第三章 獣人の冒険者クロエ(4)

 クロエとの連携もあり、簡単にハイオークを討伐することができた。

「昨日の話し合いで剣も使えるって言っていたから、どのくらい使えるんだろうとは思っていたけど、まさかハイオークを討伐できるなんて凄いよ」

 クロエはそう言うと、倒れたハイオークへと視線を向けた。

「綺麗に斬れているね。ジン君、魔法も凄いのに剣の腕もこんなに凄いなんて……」

「このくらいなら、クロエだってできるだろ? 【剣術:3】なんだし」

「……ハイオークって硬い魔物で有名なんだよ? 私のスキルレベルは確かに高いけど、筋力が足りなくてこんなに綺麗に倒せないよ」

「そういえば、そんな魔物だったな……」

 俺がそう言うと、クロエは呆れた感じでため息をついた。

 それから、オークの死体とハイオークの死体を【異空間ボックス】に入れて王都に帰還することにした。

「魔法も、剣も、それに収納スキルもあるって他の人が知ったらジン君、色んな人に声掛けられそうだね」

「あ~、まあ今のところは能力を隠すように行動しているから、バレることはそうそうないと思うけどな」

 依頼も他に人がいないような場所を選んでもらったうえに、さらに人がいないか確認しながら俺は力を使っている。

 なぜ、そんなことをしているのかというと、今目立つのは俺にとって不利益が生じてしまうからだ。

 今の俺の地位は、よくてギルドが注目している程度の冒険者。あまりにも今の地位が低く、何かあった時に自分を守ることは難しい。そのために俺はまず、ギルド側の信頼を得るために動いている。

「とりあえず今のところは、仲間の募集もどこかに入りたいって考えもないから二人で頑張ろうと思っているよ」

 その後、何事もなく俺達は王都へと帰還して依頼の達成報告を行った。

 報告後、クロエから昼食に誘われてついていこうとしたら、フィーネさんから呼び止められた。

 ちゃちゃ、嫌な予感がする。

「……フィーネさん、何か用ですか?」

「ジンさん、すみません。この後、時間ありますか?」

「ないです。クロエとご飯に行くと、今目の前で言っていたでしょ」

「そんなに時間はかかりませんから、その少しだけお願いします……」

 フィーネさんがそう言うと、部屋の扉がガチャッと開く音がして一人の女性が現れた。

 黒髪黒目のその女性は、身長が高く、出るところは出ている人だ。

 また一見クールそうな見た目をしているが、その中身は意外と茶目っ気があり、ゲームでは人気のキャラだった。

「初めまして、私は王都冒険者ギルドのギルドマスターを任されているアスカ・ルセクトールだ」

「……初めまして、先日冒険者になりましたジンです」

 彼女を前にして、俺は目を合わせないように下を向いて挨拶をした。

 人気キャラ、そう確かに人気なキャラではある。だが俺は彼女と出会う予定は本来なかった。

「その、ギルドマスターは遠くに出掛けていると聞いていたのですが、いつお戻りになったんですか?」

「新米でその話を知っているなんて、意外と情報通なのかな? ふふっ、本当はもう少し長引く予定だったのだけど、フィーネから面白い冒険者が現れたって聞いて、急いでそっちの仕事を片付けてきたの」

 フィーネさんがだと!? まさか、そこにつながりがあるとは……。

 本来、王都のギルドマスターは物語開始まで別の場所にいた。

 だから俺はそれまでの間に、冒険者として王都で地位を確立させて拠点を移す予定だった。

 なんせ王都は物語のほとんどが関わっている場所。そんな場所に長居していたらどんなフラグが発生するかわからない。

 そして俺がギルドマスターを避けようとしていた最大の理由。それは彼女が〝七人の戦女〟の一人だからだ。

「ジン君、どうしたの? さっきからそんなに顔を下に向けて、具合でも悪いの?」

「あ~、うん。ちょっと調子が悪いのかもしれないな、だから今日はすみませんが」

 クロエの言葉に乗っかり、この場を逃げようとした。しかし、俺の肩にポンッとアスカが手を置くと「バレバレだよ」と笑みを浮かべながら言い、俺はソファーに座らされた。

「なんで君が私のことを避けようとしているのかわからないけど、私は君に興味があるんだ。だから、少し話をしようか」

「……少しですよ。少し話したら、俺のことは忘れてください」

「ふふっ、変なことを言う子だね。ますます興味が湧いたよ」

 獲物を見つけた動物のような雰囲気を出す彼女に、早くこの場から去りたいという俺の思いはより一層強くなった。

「それでさ、私が戻ってきてからそんなに時間がなくて、ジン君のことをそこまで調べられなかったんだけど、君って元は貴族だったって本当なの?」

「まあ、事実ですよ」

「意外とアッサリ肯定したね」

「別にそこは隠せるとは思ってないので、ある程度の情報を集められる地位を持っている人だったら俺の出生程度なら調べられますからね」

 現に戻ってきて時間がないと言った目の前の彼女でさえ、俺の出生に関しては調べがついている。

「そう。それで気になったのが、君って魔法も剣術も誰に習ったの? 君に教えるような人は君の周りにいなかったって聞いたよ」

「どこまで知ってるんですか……」

 アスカの言葉に対して、俺はため息まじりにそう言った。

 まあ、調べて一番謎に思うのは確かにそこだよな。

 何も教えられていない貴族の子が、冒険者としていきなり活躍している。

「元々素質があったんです。家族で知っていたのは亡くなった実の母親だけで、他の家の者も家に仕えている者にも誰にも話したことはありません」

「なるほどね~」

 ニコニコと笑みを浮かべながらアスカはそう言い、俺は再びため息をついて早く終わってくれと心の中でそう願った。

 その後も、俺はアスカから尋問のように色んなことを尋ねられた。

 その結果、なぜか知らないがアスカからえらく気に入られてしまった。

「ジン君、面白いね~。君みたいな子、初めて見たよ」

「……」

 対面で座っていたはずのアスカは俺の横に座り、笑みを浮かべながら俺の頭をでていた。

 撫でられている俺の格好は、逃げられないように縄で縛られている。

 尋問中、何度か脱出を試みた結果だ。

「マスター、流石さすがにそれはジンさんも嫌がっていますからやめてあげてください」

「え~、まだ撫でていたいよ」

 アスカに撫で続けられる俺にフィーネさんが助け舟を出してくれた。

 もう少し早く言ってほしかったけどな!

「……マスター」

「ッ! はい、やめます!」

 フィーネさんが真顔で〝マスター〟と口にすると、アスカは撫で撫でを即やめた。

 そしてピンッと背筋を伸ばし、顔もガチガチにこわっていた。

「あまり調子に乗った行動は、冒険者様に対して失礼にあたりますよ」

「は、はい! すみません!」

「謝る相手は私じゃないですよね?」

「はい! すみません!」

 アスカは立ち上がり、俺に向かって綺麗なお辞儀でそう謝罪を口にした。

 ……一体どういうことだ? 確か、ゲームでのアスカは〝ギルドの絶対的権限を持つキャラ〟として知られていたはずだ。

 なのに今の一連の流れを見ると、アスカよりもフィーネさんの方がなぜか主導権を握っているように見えてしまった。

「あの、フィーネさんと、ギルドマスターってどういう関係なんですか?」

「……ジンさんには色々とマスターが迷惑掛けましたので、そのくらいでしたらお話しできます。私とマスターの関係ですが、元々は同じパーティーで冒険者として活動していたんです。その時は、私がリーダーを務めマスターや他の方を指揮していたんです」

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