのかッ!?
アスカが元冒険者ということは、ゲームをしていたので知っていた。しかし、そのパーティーメンバー自体はゲームには出てこなくて〝凄かった人物〟として語られていただけだった。
本当だったら、本編に出る予定のキャラだった。
しかし、より華のあるキャラが良いということで没になってしまい、物語に登場することはなくなったと後にゲーム雑誌の記事で見た。
「元々冒険者だったんですね。どうりで先ほどのマスターを
「そこは忘れていただきたいですね……」
フィーネさんは俺の言葉に、少し恥ずかしそうにそう言った。
俺とフィーネさんが会話をしている間、なぜかアスカはずっと頭を下げたままで俺は
「……フィーネが許可してくれてないから」
「……」
プルプルと震えながらそう言うアスカに、俺は
視線を向けられたフィーネさんは、俺の言いたいことを感じ取り「もういいですよ」と言った。
「昔はフィーネさんの立場の方が上だったんでしょうけど、何でいまだにギルドマスターはフィーネさんの指示に従っているんですか?」
「怖いんだ。さっきジン君も見ただろ? フィーネは怒るとものすごく怖いんだ……」
いずれ〝戦女〟として活躍する人物が、こうまで
「話が脱線しましたけど、マスターはもうジン君に聞きたいことはなくなりましたか?」
「うん、もう十分知れたから満足よ。ありがとねジン君、それにクロエちゃんも時間とっちゃって」
アスカは俺とクロエにそう言い、俺はようやくこの場から解放された。
アスカ達と別れた後、時間もちょうどよく、俺はクロエと共に食堂へ向かった。
食事を済ませた俺達は、今日は依頼も終わったのでこの辺で解散するかとなり、クロエにまた明日と言って別れた。
クロエと解散した後、俺は商業区のシンシアの店へと向かった。
「あら、久しぶりねジン」
店に入ると、シンシアは店のカウンターからそう俺に声を掛けた。
「ああ、久しぶりだな。暇そうだな」
「ええ、少し前から常連の子達が遠征に行ってしまって少し暇してたのよね。外に遊びに行くのも面倒だなって思いながら、店を開けてボーッとしていたわ」
「……友達いないのか?」
「いるけど、この時期は忙しいって言っていたのよ」
シンシアの言葉に俺は「そうか」と返し、店の中を見せてもらうことにした。
今日来た理由、それは品物が増えていないかのチェックである。
ゲームでは物語が進むと、全ての店で品物が増えるという設定があり、この店にもその設定が入っていた。
そんな俺にシンシアは、ある品物を持ってきた。
「これは、この前はなかった物だな」
「少し前に仕入れたのよ。ジン、買ってみる?」
そう言ったシンシアは俺に棒状の物を手渡してきた。
この棒は魔力を一定量入れることで、魔力が切れた時にその棒を使って魔力を回復するアイテム。
ゲームでは、この棒を使う者はほとんどいなかった。魔力回復に関しては他のアイテムの方が効率がいいし、何でこんなアイテムを作ったのか開発者に聞いた者がいた。
開発者の答えは、没案ではあったがすでにゲームに組み込まれていて消すのが面倒でそのまま残った没アイテムだと言っていた。
「使い方を聞いてもいいか?」
これがゲームの設定どおりなのか確認のためにそう聞くと、シンシアはこの棒の説明を始めた。
その結果、この棒の効果はゲームと全く同じだった。
「……
「……やっぱり、そう思うわよね。私も売れないと思ったんだけど、面白そうだったから仕入れてみたのよね。そしたら、一本も売れなくてどうしようかなって」
「それで飴を買った俺だったら買ってくれるかもと思って、紹介してみたのか?」
「ええ、使い道がわかれば他のお客さんにも紹介できて多少は売れるかなって。ちょっと試してみない?」
シンシアからそう言われた俺は、店の裏手の空き地に連れていかれた。
使い道がわかればと言われてもな、俺自身ゲームでもこの棒は使っていなかったんだよな……。
「まあ、とりあえず容量の確認程度に魔力を入れてみるか」
そう言って俺は、魔力を棒の中に流し込むイメージをした。
すると、手の先から棒の方へと魔力が流れる動きを感じ、大体三十秒ほどでその感覚は止まった。
「ふむ、まあ普通の魔法使い程度なら魔法数発分の魔力が棒の中に入るのか」
「ええ、私もそう聞いているわ。それを魔力が切れた時に棒を折れば一瞬で回復するって言ってたわ」
「それなら、普通に魔力回復薬を飲んだり、それこそ飴を
そう言いつつ、俺はとりあえず魔力を入れた棒を折り、実際に体験してみた。
感覚的に大体数秒で失った魔力が回復して、割といい回復アイテムだなと感じた。
「……新米冒険者なら使えないこともないが、普通の冒険者が使う物ではないな。それこそ、この店に来る奴らだといらないアイテムだろうな」
「そっか……箱売りでかなり安かったから変だとは感じていたけど、そこまで使えないアイテムだったのね……」
俺の言葉に気落ちするシンシア。在庫数もかなりの量があるみたいで、ショックを受けていた。
そんなシンシアの姿を見ていられないと思った俺は、ある提案をした。
「なあ、シンシアとしてはこの棒がいくらで売れたら満足なんだ?」
「買った時の値段が一箱金貨一枚だったから、一箱あたり金貨二枚で売れたら満足かしら……」
「……だったら、冒険者ギルドに話をもっていかないか? ギルドが冒険者に対して、有料で魔法の講習をしているのは知っているか? その講習で使う魔力回復のアイテムが少なくなっているって、俺のパートナーが言っていたんだ」
その話をすると、シンシアは顔を上げて「その話、本当なの?」と聞き返してきた。
その後、俺とシンシアは棒を【異空間ボックス】に入れてギルドへとやってきた。
先ほど帰った俺が再び現れて、少し慌てて奥からフィーネさんが出てくると、横にいるシンシアを見て驚いた顔をしていた。
「シンシアって、ギルドでも有名なのか?」
「まあ、少しね」
先ほどまで
その後、フィーネさんに棒の説明と実際に使ってみせて、いくらで買ってくれるか相談をした。
その結果、一箱金貨二枚で買い取ってくれた。
「金貨二枚で買い取りって、本当にいいんですか?」
「ジンさんと、シンシアさんの頼みですからね。それに明日の分もだいぶ厳しかったので、ギルドとしても助かるんですよ。後、先ほどの話にあがった飴型の回復薬も気になるので、もしよろしければそちらもギルドに卸していただけると助かるんですが」
「いいわよ! 今回、助けてもらったもの!」
売れないアイテムを
◇◇◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます